選挙は公正に行われたか

6月24日、4年に一度のモンゴル国家大会議(訳注:日本の国会に当たる)総選挙が行われた。今回の選挙は新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に行われたことが特徴である。さらに、非政府組織などが若い世代、市民に投票を呼び掛ける活動も多く見られた。

総選挙は大選挙区制、29選挙区で争われた。認知度の低い候補者には2つの課題があった。有権者の認識を得ることと、公約を説明することだ。これを同時に行うことは容易ではない。既に有権者に認知されている候補者は、所属政党の公約を説明するだけでよかった。課題克服のために双方に与えられた時間は同じだった。よって、後者の方が当選する可能性が高く、同じ党の候補者も一緒に選ばれる可能性が大きかった。同じ政党から候補者全員を選ぶよう宣伝したことも奏功した。

606人の立候補者のうち、無所属の候補者は121人であったが、当選したのはそのうちの一人だけだった。その一人とは、誰もが知っている元首相であった。無所属の立候補者が現行の選挙制度の元で勝利することが、いかに困難であるかが証明された。

また選挙期間中、6人の立候補者が逮捕された。選挙管理委員会が逮捕された6人に立候補を許可していたため、もし何らの理由で逮捕する場合、選挙管理委員会から許可を得なければならないという規定が国政選挙法第35条2項にある。しかし裁判所はこの法律の規定を無視し、立候補者の逮捕令状を発行した。さらに、逮捕された立候補者の中から1人当選した。他の議員と一緒に国会議員の宣誓をすべきなのか、留置所に拘束されていなければならないのかは不明だ。この国に法の一貫性がないことが分かる。

今回の選挙は、ソーシャルメディアを使った選挙運動が盛んだった。そのため若者も選挙に関心を寄せた。公正な選挙のための市民監視ネットワークというのが設立された。非政府組織の220人の選挙監視員が、112の投票所で監視した。ソーシャルメディアを活用した選挙運動では政府による取締りが困難であった。立候補者は大学生を多く雇い、彼らは選挙キャンペーン及び選挙監視にも関わった。

112の投票所の4分の1で投票箱の置かれた部屋が狭く、投票用紙が他人に見られる恐れがあり、投票を行うには相応しくなかったと有権者は感想を述べていた。112の投票所の3分の1で障害者向けのバリアフリー対応が図られていなかったことが分かった。

新型コロナウイルス感染症予防の対策として、投票者間のソーシャルディスタンスの確保、消毒、手袋の配布、マスクの着用を要請するなど、韓国の総選挙を参考に行われた。投票時間は午前7時から午後10時までで、200万人の有権者のうち140万人が投票し、投票率は約73%だった。投票が行われた後、選挙監視員の立会いの下、ランダムで投票用紙を数え、確認した。

開票率41%まで進んだところで不服申立てがあった。無所属立候補者の得票数の表記に間違いがあったとのことだ。具体的には、得票数にカンマ(,)が表記され、得票数を少なくカウントしたということだ。選挙管理委員会は「カンマは1000単位を表すものであり、得票数に変化をもたらすものではない」と説明した。また選挙区の有権者数を超える人数の投票者がいたという不服もあった。その選挙区について午後10時に放送された速報は、午後9時時点の内容だったため、最後の1時間で投票した人数が急増したとし、不服を申立てた。これは各地の開票所からの統計を選挙管理委員会の中央サーバに収集され、それを人々が見られる形式に変換することが手作業で行われたことによるものという。今後はこれについて改善すべきだ。政党、立候補者は大統領に対し、投票用紙を再度数える命令を出すよう要請し、半分以上の選挙区で投票用紙の数え直しが行われている。投票用紙計数機に間違いは無く、投票用紙計数機から出された数字を収集する際に不正があったかについては、未だ明らかになっていない。しかし、悪意の妨害はなかったと見ている。選挙結果も正式に発表された。明日から各選挙区で最多の票を得た立候補者が国会議員として認定を受け、証明書が発行される。

選挙結果について

総選挙の結果、モンゴル人民党が国家大会議、定数76のうち62議席(前回65議席)を獲得した。人民党の連続して2度目の圧勝となった。そのほか、民主党が11議席、モンゴル人民革命党、市民勇気・緑党、モンゴル伝統統一党による「あなたと私たちの連立」から1名(モンゴル人民革命党所属S.ガンバートル氏)、全国労働党と社会民主党、正義党による「正しい人、有権者連立」から1名(全国労働党所属T.ドルジハンド氏)、無所属立候補者1名(J.エルデネバト元首相)がそれぞれ当選した。モンゴル国家大会議に4党が議席を置くこととなった。

人民党圧勝の要因は3つ考えられる。一つ目に、選挙制を自分たちに有利となるよう前回の小選挙区制から、各選挙区で複数候補を選ぶ中選挙区制に変更したこと。二つ目に、ウランバートル市の大気汚染を減らし、新ウランバートル市長が市の土地売買を止め、不法売買の対象となった土地を返還させ、早期の国境封鎖などで新型コロナウイルスの国内感染拡大を防止できた実績が有権者からの評価を得た。さらに、タイミングの良い社会保障政策を実施し、エルデネト工場の49%の株式を国の保有とし、中小企業開発基金の不正利用に関係する議員の出馬を認めず27人の新しい立候補者を擁立した。政党党首自ら勇気をもってこれらの改正を行ったことが圧勝の要因であったと思われる。社会保障政策に関しては、年金担保ローン債務の帳消しにするなど、過剰にポピュリストな施策を成し遂げた。

人民党圧勝の三つ目の要因は、民主党に競争力がなかったことだ。今回の選挙で民主党が獲得した11議席のうち10人が国会議員ではない新しい立候補者だった。だがそのうち7人は国会議員の経験があった。また民主党党首が落選した。これは民主党内に大きな波紋を呼んでいる。もともと民主党の議員だったJ.エルデネバトは、民主党を離党し無所属で当選した。民主党は野党として成熟できていない。

今回の選挙で新たに出馬した立候補者が議席を獲得できていないことの要因は、選挙運動の基盤となる“ホロー”に影響がなかったことによるものだ。モンゴルは人口の3分の1が貧困層である。貧困層の社会保障の配分を決定するのが各ホローの長であり、有権者は彼らに影響を受けやすい。政党として確立するには「時間」と「経験」を要する。

モンゴル選挙制度の欠陥

モンゴルは民主化以降、8回にわたり総選挙を行ってきたが、各選挙前に選挙制度を変更してきた。比例代表制、中選挙区制、混合制の3つを繰り返し採用した。問題は政権与党が選挙前になると、選挙制度を自分たちに有利になるよう変更することだ。この慣習を廃止しない限り、モンゴルで公正な選挙を行うことは困難だ。1996、2000、2004、2016年の総選挙で小選挙区制が採用された。2012年に一度比例代表制を採用した。主に、与党に有利な選挙制度を採用してきた。

適切な選挙制度を採用するという前提はあるが、その前に選挙制度の安定性が求められる。政権与党が選挙法を頻繁に変更すべきではない。政党が組織的に成熟しない限り、この国で比例代表制を採用することは困難である。

開票結果から、もし今回の選挙を比例代表制で行った場合、モンゴル人民党は34議席、民主党が19議席、モンゴル人民革命党、市民勇気・緑党、モンゴル伝統統一による「あなたと私たちの連立」4議席、モンゴル緑党、民主改革党、モンゴル人民党、公正市民統一連合党(シネ党)の連立4議席、全国労働党と社会民主党、正義党による「正しい人・有権者連立」4議席となっていたことが分かる。比例代表制で選挙が実施されていれば、国民の代表が多様に選ばれることができただろうと考えられる。 選挙法の頻繁な変更を止めさせるために、まず小さすぎる行政区画を拡大し、明確にすべきだ。その後、適切な選挙制度を定めることができる。次に、政党の予算の透明性を図るべきだ。最後に、選挙管理委員会を解体し、有権者委員会を設立し、一般の有権者も委員にすべきである。つまり、市民社会による監視を強化しなくてはならない。