クリストファー・P・ウィリアムズ氏は、ハバフォード大学のロシア語・文学学部を卒業しました。卒業後、ジョージタウン大学のロシア研究学修士号を取得しました。初の仕事はロシアおよびウクライナで国際金融公社の組織改革プロジェクトの活動マネージャーでした。2007〜2010年にモルドバのミレニアム・チャレンジ・コーポレーション(MCC)助成金を担当し、モルドバの貧困削減を目指すため、同国経済成長のために2億6200万ドルの助成金契約書を作成し、契約交渉が成功するようにモルドバ政府やNGOなど、当事者をサポートしました。その後、MCCの腐敗対策チームに2011年から在籍しています。そこではアメリカ合衆国でのプログラム・マネジメントおよび技術支援に関する業務に携わってきました。また彼はアメリカ合衆国の「ブーズ・アレン・ハミルトン・コンサルティング会社」のアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の資金による法律・ガバナンスプログラムのマネージャーも勤めました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。あなたがモンゴルに来た目的や仕事についての話をしたいと思います。

ウィリアムズ: ありがとうございます。私はモンゴルに3億5千万ドルの助成金契約を実施しているアメリカ合衆国のミレニアム・チャレンジ・コーポレーション(MCC)のプロジェクト活動でモンゴルに来ています。今回の助成金により実施されるプロジェクトは、ウランバートル市内の水資源供給能力向上のためのプロジェクトです。

私は助成金を実施するモンゴル側のミレニアム・チャレンジ・エージェンシー(MCA)の職員に対して、プロジェクト実施過程において発生する腐敗リスクの防止について3日間の研修を実施するためにモンゴルに来ました。

J: 研修について詳しく話す前に確認したいことがあります。私が理解している限りではMCCは2004年以降、モンゴルでは2回目となる大規模プロジェクトの実施を始めようとしています。今回のプロジェクトの資金となる3億5千万ドルは、アメリカ合衆国からの無償援助となります。さらに、このプロジェクトにモンゴル政府は1億1180万ドルを投資します。このプロジェクトでバイオコンビナートの建設、ウランバートル近郊に水資源供給のための新しい水源を確保する計画があります。プロジェクトの期待される成果として、ウランバートル市民が今後30〜40年間使用する飲料水の水源が確保されるということです。

また、中央下水処理場から出る排水を再処理する施設も建設されると言われています。このプロジェクトは、ウランバートル市民の生活に大きな変化をもたらすと思われます。それだけでなく、あなたのプレゼンテーションを聞いていて、このプロジェクトはモンゴルのガバナンスに肯定的な影響を与えると思いました。ここであなたが実施する研修について、特に腐敗のリスクをどのように減らすのか?このことについて話したいと思います。現在もモンゴルに腐敗のリスクはありますか?

ウィリアムズ: 腐敗のリスクはどこにでもあります。アメリカにも、プロジェクトを実施している他の諸外国にも、もちろんモンゴルにもあります。腐敗はいつ、どこにでも発生しうるということを私たちは認識しなければなりません。そのため、腐敗のリスクを減らすための努力を絶やさないようにしなくてはなりません。

どのような腐敗のリスクがあり得るのか、どこで発生するのかを知ることで、リスクを最小限に抑える具体的な方法を提示することができます。

J: おっしゃるとおりですね。このプロジェクトを実施する資金は、モンゴル政府からの拠出を含めて約5億ドルです。プロジェクト実施期間は5年です。5年という期限内にプロジェクトを完了させなければなりません。これは必達条件です。特にプロジェクトの延長や停止などの問題を頻繁に起こすモンゴル政府が守らなければならない条件です。

ウィリアムズ: そうですね。しかし、そのような問題はモンゴルだけに起こっていることではありません。世界中の国々で起こりうることです。

J: あなたがモンゴルで実施する今回のような研修は、これまでに何ヵ国で行われましたか?また、腐敗のリスクとは、一般的にどのようなことが多いですか?

ウィリアムズ: 私が実施する10回目の研修がモンゴルとなります。私たちにとってモンゴルを特別に注目しているということではありません。私たちは無償援助のために助成金契約が締結されたすべての国でこの研修を実施することになっています。しかしながら、モンゴルでの研修は他の国よりも先んじて行われています。これには理由があります。契約を実施する機関となるモンゴル側のMCAおよびMCCのモンゴル駐在事務所が、早い段階で全職員に腐敗のリスクについての知識や情報を提供し、その対策を始めるべきだと考えたからです。

J: MCAは助成金契約を実施し、その資金を実際に運用するモンゴル側の企業です。今回のプロジェクトは規模が大きいため、国内外の多数の企業が参入していると思います。従って、幾つかの大きな取引が行われるでしょう。ですからお聞きしたいのですが、実際にリスクはどのようなところで多く発生するものですか?どのように注意しますか?どのような措置を取りますか?

ウィリアムズ: 私たちの研修の構造や内容を説明すると、まず、MCCの腐敗のリスクを減らすための政策および原則について具体的に説明しています。MCCには守られるべき腐敗対策についての政策があります。これはMCCのホームページで公開されています。

MCCの対策を具体的に言いますと、第1に、MCCの資金を腐敗のために不正に使用することを固く禁じています。第2に、助成金契約を実施しているすべての企業、とりわけMCAの職員全員がこの研修を受けなければなりません。第3に、MCAとMCCの全職員に、腐敗があることを見聞きした場合、それを報告する義務が課せられます。これはMCCおよびMCAの全職員が必ず果たすべき義務です。

J: 腐敗の疑いがあると感じたら報告するというのは、腐敗のリスクを見つけたり、もしくは何らかの形で気づいた場合は必ず報告する。これは皆さんの義務と理解しても宜しいですか?

ウィリアムズ: はい、そのとおりです。

J: もし、報告しなければどうなりますか?

ウィリアムズ: 腐敗のリスクがあることを報告せずに見逃し、私たちがそれを見つけた場合は、その真相を追及し、監視します。もしある者が知っていた、もしくは知らなければならなかったにもかかわらず報告しなかった場合、その原因を探るために事情聴取します。知っていながらも報告していなかったことが判明すれば、その人は責任を負うことになります。

J: 具体的にどのような措置を取りますか?

ウィリアムズ: モンゴルのMCAの職員の場合、MCCの職員ではないのでMCCから直接、措置を講じることはありません。処罰として特定期間無給出勤停止、昇進の取り消し、さらに解雇するまでの措置を取ることができます。なぜならば、これは必ず守らなければならない義務だからです。MCCおよびMCAの管理職は、その時の状況把握と分析を行い、如何なる決定も公平公正に行われる環境を整備し、報告されない原因を明確にします。

また、腐敗の可能性があることをどのように報告するかについて、全職員に常に喚起しなければなりません。そのためにオフィスや職場にはガイドラインを設置しています。こうすることによって、方法を知らなかったから報告できなかったという状況を作らないようにしています。

J: これは警笛を鳴らす(報告する)ということで私たちは最近良く耳にしています。アメリカ合衆国ではこの様な習慣が形成されています。アメリカ合衆国では警笛を鳴らす者(報告する者)を保護するための強固な法制度も整備されています。しかし、そのような保護や法的環境が整備されていないモンゴルにとって、このような報告の仕組みは受け入れられると思いますか?

ウィリアムズ: とても良い質問ですね。腐敗の疑いがあることを報告した人に対して、何らかの圧力がかかることはあってはなりません。これはMCCの腐敗対策に関する方針およびMCAの人材方針で厳しく禁止されています。もし、そのようなことが起きた場合は、その行為自体が腐敗とみなされます。私たちが有しているMCAに対する権限、影響は限られています。ですから報告した人の個人情報やその保護に関して、非常に慎重に対応するように努力しています。

他国の事例で言うと、職員の1人が腐敗の疑いがあることを報告します。その腐敗についての情報を知っている人が他に3人います。こういった場合、私たちは報告した人が他の3人に知られ圧力を受けないように、誰もが知りうる具体的な措置を取ることを避けています。なぜならば、こういった場合に何らかのアクションを起こせば、誰が警笛を鳴らしたか、誰が報告したかが簡単に分かってしまうからです。

J: このことが、モンゴル政府に警笛を鳴らす者(報告する者)を保護する法律を早く可決するよう促すキッカケとなるかもしれませんね。その他に私が理解している限りでは、MCCがモンゴルで実施した初めての助成金契約のプロジェクトに関して、いくつかの問題が出ていました。あなたはそれらの問題を確認しましたか?そして関係者にどのような措置を取りましたか?

ウィリアムズ: モンゴルで実施した第1回の助成金によるプロジェクトに関する問題はいくつか出ていました。その中の一部は証拠でも裏付けられました。私たちはそれらを腐敗であると認識しています。私たちは当時のMCAの職員数名を解雇しました。また、取引に関する腐敗にあたるいくつかのケースがありました。私たちはその都度、取引に外部から参入し、技術評価委員会のメンバーを変えるなどの措置を取りました。さらに、当該取引に関する腐敗問題を解決することができない場合は、取引自体を中止するまでの措置を取りました。

J: 当然ながら、腐敗が起きた後に対応措置を取るより、事前に防ぐ方が掛かる費用が少ないと思います。そのため、このことが研修を行う理由の1つであると考えますが、いかがですか。

ウィリアムズ: はい、そのとおりです。私たちは研修を通じてMCCの腐敗対策やその方針や原則について説明します。また、腐敗の可能性があるケースを報告することが全職員の義務であることを明確に伝えています。その後、プロジェクト実施のどの段階にも起こりうる腐敗のリスクについて協議します。まず構造作成です。プロジェクトの成果を受ける対象者(受益者)を定めるとこから始め、予見可能なすべての段階で発生するリスクについて協議します。モンゴルの助成金プロジェクトの場合は、先ほど話した2つの段階を既に乗り越えているので、今回の研修で必要な情報を協議します。特に取引活動に関係して発生するリスクについては重点的に協議します。なぜならば、取引活動における腐敗のリスクが一番高いからです。2009年以降、世界の多くの国で実施されている助成金プロジェクトにおいて、私たちが報告を受けた腐敗の可能性があるケースの約38%が取引活動と関係していました。また、今回の研修でプロジェクト・マネージャーに関係して発生する腐敗のリスクについても協議します。

他にも業務やサービスの取引契約書に署名がされた日から受託者が業務を遂行しない、もしくは業務遂行に当たって契約上の条件を守らないといった問題が生じるリスクもあります。次に、研修でモンゴルのMCAの活動に関する腐敗のリスク、人材政策、管理職、事務所の機械設備、家具の購入などに関連して起こる腐敗リスクについて協議します。最後にプロジェクト完了時に発生する腐敗リスクについて協議します。これは協議するのにまだ早い段階ではありますが、5年後に起こりうる問題でも、私たちはどのようなリスクがあるか、そのリスクを最小限にするためにMCAはどのような措置を取ることができるかについて協議する必要があります。

J: 契約を結んだ受託者の業務やサービスの品質に関して、独立した機関に監督してもらっているかと思います。実際にどの段階で専門家や会計監査を入れていますか?

ウィリアムズ: とても良い質問ですね。会計監査を入れる理由の1つは、プロジェクト実施に多額な資金が必要になります。計画した活動が実際に実施されているかを証明するために私たちは多額な資金を使っています。そのために、MCAに専門的なサービスを提供する業者を公正な競争原則に沿って選定しています。

J: このプロジェクトの取引活動に必ずアメリカ、もしくはモンゴルの企業が参加するという条件はありますか?

ウィリアムズ: これについて聞いて下さってありがとうございます。私たちはどこか特定の国や民族を示す条件は付けていません。

J: そうすると入札に参加する企業は、中国でもフランスでもオーストラリアでも、どこの国の企業でも構わないということですか?

ウィリアムズ: 場合によって制限があります。例えば、建築に関しては国有企業への委託は許可していません。さらに、テロ資金供与のリストに載った国で活動を行っている企業の入札参加も許可していません。現在、このような不許可リストには4ヵ国が載っています。

J:  MCCについて具体的に説明したいと思います。MCCとは、アメリカ合衆国の対外援助を担当する主要な機関であるアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の実行組織として設立されました。しかし、USAIDとは別の独立機関であり、MCC自身で財源を有しており、その範囲で援助を受ける国々と協力している機関です。

MCCが他の機関と異なる点は、助成金契約によるプロジェクト実施を当該国に押し付けるのではなく、当該国に自分たちの意見や声を表明する機会を与えていると理解しています。

ウィリアムズ: はい、そのとおりです。MCCは助成金契約の締結国に対して、プロジェクト実施者としての機会を与えています。これは私たちにとって重要な理念です。

J: 今回の助成金契約の期間は5年です。その活動内容も既に計画されているかと思います。5年後、モンゴルには浄水場や下水処理施設ができているでしょう。これらの施設はプロジェクト完了と同時に稼働を始めますか?そしてMCCは特定期間中に施設稼働の管理をしますか?それともMCAが管理しますか?

ウィリアムズ: 5年という期間が終えたとき、MCCは資金提供を停止すると法律で定められています。5年の期間が終わっても活動を継続させる必要がある場合は、事前に協議し、継続に必要な資金を当該国の政府が拠出できるかどうかを確認します。加えて言えば、今回の助成金契約の中には、モンゴル側の関係機関がプロジェクトの成果を継続して維持する能力向上を図るプログラムもあります。これはとても重要な取り組みです。場合によって必要だとみなされれば、モンゴル政府が拠出する1億1180万ドルの一部をプロジェクト完了後の継続に必要な活動に充てる調整をする可能性もあります。

J: 新しく建設される浄水場や下水処理施設の運営を管理する人材の育成も行うということですか?

ウィリアムズ: はい、そうです。モンゴルの水資源管理庁および関係機関の専門家を養成し、彼らの能力向上を図ります。私たちは水資源分野の持続可能な発展、特に人材育成、専門家の能力向上、必要な情報収集、分析、研修などに約2千万ドルの資金を当てる計画をしています。

また、助成金契約でモンゴル政府は、プロジェクト完了後に最低5〜7年の間はプロジェクト成果のモニタリング評価をMCCと協力して実施する義務があります。

J: 今日は貴重な話をすることができました。たくさんの知識と情報を得られた会話になりました。私があなたをこの番組に招待した理由は、腐敗防止はMCCの問題だけではないことを多くの人に知ってほしかったからです。このプロジェクトを通じて、モンゴル政府は腐敗を防止するという習慣をあらゆる分野に、とりわけ鉱業分野に根付かせてほしいと思いました。今日は本当にありがとうございました。

ウィリアムズ: こちらこそ、番組に招待して頂き、ありがとうございました。

ウィリアムズ * ジャルガルサイハン