経済学博士Ch.ハシチョローンは1989年にモスクワ大学経済学部を卒業しました。その後、日本の横浜市立大学、慶應義塾大学で修士号、博士号を取得しました。モンゴル初の開発政策企画法案、コンセッション(公共施設等運営権)、イノベーション法、開発銀行法、予算法の作成及び採択準備活動を担当してきました。首相開発政策委員会、大統領経済学者委員会、モンゴル国家開発総括政策のワーキンググループなどで役職を歴任。今はモンゴル国立大学の研究委員会、取締役員を務めています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。今日はモンゴル経済について話したいと思います。モンゴルは27年前に市場経済へ移行しました。今その市場経済はどこにあるのかが不明瞭で迷走している状況にあります。なぜならば、市場経済へ移行した当時は国有企業の民営化を進めていました。しかし、今や政府が大きくなる一方です。このことを中心に今の経済状況や負債、税金の引き上げについて話したいと思います。あなたはマクロ経済学者です。国が抱えている負債返還問題、税金の引き上げについてどう思いますか?
ハシチョローン: はい、わかりました。モンゴル経済は過去10年間で急成長しました。これは統計調査からも見てわかります。それにつれて貧困率も減少してきました。急成長の時はモンゴル経済の成長率は世界でも高いと見られていました。基本的に実態経済が成長していた時もあったので、全くの過小評価ではなかったと思います。今日のモンゴル経済が困難な状況にあるのは、鉱業分野が十分発展できていないからだとみています。鉱業分野が発展できないのは、私たちが言っているように国の参入が大きな要因です。2006年までは鉱業分野における国の参入は比較的に少なかった。しかし、2006、2007年に戦略的鉱山という考え方が出現し、大規模な鉱山は戦略的鉱山とされ、国が参入することとなりました。それまでは市場原理で進んでいましたが、国が参入するようになりました。モンゴルでは国の参入というのは、選挙で勝利した政党や政治家の手に入ったということになります。そこには利害関係があり、政権寿命は3〜4年になっているので政策継続の期間が短いです。国が鉱業分野に参入するようになり、政府はエルデネスモンゴル国有会社を最初に設立しました。これをきっかけに国有企業が次々と設立されて行きました。その数は2015年までの間に15社にものぼり、持ち株会社(ホールディングス)にまで大きくなりました。ここで最も危険なことは、鉱物の輸出を政府が行っていることです。他の分野ではよく分かりませんが鉱業分野でいうと、例えば石炭の輸出を政府がしています。政府は輸出に際して石炭を安価で売っています。政府が締結した鉱業分野における外国との契約内容は非常に良くないです。政府は鉱業分野を「殺した」といっても過言ではないと思います。

J: この状況をどうやって脱しますか?
ハシチョローン: 唯一の方法は国有企業を民営化することです。つまり国有企業を無くすことです。それが難しければ株式を国民に所有させる方法もあります。こういったことは政治家が国民に良く思われたいがために表面上はやっています。しかし、会社の利益を考えていません。例えば、タバントルゴイという大きな鉱山があります。この鉱山を3社が分割して採掘しています。一つはタバントルゴイ鉱山のウハー・ホダグ鉱区をエネルジリソースという民間企業が運営しています。彼らはそこで精鉱工場や発電所、住宅団地を作っています。厳しい条件はみんな同じです。それでも上手く運営しています。二つは、タバントルゴイ株式会社であり、地方が運営しています。ここは良くも悪くも動いています。毎年の旧正月ツァガーンサルの時は地域住民にお金を配っています。三つは、エルデネスタバントルゴイという国有会社です。ここは品質が最も良い石炭を市場価格より安い価格で輸出し続けています。

J: 国有企業は赤字ばかり出して国の予算を使い果たし、税金を引き上げました。政府や政治家は負債を作ってまで国の予算を好き勝手に使います。しかし、その負債を国民全体が負っています。この税金の引き上げをどうすれば下げられますか?それは可能ですか?
ハシチョローン: 最初から税金引き上げありきというのは間違っていると思います。税金を引き上げても歳入は500億トゥグルグしか増えません。しかし、モンゴルでは税収による財源の大きな可能性があります。私はここで三つの可能性を挙げたいと思います。一つは、石炭の輸出税です。モンゴルは年間3000万トンの石炭を輸出しています。もちろん、精製しないままです。輸出しているのは国有企業です。そして輸出価格は市場価格より安価です。ここでせめて石炭1トン当たり10ドル課税するとしましょう。そうすれば、石炭の輸出税だけでも3億ドルの税金が国に入る可能性があります。これはトゥグルグに変換すれば8千億トゥグルグです。

J: 二つ目は?
ハシチョローン: モンゴルには6500万頭の家畜が飼われています。家畜の大半を少数の人が所有しています。遊牧民が所有する家畜数は様々です。最近の調査では遊牧民の中で家畜数が少ない遊牧民家庭が増加しています。過剰放牧が進んでいるので遊牧民に税金を課しても良いと思います。2008年までは徴税していました。それで何も問題はありませんでした。しかし、政府がこの税金を無効にしてしまった。この税金は何に必要かというと、地方開発です。

J: 三つ目は?
ハシチョローン: モンゴルはサービス業の国です。色々なところから物を仕入れて売っています。ここでも課税すべきです。もちろん大規模なチェーン店などには課税しています。しかし国民の殆どが低所得者なので、多くの人が大きな市場、屋台などで買い物をしています。つまりそれだけ小売り業者が多いということです。彼らにも税金を払ってもらうべきだと思います。しかし、その市場や屋台などで商売している人に一日にどれほど売上があるのかについて明確な調査が全くありません。だから国民全体で税金を納めている人の割合は非常に少ないと思います。

J: 次は最近問題となっているガソリンについて話したいと思います。モンゴルでは価格を調整するという歪んだ体制があります。これについてどう思いますか?
ハシチョローン: 始めに価格がなぜ上がったのかを話すべきだと思います。2016年からドル対トゥグルグのレートは2000~2400まで落ちました。さらに特別税が引き上げられました。最近ではロシアの原油価格が比較的に安定していますが、国際市場における原油価格は最高水準に達しています。価格上昇は自然な成り行きでもあります。一方政府は、ガソリン価格を調整すれば現在の価格で売れるという風に考えているようです。しかし、政府が要求している価格と企業が供給できる価格の間で大きなギャップが発生しています。特別税の引き上げによって企業は3ヵ月も損失を出しています。この問題を外部の人間は色々と言っています。例えば、一部の人は外資企業を増やせば問題が解決されると言います。また他の人は、国内企業が倒産すれば解決されると言います。
国は石油、ガソリンを国民に供給します。これは不可欠なことです。歳出が歳入を超えた場合は2つの解決方法があります。一つは、特別税を無くすことです。基本的に価格を安く抑えたい場合は税金を引き上げないことです。もう一つは、政府が価格を調整するのではなく、価格を市場に決めさせることです。そうすると市場原理が働くと思います。国際市場において価格が上昇すればモンゴルでも上昇する。低下すればモンゴルでも低下する。そのためにモンゴルは1990年代、市場経済に移行しました。

J: 政府は住宅ソフトローンという不可能な政策を打ち出し、一部の人に安価に住宅を供給すると言っています。今、不足分の住宅購入費用を全部政府予算に移すと言っています。私は8%だった住宅ローン金利を5%にするなどあり得ないと最初から反対していました。これについてどう思いますか?
ハシチョローン: シンガポールや香港などでは国民の住宅化を進めるために国民の貯金を利用しています。その人の貯金金額に合った住宅を提供しています。

J: その人に無理がないように適切に住宅を供給しています。そうやって国民が快適な暮らしができる環境を整備しています。
ハシチョローン: そうですね。最も健全な制度は賃貸住宅制度です。なぜならば、住宅を購入することができない人へ別の選択肢を提案することができるからです。日本やアメリカなどの国では住宅を所有している人はむしろ少ないです。多くの人が住宅を借りています。

ハシチョローン * ジャルガルサイハン