モヒンダー・パラタップ・シン氏は、1985年にインド外務省に入省し、インド外務省儀典官室に長年務めた数少ない人物です。そこでインド政府を訪問する賓客に対する現行の儀礼指針の作成および改訂で重要な役割を担ってきました。モヒンダー・パラタップ・シン氏は在バンコク・インド大使館の管理担当官、在トロント・インド総領事館の広報担当官、在ドバイ・インド総領事館の広報担当官、ロンドンのインド高等委員会プロジェクト員、外務省儀典担当官を歴任しました。在モンゴル・インド特命全権大使に任命される前は、首都ニューデリーで外務省の会議担当官を務めていました。また、プラヴァシバルティヤケンドラの活動委員会の委員長を務めていました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。本日は当番組にお越し頂き、ありがとうございます。

モヒンダー・パラタップ・シン: こんにちは。番組に招待して頂き、ありがとうございます。

J: まず、インドとモンゴル両国について話したいと思います。つい先日、モンゴル大統領がインドを公式訪問しました。また、両国が共同で実施しているプロジェクトに関する訪問もありました。あなたは今日のインドとモンゴルの関係を全体的にどう見ていますか?

モヒンダー・パラタップ・シン: その話をするにはまず歴史を振り返る必要があると思います。古文書によると、インドとモンゴルの関係は2000年前から仏教を通じてあったとされます。古文書にはヒマラヤ山脈を越え、シルクロードを通じて始まったと記述されていることが分かりました。それから今日まで両国の関係はより深まってきました。

先日のモンゴル大統領のインド公式訪問で、大統領は世界初の大学とも言われるナーランダ大学を訪れました。その昔、この大学には多くの僧侶が修業していました。特にモンゴルの僧侶が修業していた歴史的な文献がたくさん残っています。そして現在、インドは独立した国、モンゴルは民主主義国となり、両国の関係はあらゆる面で急速に拡大しています。2015年にインドのナレンドラ・モディ首相のモンゴル公式訪問は、両国関係において飛躍的な進展をもたらしました。

インドのアクト・イーストという東アジア政策において、モンゴルは重要な役割を果たしている戦略的パートナー国です。近年、両国の協力は政治分野のみならず、様々な分野に拡大し、強化しています。そういった背景もあり、インド人はモンゴル人に親近感を持っています。同様にモンゴル人もインド人に親近感をもっています。そのため、私たちは経済や貿易分野での両国の協力活動の一層の充実と発展を重視して取り組んでいます。

J: 私も同感です。協力関係の一例として、両国が共同で実施するプロジェクトがあります。このプロジェクトにインド政府はモンゴル政府に10億ドルの融資を行いました。この融資額は後に追加されたと聞きました。理由は何ですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: ナレンドラ・モディ首相は、モンゴルを公式訪した際、モンゴルのインフラ開発に10億ドルの融資をすると発表しました。しかし、モンゴル政府はこの融資でモンゴル初の石油製油所を建設することを決定しました。モンゴルのドルノゴビ県に建設されるこの製油所の原油精製能力は年間150万トンとされています。モンゴル政府はこの製油所に付随するインフラ敷設を担当しています。先月、モンゴル大統領と首相、インドの石油・天然ガス担当大臣が製油所の建設現場を視察しました。

また、モンゴル大統領はインド公式訪問の際に追加融資を要請しました。私たちは1年前に初めて実行可能性調査(FS)を実施していました。現在、私たちは製油所建設について話し合っています。インド政府から交付する10億ドルの融資は12億3,600万ドルにまで増えました。インドにとってこのプロジェクトは、隣国に交付している融資の中で最大です。製油所関連のインフラ開発を加えれば、さらに4億から5億ドルが必要になります。このプロジェクトは、オユトルゴイ鉱山に次ぐ巨大プロジェクトになります。

この製油所の建設によって、モンゴルはエネルギーの独立性、安全性を保障でき、年間消費量の80〜85%を国内で賄えるようになります。これは石油の輸入依存度を劇的に減らすことができます。

J: 製油所は油田から650〜750㎞離れた場所に建設されます。これは問題ありませんか?離れた油田から原油を製油所までどのように運びますか? 

モヒンダー・パラタップ・シン: とても良い質問をされました。製油所はドルノゴビ県に建設されます。しかし、油田はドルノド県にあり、その距離はおよそ550㎞になります。モンゴル政府は油田から原油をパイプラインで送油する計画を立て、製油所をドルノゴビ県に建設する決定をしました。そして私たちはモンゴル政府が出した決定に賛成しています。インド側は、製油所建設の実行可能性調査(FS)をインドの専門家たちで実施しました。モンゴル政府は、インド以外で独立した専門家たちに実行可能性調査(FS)を依頼しました。この調査には、総延長550㎞のパイプラインの建設も計画に含まれていました。しかし、最近になって貨物自動車や鉄道で輸送するという話が出て来ています。これを受け、モンゴル大統領がインドを訪問した機会に、両国政府が製油所建設の実行可能性調査(FS)を再び詳細に実施することで合意しました。製油所の建設工事は2023年に完了し、稼働する計画です。このロードマップは変わっていません。

J: そうすると、4年後にモンゴル人は自国で生産された初のガソリンを利用できると理解しても良いですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: 私たちもそのように望んでいます。このプロジェクトはオユトルゴイに次ぐ戦略的な大規模プロジェクトになります。モンゴル経済に大きな影響を与えるビッグプロジェクトです。インドとモンゴルの両国が、このプロジェクトを計画した期限内に稼働を開始できるように取り組んでいます。

J: それでは、他の分野での両国の協力活動、特に外交関係について話したいと思います。外交関係は非常に重要な分野です。私は数年前、インドがイギリスから独立して以降、功績を残した連邦公務委員会の方々に会い話したことがあります。その時、私はインドの公務員の採用選抜試験、育成方法、労働生産性向上のための取り組み、そのシステムについて聞き、感銘を受けました。

モヒンダー・パラタップ・シン: あなたはちょうど良いタイミングでこのテーマに触れられました。インドの連邦公務委員会は、公務員採用選抜試験を制度的に実施してきました。これにより公務職に優秀な人材のみを採用することができます。2ヵ月前、モンゴルの公務委員会の委員長がインドを訪問し、両国の公務委員会の協力活動についての覚書(MOU)に署名しました。この覚書の内容は、モンゴルの公務委員会の発展に両国はどのように協力していけるかについてです。

モンゴル公務委員会委員長のインド訪問はとても実りあるものになりました。今回の訪問で、インド・モンゴルの公務委員会が協力する活動プログラムを協議し、合意に至りました。インドが長年蓄積してきた経験は、国の発展過程において直面する困難を理解し、国民の要望をどのように考慮していく必要があるかを再び考える機会になると思います。この取り組みの初期段階の進捗状況を2020年に計ることができるでしょう。この他にインドは人材能力向上のための強力なプログラムを持っています。毎年インド政府は、ITECを通じて200件の奨学金、ICCR(インド文化関係評議会)を通じて50件の奨学金、宇宙および防衛分野で300件の奨学金をそれぞれ交付しています。過去30年でモンゴル人留学生3,500人がこれらの奨学金を受けてきました。

また、モンゴルの非常事態庁の職員が、インドの防災管理局で研修を受けていますし、モンゴルの関税庁の検査官20人がインドで研修を受けました。昨年、30人の英語教師がインドに専門性向上研修を受けに来ました。2ヵ月後にはモンゴルの20県の県知事たちがインドで研修を受ける予定です。他にもモンゴル外務省の外交官もインドに留学しています。このようにモンゴル政府による国の発展のための人材開発を通じて、両国は協力活動の幅を広げています。

J: これはモンゴルにとって必要不可欠なことの1つです。なぜならば、今日モンゴルの公務員は、政権交代の度に頻繁に人事異動が起こります。これは国の経済や政治を弱体化させる大きな要因です。政権が変わる度に人材を育成していくことは困難です。しかし、インドでは公務員は任官され、下から入り上まで上り詰める形です。

あなたが外交官になったのはいつですか?外交官になったきっかけは何ですか?どのように出世しましたか?

モヒンダー・パラタップ・シン: 国の発展および政府の政策実施において、継続はとても重要です。継続することによって得られる結果は、期待に沿ったものになります。私が外務省に入省したのは30年前です。UPSC(連邦公務委員会)の数段階ある選抜試験にすべて合格して外交官になりました。この数段階ある選抜試験のプロセスは、公務員の初級段階の試験で始まります。初級段階の試験に合格した者は基本試験を受けます。当時は約40の公務職に400万人が応募していました。試験に合格し選ばれた人たちは、次に面接を受けます。その後は研修を受けます。研修は人材開発において必要不可欠なものです。

私は外交以外の分野に務めることを想像できません。なぜなら外務省の仕事は、私に世界を旅させ、異文化に触れさせ理解を深め、多くの民族の人々と話す機会を与えてくれるからです。私は、旅は教育だと思います。教科書から学ぶ以外に、旅をしてそれぞれ異なる文化をもつ人々と会うことは、人間の知見を常に広げてくれます。

J: そのとおりですね。あなたの両親について伺っても良いですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: 私の父は、私と同じく公務員でした。北インドで鉄道エンジニアをしていました。母はインドの情報通信会社に勤めていました。出産後は家庭で育児に専念しました。両親は私たち兄弟に知識と教育がどれほど重要かを教えてくれました。

J: 兄弟は何人ですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: 妹が3人います。3人とも幸せに暮らしています。1人はフィンランドに住んでいます。もう1人は空軍の軍人と結婚しました。3番目の妹は教員です。

J: あなたの出身地はインドのどこですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: 私はインド北部に位置する首都ニューデリーに生まれました。私が生まれて間もなくして、父の仕事で家族はニューデリーの隣のウッタル・プラデーシュ州に引っ越しました。父はそこでしばらく働いた後、私が6、7歳の時に家族でニューデリーに戻りました。それから今までニューデリーに住んでいます。

J: あなたの経験を例にインドの公務員になるための厳しい条件とその選抜について皆さんに紹介したいと思います。あなたは先ほど40の公務職に400万人が願書を提出したと話しました。本当に熾烈な競争ですね。そして、さらに試験に合格した者は研修を受けると話しています。合格者は外交に関するどのような研修をどのくらいの期間受けますか?

モヒンダー・パラタップ・シン: インド政府は、システム化された研修プログラムで人材を育成しています。初級段階のプログラムでは外交機関で研修を受けます。こうすることによって対外政策についての知識のみならず、インド政府についての知識も得られます。この他に外交関係の職に就く人は母国語以外に外国語を必ず習得しなければなりません。私はスペイン語を習得するように言われました。そのため、私はスペイン語を高度なレベルで習得しました。また1990年代には、私にベトナム語を学ぶ機会が訪れました。この機会を通じて初級ベトナム語を習得しました。これらの研修で良い成績を修めたら外国に赴任できます。最初は外国にあるインド大使館に実習生として入ります。

大使館で経験を積んでから、役職の初級つまり第1次研修を受けます。それから10〜12年後に第2次研修を受けます。私はモンゴルに赴任する前に第2次研修をボストンで終えました。次の役職に昇進する時も再び研修を受けます。私は30年間外交関係の仕事に就いていますが3段階の研修を受けました。再び研修を受ける機会があれば、ぜひとも受けたいと思います。

J: あなたがボストンでの研修を受けた理由は何ですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: インド政府は、国内だけではなく、在外公館などで働く職員にも外国で研修を受けさせています。私は同僚と共にフレッチャースクールで15日間の集中研修を受けました。そこで新しいコンセプト、新しいアイディアについて外国の教授から学びました。

この研修では国際理念について研究します。研修モデルはその国に合わせて作られています。その他、外交について、インドのアフマダーバード市にある管理機関で1ヵ月間の研修を受けます。最近ではAI(人工知能)およびサイバー・セキュリティに関する研修コースが新設されています。

J: インドでは、特命全権大使に外交分野以外の人が任命されることはありますか?或いは、必ず外交分野の人が大使に任命されますか?

モヒンダー・パラタップ・シン: インドは世界に190の大使館および総領事館を置いています。これらのうち、5人だけが外交分野以外の人が大使として任命されています。しかしこの5人の人たちは、特殊な専門分野もしくは政治的な理由によって任命されています。私の記憶が間違っていなければ、20年前にBakula Rimbuchiが駐モンゴル・インド特命全権大使に任命されていました。モンゴルとインドの関係において、彼が残した功績は計り知れません。

J: 一般的に外交官の他に、技官も任命されます。これらの人たちの採用選抜はどのように行われますか?

モヒンダー・パラタップ・シン: 技官に関しては、採用選抜をせずに任命しています。例えば、インド政府の開発援助プログラムにより、年間20億ドルが様々な分野の対外協力支援プログラムに費やされています。これにはインフラ、鉄道、情報技術、サイバー・セキュリティ、マスメディア、ダム、道路、防衛などの分野での活動が挙げられます。この対外協力支援プログラムのために2〜5年の期間で技術の専門家として技官をインド外務省が任命しています。任命された技官は、私たちの外国との協力活動において専門的な支援を行います。

J: 外務省以外の省庁からも任命されていると理解しても良いですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: はい。そのとおりです。任期は最長で5〜6年、短くても2年です。技官の意見は、私たちが実際に決断を下す時にとても重要な役割を果たします。

J: 話が変わりますが、あなたの衣装はインドの民族衣装ですか?

モヒンダー・パラタップ・シン: その質問はよく受けます。私が頭に巻いているものはターバンと言います。私はシク教徒ですので、伝統に従ってターバンを頭に巻いています。シク教は「神は形がなく、私たちの言葉に存在する」と教える宗教です。シク教の信者は、世界60ヵ国に約2億人いますが、その多くがインドに集中しています。また、アメリカ、カナダ、イギリスなどの国にもいます。

モヒンダー・パラタップ・シン * ジャルガルサイハン