ニャムジャブ・ソヨルゲレル氏はモンゴル国立大学を卒業しました。専門は政治社会学です。彼女はアメリカ合衆国、ドイツ連邦共和国、トルコ共和国、中国などで安全保障についての専門性を向上させました。ソヨルゲレル氏は、モンゴルの安全保障における地域、外的要因を主に研究しています。「地域安全保障における重要問題」、「安全保障に関する非伝統的諸問題」、「中央アジアにおける民主主義促進に対するモンゴルのイニシアチブ」、「多面的協力活動の仕組みとモンゴルの参加」、「ロシアと中国の地域に向けたプロジェクト・プログラム」、「上海協力機構とユーラシアの経済連携」などのテーマで約40の論文を国内外の学術会議で発表してきました。

J(ジャルガルサイハン): あなたは政治学について長年研究してきました。特に安全保障について多くの研究をしています。そもそも安全保障とは何ですか?どのように理解するべきものですか?これは戦争がないことを言うのでしょうか?まずこれについて聞かせて下さい。

ソヨルゲレル: 安全保障とは、とても幅広い概念です。近年では、科学分野でも安全保障について定義されるようになっています。これを政治科学、社会科学、その他の科学から切り離して、安全保障という独立した学問にすべきという考えもあり、専門の研究者も増えてきています。安全保障とは、簡単に分かり易く言えば、当該国や国民、地域が平和で安心して暮らせることを言います。

J: あなたが言うように、平和で安心して暮らすことを定義します。例えば、海に面している国々では津波や台風といった自然災害に対する恐怖があります。また、人や歴史によるもの、つまり国境をめぐる紛争、宗教間の衝突が起きている国もあります。こういったことへの対応も安全保障に含まれると思います。では、モンゴルが抱える安全保障上の問題は何ですか?

ソヨルゲレル: モンゴルには自然・生態学における安全保障上の問題があります。例えば、モンゴルでは砂漠化が深刻な問題となっています。また、気候変動による様々な問題が挙げられます。さらに、新興国によく見られる社会・経済の現象もあります。これらの問題のバランスを維持しながら発展できているのか、他国や地域との連携は取れているのかなど、国内外の安全保障のバランスを取ることが重要となります。こういった側面から見ると、モンゴルは地域において安全だと言えます。モンゴルは隣接するロシアと中国、そして地域の諸外国と何らかの紛争や衝突、誤解などを抱えていない唯一の国です。

J: そうですね。モンゴルはアジア地域の中でそうだと思います。安全保障は健康に似ています。例えば、私たちは病気になってはじめて健康でいることの有難味を痛感します。病気にならなければ何も気にしません。これと同じように、安全保障とは、モンゴルにとって問題がないから人々はあまり気にせず考えていないのが現状です。それでも気にして考えている人たちが警戒していることは、モンゴル国内に中国人が多くなり、モンゴルが占領されるのではないかということです。もちろん、あなたが言ったように国家レベルでの安全保障は問題ありません。これはごく一般の市民レベルでの話です。しかし、これに根拠はあるのでしょうか?

ソヨルゲレル: 中国に占領されると市民が警戒していることについては、モンゴルだけではなく、中国と国境を接している、もしくはその周辺のすべての国がそのような警戒心をもっています。なぜならば、中国は発展と成長を続け、拡大し、影響力を増しています。中国に経済的に過度に依存するのではないか、もしくは既に依存しているのではないかという疑心が生まれます。中国と隣接する国々、地域だけではなく、海を越えた大国も中国を警戒しています。

J: 他方、地域内で中国は経済の中核になっています。中国と中国を取り囲む国々の相互協力は様々な形で行われています。中国は2つの協力活動を実施しています。1つは「一帯一路構想」です。これは発足して10年も経っていませんが、急速に拡大しており、中国は既に世界中に500億ドルの投資をしています。もう1つは「上海協力機構」という組織です。加盟国を地図でみれば、その真ん中に唯一色が違う国があります。それはモンゴルです。まるで上海協力機構の窓のようになっています。また、私たちの間で上海協力機構に加盟するべきかどうかについて、議論が広がっています。この上海協力機構について話して頂ますか?

ソヨルゲレル: ロシアのボリス・エリツィン大統領は1996年に初めて中国を公式訪問しました。この訪問に合わせて、中国国家主席が中央アジア3ヵ国の首脳を上海に招き、5ヵ国(中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン)による首脳会談が行われました。この首脳会談で、国境に関する交渉や国境警備隊の連携強化を図る「上海協定」に署名がされました。この5ヵ国の首脳会談を契機に上海ファイブが発足し、2001年にウズベキスタンが加わり、上海協力機構に改組されました。初めは加盟国間の国境での協力が主な活動でしたが、後に国際テロ、民族分離運動や宗教運動、さらに経済や文化など幅広い分野での協力関係の強化を図るようになりました。

J: 上海協力機構の協力体制にいつから経済分野が入りましたか。その背景は何ですか?

ソヨルゲレル: 上海協力機構には2つの大きな柱があります。それは中国とロシアです。この2つの国はそれぞれに利害関係があります。両国とも地域における自らの影響力を誇示しようという意図があります。あなたの質問に答えるために、ここで中国について少し話したいと思います。上海協力機構における中国の目的は、1つは中国西部の安全保障を確保することです。つまり、中央アジア諸国と隣接する新疆ウイグル自治区のことです。2つ目は、急成長している中国経済の需要を満たすために、必要とするエネルギー源の域内での確保です。3つ目は、この地域への他の大国の影響力を制限することです。過去、アメリカは「大きな中央アジア」、「新シルクロード計画」などのプロジェクトを打ち出したことがあります。このような大国の影響を制限するという中国の戦略があります。中国のこのような意思・行動からのエネルギー源の確保という面でも、経済協力は不可欠になっています。そしてエネルギーだけではなく、貿易も入ってきます。中国自体が大きな貿易国です。ですから中国は中央アジアを通りカスピ海へ、そこからヨーロッパに自分たちの製品を輸送するための貿易路を拡大させたいという目的があります。そのために上海協力機構において経済協力活動は必要不可欠と言えます。

ロシアの場合、上海協力機構での目的が少し異なります。地域の安全保障において、集団安全保障条約機構があります。この機構に加盟する国々の地域安全保障において、ロシアの影響力が強まっています。また、中国と同じく「地域」として中央アジアを見ています。さらにロシアは、ユーラシア経済連合を設立し、そこにロシアの経済的利益を求め始めました。つまり、中央アジア地域において、中国もロシアもそれぞれ経済的利害関係をもっています。さらにこの二ヵ国が、上海協力機構という1つの傘の下にいます。そのため、上海協力機構では経済協力について話さざるをえません。

J: モンゴルは上海協力機構において、「オブザーバー」というステータスでいます。しかし、Kh.バトトルガ大統領は2018年に青島市で開催された上海協力機構首脳会議でステータスを引き上げたいと発言しました。これを受け、モンゴル国内で様々な議論が起こりました。私たちは上海協力機構に加盟した方が良いですか?それともしない方が良いですか?

ソヨルゲレル: まさにあなたのこの質問は、私たちが研究すべき優先課題となっています。私たちは、何らかの決断をする場合、その決断がより良い結果をもたらさなくてはなりません。以前より多くの利益や機会をもたらさなければなりません。上海協力機構への加盟に関して、私たちはよく研究し検討するべきです。これは一人の政治家や一握りの研究者が決めるべきことではありません。

また、上海協力機構は、今年のはじめに中長期戦略を打ち出し、近い将来実施する協力活動を4つの分野に分けています。これについて、モンゴルはすべての分野で研究し、私たちにとって本当に必要なのか、どのような利益をもたらし、どれくらいのリスクがあるのかを慎重に見極めなければなりません。

J: その4つの分野は何ですか?

ソヨルゲレル: 政治、安全保障、経済、人道支援の4つです。

ソヨンゲレル * ジャルガルサイハン