S.ボルドヘト氏は国際経済に関する専門家であり、ロシア語と英語、フランス語が堪能です。1976年から対外貿易省(当時)、モンゴルインペックス、モンゴル輸出局長、在日本モンゴル国大使館、在シンガポールモンゴル国大使館の領事、モンゴル通商代表部貿易顧問の役職を歴任。20年に渡り、国内外の貿易発展において大いに貢献した人物です。

J(ジャルガルサイハン):こんにちは。あなたはモンゴルの国内外の貿易分野や政治分野において豊富な経験をもっています。あなたはモンゴルを代表するシンガポールでの初の通商代表部、領事の役職を歴任しました。また、民主化革命に参加し、国会議員にもなりました。今日は2人でマクロ経済について話をしていこうと思います。モンゴルでは経済危機が継続しています。あなたはこのことに最初に気づき、感じている人々の一人です。問題の原因は何ですか?
ボルドヘト:はい。あなたと私は二つの社会と二つの世紀を歩んで来ました。社会主義時代は対外貿易省というものがありました。そして対外貿易省の中に輸出入を担当する部署がありました。当時は貿易の多様化が行われ、国が貿易を主導していました。輸出、輸入のみならず卸売、小売までも国が主導していました。社会主義時代の最後の10年においてモンゴルの貿易分野では様々な変化が出始めました。
例えば、国際市場調査、価格構成調査、自国の輸出入の多様化、競争の意味を理解するようになりました。対外貿易省には経済や競争相手、国際市場について調査する「経済局」がありました。その後、価格と経済、自国の輸出製品を国際市場の価格に調整したり、輸入先の多様化などを調整する部署も開設しました。当時話題となっていた話ですが、子どもが遊ぶ外国の馬の玩具はモンゴルの生き馬の価格に相当するものでした。民主主義に移行してこれらの部署は廃止されました。商売は民間企業に移り、価格と価格調査、市場調査などがなくなり、資本主義が未熟な状態で進みました。これが非常に良くなかった。経済基盤の構築が始めから良くなかったので、その影響は今も続いています。
例えば、私たちが天然資源と呼ぶ石炭をいくらで販売していますか?外国からの輸入品の価格はいくらですか?これについて全く調整していない状況です。調整と言っても省の権限や特別許可の交付によって自由市場政策を廃止することではありません。ある程度の情報を提供する事です。例えば、旧正月や新年の時は輸入製品が増加します。大量に輸入されたものは、いずれ余剰在庫となります。これも全く調整されていません。調整というのは、モンゴルの市場規模はどのくらいのものなのか。またその規模を超えた場合はどんな状況が発生するのかを調査し、必要な対策を考えることであり、禁輸するということではないのです。

J:統一した情報を提供するということですか?
ボルドヘト:そうです。統一された情報システムを作る必要があると思います。

J: このような情報はどうしてないのですか?例えば、モンゴル商工会議所が提供するべきではないでしょうか?
ボルドヘト:昔は対外貿易省がありました。今日では、貿易分野は全面的に外務省が取り扱っています。そして外務省の中の一つの部署に過ぎません。外務省とは幅広い範囲で活動する機関であり、貿易に関しては十分な予算と人材が割り当てられていません。そして国を代表して外国に大使として赴任する人たちは、貿易について知識が非常に乏しく、専門家ではないことが殆どです。私は対外貿易を取り扱う局、あるいは対外貿易について競争相手を調査する局が最も重要で、そういう局を開設すべきだと思います。局ではなく省であればなお良いと思います。どの国にもそれぞれ商工業省という機関はあります。

J:あなたは調整とは、市場調査を行い公共に情報を提供するという意味で言っていますか?
ボルドヘト:はい。民間企業は市場調査を充分に行う事が出来ていません。モンゴルの輸出や経済は何で成り立っているかを専門家が調査する必要があります。輸入は明らかです。

J:では、次にナラングループについて話を聞きたいと思います。
ボルドヘト:今ではナラングループのことを知らない人はいません。1990年の民主化と同時期に設立され今年で28年になります。数千人の雇用を産み出し、国には何十億トゥグルグも納税をしてきました。私が最も重視してきたことは、多くの人を雇用するのみではなく、彼らが自立して生活できるようにし、経済的な知識を身に付けさせることです。また、モンゴル人の新しい生活スタイルを作っています。私たちは社会主義の時代があったがゆえに発展が遅れた国の国民です。そのため、世界の発展に追いつきたい、消費をもっと良くしたいという思いで頑張っています。
他方では、人間には選択の権利があります。どんなものを買いたいか、世界中で使われているものをモンゴルでも使いたいと思います。そういう意味では、モンゴル人が21世紀の世界の発展に肩を並べられるようにしていきます。

J:そうですね。御社が輸入している商品の大半が高級品です。その狙いは何ですか?他国で使われている商品をモンゴル人も使うべきという考えですか?しかし、世界で知られているブランドの代理店になる事は容易ではないと思います。ここではどんな条件がありますか?
ボルドヘト:これに関しては人々に正しい理解をもってもらう必要があります。工場を作らない、ただ単に外国から商品をもって来て売るだけの、簡単な方法で稼いでいると私たちの商売は軽視されがちです。しかし、商売は発展をもたらすという概念があります。モンゴルには多種多様な商品が輸入されています。外国から輸入されて来ている多種多様な商品をみて国内生産者は製品の品質を上げていかなければならない。市場においてどのように競争するか?ということを考えるようになります。もし、輸入品を禁止してしまえば、国産品のみを購入することになります。そうなるとモンゴルは発展しないと思います。国際スダンダートというものもなくなります。社会主義の時代に靴を国内で製造しようと試みていた事を思い出す必要があります。靴を製造するために必要な材料を揃えた。しかし、製造工場の管理職はチェコ製の靴を履いていました。国内製造の発展を図るためには、段階的な政策の実施が必要です。ブランドということに関して、消費者はどんな商品を買いたいのか、それを自分で判断して選ぶ権利があります。私たちはモンゴルに世界の発展、世界のブランド、商売の発展と文化を導入することができたと理解しています。先程も言ったように貿易は貿易政策のみにて調整されます。
またその他では、私たちの使命はモンゴルの貿易分野が完全に低迷していたので、国民に日用品を提供することでした。基本的に商売の最初の狙いはこれだけでした。ニーズに応えられるようになってきたらこそ、今度は品質に目を向けるようになりました。品質を高めるということは、国の経済及び通貨における浪費が少なくなるということです。モンゴルの市場では要不要が考えられずに商品の輸入が繰り返されています。しかし国民の手元にある現金も国の資産です。品質の高い商品とは見ようによっては節約となります。

J:あなたはメディアを所有しています。スーパービジョンというケーブルテレビです。モンゴルにケーブルテレビを導入した初めての人と言われています。さらに安定した消費者層を獲得しています。また、SBNテレビ局も所有しています。商売とメディアという2種類のビジネスの関連性は何ですか?あなたは今後この2つのビジネスを続けていきますか?それともさらに多様化しますか?
ボルドヘト:もし私たちが中国のように大規模な市場をもっていれば、一種類のビジネスではなく、特定の領域をシェアするだけで十分です。人口が多いから。しかし、モンゴルでは政府の政策が持続しない、法律も常に変わります。またマーケットも小さいので一つのビジネスに特化するのはリスクがあります。他方、商売とサービスはメディアと関連するものです。相互に補い合うものであり、適切だと思っています。ケーブテレビに関しては、私たちにとってそんなに利益のあるビジネスではありません。なぜならば、新しい技術が次々と急速に開発されているため、多額の投資が必要となります。重要なことは、私たちは消費者に世界の文化を提供しているということです。世界的に有名なディスカバリーチャンネルをはじめ、スポーツ・エンターテイメント・ニュースチャンネルを導入したことによって、人々の知識と視野が広がったと思います。当時はインターネットも無かった時代です。国民の知的好奇心の向上においてある程度の貢献ができたのではないかと思います。

J:あなたは自分の子どもや孫と一緒に暮らしています。大きなビジネスを持っています。家族と仕事をどのように両立させていますか?あなたの趣味は何ですか?何かスポーツをしていますか?
ボルドヘト:「歳とはただの数字だ」と良く言っています。私もそう思います。日本人は80歳でも働いています。人間は働きながら同僚や周囲の人々から学び、経験を共有し、本を読み、自己を形成し、成長しながら生きていきます。モンゴルを研究していた日本人研究者、木村理子氏がモンゴル人について「脳の疲労(タルヒニー・トラール)」という本で、「モンゴル人はある程度成功すると向上心が止まってしまう。しかし、生涯学習は生涯にわたって続けるべきです。」と言った言葉があります。この言葉をこれからの若者に伝えたいです。

ボルドヘト * ジャルガルサイハン