貿易とは、外国の製品及びサービスを個人や企業が通貨で交換することをいい、この貿易ネットワークを市場という。国と国の間で行われるこのような交換を対外貿易という。国内資源を利用し、自国のニーズを満たし、余剰分を外国に供給することで貿易が成り立つ。

モンゴルは貿易(Trader)国である。貿易比率(Trade ratio)つまり対外貿易の貿易高がGDPより大きな国の1つである。世界銀行の報告書によると、2019年のモンゴルの貿易比率は129%である。例えば、カナダは56%である。また、交易条件(Terms of trade)つまり輸出と輸入を比較すれば、モンゴルは貿易赤字国である。

国は、貿易を通じてどのように発展するのか、モンゴルが貿易において注意すべき点は何か、どうすれば貿易の効率性を向上させられるのか?

発展段階と自由貿易

発展途上国が中所得国となるのは、地域および世界貿易市場へどれだけ参加でき、成功しているかによる。貿易が成功すれば、それは国の外貨準備高の増加に繋がり、貿易収支を健全な状態に維持することができる。そして必要な機械設備、技術、エネルギーの輸入、国内及び輸出の生産開発、製品価格値下げの源となる。

発展をもたらす貿易は3段階に分かれる。第1段階として、国は自分たちの比較優位性を利用する。例えば天然資源などの一次産品を輸出する。第2段階として、第1段階で得た収入で国内生産を発展させ、それまでの輸入製品を国内製品へ代替していく。例えば、野菜を栽培している農家は、次に栽培した野菜を加工する工場を建設するなどだ。第3段階として、外国に比べて低い賃金の労働力を活かして輸出製品を製造する。国内外の大規模市場に進出することによって、単位製品コストが低下(Economies of scale)する。

現在、モンゴルは第1段階にある。ごく一部の製品の輸入代替を始めたばかりの状態だ。モンゴルは、地域や隣国が設立した“機構”や“連合”に積極的に参加してきた。モンゴルのような小国にとって、近隣諸国の中で小さくてもしっかりと地位を築くことは、貿易のみならず、独立と安全保障にも有効である。

モンゴルにとって中国との貿易は黒字であり、「石炭外交」を繰り広げている。対してロシアとの貿易は非常に不均衡で赤字の状態である。ロシアはモンゴルに対して、ユーラシア経済連合への加盟を勧奨し、まずは自由貿易協定を結ぶことを提案している。これについてモンゴル政府は検討する必要がある。自由貿易協定を結ぶことによって、モンゴルとロシアの貿易高は2億5,000万ドル増加すると予測されている。だがこの額はモンゴルの貿易総額の2%の増加に値するため、今現在、結論を急ぐ必要はない。

モンゴルは1997年に世界貿易機関(WTO)に加盟した。今日、モンゴルは概ね開放的で自由市場である。大半の輸入製品に課される関税率は5%である。対してロシアと中国の関税率は20〜40%である。そもそもモンゴルは市場を閉鎖的にする理由はない。貿易が発展してこそ市場が拡大し、その後、生産やサービスが増加するからだ。

現時点では、モンゴルが自由貿易協定を締結している唯一の国は日本である。日本との自由貿易協定は2016年に締結した。2015年のモンゴルと日本の貿易高は2億9,400万ドルだった。それが4年後の2019年には2倍に増加した。だが内訳を見ると、モンゴルの輸入額が2倍に増加し、輸出額は2,000万ドルから1,500万ドルへ減少した。

モンゴルの製品は日本の基準や規格を満たすことができていない。モンゴルの輸入の大半が自動車であり、その殆どが右ハンドルの中古車である。(訳注:モンゴルの交通は右側通行で左ハンドルなので、日本からの輸入中古車は逆ハンドルとなる。)

モンゴルは畜産製品の輸出をあらゆる国のあらゆるレベルで多く話題にしてきた。しかし、どの国にとっても、農牧業は国内市場を保護する目的で政府から補助金を受ける閉鎖的な分野である。基本的にモンゴルでは、外国から購入する製品は多いが、逆に外国に販売する製品がない。

ビジネス環境

モンゴルは銅、石炭などの鉱物資源を隣国に輸出し、決して少なくない収入を得ている。しかし、この収入をすべて消費に回し、国際経済の競争力を構築することに活かせていない。モンゴルの国際競争力を見ると、2019年は世界で102位となっている。10年前は117位だったので、その間大して変わっていない。

モンゴルのビジネス環境は脆弱である。モンゴルは世界ビジネス環境ランキング(世界銀行調べ)で4年前に56位だった。そして今日では81位とランクを落としている。このランキングの10の評価項目のうち、「国境をまたがる商取引」においてモンゴルは世界143位である。この指数は、製品の輸出入に掛かる時間と費用を示すものである。モンゴルでは、輸出に関する書類作成のための所要時間が168時間となっており、これは先進国より73倍、地域諸外国より3倍も長い時間を要している。また関税書類作成の所要時間は、先進国より10倍も長い134時間である。東南アジア諸国では平均57.5時間である(Ease of Doing Business 2020)。こういった指標は、モンゴル政府が貿易における支援を何から始めるべきかを示している。

モンゴルは自由貿易協定を外国と結ぶ前に、国内のビジネス環境の改善を図り、国内産業を発展させなければならない。そして、国内生産者に輸出市場への道を開放し、後押ししなくてはならない。

開発資金

モンゴルへの外国投資の大半を鉱山分野が占めている。その他の分野に必要な投資を政府は鉱山からの収入で賄うべきである。特に国際市場で競争できる製品やサービスの開発に投資しなければならない。

例えば、アメリカ合衆国では1982年に中小企業イノベーション開発法が施行され、政府と民間企業によるコンソーシアムが設立された。ここで各分野の基礎研究に投資が行われ、多数の新しいビジネス、スタートアップ企業が誕生した。今日のインターネット、コンピューターの基礎となる高いコストを必要とする研究に対して政府が資金を提供し、アップルやテスラなどの大手ハイテク企業が出現した。

モンゴルと環境が似ているチリは、この分野において豊富な経験を持っている。モンゴルもチリのように発展できる可能性があるはずである。しかしモンゴルの発展のために投資を行うはずのモンゴル開発銀行の歴代の頭取は、汚職や不正で次々と起訴されるという習慣が定着している。

貿易はまた特定のリスクを伴うものである。国際市場の為替変動は、輸出による収入や利益に直接影響する。また、輸出は地政学的な不確実性や需要の周期的変化などのリスクを受ける。また、経済の過度な自由化を促せば、国内の一部の分野で構造的失業を増加させる。

自由貿易、経済のグローバル化の中では誰もが恩恵を受け、人々の生活が豊かになると世界中が信じてきた。国境なき貿易が可能になったことで、数百万人が貧困から脱し、人々の生活水準が向上したのも事実だ。しかし、グローバル化した自由貿易体制により多くの国がその恩恵を受けるが、全員が勝者とはならないと、多くの政治家、経済学者が警鐘を鳴らしている。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン