ツェデンダムバ・バトソガル氏はモンゴル国立大学及びモンゴル科学技術大学を卒業しました。バトソガル氏はIRIM研究所で研究員、プロジェクト・マネージャー、イベント担当課長などの職を歴任しました。2017年以降、IRIM研究所の理事長を務めています。バトソガル氏はモンゴル、オーストラリア、カザフスタンなどの国で社会調査、経済調査を行ってきました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。IRIM研究所は法的にどのような組織として登録されているのですか。

バトソガル: こんにちは。私たちIRIM研究所は、非政府組織、いわゆるNGOという形で活動しています。現行法となる1997年に制定された「非政府組織に関する法」では、NGO団体となる定めや、具体的な種類まで細かく決められていません。しかしながら、それ以降に制定された民法や法人登録に関する法律では、非営利活動法人を定義し、それには組合、基金、社団法人の3種類に区分されると定めています。

J: 非営利活動法人の種類を区分することに関連して生じる問題は何かありますか。

バトソガル: NGOや非営利活動法人に関して、批判や問題はあります。2017年度の調査では、1万7千ほどのNGOが登録され、活動していることになっています。しかし、その過半数は活動を停止しており、活動報告書も提出していない状態です。また、NGOや非営利活動法人という名の元で宗教活動や学校経営を行う団体もあることから、本来の市民社会の利益に資するという意義が失われているとの批判があることは確かです。NGOや非営利活動法人が直面している具体的な問題や困難について、調査は十分にされていません。よく言われるのが、非営利活動法人として登録されているが、実際は営利活動を行っていることなど、本来の市民社会の為という意義と一致しない活動を行うことです。

J: NGOや非営利活動法人の活動資金源について、外国からの資金が多いことが問題視され、新たな法案が国会に提出されました。どういう名前の法律で、どういった問題を、どのように解決しようとしているかについて話して頂けますか。

バトソガル: 法務省では「非営利活動法人に関する法律」という名前の法案が提出され、議論されています。この法案が提出された理由、そのきっかけとなった問題は4つあります。一つ目は、現行法の欠陥を補い、矛盾をなくすためです。租税法、民法、法人登録に関する法の間では、言葉の定義や種類区分などに違いがあり、法的な矛盾が生じていたことから、それをなくそうとしています。また、時代の変化に伴い、現行法を改正する必要も生じてきています。二つ目は、NGOの登録に関して、NGOという名称を掲げながら市民社会の利益に資するという意義とかけ離れた活動を行うことは適切ではないからです。三つ目は、NGOの資産状況を公開し、責任の所在を明確にする必要があるからです。法務省による内部調査では、全国のNGOの66.7%が、外国から何らかの資金を調達しており、モンゴル国政府から補助金交付を受けているのは、わずか2%に留まっていることが分かりました。他国からの多大な援助で活動を行い、その詳細な報告もないことが問題視されているということです。四つ目は、NGOの名前を表に出し、宗教や政治に関する活動を行なっている場合があります。これはNGOに対する規制と異なる規制で取り締まらなければならないからです。これに関して、宗教に関する法案が現在立案されている段階にあり、また政党に関する法の改正も議論されているところです。

J: 一方で、民主主義の基盤の一つとなる市民社会において、個人は結社の自由、集会の自由、表現の自由を有しています。今回の法律が制定されることによって、その制限が厳格になればなるほど、個人のそういった自由、基本的人権を制限することに繋がります。近年、ポーランド、ハンガリーなどといった国々では、市民社会をコントロールしようとする傾向が見受けられますが、現状モンゴルではどうでしょうか。

バトソガル: 個人の基本的人権を保障し、その権利を実現できる環境を作ることはとても大事なことです。その環境には、報道の自由、集会の自由、結社の自由が保障されていることが必要不可欠です。世界的に見ても、市民社会をコントロールしようとする潮流があることは確かです。例えば、Civicusという国際的な非営利組織が毎年、市民社会の確立が十分であるかどうかについて評価し、公表しています。その中では、昨年旧ソビエト連邦の国々、ロシア、中国を含む30カ国が市民社会の確立が不十分とされました。これらの国では、テロ資金供与対策、資金洗浄防止策などの名目で法改正が行われました。その結果、ロシアや中国では多くのNGO団体が活動を停止せざるをえなくなり、多くの逮捕者を出したことから市民社会の確立が不十分とされたということです。インドでも外国からの資金が理由で、多くのNGOが活動停止に追い込まれました。つまり、テロ資金供与対策や資金洗浄防止などを理由にした法改正は、当初は正当な目的があったように見えますが、法律が実際に施行されれば市民社会を制限してしまうといった現象が多く見られるようになりました。

J: NGOは国内での資金調達は期待できないので、外国からの資金援助に頼らざるをえない状況です。他の国では、NGOの活動を支援した企業は、その支援した額と同額の税を免除する制度もあります。国民の声を一つにすることはそう簡単なものではありません。先立つものも必要です。外国からの資金が禁止されたら、代わりとなる資金をどのように調達できると思いますか。

バトソガル: 現行法では、認められる収入源が定められています。個人、法人などからの寄付金、またはNGO自らが行った活動によって得られる収益、NPO法人では会員からの会費などです。議論されている法案では、国からの支援が検討されています。国が支援する場合は、NGOへの支援に特化した基金を設立し、そこから活動資金を貸し付けたり、国の事業を契約に基づいて移管したり、特定の国有財産を優先的に使用する許可を与えたりといった形で支援することになります。しかし、現在NGOの収入の20%くらいが寄付金、66.7%が外国からの資金、2%が国からの補助金になっているため、この構成比を変えることはそう簡単ではありません。NGOに対する国からの支援が増えるということは、国から市民社会への監視が強くなることであり、市民社会の独立性が失われるという問題が生じます。

J: その問題を他の国はどのように解決していますか。

バトソガル: 市民社会が高度に確立している国で、どのようにこの問題を解決しているかはまだ十分に研究していません。しかし、今議論されている法案においては、市民社会による外部委員会を設立し、その独立した外部委員会に国からの支援をそれぞれのNGOに割り当てる事業を委任するという提案がされています。この外部委員会設立の手続きやその決定を内閣が決めます。外部委員会は、9人の委員から構成されます。4人は特定分野の省庁の大臣の推薦により選出され、残りの5人は特定のNGOからの推薦により選出されます。しかし、内閣や特定のNGOによる委員選出という手法で、はたして市民社会と国との間に立って独立した活動ができるかについては、疑問の余地があると思います。

J: 以前は、建設事業に関する許可を取るため、贈収賄は非常に盛んでした。しかしその許可を与える部門を国ではなく建設組合、つまり専門の組合に任せてからは賄賂が減ってきました。このように国の役割をNGOなどに移管するという傾向、または試みはありますね。

バトソガル: はい、そのような試みは今までもされてきましたし、今回の法案にも入っています。しかし、そのように権限や資産などを移管される側には、利益相反などの問題が起きる危険性があり得ます。利益相反とならないためには、法の支配が確立していないといけません。ですが、モンゴルはあらゆる面で、法の支配が十分に確立しているとは言えません。ですから、法律が制定されれば、人々の意識や行動も法律に則ったものに達するとは限りません。その原因を調査してみたところ、まず公務員に対して、新しく制定された法律の運用などについて、説明会やセミナーなどの情報提供が十分行われていないことが分かりました。また、公務員の人事が頻繁に異動することで、部署の業務やサービスに統一性がなくなります。また、新たに入ってきた人が、業務遂行の上で必要となる十分な知識を持っていない場合もあり、法律の誤った解釈で運用してしまうこともあります。ですから、今の法案でもそうですが、その法律の下で実施に関わる人物によって、本来とは異なる運用になってしまう可能性があるのではないかと懸念しています。

J: 政党に深く関係しているNGOについてですが、彼らはNGOといっても、主に政治活動を行なっています。こういったNGOは、どう取り締まるべきですか。

バトソガル: それらのNGOは、政党に関する法律で規制すべきだと考えています。特に、どの範囲の活動が政治活動とみなすかというのも、具体的に定義すべきです。

J: 最後に、IRIM研究所について詳しく教えてください。規模としては何人くらいの研究所ですか。

バトソガル: IRIM研究所では、現在20名の研究員が働いています。今年で設立から11年になります。私たちは社会問題に関する個々の研究・調査・分析を行い、それを勧告やレポートにして顧客に提供しています。主にガバナンスの研究に多くの時間を割いています。これらの中には、今私たちが話している団結権、腐敗対策、透明性などの問題が含まれています。またその他にも、障害児教育やジェンダー問題など、人権問題に関する研究・分析も行っています。

J: モンゴルの法律には、「政府・国会は、如何なる政策や法律を打ち出す際にも、研究に基づくものとする」とあります。しかし、今まで制定してきた法律について、どの研究に基づき立案したという話は全く聞きません。例えばアメリカでは、法案の名称に立案した議会もしくは議員の名前が付けられ、その責任や立案者の調査課程などが明らかにされます。ですから、モンゴルは可決成立される法案は誰が立案したものなのか、責任の所在を明白にする必要があると思います。今日はインタビューに出演して頂き、ありがとうございました。

バトソガル: 番組に招待して頂き、ありがとうございました。

バトソガル * ジャルガルサイハン