直近でトゥグルグの対米ドル為替レートは3.4%下落している。1999年1月に1ドル=1,000トゥグルグだった為替レートは、2016年5月に1ドル=2,000トゥグルグ、2017年1月に1ドル=2,500トゥグルグまでトゥグルグ安が進行した。過去2年間で見ると2,500トゥグルグで落ち着いてはいる。もし、1ドル=2,500トゥグルグというレートが適正で、人間の体温で例えるならば、モンゴル経済は少し発熱し始めている状態だ。

人間が熱を出した時は、薬を飲めば一時的に下げることができる。経済の熱を下げるならば、モンゴル銀行が外貨準備高を減らし、トゥグルグ高を誘導するということである。しかし、モンゴル銀行がドルを放出してトゥグルグの下落を止めようとしないことに、多くの人、特にドル建てで融資を受けている企業が不満を募らせている。

熱は一時的に治まるが、根本的な原因を突き止めて治さなければ、病気は完治しない。“モンゴル経済が熱を出すようになった本当の原因を見つけ出し、改善しなければ、モンゴル銀行が外貨準備高を減らしてもトゥグルグの価値は下落し、ドルレートの上昇が進み、経済の低迷は続く。”

発熱の外的要因

アメリカ合衆国の連邦準備制度理事会は、政策金利を2.5%まで小幅に引き上げてきた。また、トランプ政権が行っている政策により、アメリカに進出した外国企業は自国へ資本を戻し始めた。これも世界中でドル高になっている要因だ。例えば、トルコリラ、アルゼンチンペソは暴落した。

ロシアは欧米諸国から経済制裁を受け、ルーブルのレートを維持するためにガソリン、燃料の輸出価格の引き上げを始めた。中国の人民元の対ドルレートは8%も下落しているが、今のところ石炭や銅、金にかかる関税を引き上げていない。だが、輸入割当制の実施を始めている。

“しかし、モンゴルトゥグルグのレートが下落している外的要因は、国内の内的要因と比べて明らかに小さい。”

内的要因

モンゴルの国債発行額は、モンゴルの返済能力をはるかに超えている。償還金や金利は外貨で支払われるため、国債がトゥグルグのレートに悪影響を与えている。

“モンゴルの国債発行額は277億ドルであり、既にGDPの2.5倍以上となっている。政府が支払う債権の利息80億ドルの支払いのためIMFの拡大信用供与措置を受けて、負債を負債で支払うようになった。”

政府の国内債務残高は減少しているが、モンゴル銀行が保有する証券は増加し続けている。モンゴル銀行の保有証券は、2018年9月10日時点で4兆2千億トゥグルグ、これは2年前の8倍となっている。

国の債務が増加しているにも関わらず、政府は財政赤字を増やすような予算案を策定し、歳入を上回る歳出を組んでいる。税金が引き上げられているが、それは雇用を生み出している民間企業を圧迫し、失業者は海外に出稼ぎに行くようになった。

また、政府は国債を使ったプロジェクトの成果について完全な報告書を出していない。これはプロジェクトの効果が無く、負債を返済できない状況にあることを示している。政府は多くのプロジェクトに無駄に資金を費やした。その中には実施されていないプロジェクトもある。誰も責任を負わないことが当然となっていることもトゥグルグ下落に影響している。政府の腐敗、誤った決定により、モンゴル政府は国際仲介裁判所から数百万ドルの罰金を課されている始末だ。

モンゴル経済は常に資源価格に左右されてきた。鉱業の他に経済の多様化を図る方法を未だに確立できていない。カシミア以外に食肉が輸出されるようになったが、国内市場価格で輸出しているので利益は薄く、将来性が見えない。

ドル-トゥグルグの為替レートの推移

金融・財政政策

モンゴル銀行は通貨供給量を安定させ、インフレ率を低く維持する義務がある。今日モンゴルのインフレ率は6.2%である。だから現在10%の政策金利を引き下げ、通貨供給量を増やすことが必要である。しかし、モンゴルの主な輸出製品である石炭、銅、金の価格が下落する傾向にあるので、政策金利の引き下げに踏み切れないでいる。

商業銀行は、外国からドルによるソフトローンを受け、国内でドル建て融資を行っている。今年初めから融資額は30%増加しており、融資全体の40%がドル建て融資となっている。債務者は、トゥグルグよりドルの利息が10%低いという理由でドル建て融資を受けていることも為替レートに影響している要因の1つである。モンゴル銀行は、商業銀行のドル建て融資の不良債権に対する引当金比率を120%から150%に引き上げ、為替レートの差額から生じるリスクを減らし、トゥグルグでの融資を推奨している。

先週、アジア開発銀行は、2018年のモンゴル経済の成長率を3.8%から6.4%へと上方修正した。たしかに経済は回復基調にあるが、ここにきて銀行の不良債権が注目を浴び始めている。また、輸入は年初から40%増加しており、これがドル需要を高め、対ドルのレートを上昇させている。

“経済、社会制度はこのような状態であるにも関わらず、モンゴル銀行が外貨準備高を減らし、為替介入することは不可能となる。なぜならば、半年分の輸入に必要なドルを確保できなくなるからだ。” モンゴル政府は国債の運用方法について国民に報告し、その実績向上に努め、負債をこれ以上増やさない政策を取らなくてはならない。歳出を削減し、財政赤字を削減すること。政府が予算執行に対して責任を持ち、腐敗を止めなければ国内外の負債を支払うことができなくなり、ジンバブエやベネズエラのようになる可能性が高い。

政府には“入るを量りて出ずるを為す”必要である。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン