2010年に国が直面している課題を政府、市民、研究者が一堂に会し、協議する場としてNGOモンゴル経済フォーラムが設立された。このフォーラムは社会活動NGOとして設立された国家登録機関(登録番号9071012038)でもある。発起人は元首相S.バトボルド、元大統領顧問P.ツァガーン、元鉱物エネルギー大臣D.ゾリグト、元教育文化科学大臣Yo.オトゴンバヤル、元財務大臣S.バヤルツォグト、元外務大臣J.ザンダンシャタル、元国家開発・改革委員会会長Ch.ハシチョローン、元外務省事務次官D.ツォグトバートル、元国会議員Ch.サイハンビレグ、D.エンフバト、S.オユン、民間企業のテンゲルフィナンシャルグループ社Ch.ガンホヤグ社長、ハスリーシング社D.ジャルガルサイハン社長といったメンバーだった。このNGOの定款によると代表はモンゴル国首相が務め、その他のメンバーはその肩書ではなく個人参加とするように定められている。

フォーラムの成果

開催が見送られた2017年を除いて、毎年モンゴル経済フォーラムは政府主導で開催されてきた。運営資金は国家予算や民間企業の協賛、参加費などで賄われる。全体会と特定の分野ごとの分科会形式で国会議事堂の中で行われてきた。経済フォーラムは課題解決のためのソリューションを決定する機関ではない。協議内容を課題への勧告とするものである。

政権が変わる度にフォーラムの顔ぶれが変わり、過去8年間で5人の首相が代表となった。フォーラム自体は年々盛り上がりを見せているが、せっかく協議しても課題解決への取り組み、結果報告は不十分なままだ。

モンゴル経済フォーラムの成果を図るものが一つあるとすると、それはモンゴル経済の競争力が向上しているかどうかである。経済競争力を向上させるためには、最低でも次の3つの改善をしなければならない。

‐ 財産権保護

財産権の保護は自由市場経済の基礎である。私有財産は公共財産と同様に保護されていなければならない。財産権保護と市場経済の自由度を評価している米国ヘリテージ財団の経済自由度指数では、モンゴルは2010年に60点で179ヵ国中88位だったが、2018年は55.7点で180ヵ国中125位となり、順位が37位も下がっている。

https://www.heritage.org/index/

 この8年間で鉱業関連の国営企業は成長したが、実態は債務超過に陥っている。その業績不振の国営企業へ、直面する他の問題を解決するための資金を充ててきた。ボグド山、ザイサン、ヤールマグ、トール川岸周辺という公共の財産である土地が、有力者によって盗まれてきた。今や自然環境を自然環境省から守らなければならない事態となっている。

公共財産の横領や賄賂に関する事件が数多く報道されるが、しばらくすると真相は闇に葬られることが常態化している。法律は権力者に支配されない、法律を尊重すべきという根本が崩れている。裁判所が政治に支配されるようになって随分長い時間が経った。立法機関と司法機関がお互いを監視して制度のバランスを保つということが成り立っていない。国会議員の4分の1が内閣の職務を兼務していて、彼らは「ダブハル・デールテン(重ね着した者)」と呼ばれる。交互に、時には共同で政権を握ってきた2つの政党の間には、もはや思想信条の違いはなくなってしまった。

‐自由価格

 自由経済において最も重要な「価格」は、市場ではなく、政府によって決められてきた。こうしたことにより政府が大きくなり、市場競争が縮小し、腐敗が拡大し続ける。

どの国でも消費財の価格とその変動は、その国の経済のバロメーターとして信頼されるべきものである。財産を盗まれ、奪われる確率が高い国では、人々は自分の財産を隠して表に出せない。しかし、お金というものは経済活動において循環し、動いてはじめてその価値をあげるものである。市場経済では相互に利益をもたらす取引を行っていなければならない。価格を誰がどのように決めているかで、その国の公正さや腐敗の有無がわかる。

需要と供給のバランス、公正に決められた価格は、経済の参加者、特に投資家や消費者が正しく価値を見極める指標となる。この指標がどこに、何が、いつ過剰なのか或いは不足しているのか、そこにどんな可能性があるのかを疑念なく見ることができる。

国民を守るため、ビジネスの支援という名の下で価格を設定し規制することは、国民のためではなく政府や権力者のためであり、彼らが財産を掠めるのに都合が良いのである。

消費財の価格を監視し、国民を富裕層から守るという大義名分の裏に私欲を満たす目的を隠す者がモンゴルでは増え続けている。

‐公共のガバナンス

モンゴルの経済危機は経済ではなく、政治に原因がある。

国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが発表する世界各国の腐敗認識指数で、モンゴルは2010年に10点満点評価で2.7点となり178ヵ国中116位の順位だったが、2017年に100点満点評価で36点で、180ヵ国中103位となっている。

https://www.transparency.org/cpi2010/results

腐敗がある国の政情は不安定で経済危機が継続し、民間企業の競争力は弱く、貧富の差が拡大する。また国内安全保障に対するコストは高くなる。

成功したビジネスマンが政治家になり、そのビジネス分野には自由競争がなくなる。今日では酒販・タバコ・鉱業・建築・金融の各分野は、法律を策定する政府の権力者に握られている。これは重要な商業分野で自由競争がなくなり、外国からの投資が入って来なくなることを意味している。

モンゴル人である私たちは、腐敗というものが社会の癌、発展を妨害するものであり、腐敗の源は政党の資金調達と関連しているということを、25年間歩んできた民主主義の道のり、数多くの選挙を経験し理解している。

腐敗が減少しないのは、政党自体が腐敗に溺れ、政権を握る政党がモンゴルのガバナンスを弱体化させ、不安定なものにしているからである。また、司法機関は政治に支配され、報道の自由が弱いことにも関係している。

選挙法、政党法、国家公務員法の改正が必要不可欠であることを、今の国会議員は良く理解している。しかし、法改正を急がず、わざと遅らせている。

このように法律の施行、評価、報告、監視、責任追及に関する規定は不明瞭かつ不十分であることを過去から見ることができる。法律の不備を利用し、政党は様々な方法で多くの資金を調達してきた。資金集めに貢献した者にはポストを与え、事業入札では見返りに便宜を図ってきた。

政党内で集めた資金の規模で派閥と言われる政治ビジネスの組織があり、それらの派閥が政権を交互に握るようになった。

政党に納めた資金が高い利益で戻ってきたかどうかによって、政権内での派閥の序列が決まり、利益を戻せなかった場合は崩れ去る。権力が崩れた場合、内閣は様々な理由をつけて解散し、次の派閥が政権を握ることが慣習となっている。

この3つの問題を国民が協議し、理解し、選んだ政治家、つまり政権に透明性を要求し、監視できるようになって初めてモンゴル経済は競争力を持つようになる。

それまでモンゴル経済フォーラムを毎年開催し、協議して導き出したことを実際に行動に移すための努力を続けることが、この経済フォーラムの最大の目的となる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン