ムンフトゥゴー・オトゴンバヤル氏は、私立モンゴルビジネス大学で経済学部学士を、アメリカ合衆国のノーザン・バージニア大学で財務管理修士号をそれぞれ取得しました。オトゴンバヤル氏は、国会議員顧問、BP Mongolia Groupで取締役会長、Golomt銀行で課長、Mongol Shuudan銀行で副社長、アジア開発銀行の「地方における公共産業改善プロジェクト」の管理部長、世界銀行の「輸送開発プロジェクト」のモンゴル担当者など、数々の役職を歴任してきました。現在、オトゴンバヤル氏はモンゴル銀行協会(Mongolian Bankers Association:MBA)の副会長を兼任しています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。あなたはモンゴル輸送開発銀行の頭取を務めています。そして先日、モンゴル銀行協会の副会長に就任しました。おめでとうございます。

今日、モンゴル経済は急速に変化しています。モンゴルは、比較的に経済成長率が高い国々の中にありながら、高いインフレ率に悩まされる国の1つとなっています。インフレ率は8%、経済成長率6%といったところです。このような現状の中で、モンゴル銀行協会の役割は何になりますか?

M.オトゴンバヤル: まず、モンゴル銀行協会について簡単に紹介したいと思います。モンゴル銀行協会は2000年に設立され、活動を始めてから今年で19年になります。モンゴルに数多く存在するNGOの1つです。そしてモンゴル銀行(中央銀行)に認可された協会でもあります。会員制度を設けており、それぞれ正会員、賛助会員、準会員の3つに分類しています。正会員には、モンゴル銀行(中央銀行)から認可を受けた商業銀行が対象になっています。モンゴル銀行協会の管理体制として、会長1名、副会長3名、事務局長1名、事務局員4名で構成されています。また、主に商業銀行の頭取で組織された理事会があり、毎月問題を議論し、理事会としての決議を発表しています。その他にモンゴル銀行協会の正会員で組織される14の専門評議会があります。この専門評議会は、金融業界が直面している問題について議論し、政府機関や決定権を有する機関に対して意見書や要望書を提出しています。そしてモンゴル銀行協会の会長と副会長の任期は2年です。

J: 国際通貨基金(IMF)は、モンゴルの各商業銀行に自己資本比率の引き上げを要求しました。これに従い、各商業銀行は自己資本比率を引き上げました。しかしながら、IMFは各行が自己資本比率を引き上げた資金の出どころを明らかにするようにモンゴル銀行(中央銀行)に要請しました。この一連のIMFとのやり取りに対するモンゴル銀行協会の見解を聞かせてください。

M.オトゴンバヤル: モンゴル銀行協会は金融分野、特に銀行セクターの安定性に関して非常に注意しており、同協会の理事会でも常に議題に取り上げています。また、多くの方々から銀行セクターおよび銀行員に対する批判的な声が多くあるのも事実です。特に貸出金利や各種手数料に関する批判が多いことも把握しています。これに対して、私たちは人々の銀行業務に対する正しい理解の向上を促すために、様々な活動を積極的に実施しています。

一斑を見て全豹を卜すというように、ある一行がその業務を怠った時に他の正常に活動している銀行も悪く見られることがあります。ですが実際には、モンゴル銀行(中央銀行)は毎月、各商業銀行から報告を受け、年に1回は現場査察を行っています。モンゴル銀行はIMFの指摘どおり、各商業銀行の自己資本比率の監査、その財源を審査し、証明しなければならないことになっています。この問題に関して、モンゴル銀行協会は中立的な立場で各行の改善を見ています。 

J: 銀行の貸出金利の最高限度、もしくは預金金利の限度を設定するという話が話題になりました。この金利の限度設定について、モンゴル銀行協会はどう見ていますか?

M.オトゴンバヤル: 毎月モンゴル銀行(中央銀行)は、金融機関の貸出総額や貸出金利の平均について公表しています。今日の時点では、各商業銀行が融資したトゥグルグの貸出平均金利は16.9%、外貨による貸出平均金利は10.8%となっています。これはモンゴルのマクロ経済の主要指数となるインフレ率、モンゴル銀行の政策金利と比較すれば、とても良い数字です。モンゴルの金融分野を総合的に見たとき、商業銀行以外に融資などの金融活動を行っている機関としてノンバンクなどがあります。ノンバンクなどの金融機関では、金利は平均して20%超となっています。こういった高金利の金融機関を含めて金融分野全体として総合的に評価した時、貸出金利は高くなります。

J: また高金利の金融機関として質商もあります。そうすると銀行と比較して、その他の金融機関(ノンバンクや質商)の規模はどうですか?

M.オトゴンバヤル: 2、3年前まではモンゴルの金融業界において、銀行の比率は96%を占めていました。残りの4%は金融規制委員会の監督下にある「その他の金融機関」が占めていました。それが2018年末に出された金融報告書を各セクター別で見ると、銀行の占める割合は88%まで下がっています。これは「その他の金融機関」が占める割合が高くなったことを表しています。その他の金融機関とは、例えば保険やノンバンクのことで、それらの占める割合が高くなっています。

J: これは金融業界全体が健全な方向に向かっているということですよね?

M.オトゴンバヤル: そうですね。私たちもモンゴルの銀行、金融分野の割合として、とても良い傾向になっているとみています。銀行とその他の金融機関の割合の世界基準は60:40です。この基準に近くなればなるほど、モンゴルでビジネスをしている民間企業にとって金融アクセスが容易になるということです。

J: この金融分野において、モンゴル輸送開発銀行はどのような活動をしていますか?他行と異なる点は何ですか?

M.オトゴンバヤル: モンゴル輸送開発銀行は1997年に設立された銀行です。営業を始めてから今年で22年目になります。2010〜2016年の期間で、当時の株主との間で株式に関する問題が発生し、一時期業務が縮小しました。当時の株主は4人の個人と法人1社でした。その後、当時の株主がモンゴル輸送開発銀行の株式を手放すことに合意し、2016年10月27日付で現在の株主が100%株式を取得しました。そしてモンゴル銀行の審査や手続きが行われ、2017年1月にモンゴル銀行から正式な営業許可を頂き、新しく営業を開始しました。全株式を取得した2016年当時の銀行の自己資本は100億トゥグルグでした。現在の株主は取締役会、管理職などを新たに設け、資本金を500億から780億トゥグルグまで段階的に増やしてきました。現在、モンゴル輸送開発銀行の自己資本は5千億トゥグルグです。今年は資本金を220億トゥグルグ引き上げる予定です。ですから、2020年にはモンゴル輸送開発銀行の資本金は1千億トゥグルグになる予定です。これは、モンゴル銀行の要求を満たすことになると思います。なぜならば、モンゴル銀行は各商業銀行に2021年までに資本金を1千億トゥグルグにするよう命じています。モンゴル輸送開発銀行の現在の株主は、経営理念として「モンゴルの経済への貢献とモンゴルの輸出支援」を掲げています。

J: あなたの言うモンゴル輸送開発銀行の理念である「モンゴルの輸出を支援し、モンゴル経済に貢献する」とは、具体的にどのようなことになりますか?

M.オトゴンバヤル: 輸出を支援するというのは、モンゴル国内で外国向けの製品を製造し、輸出し、モンゴルに外貨をもたらすビジネスのことで、これはモンゴルにとって必要不可欠なことです。銀行の貸出金利が下がらない主な要因は、この外貨獲得にあります。外国からの投資があまり入らないこともあり、モンゴルの貿易収支は悪く、利益も得られない状況です。さらに言えば、モンゴルの外貨準備高は望ましい水準に至っていません。現在、モンゴルの外貨準備高は約44億ドルです。これは8ヵ月分の輸入額に相当する金額です。望ましい数値として、外貨準備高を最低でも100億ドル以上にすれば、モンゴルは外国市場に対して優位になります。なぜならば、外貨準備高を引き上げられれば、トゥグルグの価値が上がるからです。だから、私たちはこういった視点に立ち、モンゴルに貢献しようとしています。

J: より具体的に聞きたいのですが、例えば、モンゴル輸送開発銀行はモンゴルの特定のビジネスを選んで融資しますか?それとも輸出ビジネスをしているなら、誰もがモンゴル輸送開発銀行と取引できるということですか?

M.オトゴンバヤル: モンゴルの輸出製品の大半を鉱業分野の製品が占めています。私たちの融資が100%鉱業分野に向けられるのではなく、数パーセントに抑えるようにしています。これは1つの分野に融資が集中しないようにするためです。また他には、外国から外貨を買い入れているビジネスなどをサポートしています。

J: 銀行名にTransport(輸送)とついています。これに関連して輸送やロジスティックに関して他の銀行より重点を置くことは何ですか?

M.オトゴンバヤル: 1997年、設立当初は輸送、ロジスティック分野を中心に企業支援を行うことに主軸を置いていました。しかし、現在の株主は銀行の理念に適した名前を付けるために、株式取得後に銀行名を「モンゴル貿易銀行」に変更しようとしたが、同名の銀行が既に他にあったので断念しました。それではと、今度は「モンゴル貿易産業銀行」にしようとしましたが、こちらも以前同じ名前の銀行が存在していたということで登記できませんでした。最終的にモンゴル輸送開発銀行のままでいくことになりました。この銀行名に関して、モンゴル銀行総裁は「あなたたちの銀行名はとても良い名前だ。これから一帯一路構想の中で大きなプロジェクトが実施されるだろう。そこには多額の資金が投じられ、開発が行われることになる。ほとんどの開発は、輸送、ロジスティック、道路整備に関するものだ。そういう意味では、あなたたちの銀行名は時代に適しているのではないか」と話しました。

J: 中国の一帯一路構想で、モンゴル国内で何らかのプロジェクトが始まりましたか?

M.オトゴンバヤル: モンゴルを通過するインフラ開発についての話は、今のところ交渉段階にあるといえるでしょう。

J: モンゴル輸送開発銀行の行員は何人ですか?

M.オトゴンバヤル: 現在、モンゴル輸送開発銀行には120人が勤めています。

J: 今回のインタビューのはじめに銀行の自己資本比率の引き上げについて話しました。自己資本比率を引き上げれば、行員数も増やしますか?

M.オトゴンバヤル: 私たちの人事方針は、少数でも能力の高い人材を確保し、労働生産性を高めることを目指しています。私たちは、自らの業績を四半期毎に他の商業銀行と比較しています。その結果、行員1人当たりの資本額、収益率でモンゴル輸送開発銀行は一番になっています。現在、モンゴル輸送開発銀行は2つの支店をもっています。

J: 今日では、科学技術の発展が目まぐるしく、海外では多くの銀行の支店で従業員を減らすという現象が見られるようになりました。機械化、オンライン化によって人がいなくてもサービスを提供できるようになっています。こういった時代の流れについてどう思いますか?

M.オトゴンバヤル: そうですね。今日のフィナンシャル・タイムズ紙に、今後10年間にアメリカの金融業界で20万人が職を失うという記事が載っていました。モンゴルの金融業界においても、いずれはこのような革命が起きるでしょう。近い将来、4〜5年後には銀行サービスを受けるために、必ずしも銀行まで行く必要は無くなると思います。ですから私たちは、IT技術の積極的な導入に力を入れています。

J: あなたは銀行頭取として、フィンテックの発展をどう見ていますか?

M.オトゴンバヤル: 近い将来、銀行の各種決済はデジタル化すると思います。また、小規模の消費者ローン、モーゲージローン、住宅ソフトローンもデジタル化する可能性があると思います。たしかに、膨大な調査、報告書が必要な大規模プロジェクト、投資活動においては人と人とが対面する関係は残ると思います。

J: あなたは銀行業の人です。仮想通貨についてどのような見解を持っていますか?

M.オトゴンバヤル: 仮想通貨に関して、基本的に世界各国の中央銀行は認めていません。どの国の中央銀行も、自国の通貨発行と供給、価値の安定を保障するという役割があります。しかし、仮想通貨にはそういった保障がありません。責任の所在がないのです。そのため、ビットコインの市場における価格変動は非常に激しいものです。多くの人がビットコインで資産を失ったという苦い経験をしています。私個人としては、仮想通貨はそれほど成功しないと確信を持っています。また、モンゴル銀行(中央銀行)は、全国に仮想通貨に関する規定を出しています。ここでは、仮想通貨1枚は1トゥグルグに相当すると定めています。このように規制の下での仮想通貨は問題ないと思います。

J: 今日、消費者の需要とニーズが多様化しています。多様化するニーズの中に海外送金があります。他方、私たちは金融活動作業部会(FATF)のグレーリストに入るかどうかという状況に陥っており、その結果は今月出ます。モンゴル銀行協会は、これについてどう見ていますか?

M.オトゴンバヤル: そうですね。まだ、モンゴルはグレーリストに入ったわけではありません。しかし既に、アメリカへのドルによる銀行取引が非常に難しくなっています。アメリカのすべての銀行は、モンゴルの商業銀行と締結した取引契約書を解除や見直しを始めています。今まで海外へのドル建て送金に2〜3日かかっていましたが、これが1週間かかることになっています。ただこれは、モンゴルのグレーリスト入りとは別の問題です。このことに関してモンゴル銀行協会は、アメリカの銀行と話し合っています。FATFのブラックリストもしくはグレーリストに入った国に比べて、モンゴルは相対的にテロ活動やテロ資金供与、マネーロンダリングなどがそれほど頻繁に行われてはおらず、平和な国です。もしグレーリストに入れば、影響はかなり大きいでしょう。例えば、海外取引が難しくなり、モンゴルへの直接投資が減少する恐れがあります。

J: 最後の質問です。これから銀行業界で働きたいと考える人は、何を勉強し、どのようなスキルを身に付ける必要がありますか?必ず銀行業の勉強をするべきですか?

M.オトゴンバヤル: 2018年にモンゴルの銀行法が改正されました。改正銀行法には、銀行の頭取、取締役会に対する条件が具体的に定められています。例えば、この番組を見ている視聴者の中に銀行に勤め、ゆくゆくはトップに上り詰めたいという人がいるかもしれません。そうした場合、その人は銀行法に定められた条件を満たさなければいけないということです。満たすべき条件とは何かと言えば、法律、情報技術、経営、経済の専門を取得することです。また、10年間の勤務経験が必要となります。

J: 今日は非常に充実した会話ができました。番組に出演して頂き、ありがとうございました。

M.オトゴンバヤル: ありがとうございました。

M.オトゴンバヤル * ジャルガルサイハン