経済成長と経済発展は、それぞれ別の概念である。成長がすべて発展につながるわけではないが、発展は成長することである。イギリスの経済学者:ポール・コリアーは、その著書「最底辺の10億人」の中で、発展には成長が欠かせないことに言及している。彼は、経済が発展しなければ、貧困は減少しないことを証明した。

モンゴル経済は、1990年から成長して来たが、発展は2010年から始まった。この発展をもたらした唯一の分野は鉱業である。つまり、この発展は鉱業のみに依存しており、それがどれほど不安定なのかということを、2度の経済危機が我々に教えてくれた。

モンゴルの輸出の80%を占める鉱業分野には、その巨額の投資には見合わない少なさである58,000人が働いている。この国で最も雇用が多く、一つ一つは小規模だが、経済への最大の貢献をしているのが中小企業である。中小企業は、国の経済の礎とも言われる。そのため、中小企業が提供する製品やサービス、利用する技術とその生産性は、その国の発展を映す鏡となる。モンゴルの中小企業の姿はどうだろうか?

中小企業の今の姿

モンゴル銀行(中央銀行)が実施した調査(D.ガンバートルのチーム、2018年)では、登記されている企業数は80,000社あり、そのうち60,000社が中小企業に分類されている。中小企業には、国の労働人口の43%を占める90万人が働いている。しかしながら、中小企業が占める割合は、国内総生産の僅か17%、輸出の2.3%のみである。モンゴルの中小企業は、製品やサービスを世界に向けて輸出できていない。機械や設備、特定の原料などを外国から外貨で購入し、それをもとに生産した製品を国内で販売している。そのため、中小企業の利益は、為替レートによって大きく上下する。

モンゴルの中小企業は、その企業数や事業に関する統計情報が不十分かつ不明確である。そのため実態調査は困難を極める。2013年に行われたアジア開発銀行の調査(Asia SME Finance Monitor 2014年、102頁)では、従業員50人以下の企業は97,762社だった。この数は登記された全企業の98.2%を占めていた。その中でも登記されている企業の90.6%が従業員数10人以下の零細企業だった。当時、モンゴルで登記されていた企業の半数で活動実績がなく、閉鎖された。

1990年以降、中小企業の発展について国会でも頻繁に議論されてきたが、30年経った現在でも十分とはいえない状況である。政府はまず、中小企業を国内外の融資、援助で支援しようと試みていた。2007年に初めて中小企業事業支援法が施行された。それ以降、この法律を改正しようと試みたが、国会で承認されずに今日に至っている。(訳注:この法律の恩恵にあずかっているのが当の政治家なので、法律を改正しようとしない)

この法律では、従業員数200人以下、流動資産が年間15億トゥグルグに満たない企業が中小企業と定義されている。しかし、実際には業種によってこの規定は異なる条件で運用されている。

  • 産業分野では、従業員数20人以下、年間流動資産2億5千万トゥグルグ以下であれば中小企業と定義される。
  • サービス業分野では、従業員数50人以下、年間流動資産10億トゥグルグ以下であれば中小企業と定義される。

どの分野の、どのくらいの規模の企業を中小企業と定義し、関税や消費税を免除するかは、ルールの立案者(政治家)たちにとって有利かどうかで決められる。こういった状況により、モンゴルでは正確な中小企業の統計情報が発表されない。

モンゴル銀行(中央銀行)が実施した調査により、中小企業の経営者が直面している二つの大きな問題が浮かび上がった。それは「資金調達」と「人材開発」である。中小企業の発展を図るために、政府は多くの政策を実施し、数十億単位の資金を注入してきたが、実際にその資金を誰が手にしていたかを国民が知ったのはつい最近のことである。

年利3%の中小企業開発基金の融資は、国会議員本人もしくは親族が関わる企業に交付されていた。その数は国会議員76人のうち55人にもなる。彼らに責任を追及することができず、この事件の行方は年内にも収束し、そして忘れさられるだろう。過去10年で、この基金から7,536人に8,350億トゥグルグの低金利融資が交付されてきた。その大半を政治家たちが手にしたということに、今では誰も驚かなくなっている。

政府がこのような状況にある国では、中小企業の経営者たちは自力で人材を育成していくことは非常に難しい。だから中小企業は、教育、特に専門技術の習得によって得られるはずのビジネスチャンスを逃している。ビジネスと教育・研究は、相互に密接に連携してはじめて効果が上がり、国全体の生産性が上がる。

姿を変える

鏡に映る姿を変えるためには、自ら姿を変える他に方法はない。中小企業に対して単に融資や援助を行うのではなく、それよりもハード面とソフト面のインフラを充実させなければならない。道路輸送、通信、エネルギーなどのハード・インフラは、重要な役割を持っている。それと並んで重要なのが、ソフト・インフラである。ソフト・インフラとは、例えば、ビジネス上の取引コスト(Transaction cost)などで、これらは見直し、改善することができる。

取引コストが高くつけば、取引が遅れる、もしくは取引が全く行われず、経済が回らなくなる。例えば、中小企業開発基金の融資を受けるためには、担保の準備に平均して約240万トゥグルグが必要となる。その他の政府の施策による低金利融資を受ける場合でも、52万1千トゥグルグの費用がかかる(ERI調査、2017年)。さらに政府機関の手続きなどに費やした費用(贈賄など)が加わる。政府の財務系機関が組織的に成長できれば、ビジネスの取引コストは激減する。

他国の歴史をみると、製品の価格を決定するという特定の部分で、中小企業の存在は大きい。中小企業の参入が経済を多様化し、成長につながっている。日本や韓国では、大手企業と共に多くの中小企業が成長軌道に乗った。例えば、トヨタ自動車の製造において多くの下請け業者が出現し、拡大しながら独立した豊田市を作ったという。

しかしモンゴルでは、大手企業が中小企業を倒産に追い込んでいる。自社で銀行や農地、製造工場、食品や製品の販売網、テレビ局、新聞社まで持っている大手企業と、中小企業はまともに競争できないからだ。そのような中でも、他の人に機会を与え、子会社を従業員に売却し、自分たちの主要なビジネス活動に集中している企業もあるが、まだまだ少数派だ。

モンゴルでは、アルコール飲料とカシミア製品の分野でのみ独占が形成されている。大企業や銀行は、あらゆるビジネスに参入しようとせず、本業に集中して取り組み、規模を拡大させ、国際市場に進出する時が来たと思う。そうすれば、中小企業にも業務拡大の可能性が出てくる。これによって雇用が増加し、貧困削減につながる。

第4次産業革命で、中小企業にとって新たな可能性が開かれてきた。大量生産ではなく、顧客のニーズに合わせた製品を生産する時代が到来している。例えば、3Dプリンターの技術を活用するなどだ。

第4次産業革命によって、生産、配送の再構築が行われている。これは迅速かつ賢明な行動を起こすことで、中小企業経営者たちに国際市場への進出機会をもたらしている。

政府もこの産業革命に合わせたソフト・インフラを整備しなければならない。新規事業を立ち上げた中小企業経営者たちに対して、最初の数年間は課税免除にするのも有効な手段だろう。他にも、国内で生産されているものと同じ製品が輸入されている場合には、関税もしくはその他の方法で価格調整を行い、国内生産者を保護し、支援する必要がある。

中小企業経営者たちは、主に商業銀行から資金を調達している。彼らのほとんどが返済期間1〜5年、1,000万~5,000万トゥグルグの資金を必要としている。モンゴル銀行(中央銀行)は諸外国並に、商業銀行の準備預金制度(Reserve requirement)の条件、準備預金額を引き下げるべきである。そうすれば、商業銀行も融資を拡大させ、貸付金利を引き下げる措置を取る。

中小企業の発展こそが、国を発展させることができる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン