モンゴルの全人口は320万である。その半数は首都ウランバートルに集中していて、さらにその半数がゲル地区に住んでいる。世界第17位となる広大な国土を有するモンゴルだが、首都ウランバートルは人と車で溢れ、人々は大気汚染や土壌汚染に悩まされるようになった。

これらの問題の解決策として、都市開発と住宅建設が幾度となく計画されてきたが、残念ながら結果は伴っていない。今年の冬は練炭の使用によりウランバートルの大気汚染は少しばかり削減された。だが、土壌汚染などの環境汚染、飲料水の問題は未解決なままである。長期的にみても最適な方法は、ゲル地区の住宅化であることに疑いの余地はない。実際、多数の住宅プロジェクトが実施されてきたが、それでもゲル地区は拡大している。

ゲル地区に住む84万人のうち、25万人は住宅ローンを希望し、実際に申請した。しかし申請者の15%がローンの審査を満たせない状況にある。供給面からみれば、2020年1月時点で、ウランバートル市全体には入居していない住宅が2万世帯分ある。

図1.ウランバートル市内の新築住宅数

図1をみれば、住宅供給量は増加しているが、市民の購買力が低いことがわかる。また、図2では、住宅供給量のみが増加しているにも関わらず、住宅価格が下落していないことが目を引く。

図2.ウランバートル市内の新築住宅1㎡あたりの平均価格(1,350,000トゥグルグ)

各世帯の住宅購買力は、1ヵ月の平均世帯収入の30%を住宅費用に費やすことができるかどうかで計られる。図3からは、モンゴルの人口の45%は、この能力がないことがわかる。

図3.モンゴルの各世帯の収入区分、月単位(出典:国家統計局、2019年)

住宅価格が下がらない原因として、高い貸出金利、通貨トゥグルグの下落、各商業銀行が住宅を大量に保有するようになったことや建築資材の価格高騰、土地およびその他の特別許可を交付する行政機関の「腐敗」が減少しないといったことが挙げられる。

シンガポールの解決策

シンガポールは、60年間実施してきた賢明な政策の結果、国民の住宅問題を完全に解決することができた国である。今日、シンガポールの国民の80%が公共住宅に住み、彼らの90%がその住宅を購入し、所有できるようになっている。住宅開発庁(HDB)は60年前から公共住宅の建設を始めた。HDBが建設する住宅価格は、民間企業が建設する住宅より20〜30%安価だった。シンガポールでは、人々は自分たちの収入やニーズに応じた住宅を、様々な行政プログラムを通じて購入、入居することができる。例えば、自分の年金基金の口座でローンを組み、頭金なしで公共住宅に入居することができるようになっている。

シンガポールでは、個人は年金基金に毎月の給与から20%を、雇用主は17%を積み立てる。初めて新築住宅に入居する世帯に対して、世帯収入に応じて最高80,000シンガポールドル、中古住宅に入居する場合は最高120,000シンガポールドルまでの補助が政府から交付される。入居者は一定期間の後に、その住宅を自分の所有とすることができる。しかし、独身者の場合は35歳になるまで所有することができなく、賃貸のみで入居することができる。

また、公共住宅を所有できるようになってから、最初の5年間は住宅を売却してはならない。高所得世帯は面積が小さい住宅を購入することができない。超高額所得者である場合、政府が建設する公共住宅を購入する権利もなく、民間企業が建設する高価な住宅を買う他に選択肢がない。

モンゴルの解決策

モンゴルの首都住宅コーポレーションは、所得に応じた(affordable)住宅プログラムを始めている。ウランバートル市内においては、バヤンホシュー、シャルハドなどのゲル地区で立ち退きを要請し、地方ではモリンギーンダワーなど郊外7ヵ所に新しく土地を取得している。これら首都住宅コーポレーションが取得した場所には、今春からインフラが整備される予定だ。そして首都住宅コーポレーションは、民間企業に対して当該地区での住宅建設を入札するよう求めている。入札する際には、企業が首都住宅コーポレーションによって整備されたインフラを評価し、そこから建設される住宅のうち、無料もしくは割引価格で提供できる戸数はどのくらいになるかを提案することという条件を付ける。

また首都住宅コーポレーションは、買い上げた住宅を市場価格より安く提供し、住宅を貸しながら所有できる機会を低所得世帯に提供すると言っている。このような形で1万世帯が所得に応じた住宅に入居できると話している。

この1万世帯のうち、1,500世帯に賃貸、3,000〜5,000世帯に賃貸を続けながら将来的には所有できる住宅を提供する。残った住宅は建設会社が自ら販売するという。首都住宅コーポレーションの社長B.スフバートル氏は、「このプロジェクトを5年以内に実施する」と発表した。

ウランバートル市の所得に応じた住宅建設プロジェクトは、1.供給面において選択肢を増やすこと。2.資金面において持続可能な資金調達の仕組みを構築すること。3.実行面において法的環境や担当機関を整備すること。これら3つの長期目標を掲げている。また、このプロジェクトを実施する際に、政府、市民、民間企業、地方行政機関など、関係するすべての当事者の参加を促すと話している。

プロジェクトに必要な資金は、国際機関によるソフトローン、長期借款などで調達される。具体的には、アジア開発銀行から8,000万ドル、グリーン開発基金から1億4500万ドルの資金を既に受けている。

首都住宅コーポレーションは、低価格住宅の建設費を建築会社に直接支払う。また、建設工事の70%以上が完了した段階で、当該建築会社に融資の保証書を発行するという。

首都住宅コーポレーションのプロジェクトは本当に実行可能なのか?

ウランバートル市の歴代市長がウラで受け取っていたすべての賄賂や手数料を排除し、住宅建設の各段階での透明性が図られている。そのため、首都住宅コーポレーションの今回のプロジェクトはウランバートル市民の住宅問題を解決できる可能性がある。しかし、本当に実施されるかどうかが問題である。なぜならば、2020年は国政選挙の年である。選挙に勝ち政権与党となった政党は、前政権のあらゆる政策をことごとく覆してきたことを国民は嫌というほど見てきた。だからこのプロジェクトは、政治に左右されることなく実施されるように、今のうちから国民の理解と信頼が必要不可欠である。そのためには、プロジェクトの透明性が重要で、関係する市民の積極的な参加を促さなければならない。そうでなければ1つの夢が紙に書き残され、それも時間の経過とともに色褪せていくことになる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン

【首都住宅コーポレーション】2014 年に設立されたウランバートル市の行政機関。主に市の住宅化を推進するためにソフトローンを交付している。