モンゴルは経済危機だけでなく、信頼の危機にも直面している。モンゴル国民は、経済危機に慣れてしまっている。政府は通貨トゥグルグの下落、物価上昇、財政赤字という三重苦の状況下で、モンゴル帝国時代の王の名前を冠した国債を発行し負債を作り続ける。政府は負債にどっぷりと浸かり、国債の利息も支払えなくなる。そしてIMF(国際通貨基金)が低金利の融資を行い、何とか次の春まで持ちこたえる。政治家たちが外国からの融資や援助を誇らしげに語る姿も虚しく映る。

石炭や銅の価格が上昇し、歳入が増加すると公務員の給与は引き上げられる。しかし民間企業では同様ではないので、人々は海外、特に韓国に出稼ぎに行くようになる。

“近年、表面化してきたもう1つの危機は、国民の信頼の危機である。”

研究者たちによれば、民主主義社会における国民の政府、NGO、企業、マスコミに対する信頼度がその国の発展に影響するとある。モンゴル国民の信頼、とりわけ政府に対する信頼が失われつつある。モンゴル政府職員は人民党、民主党の党員や支持者で、この2つの党は過去30年間交互に、時には協力して政権を握ってきた。政府への信頼が損なわれることを、実例から見ることができる。

賄賂対策庁と自然環境・観光大臣、真実を語るのはどうちらか?

2018年8月27日、賄賂対策庁は「自然環境・観光大臣は同省庁舎の修繕、会議室の機器備品を購入するため、本や雑誌の購入代金と見せかけ、同省の予算から“エルデネゾル”社に支払い、その後エルデネゾル社から現金を受け取った。その現金で修繕工事を同省大臣が関係する会社が請け負った可能性がある。現在、この件を捜査している」と発表した。

2018年8月30日、N.ツェレンバト自然環境・観光大臣は、賄賂対策庁のこの発表を受け、「賄賂対策庁の公式発表として、私が庁舎の修繕工事を、私と関係がある会社に請け負わせたとしているが、私の資産収入申告書に記載されている26社のどれ一つとして本件には関わっていない。これは政治的に私を陥れようとしているものだ。」と反論した。

“賄賂対策庁は「可能性がある」と言いつつ誰かに罪を負わせたい。大臣は「自分と関わりのある26社は無関係だ。これは政治的な謀略だ」と言っている。いったい賄賂対策庁と大臣、どちらが真実を語っているのか?と声を大にして訊きたい。”

国会議員と企業、真実を語るのはどうちらか?

2018年8月30日に国会議員L.エンフボルドの発表:

  • モンゴル国民の財産であるタバントルゴイ石炭鉱床から268,300トンの石炭が許可なく持ち出されたことが確認された。Ch.フレルバートル財務大臣をリーダーとするチームが調査した。関税庁によれば、行先が不明な390,000トンの石炭がタバントルゴイ石炭鉱床から出荷されたという。この件の調査は法執行機関に移ることとなった。
  • また、国境警備庁は2013~2017年の間に849,121台の自動車が国境を通過したと発表した。しかし、関税庁は814,000台の自動車が通過と発表した。国境警備庁と関税庁の発表に35,000台の差がある。もし、石炭を積載していたとすると、合計で300万トンの石炭が国境検問所を通過したということとなる。
  • 専門監察庁によれば、エルデネス・タバントルゴイ社の34万トンの石炭の行方が分からなくなっていることが確認されている。その額は2500万ドル、つまり600億トゥグルグにのぼる。この額は子ども1,000人が通う学校を25~30校建設できるだけの資金である。
  • “タバントルゴイ・トランス社は、39万トンの石炭の購入先を記した会計書類を提出することなく国境検問所を通過している。”
  • 追及しようとすると、タバントルゴイ・トランス社の会計書類は洪水で流されたと言う。地方自治体がオーナーとなるタバントルゴイ社は、過去6年間トレンチ調査を実施してこなかった。つまり自然環境マネジメントが確立されていない。鉱物資源・石油庁や自然環境・観光省など、監視すべき機関は何をして来たのか?

国会議員L.エンフボルドのこの発表を見ると、モンゴル政府は義務を遂行できなくなっている。どこかの企業が良質な石炭を採掘し、何の申請書類も残さず36万トン余りの石炭を海外に輸送したようだ。関税庁と国境警備庁が発表した車の台数の差は35台ではなく、35,000台である。これは何を積んでいても国境検問所を通過することができるという印象を国民に与えている。だから政府への国民の信頼は今までにないほど低下している。

2018年9月3日、アジナイコーポレーション(Ajnai Corporation)の子会社であるタバントルゴイ・トランス社は「エンフボルド議員は、輸送先が不明な39万トンの石炭が国境検問所を通って国外へ持ち出されたと発表したが、これは何の根拠もない話である。これは裁判で判決が確定するまで誰も有罪ではないという法の原則を無視するものだ」と声明を発表した。(タバントルゴイ鉱山は株式の51%を地方自治体であるウムヌゴビ県が、20%をアジナイコーポレーション、それ以外を一般の投資家が保有している。)

“石炭を持ち出したか、持ち出していないかということには触れていない。しかし、裁判で事実を明らかにすると言っている。本当に石炭を密かに国境検問所を通過して持ち出したのであれば、政府機関だけではなく、企業に対する国民の信頼も失われる。国会議員と企業のどちらが真実を話しているのか想像つかない。”

考察

モンゴルでは三権分立で最も立場が弱いのは司法である。モンゴルの裁判所は10以上の汚職事件を未だに解明できていない。逮捕者が出たときは大きな話題を集めるが、その後真相は闇の中となってしまう。モンゴルの司法機関はさながら劇場になり、本来の職務を遂行することなく、それぞれが役を演じることに徹している。

だから政府に対する国民の信頼は低下し続け、今では危機的状況にまで至っている。法律を司るはずの司法機関は、政界・ビジネス界のある特定の集団に完全に買収されてしまった。

上述した2つの事件の真相をモンゴル政府は明らかにするどころか、具体的に事実さえも国民に提供できていない。

“信頼の危機は今日、突然起こったわけではない。政府が腐敗し、政党という権力を使い土地や鉱物資源など公共の財産を何十年にもわたり横領し、何の責任を負わずに今日までやってきた結果である。”

政府に対する国民の信頼を取り戻すためには、国民参加が必要不可欠である。なぜならば、民主主義社会で国民には参政権がある他に、権力を委ねた代表者を監視することができる。市民社会が数字より質を重んじること。そのためには国民は、団結して政府に対して透明性と職務遂行をするよう要求する他に方法はない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン