S.アリオンはカリフォルニア州オークランドにあるミルズカレッジで組織開発と人材を専攻して経営修士号を取得しました。2010年までカナダのセンターラ・ゴールド社などの鉱山会社に勤めていました。2010年からアメリカに移住し、2012年からNGOモンゴリア・コネクションズを設立して活動中です。

J(ジャルガルサイハン): あなたはNGOモンゴリア・コネクションズの活動を通じて、ここ数年モンゴルとアメリカの人々を繋いでいます。特に博物館関係の活動に取り組んでいます。その活動について紹介して下さい。最近の活動内容はどういったものですか?

アリオン: 2012年にニューヨークでNGOモンゴリア・コネクションズを設立しました。ご存知のようにニューヨークは金融経済の中心地であるほか、文化芸術の都です。モンゴリア・コネクションズの目的は、モンゴルとアメリカの懸け橋となり企業へのコンサルティングを行うことです。特に文化芸術、観光、カシミアなどの事業を展開している両国の企業に対し、それぞれにコンサルテーションを提供することです。ニューヨークには、モンゴル企業とビジネスを展開するアメリカ企業は多くありません。しかし、文化芸術や観光、特に博物館を通じての文化教育プログラムを実施したいという要望を多く受けます。私は人材開発の仕事をしていた経験もあり、今のモンゴルでは文化芸術のマネジメント、特に博物館のマネジメントは必要不可欠であることに気付きました。モンゴルの発展のために人材能力を向上させる必要があると思いました。また、私はアメリカで博物館での仕事に就いていたため、博物館が一般の人、子どもや若者に向けた教育プログラムを提供する重要性を知りました。ですからモンゴルの博物館関係者をアメリカの博物館関係者と繋ぎ、モンゴルの博物館の職員をアメリカで研修させる活動に取り組んでいます。

J: その活動について具体的に話を聞かせて下さい。

アリオン: 私たちは2012年から様々な活動をしています。私がモンゴリア・コネクションズを設立した当時、アメリカの博物館協会から「今までモンゴル人を採用したことがない。私たちは博物館の対外関係をより進展させたい。私たちにモンゴルの博物館関係者を紹介して頂けませんか」という提案がありました。私はその提案を受け、モンゴル博物館協会を紹介してその橋渡しをしました。その結果、モンゴルの博物館から毎年職員を1人アメリカで研修させるようになりました。アメリカ博物館協会は、研修にはなるべく博物館の上級職員の参加を希望しています。

J: この活動に対するモンゴル側の反応はどうですか?

アリオン: モンゴルから研修に参加を希望する人の推薦状や書類作成のサポートをします。私は応募者の書類選考をして3人に絞り、書類をアメリカ博物館協会に送ります。彼らがその中から最終決定をしています。今まで5人の人が研修に参加しました。その中には地方からの参加者もいます。今後、私たちは博物館の教育プログラムを担当する職員を研修に参加させたいと思っています。しかし、この研修活動で直面している問題が1つあります。それはモンゴル人の外国語能力です。

J: アメリカでは博物館が市民向けに多様な教育活動をしています。これに就学年齢の児童は必ず参加するようになっています。子どもたちに博物館を見学させる主な理由は何ですか?モンゴルの教育において博物館の役割とその重要性は何ですか?

アリオン: まず、アメリカの博物館の歴史を簡単に説明したいと思います。アメリカでは、博物館を作る目的が歴史の調査研究、市民に対して文化遺産、歴史的文書を広く知ってもらうためでした。そのために博物館での教育プログラムが行われてきました。これとは対照的にヨーロッパの博物館は王族、貴族のコレクションを見せることが目的です。アメリカは市民に向けた博物館の教育プログラムを昔から実施してきたので、この分野は非常に進んでいます。博物館を通してその国の文化を知ることできるほか、有形無形の遺産が保管、研究されます。博物館教育プログラムの主な目的は、歴史文書を一般の人々、子ども、若者たちに知ってもらうためです。ですからわかりやすい言葉を使うことが大切です。博物館の教育プログラムは一般市民に歴史、文化的知識を与えます。ニューヨークは世界の歴史の中心地として、世界中の歴史を若者たちに伝えています。若者が他国の歴史を学ぶことは、その国への理解、外交や経済、社会文化について後々影響してきます。最近ではモンゴルの博物館も教育プログラムを開くようになり、そういった活動にも積極的に取り組むようになってきました。しかし、まだまだ教育プログラムの重要性を正しく理解していないようです。博物館の目的は、歴史文化の有形及び無形遺産を保管し人々に公開することから、今日では歴史文化における知識を多くの人々に教育する場となっています。

J: アメリカの博物館の運営資金はどのように調達されていますか?資金の使途はどうですか?

アリオン: 私は博物館の専門家ではありませんが、最近は博物館のマネジメントについて書籍を読んだり、調べたりしています。また、メトロポリタン美術館の教育プログラム、ルビン美術館の広報プログラムにボランティアとして参加しています。自由になる時間ができれば、なるべく博物館や美術館の調査に費やしています。ニューヨークには175の美術館があり、美術館に対する意識が非常に高いです。もちろん、アメリカには美術館の歴史が長いため、単純にモンゴルと比較することはできません。美術館で長時間過ごせるような快適な環境、デザインが整備され、年齢に応じた様々なプログラムがあります。教育プログラムだけでも成人、子ども、青少年、高齢者、障害者などで分かれています。私が知る限り、資金に関して調達先は3つあります。1つは、州立美術館は連邦政府や州から資金を受けています。2つ目は投資、3つ目は会員会費です。この3つが財源となっています。

J: 美術館の会員制度について話を聞かせてください。どういった人たちが会員になりますか?

アリオン: アメリカの美術館は市場原理の下で運営されていると思います。モンゴルは市場経済に移行して25年、その間ビジネス・経済業界は発展することができました。今は文化芸術、教育を重視する時が来たと思います。モンゴルの美術館は国有なので資金調達においては利害関係が生じます。アメリカの美術館の館長は芸術文化に携わる人物であるのはもちろん、資金調達能力にも長けていなくてはなりません。館長は資金を増やすことで賞賛され、それぞれの専門を有する職員でチームを結成し、様々なプログラムを実施します。美術館により会員制度は様々です。全ての美術館には教育プログラムがあり、しかしそれぞれ目的が異なります。人々は自分の興味のあるプログラムを持つ美術館で会員になります。例えば、ルビンやメトロポリタン美術館は二重会員制度があります。会員の場合は年中入館無料、1人までゲストを連れて入館することができます。館内のレストラン、コーヒーショップなどで割引サービスを受ける、列に並ばない、展示会の除幕式に参加できるなどの優先権があります。私はモンゴルの博物館にこの会員制度の導入を計画しています。

J: 博物館内でのイベント開催はその博物館の宣伝になるので、イベントの知名度を上げることが博物館にとってのメリットがあります。モンゴルでもこのようなイベントが見られるようになりました。これについてあなたはどう思いますか?

アリオン: モンゴルの博物館運営にとても良い一歩だと思っています。私も応援しています。例えば、チョイジンラマ寺院博物館の「夜の博物館」というイベントは、今ではブランドになっています。アメリカにも美術館はそれぞれブランドになるようなイベントを開催しています。その目的は資金調達と会員を増やすことです。

J: チョイジンラマ寺院博物館の夜の博物館について話を聞かせて下さい。

アリオン: 夜間に開館するだけでなく、そこで野外コンサートを開催しています。また、ザナバザル美術館にも一般に向けた様々なプログラムがあります。例えば、古代芸術についての講演会が催されています。芸術史を順番にみていくためには、まずザナバザル美術館を観てからモンゴル国立近代美術館を観ると良いでしょう。博物館に人が集まり賑やかになって初めて「生きた」ものになると思います。ただの倉庫の様であってはいけません。

J: あなたの話の中でルビン美術館とありました。ルビン美術館について話を聞かせて下さい。

アリオン: ルビン美術館は民営の美術館です。最近モンゴルでも民営の美術館が設立され非常に良いと思います。なぜならば競争が生まれるからです。ルビン美術館は2008年に設立されました。アメリカでは、大富豪が個人所有の文化・芸術・歴史のコレクションを展示し美術館を設立することがあります。ルビン夫妻は仏教アートに興味があり、彼らのプライベートコレクションは3000点以上ありました。それらの展示のためにルビンという店を買い、美術館にしたものです。美術館があるところに公共マナーが作られていくというメリットもあります。ルビン博物館では、モンゴルのアーティストがパフォーマンスアートを披露できるようになっています。

アリオン * ジャルガルサイハン