2020年、モンゴル商工会議所は創立60周年を迎え、また、次の新たな60年を迎える。商工会議所の過去60年の歴史で、その前半は私有財産が認められない公共の財産のみが存在する社会、後半は公共、私有、いかなる形態の財産も認められ、所有権を法律で保護される社会だった。商工会議所はこれら2つの社会を経験し、モンゴルの貿易、産業振興に尽力してきた。

市場経済の導入後、新しく設立されている数百もの民間企業に対応するため国会は1995年に商工会議所法を可決した。2009年に中国政府の無償資金援助でモンゴル商工会議所ビルが建設された。今では、政策的な支援やサービスを提供しているモンゴル商工会議所には150人が働いている。

商工会議所は、その活動環境を着々と整備し、権力を持つようになった。商工会議所の会員には、モンゴルにある18万の企業のうち、わずか3500の企業のみが登録されている。その他の企業が会員にならない理由は何か?それは、商工会議所の組織構造、管理能力、つまるところそのシステムにある。

商工会議所改革は、まず管理とマネジメントの区別を明確にすることから始める必要がある。

管理制度の新たな基準

モンゴル商工会議所は、他国の一般的な商工会議所の様に地域ごとの会議所を傘下におく機関ではない。モンゴル商工会議所には支部(県、首都に国内20ヶ所)があり、水平な組織構造となっている。企業は商工会議所の支部に登録するが、商工会議所本部と直接連携することもできる。

商工会議所の総会は4年に1度行われる。この期間の長さが会員同士の繋がりを希薄にしている。一般会員に対する報告の機会は少なく、また会員の参加機会も少ない。これについては、総会を2年ごとに開催すればより活性化する。

商工会議所には地方代表者などを含めて75人で構成される「管理委員会」がある。その内訳は、各県の代表者21人、会議所会員51人、統括者3人である。この管理委員会の中から会長が選出される。管理委員会の会議は毎年行われている。この管理委員会の構成員数を51人に削減し、その半数を2年毎に交代する選挙制にすることが適切である。管理委員会の構成員は、多ければ良いということではない。

今は、管理委員会の中から25人の幹部を選び、管理委員会の委員長を会頭に任命している。つまり管理委員会の委員長は会頭を兼任している形だ。その他の幹部の任期は4年で、これも他の会員が参加する機会を奪っている。幹部の任期を2年にする方が適切である。新しい幹部たちは新たな力となり、慣れていない分、状況変化に敏感である。この幹部たちの人数も減らして15〜17人にし、2年毎に交代するようにすれば、決断のスピードや生産性が向上する。

管理委員会の委員長兼会頭(副会頭)は報酬を受け取らない方が妥当だし、世界でもそれが一般的である。会頭が商工会議所のために費やす時間は短い。そのため、出張費や会議等の司会を務めた時にはある程度報酬が発生するとしても、常用とすべきではない。

また商工会議所の会頭は、国内のビジネス環境改善のために政府に働きかける義務がある。そのため、どの政党にも所属しない方が賢明だ。会頭はビジネスに悪影響を及ぼしかねない政策、特に税率の引き上げには抗議し、腐敗防止に対する立場を明確に表明しなければならない。

企業の資金調達コストを削減し、国内への外国銀行の進出を支援する必要がある。国家予算や国策事業に関する法的審議にも商工会議所は重要な役割を担っている。これらの改善に向けた取り組みは、政治から独立した会頭によって初めて実施できることである。

また会頭は、商工会議所の代表として海外へ赴く事が多いので、業務上必要とされる英語を習得し、国際関係における礼儀、マナーを身に付けた者でなければならない。このような人物を時代が求めている。

マネジメント制度の新たな基準

モンゴル商工会議所は会員企業の納税額、会費によって区分し、会員をダイアモンド会員、ゴールド会員、シルバー会員、クラシック会員とそれぞれ分けている。これは会員に提供するサービスの質に良い影響を及ぼす。

商工会議所にある約30の委員会の数を減らし、会員参加を促すサービス品質向上に特化した委員会に変える必要がある。そして各委員会の活動を収支報告書で比較し、委員会の成果を計測・評価する指数(KPI)を活用する。それを報奨に結び付けている外国の商工会議所の良い点を導入すべきである。

また、商工会議所は外国投資の誘致にも力を注ぎ、外資および合弁企業の入会を重視しなくてはならない。さらに商工会議所は専門性の高いビジネス教育プログラムを作成し、研修と実習をあわせて提供すること。更には企業に対してリサイクル意識を根付かせ、廃棄物の再利用やエコロジーの観点を持たせ、企業としての社会的責任を働きかける必要がある。

様々な産業界の組合と連携し、企業に対して政策の影響や生産性についてのアドバイスができるように電子的なビジネス・プラットフォームを活用すること。新しいソフトウェア、アプリケーション、AI(人工知能)、ロボット活用などの最先端の技術について研修を実施する必要がある。また、最近のモンゴル企業の需要として、海外市場に進出可能な分野があるかについての情報提供と、それに関わるビジネス研修があげられる。

こういった時代の流れから、商工会議所の会頭は知識と管理能力、実務経験を兼ね備えてなければならない。会頭、副会頭は今のように管理委員会から選ばれるのではなく、管理委員会の委員長が幹部たちの多数意見を集約し任命するようになれば、管理およびマネジメントの区別が明確になる。

そして会頭は商工会議所の日常業務に関わらない方が適切である。会頭とは別に専務理事を置き4年間の業務契約を結ぶ。毎年幹部会で承認された事業計画書に従って業務を評価し、奨励を与えるようにした方が良い。

次の60年を迎えるにあたり、管理とマネジメントの改善を行うことが商工会議所の会員や管理職の重要な責務である。欧米諸国の歴史を見ると、商工会議所はビジネスの世界で強い発言力を持ってきた。なぜなら商工会議所は全会員にとってかけがいのない共有財産であるからだ。

モンゴル商工会議所は、モンゴルの経済界に最も影響力のある存在でなければならない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン