グルブズ・ゴヌル氏は、アンカラの中東工科大学石油天然ガス工学科を卒業しました。彼はトルコのエネルギー省やアンカラのEU委員会に勤めてきました。また、アジア・アフリカへの融資および技術支援活動プロジェクトを主導し、イスラム開発銀行ではシニアエネルギーエコノミストとして勤務していました。グルブズ・ゴヌル氏は国際再生可能エネルギー機関に2014年から地域パートナーシップディレクターを務めています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。まず、私たちに国際再生可能エネルギー機関について紹介して頂きますか?

ゴヌル: ありがとうございます。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、再生可能エネルギーを世界規模で普及させるための国際機関で、2011年に設立されました。比較的新しい機関であり、国際ガバナンスレベルで活動を行っています。

IRENAは設立されてから急激にその規模を拡大させてきました。設立当初は約60,70ヵ国が加盟し、活動していました。しかし、現在は160ヵ国が加盟しています。さらに23ヵ国が加盟申請をしています。

J: 2011年に設立されたというのに、規模が拡大するのが早いですね。

ゴヌル: そうですね。これは各国政府が再生可能エネルギーの開発を重視していることを示していると思います。具体的に各国の政府からIRENAに対する要求は、再生可能エネルギーの開発技術の普及と持続的発展についてです。

私たちは各種再生可能エネルギー政策、技術、財源、イノベーションの情報を提供しています。また、私たちは必要に応じてその国の再生可能エネルギー戦略をサポートしています。私たちは技術支援、能力向上など様々なプログラムを国および地域レベルで提案しています。

J: 現在、IRENAに160ヵ国が加盟し、約20ヵ国が加盟申請しています。これは今の時代に重要な意義があると思います。加盟国は参加費が必要ですか?IRENAはどのくらいの頻度で会議を行いますか?

ゴヌル: IRENAにはいくつかの管理部門があります。その1つが総会であり、毎年1月に開催されます。総会には約1,000人の加盟国代表者が参加しています。本部はアラブ首長国連邦のアブダビにあり、総会はそこで開催されています。今年は第9回総会が2ヵ月前に開催され、120ヵ国の首脳が集まりました。3日間続く総会では、様々な会議が行われます。ここでは管理職レベルでの集まりというより、あらゆる活動の実施に関してより現実的な話し合いが行われます。

また、IRENAには評議会があり、年に2回開催されます。その他にIRENAは国及び地域を対象にした会議を世界中で実施しています。ここでIRENAが地域や国と密接に連携し、協力し、相互に意見交換を行い、優先課題について話し合う機会を提供しています。これに基づいて私たちは、彼らの要求に応じて自分たちのノウハウを提供しています。

J: あなたはIRENAの本部がアブダビにあると言いました。IRENAの資金をどのように調達されますか?

ゴヌル: 私たちの主な予算は加盟国の会費で構成されています。加盟国の会費は参加国の国内総生産に合わせて決められます。その他にIRENAの収入の大半を加盟国の寄付で賄われます。

J: 設立されて8年という新しい機関でありながら、とてもダイナミックに活動していますね。北東アジアについて話したいと思います。北東アジアの再生可能エネルギー情勢はどうですか?

ゴヌル: はい。北東アジアの話をする前に、私は世界中で再生可能エネルギーについてどんな取り組みがあるのか、その動向について話したいと思います。なぜならば、再生可能エネルギーは過去10年で世界エネルギー開発の中核になりました。もちろん、これには理由があります。技術が進歩し出力が増大した他に、再生可能エネルギーの技術価格が下がったことと関係しています。特に太陽光発電と風力発電は顕著です。2010年以来、太陽光発電の費用は73%、風力発電の費用は23%減少しています。

J: 太陽光発電の費用が73%も減少した主な要因は何ですか?

ゴヌル: いくつかの要因があります。各国ではそれぞれ再生可能エネルギーを導入する要因が異なります。代表的な要因は気候変動であり、それに関係する2015年のパリ協定です。世界中が地球の平均気温上昇を2℃未満に抑えるために取り組んでいます。気候変動を防ぐための最重要課題は、温室効果ガス排出量の削減を前提とした経済を発展させることです。また、エネルギー源をサポートすることです。そのために再生可能エネルギーは重要な役割があります。再生可能エネルギーのこの特徴が理解され、世界的に普及したことが費用低減に繋がりました。

 多種多様なイノベーションが創出され、多額な投資が行われているため太陽光パネルやタービンの価格が低下しています。また、様々なソリューションが生まれています。今後8〜10年間に再生可能エネルギーのコストは約60%減少すると試算されています。太陽光や風力をエネルギーシステムに接続し、稼働させることはとても重要です。

 私たちは今後、太陽光発電の50〜60%、風力発電の30〜35%費用が減少すると予測しています。2020年に太陽光および風力による電力価格は、化石燃料による電力価格より安くなります。その他、消費者への電力の直接配電について様々なイノベーションが開発されています。

電気自動車の開発にも触れたいと思います。現在、世界中でヒートポンプ技術の改善について研究が行われています。これが普及段階に入ると、輸送や建築分野に再生可能エネルギーを導入する可能性を広げます。

J: 太陽光パネルの特徴について話したいと思います。今では電気自動車の普及が話題になり、また一般家庭に太陽光パネルが設置され発電するようになりました。私は東南アジア諸国を旅する時に、屋根の上に太陽光パネルを設置した家をよく目にします。いつぐらいから太陽光発電だけで一般家庭の電力を賄えるようになるとおもいますか? 

ゴヌル: 再生可能エネルギーがもたらす大きな機会は、電力を自由化できることです。自由化とは、国や配電企業を通じて電力を買だけでなく、一般家庭や市、企業がそれぞれ自分たちで電力を発電し、配電できることを言います。

 再生可能エネルギーを促進し、エネルギーシステムへの供給を集中型ではなく分散型にすることで、エネルギー源を地方にまで供給することができます。そうすると地方や市民は単にエネルギーを消費するだけでなく、エネルギーを自給できるようになります。これを発展させるために多種多様な技術が開発されています。例えば、人工知能(AI)、自動化、ブロックチェーン、ビッグデータなどがあります。これらの技術が活用することによって、電力は分散型システムで各家庭に配電されることが可能になります。

 先ほど電気自動車について話しました。私たちは電気自動車の何を重視しているかというと、電池の価格です。リチウムイオン電池の価格は2010年以降80%下がりました。私たちは2020年から2025年には、電気自動車の価格は燃料エンジンの自動車と競争できるほどになると見ています。

 これらの状況に伴ってエネルギーをめぐる地政学的な問題も浮かび上がってきます。IRENAは「エネルギー転換の地政学に関する世界委員会(Global Commission on The Geopolitics of Energy Transformation)」を立ち上げました。ここで私たちは、政治、経済、貿易、環境のエネルギー開発に関わる世界のリーダーたちを集めました。この委員会はエネルギー転換が国際政治に与える影響や、新しいエネルギー経済の方向性について研究分析を行っています。これにより委員会は、エネルギー輸出国と輸入国にどのように影響を与えるのかを明示しただけでなく、新興のエネルギーリーダー国とその要因が何かを具体的に提示しています。

J: モンゴルは化石燃料である石炭があり、隣国に輸出しています。それに伴い様々な問題が発生しています。モンゴルは人口が少なく、広大な国土をもっています。これらが地政学的にみてモンゴルにどのように影響を与えると思いますか?

ゴヌル: モンゴルは鉱物資源を豊富に持つとても重要な国です。石炭や太陽光、風力のエネルギー・リソースがあります。モンゴルにはリソースあるだけではなく、鉱物資源が乏しいがエネルギー需要が高い国々に囲まれています。そのため、モンゴル政府はこれらの資源を長期的な視点に立ち、適切に利用するべきだと思います。鉱物資源に関する決定は、長期的に影響があり、後に成果をもたらします。例えば、モンゴルに石炭火力発電所を建てたとします。これは5〜6年ではなく、40〜50年間利用されます。するとこれは、長期的にどんな効果があるでしょう。つまり、天然資源を保有している国は、必ずしもその資源を利用することが妥当とは言えません。政府は多くの情報と知識を蓄え、これから世界がどこへと向かっているのかを注意深く見る必要があります。1つの例として、ウランバートル市の大気汚染について話してみましょう。私たちはこの都市が深刻な大気汚染問題を抱えていることを知っています。ウランバートルは、数年前に世界でも最も深刻な大気汚染都市リストに入りました。この大気汚染が私たちの健康にどのような影響を及ぼしているのか。世界保健機関(WHO)、国際連合児童基金(UNICEF)が実施した調査によれば、モンゴルで肺炎は5歳児の死因として2番目にあがる大きな疾病となっているとありました。もし、私たちが再生可能エネルギーの普及を推進すれば、これが温室効果ガスの排出量削減、大気汚染削減に直接繋がります。さらに私たちが考えることは、再生可能エネルギーが社会や経済にどの様な利益をもたらすのか?貿易における影響は何か?雇用率にどのように影響するのか?そういったことを検討するべきです。実際、再生可能エネルギーは、他のエネルギー技術に比べて多くの雇用を生み出します。

J: モンゴルはパリ協定で2020年までにエネルギーの20%、2030年には30%を再生可能エネルギーで供給すると宣言しました。これはモンゴルにとって実現可能だと思いますか?

ゴヌル: もちろん努力する必要はあると思います。この目標を達成するために、エネルギー源に多少の偏りが発生するかもしれません。しかし、政府は約束を果たすために、実際にプロジェクトを実行していくことが重要です。これに関して、私は今話題になっている北東アジアのエネルギーシステム:アジアスーパーグリッドプロジェクトについて少し話したいと思います。これはモンゴルにとってとても重要なプロジェクトです。モンゴルは自分たちのエネルギーシステムをアジアスーパーグリッドに接続することによって、アジアのエネルギーシステムのバランスを維持できるようになります。また、発電量を四半期・日・時間ごとに調整できるようになります。他方、これはモンゴルが再生可能エネルギーの大規模プロジェクトを実施できるという証明にもなり、世界に発信できる長所だと思います。

J: 今日は有難うございました。

ゴヌル: こちらこそ有難うございました。

ゴヌル * ジャルガルサイハン