2050年ビジョンの批判6:

モンゴル政府は国の地域開発について政策を打ち出している。国会で審議されている「2050年ビジョン」の長期開発政策の一つに、「地域別開発」という章が盛り込まれている。その中で地域開発を次のように定義している。

  1. ドルノドモンゴルの経済開発の主軸となる製造業、観光業、グリーン開発の指定地域:ヘンティ県、スフバートル県、ドルノド県。
  2. 戦略的な鉱山、高度な技術に基づいた製造業、サービス業、古生物学に立脚した観光業の指定地域:ゴビスンベル県、ドルノゴビ県、ドゥンドゴビ県、ウムヌゴビ県。
  3. 天然資源、観光業、グリーン開発の指定地域:ゴビアルタイ県、バヤンホンゴル県、ウブルハンガイ県。
  4. 南モンゴルの経済発展の主軸となるアルタイ文化、天然資源、グリーン開発の指定地域:ホブド県、バヤン-ウルギー県、オブス県。
  5. ハンガイ地域で盛んな農業、観光業、グリーン開発の指定地域:セレンゲ県、ダルハン・オール県、オルホン県、ブルガン県、アルハンガイ県、フブスグル県、ザブハン県。
  6. 国際科学・技術の中心地として、また輸送ハブとして高度な技術生産・サービスの指定地域:ウランバートル。

このように6つの地域区分を定め、開発を進めるという。

それぞれの地域を10年という期限に分けて開発を進め、どういった状態に到達しているべきかを具体的に定めている。この章の始めには、以前に決定した地域開発方針(国会の2001年第51号決議)があり、それを実施する政府のプログラムの有効期限は2020年に満了している。そのため、さらなる国の発展に向け新たに方針を作成するに至ったと記述してある。残念ながら、20年前に定められた目標を実現するためのそのプログラムは、はたして実施されたのか、何らかの成果を出したのかということについて、何の評価・分析も行われていない。以前のプログラムが、なぜ実施されなかったのかを理解もせず、その原因もわかっていない状況で新たな政策目標が達成できるかは疑わしい。

2001年の地域開発が実現されなかった理由

2001年の地域開発目標に「土地、その地下資源、農業、牧畜由来の原料資源、知能力を自然と調和させ、適切に利用するために現在の人口や生産の集中を緩和する。都市と地方の発展の格差、県と地域間の不平等やアンバランスを解消する。発展の水準を高め、自国の経済、社会の進歩を加速させるため、国内外の環境を整備する」と定義していた。

しかし、これらの目標の1つも実現していない。それだけにとどまらず、人口密度が1平方kmに2人という広大な大地を有するモンゴルで、人口は都市に集中し、地方の過疎化が進み、人口300万人の3分の1は貧困に喘いでいる。これが発展なのか?

地域開発政策が立ち行かなくなった主な原因は、各県を独立した地域行政単位にしなかったことにある。そしてその地域に予算、徴税、融資、投資の政策に関する権限を与えなかったことにある。これについては過去に「実現されない地方の経済発展」という記事で述べたとおりだ。 地域開発についての最初の方針では、モンゴル全国を西部、ハンガイ、トゥブ(中央)、東部という風に、国土を縦に4地域に区分し、首都ウランバートルを独立した区域として発展させるはずだった。だがこの方針では上手くいかなかったことを図1をみればわかる。

図1.各地域における国内総生産(GDP)の割合、2001-2017年出典:国家統計局

不均等な成長の結果、地方には競争力がない。教育や医療などの国のサービスが不平等でアクセス条件も異なるため、地方の過疎化が進み、首都は人で溢れている。2000年からの17年間で、首都ウランバートルに50万人が地方から移住してきた。国を各地域で平等に発展させなければ、これからの30年間も今までと同じように、人口の半分ではなく80%が首都に移住してくる可能性がある。

日本のアイディア

日本の国際協力機構(JICA)は、2016年にモンゴルの地域開発について調査を実施し、それぞれの地域を縦横に交差した軸で繋ぐというアイディアを提案した。これらの軸に沿って首都以外に第2、第3の都市が形成され、特定の県の中心地を衛星都市にすることができると提示した。

モンゴルの地域発展の主な柱は農業分野である。労働人口全体の34%が農業分野に従事している。彼らの38%はハンガイ地域、24%が西部地域、22%が中央地域、11%が東部地域、5%がウランバートルに分布している(国家統計局、2018年)。

この横軸は付加価値を付けた農業生産を支援し、国のグリーン開発政策の基盤になる。また地域を区分する際に、単に県や地方の特徴を基にするだけでなく、ロシアや中国といった隣国の経済特色にも対応させる必要がある。特に近年、ロシアと中国の経済協力がより強く拡大しているため、縦軸を元に活性化する可能性があるという。

地域開発を実現させる

「2050年ビジョン」の地域開発方針は、前回の失敗から学び軌道修正することがないので、また新たな失敗になる恐れがある。地域開発に行動力をもって実行していくために、各地域を相互に縦と横の軸で繋いでいくというJICAのアイディアは検討に値する。だが、どのように計画するにせよ、次の3要素をまず変える必要がある。

  1. 選挙制度
  2. 税政策
  3. 投資(これには都市、地方の債券が含まれる。)

選挙制度に関して、2012年以外の選挙は得票数制度で行われてきたため、地域開発は県レベルで止まっていた。選挙制度に比例制度を導入しない限り、政治家は国の発展を県レベルでしか見ず、自分の選挙区だけを優先しようとする事例が続き、統合的な地域開発は進まなくなる。例えば、2020年の国家予算はこのように作成され、可決成立された。だから、その予算は県や郡の中心地に肖像、建物、文化センターを作ることに費やされる。

自分の県を地域の中心地にするために県知事同士が争い、地域政策の灯りが消えてしまった。そのため、国民の総意を十分に満たす選挙制度が必要である。

また税の超過集中政策は地域開発にとって大きな障害となってきた。政府は、政治と経済の権力を集中させる傾向にある。その明確な実例は鉱物資源利用料の一部を地方に還流させる法律があるにも関わらず、それは十分に実施されていない。これについて2019年の「鉱物資源の呪縛を解け」という記事に詳しい。

地域への投資は、開発政策に基づき適切に配分され、その地域の企業の競争力向上を図るためのものでなければならない。政府は地方に国内外からの投資を誘致する必要がある。また、地方も誘致に積極的に取り組むべきである。そのためには、地方が徴税権限をもち、地方債券を発行することを可能にしなければならない。地方債券について詳細を「都市、県の債券」で記した。 現在、この「2050年ビジョン」は国民全体で議論されている。国民には創造性をもって批判し、議論に積極的に参加するよう呼び掛けたい。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン