モンゴルは地方経済の発展、首都への人口集中を減少させるために長い間話し合ってきた。学者による調査研究に基づき政府はいくつもの対策を打ち出してきたが、そのどれもが実行されて来なかった。今は経済活動、人口の大半が首都ウランバートルに集中している。IMD世界競争力ランキングでモンゴルは63ヵ国中ベネズエラと並んで最下位となっている。

モンゴルの国土面積は世界19位、人口は300万人である。モンゴルの地方では過疎化が進み、人口は首都に集中している。国民の3分の1が貧困層で、4分の3が穴を掘っただけの仮設トイレを使って暮らしている。

政府は腐敗にまみれ、国民はポピュリズムを求める。創造より分配、討論より喧嘩にエネルギーを使い、見た目を重視し中身を軽視するようになった原因は何なのか?

地方経済発展の行方

 モンゴル政府は世紀の節目である2001年に「地方発展の理念」、2003年に「地方発展の管理調整法」、2007年に「国家発展の総合政策」などを国会で決議した。しかし、これらの法律や政策が実施されることはなかった。その原因は、自由経済の原則から外れた過度な政府による市場参入、公共ガバナンスが低下し法律が不平等で、行政は一握りの権力者のためのものとなったからだ。

上記の理念、法律、政策では、地方の力だけでは産業の自立は不可能であり、地方自治体への国からの交付金は効果がないことを認めていた。だから今回、経済を地域別に発展させる政策を打ち出した。まずモンゴル全土を西部、ハンガイ、中央、東部と4つの地域に分け、ウランバートルは独立都市として発展させる政策だという。

地方発展の理念には、その目的を「土地と地下資源、農牧業の保護、人材の地域環境に適した活用、人口や産業の一極集中の削減、都市と地方の格差是正、地域間の不公平やアンバランスの改善、すべての地域経済社会の向上のための迅速な対応、国内外の環境整備を図ること」と定義している。

この20年で私たちは、このように定義された目的のどれもが実現されていないことを見てきた。美辞麗句が並んだそれらの政策を、政府は政治活動プログラムと名付けた。モンゴル政府は、政権が交代すれば前政権の決定をすべて否定するという特殊な慣習を持っている。

地方発展の政策が実現しなかった主な原因は、県をまとめた地域を統合した行政単位にしていないことだ。また地方自治体に予算、税金、投資などについて自由裁量を与えていないことにある。

数県の行政職員が年に数回集まり、お互いが抱えている問題を話し合う地域委員会という組織があったが、権限も予算も無いため地方発展には至っていない。

空間経済学

今まで多くの学者たちが地方経済の発展について研究を行い、議論をしてきた。世界の国々では地理、集団、価格、都市化という視点に加え、最近では空間経済学(Spatial economics)という分析手法を用いて発展へのロードマップを描いている。

地方経済の発展を考える場合、その地方に人がいるかどうかより、その地は人が働いて暮らせるのか、産業が成り立つ環境なのかという都市が形成される条件を注視しなければならないようだ。そのために地方の経済、社会の発展を支援できる構造を整える必要がある。

地方への支援を均一化するより、その地域の特徴に合わせた支援体制を構築すること。市場のニーズに応じた的確な空間経済をつくる必要がある。

地方発展政策を打ち出す際には、地域住民の生活水準、保健医療、教育文化などに満足して暮らせることを重視することが大切だ。その為には地方間で競争ができるように、3〜4つの大きな中核都市をつくることが適切だと思う。人口減少が進んだ郡を合併させ、いくつかの県の中心地をその地方の中核都市とする。中央、地方、県、郡、区といった行政単位を改正し、法律で定義すべきだと思う。

地方自治体が北のロシア、南の中国両国の経済的特徴をしっかりと理解して協力すること。地方の都市はモンゴルを縦断する幹線道路へ接続し、その先に国境検問所を置くようにする。国内で生産している農作物を外国から輸入する場合は、両国と同じ様に関税をかけるべきである。国内の原材料を使い製品を生産し、内外の市場に挑もうとする民間企業を支援していく。例えば、地方都市の近郊に家畜の食肉処理や製品加工工場などの建設を支援するなどだ。また鉱物採掘利用料の一部を地方に分配する。これは鉱物資源がない地域にも鉱山収入の一部を交付するカナダの事例を導入するといいだろう。

西部地区、ハンガイ地区及び東部地区を高速道路や鉄道で繋ぎ、地方には大学、総合病院、文化スポーツセンターを設置する必要がある。そのためには空間経済学的に有効な工場、サービスセンター、複合産業施設を建設できる立地条件の策定が急務だ。

各地方にそれぞれ税源があり、その税金の増減を地方自治体が独自に行うこと。都市部との収入格差を是正するために税金を免除し、投資を奨励するなどの対策をすること。そういった体制が整備されて初めて地方経済の発展が実現するだろう。

モンゴルの歴史、文化の背景には遊牧がある。地域の放牧地をバグ(行政の最小単位)が管理し、家畜頭数に応じて税金を科すことも必要だ。畜産業の効率を上げるために機械化を進め、牧畜を産業とすることが地方経済の発展となる。遊牧民は連携して家畜の健康維持と家畜伝染病の予防管理を行えば、ビジネスの価値を高め効率的な取引ができるようになる。ここでいう連携とは、遊牧民に限らず他分野で経験のある研究者たちも協力することを意味している。

自然、歴史、文化遺産がある地域では、それを長所として観光分野の発展を期待できる。

バグ、郡など末端の地方自治体にも住民の雇用、生活を保障できる権限を与える必要がある。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン