B.ソブド氏はモンゴル医学大学、国立医科大学を卒業しました。公衆衛生研究所所長、韓国ソウル大学で研究員として務めた実績があります。B.ソブド氏は「ウランバートル市のゲル地区の土壌汚染調査」、「公衆衛生が直面している問題」、「障害をもつ女性の健康に関する手引き」、「ウランバートル市民の飲料水の消費について」などの研究報告書、「家族計画、妊娠中絶の現状と社会動向」など数多くの調査、研究活動に携わってきました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。最近、ジェンダー(社会的性差)に基づく暴力に反対する「女性に対する暴力撤廃」という国際キャンペーンが16日間に渡り行われました。これに関連して暴力対策ナショナルセンターはどんなことをしていますか?

B.ソブド: ジェンダーに基づく暴力に反対する「女性に対する暴力撤廃」キャンペーンは1991年から世界中で実施されてきました。モンゴルでは1997年から実施されるようになりました。今年、私たちは「コミュニケーションとアクトをポジティブにしよう」というスローガンを掲げ、公衆に向けてコミュニケーションと行動について、またジェンダーに基づく暴力をどのように減少させるかについて活動を実施しています。

また、この16日間に世界では「人権デー」、「ホワイトリボン」キャンペーンも実施されています。ホワイトリボンキャンペーンの始まりは、1991年に1人の若い男性がカナダのポリテクニック大学に侵入し、女性の権利拡張への反対を叫びながら女子学生を殺害した事件があったことです。この事件を受け、カナダ全国で10万人の男性が女性に対する暴力に反対する意思表示としてホワイトリボンを身につけ、女性に対する暴力をなくすための議論に加わりました。これが男性による女性に対する暴力に反対するホワイトリボンキャンペーンとなりました。

J: モンゴルでジェンダーに基づく暴力の水準はどの程度ですか?また、どの様な傾向にありますか?

B.ソブド: 近年、モンゴルではジェンダーに基づく暴力事件の発生に関する警察庁の統計によれば、年間1,200〜1,300の事件が発生しています。これ以外に事件とまではならない「違反」があります。これは強制講習や罰金などの罰則を受ける違反行為のことを指します。この違反行為は年間3,000件になります。最近では、違反措置を受ける事件が増え、ジェンダーに基づく暴力犯罪が減少しているように見えます。

その理由は、2016年に家庭内暴力対策法が改正され、2017年2月からこの改正法が施行されたことにあります。

J: この法律を誰が提案しましたか?

B.ソブド: 私たち暴力対策ナショナルセンターが先頭に立ってこの法案作成に取り組みました。私たちは23年間の活動の中で得た数多くのケースや事例に基づき、この法案を作成しました。

J: 家庭内暴力の被害者は主に女性であり、稀に男性も被害者になると言われています。家庭内で起きている暴力のどこまでが犯罪でどこまでが違反になりますか?その違いは何ですか?

B.ソブド: 家庭内暴力対策法では、初めての通報を違反と見做し、その後2回3回と通報があった場合を事件とみなします。しかし、殺害や傷害の場合は即、犯罪とみなされます。この家庭内暴力対策法は、暴力を防止するための法律です。そのため、単独ではなく、他の法律と関連して施行されています。例えば、家庭内暴力対策法には「逮捕する」もしくは「処罰する」などの単語は入っていません。

J: 暴力を未然に防ぐという法律ですね。では、他の国ではどんな法律がありますか?

B.ソブド: 他国の事例や自国の現状をみれば、家庭内暴力は密室で発生し、継続性や拡張性があります。ですから家庭内暴力はあってはならないし、これは何としてでも止めなければなりません。例えば、持続可能な開発目標の5では、ジェンダーに基づく暴力を減少させるのではなく、撤廃すると謳っています。これは人間の行為によって起きていることなので、人と人とのコミュニケーションを通して止めることができると考えられているからです。

J: 先ほどあなたは、ジェンダーに基づく暴力は年間1,200〜1,300件発生し、違反行為は3,000件と言いました。これは増加している数字ですか?それとも減少している数字ですか?

B.ソブド: この数字は警察庁により公表されている数字です。当センターは年間1,000人にサービスを提供しています。そのうち800人が法律相談や心理相談にやってきます。100人は命に危険があるとして当センターが所有している女性・児童の一時保護施設のサービスを受けています。

J: この一時保護施設はいくつありますか?

B.ソブド: ウランバートルに2箇所あり、現在7県に建設中です。ドンドゴビ県、バヤンホンゴル県に当センターの支部がそれぞれ1箇所ずつあります。

J: この施設の保護期間はどのくらいですか?食事などをどのように調達していますか?そして保護期間が終わった後にその人たちにどんな措置を取っていますか?

B.ソブド: 保護施設に関して、家庭内暴力対策法には2通りの規定があります。1つはワンストップサービスです。ここでは身分証明書を持たず、着替えや行く場所がなく、子ども連れの女性に保健・教育など多方面のサービスを提供しています。保護施設では、当センターの保護期間は3ヵ月です。それでも、保護期間が終わって行く場所がない場合は続けて施設にとどまる時があります。

J: 家庭内で暴力を受けている人はどこに通報しますか?

B.ソブド: まず、警察の102番に、次に24時間対応の107番にかけて相談を受けることができます。最後に児童保護のための108番や当センターの相談受付の96964545があります。

J: 家庭内暴力の背景にある原因は何ですか?誰が調査していますか?

B.ソブド:  世界中で数多くの調査が行われています。家庭内暴力の根本にある原因について語られる時、必ず人権について話す必要があります。まず、人として生まれもった人権があります。人間は差別されないという平等権、自由権、生命権など侵害されない基本的な権利をもっています。これらの権利は国家により保障されるべきものです。しかし、国家はそれを十分にできていない状態です。ジェンダーに基づく暴力とは、性別的な側面に立ってみていることではありません。男女共に平等にみています。

しかし、実際には女性が暴力の被害者になるケースが多いので、暴力と言えば女性の話だと理解する人は少なくありません。ジェンダーとは、社会的に定めた性別を言います。例えば、男性はこうあるべき、女性はこうあるべきという風に決めているものです。このように育った男性は女性を多くの面で束縛しがちです。

J: これは1つの視点ですね。社会には貧困が広がっています。貧困のところには失業やアルコール依存など様々な問題があります。これらが暴力の原因となる場合もあるかと思います。実際にこの家庭内暴力はどうして起きているのか?その主な要因は何ですか?これについて調査、分析はありますか?

B.ソブド:  様々な調査、分析があります。まず、暴力行為に学歴は無関係です。どんな学歴をもっていようと暴力は起きています。年齢的にみれば、20代〜40代が90%を占めています。暴力の被害者になっている人たちを性別的にみれば90%が女性、10%が男性です。先ほど、あなたが言ったアルコール依存や失業などは暴力の根本的な原因ではなく、影響する要因となります。根本的な原因は女性が家で育児し、男性は外で働き家族を養うべきなどのステレオタイプの考えです。

J: あなたたちのNGOはいつ設立されましたか?誰が設立しましたか?

B.ソブド:  1997年にオーストラリアのある女性がボランティア活動でモンゴルに来ました。当時彼女は、ジェンダーに基づく暴力についての博士論文を書くために調査をしていました。そこでモンゴルに暴力による被害者の権利を保護するところがないことに気づき、当センターを設立しました。

J: あなたはいつからセンターの所長を務めていますか?

B.ソブド:  2017年からです。

J: センターの資金はどのように調達されていますか?

B.ソブド:  当センターは国から一切補助を受けていません。国際機関からプロジェクトやプログラム活動のための資金を受けています。私たちは家庭内暴力を撤廃するために3つの戦略を立てて活動しています。1つ目は事前防止活動といって、子どもたちに「誰かを差別してはいけない、人は男性でも女性でもみんな平等である」ということを教育しています。2つ目は暴力を受け、被害者となった女性への支援活動です。これは身体的、精神的な暴力を受けた女性を対象に教育、保健サービスを提供する活動です。3つ目はリハビリテーション活動です。これは性的暴力を受けた女子や女性の社会参加への回復をサポートする活動です。

J: モンゴルの人口の3分の1が貧困だと言われています。今日、経済も落ち込んでいます。このような状況の中で暴力を撲滅するために、あなたたちはどの様な活動を最優先にしていますか?そしてセンターの職員は何人ですか?

B.ソブド:  当センターでは現在約20人が勤めています。全員女性です。確かに難しいことがたくさんあります。私たちにどうにもできないこともたくさんあります。ここで私たちは自分たちの活動をうまく実行すること、そして継続的に取り組むことに心がけています。継続していけば、必ず到達点があると思います。そのためにとにかく止まらないことです。

J: マスコミはこれについて何か取り組みをしていますか?

B.ソブド:  家庭内暴力対策法にはマスコミの役割が定められています。マスコミは暴力について動画や写真を社会に向けて配信してはいけません。例えば、フェイスブックなどで暴力について画像や動画が投稿されている場合は、私たちは警察庁に正式な依頼書を出して削除してもらうよう働きかけています。

J: 家庭内暴力について全国を対象にした調査報告書はありますか?

B.ソブド:  あります。2017年に初めて全国を対象にした調査報告書が出ました。国連人口基金(UNFPA)の資金援助を受け、国家統計局がその報告書を作成しました。この調査報告書では7,000人の女性を調査対象としました。調査報告書によると、3人に1人の女性は何らかの形で暴力を受けた経験があるとのことです。暴力には身体的暴力、精神的暴力、経済的暴力、性的暴力などがあります。現在、10人に1人の女性はこれらの暴力のうちどれかを受けているという数字があります。

J: これはとても大きい数字です。さらに女性が暴力を受けるケースの大半が家庭内で起きているとありました。私たちは暴力を認めてはいけません。今日は私たちの依頼を快く引き受け、インタビューに出演して頂き、本当にありがとうございます。皆さんの今後のご活躍を祈ります。ありがとうございました。

B.ソブド:  こちらこそありがとうございました。

ソブド * ジャルガルサイハン