J.デルゲルサイハンは経済専門家であり、金融投資マネジメントをテーマに修士号を取得しました。モンゴルの国家予算の適切な政策をテーマに博士研究をしています。モンゴル証券取引所、金融規制委員会、モンゴル証券市場調査開発協会などで顧問、会員を務めています。最近では、「モンゴル国家予算歳入・歳出の現状、改善方法」という調査に参加しています。

J(ジャルガルサイハン): 2017年上半期5ヵ月の統計が発表されました。そこには経済に良好な変化が出ていると書かれています。数字の上では良好なものはあります。どうしてポジティブ、プラス指標が出たと思いますか?この指標は一時的なものなのでしょうか?

デルゲルサイハン: ポジティブな指標はあります。しかし、過去のモンゴル経済の成長は一時的なものでした。同様に今回出たポジティブな指標も一時的なものだと見ています。昨年8月から鉱工業製品において見られる肯定的指標と、それに伴う他の要因によって今回の指標が出たと思います。特に石炭の輸出量が増えたことです。銅の輸出量は減っていました。また、国際通貨基金による調整プログラムが国内外の市場で好感されたからです。この影響で為替レートが下がっています。一時的なものでも、私たちはこの状況を維持することが重要です。モンゴル経済は鉱物資源の輸出増加と国際通貨基金のプログラム実施によって上向きました。今後は鉱物資源の価格下落や外国支援の停止によって再び経済が低迷してしまうことが無いよう、この指標を維持するように努力しなければなりません。

J: 2008年の経済危機の後、2009年に今のような状況、つまり金融政策の失敗から国際通貨基金による2億3千万ドルのスタンドバイ・クレジット・ファシリティ・プログラムを実施しました。しかし同時に鉱物資源価格が上がったため、モンゴル政府は国際通貨基金から投じられた資金を返還し、経済援助であるこのプログラムから脱退しました。そして再び経済危機に直面しました。今、鉱物資源価格が上がっているからと言って、8年前と同じ轍を踏まないためには、私たちは何をすべきですか?またあなたはこれについてどう思いますか?

デルゲルサイハン: 2009年にモンゴルの鉱業分野、特にオユトルゴイ鉱山へ膨大な投資が入って来ました。それが過熱した経済と政治のポピュリズム化を引き起こしました。その状況が私たちを政策的に大きな失敗へと押しやったことを忘れてはいけないと思います。失敗を繰り返さないためには、モンゴルの経済を安定的に維持していくための大規模な改革をする必要があります。それは第1に政治改革、第2に予算改革、第3に金融改革です。また、経済の多様化に起因する問題を、調査研究に基づいて政策として解決することです。私たちは多くの資金援助を受けているので、これらの改革で成果を出すことができると思います。もし、あなたが言ったように2009年の失敗を繰り返せば、あとに残るのは多額の債務です。そのため、今回は失敗するわけにはいきません。

J: 第1の政治改革とは具体的にどんなことですか?

デルゲルサイハン: 憲法改正、国会改革などを悪いとは言いません。しかし私は政府マネジメント、つまり政府機関を管理している人たちが問題だとみています。もし、政府を正しい方向に導き、国の利益を最優先に考えて管理するならば、知識・能力はそんなに大きな問題ではないと思います。必要とされる知識・能力は専門家を集めてチームを結成すれば解決できることです。政府機関の問題の他に、私達の政府を管理する思考を変える必要があります。つまり今日よく言われるイノベーション、思考の変化を政府管理レベルで行うべきです。

J: 第2の予算改革について話しましょう。何を変えるべきですか?

デルゲルサイハン: 2010年以降、予算法、予算安定状況法、負債管理法などの法案が可決成立しました。残念ながら国会は法案を可決成立する前に国際通貨基金、その他の機関、研究者の勧告を全て無視しました。そして成立した法律すら守りません。予算を勝手に広げ、国債を増発し、財政赤字を増やすなど法律を尊重していません。これは政府管理者の倫理、知識能力、精神の欠如が問題となっています。過去5年間(2012〜2016年)で国は変則的な予算決定でモンゴル経済に約10兆トゥグルグの損失を与えました。この間、途切れた歳入は5兆トゥグルグになります。歳出は計画から7兆トゥグルグ狂いました。財政赤字も同じく7〜8兆トゥグルグとなりました。これらの数字を合わせて予算計画のみによる経済への圧力は数十兆トゥグルグとなります。その予算計画よりずれた7兆トゥグルグの赤字はそのままモンゴルの負債となり、金融圧力となります。政府歳入が滞ったら計画していた活動が全て止まります。

J: 第3の金融政策の改革です。これに関しては何を変えるべきですか?

デルゲルサイハン: 国際的に広く使われている理論として、金融政策は独立して経済に応じて拡大もしくは縮小していく政策であるべきです。中央銀行は最も効率的に動く仕組みで独立している機関です。その大きな例として、1990年代のドイツのブンデスバンクがあります。最近のアジアで言えば日本銀行です。それらの中央銀行は政府の政策に応じないことができます。これは政府に反対するためではなく、正しく機能するためです。経済が低迷している時期や成長している時期に、政治の圧力を受けずに金融政策を実行できるようにする制度です。しかし、モンゴルではその正反対です。特にこの4、5年は、モンゴル銀行と政府があたかも1つの機関のようになっています。モンゴル銀行の取り組みは政府の政策実施エージェンシーの動きそのものです。モンゴル銀行は、政府が打ち出した価格維持プログラムを実施し、その資金調達を行っています。また、ある特定の政府プログラムにモンゴル銀行が共同実施者となっており、独立性が損なわれています。これは法律で解決することが可能です。実はモンゴル銀行の独立性について、法的整備は国際基準の75%を満たしているという調査結果があります。しかし、肝心の法律の施行が30%という結果なので、先の話に戻りますが、これは制度というより管理に問題があると思います。

J: モンゴル銀行は本来、金融業界を監視すべき機関なのに、どうして政府の実施エージェンシーのような働きをしていると思いますか?

デルゲルサイハン: もちろん政治的な圧力です。中央銀行の総裁には、独立した専門機関から専門性が高い優秀な人物を任命するのが世界では一般的です。モンゴルでは中央銀行総裁を政党、つまり国会が任命しています。モンゴル銀行法では総裁の任期は6年と定められています。しかし、過去にモンゴル銀行の総裁でこの任期を全うしたのは1人だけです。ほとんどの総裁は4年で交代しています。4年というのはちょうど国会議員の任期となっています。つまり、これはどれだけ政治的な影響があるかを示す大きな証左です。選挙の度にモンゴル銀行の総裁を強制的に交代させる制度になっています。

J: エネルギー分野は全ての分野の基盤です。しかし、この分野は他のどの分野よりも多くの赤字を出しています。原因は、政府が電力価格をとても低く設定したことです。これによってエネルギー関係の活動は常に赤字を出し、その差額を埋めることを理由に政府関係者が儲けています。そして私たちには、自分たちの政策で高価な電力を安価で供給できているとうそぶいています。あなたはこれをどうみていますか?

デルゲルサイハン: 市場経済の国々には独占禁止法というものがあります。過剰な高値が国民生活を圧迫することになる独占を認めないことを1920〜1930年代に議論されていました。現在、安価で電力を供給しているというのは、将来の成長、発展から得られるはずの利益を幾分失っているということです。最近、電力会社は小幅ですが初めて黒字になったと言っています。これは一部の消費者、特に市民の電力価格を2倍に引き上げたからです。もし政府が価格を維持したければ、技術的により高効率な発電設備を選ぶべきです。

J: 今のモンゴルでは、公共財産を無価値にすることが少数の者にとって都合が良い状況となっています。

デルゲルサイハン: 社会心理を良くない方向に導いていることは、非常に憂慮すべきことです。これは経済的損失より大きいと思います。

J: 次の問題は、経済の多様化です。これはどうして実現できないのですか?

デルゲルサイハン: 非常に残念なことです。私たちは持続可能な開発の理念、地域別開発、中小企業の支援、経済の多様化などについて20年近く話してきました。残念ながら今日は以前の社会主義時代の経済よりも悪くなっています。鉱業と農牧業だけの国になりました。産業も発展せず、サービス業の割合が大きくなっています。そのため、資源供給だけの国になってしまいました。その主な原因は、モンゴル政府には「包括的な計画」がないことです。モンゴルの長所を活かし、長期に渡る雇用、資源を応用する分野を育てることができなかった。モンゴル政府はその場しのぎの決定だけを出しています。

デルゲルサイハン * ジャルガルサイハン