社会福祉とは「健康状態が悪化している、家族の介護や保護が欠如している、他者からの助けを受けずに自立した生活ができない、特別なニーズを必要とする人や社会福祉支援が不可欠な家庭における必要最低限のニーズを満たすため、国から年金、手当を給付し、特別なサービスを提供する活動を言う」とモンゴル国の「社会福祉法」に定められている。

社会福祉はすべての人間社会において必要不可欠である。世界各国の政府は、社会の特定部分に対して福祉政策を策定し、実施している。しかし、この政策による結果と利点は様々である。ラテンアメリカでは、社会福祉を受けるために子どもを学校に通わせ、ワクチン接種を受けさせ、研修を受けることを国民に要求することで、貧困を劇的に減少させた。オーストラリアでは、社会福祉は国民のニーズに基づいており、すべての人が社会福祉を受けるための申請をする権利を有するが、実際に社会福祉サービスを必要としている人のみに提供されている。

モンゴルの社会福祉

古代モンゴルの人々は、自然災害や戦争によって引き起こされた空虚さや貧困を無くすために、高齢者や孤児、障害を持った人を介護し、助け合っていた。モンゴル帝国(1206年)では、「貧しい人々を世話し、助けるためのファンド」が設けられていたと「モンゴルの秘史」の中に記述されている。

しかしそれから800年後、モンゴル政府の福祉政策は、貧しい人々を支援するだけではなく、より幅広い人々を対象とするようになった。現在、政府は16種類72項目からなる551の福祉サービスを年間80万人に提供している。つまり国民の4人に1人が何らかの福祉サービスを受けているということである。

社会福祉は、国や地方の予算によって100%賄われている。2015年にはGDPの1.1%となる2,606億トゥグルグが社会福祉政策に充てられた。これに子ども手当を加えれば、実にGDPの2.1%を費やしたことになる。今日、モンゴルの社会福祉は偏り、経済発展への足かせとなっている。

ユネスコの青年・識字・技能開発課の課長ヒロミチ・カタヤマ氏は「モンゴルに30万人の青年が無職の状態であり、労働市場に貢献していない。国全体に過度な福祉が広まり、且つ偏っているため、青年たちは学歴を持っているにも関わらず、就職しようという意欲が見られない」と言った。

また世界銀行は、「モンゴルの社会福祉は、実際のサービスを必要とする人々に届いておらず、寛大すぎるゆえに利点や効率性が少ない。そのため多様な経済基盤を構築することができていない。またモンゴルは鉱山からの恩恵を受けているが、その利益を適切に配分することができていない」と「鉱山と知」という報告書で指摘している。

私たちは得た収入をすべて消費に回し、将来的に得られる収入のために投資していないのが現実だ。

福祉と労働市場

今日、モンゴルでは働き手がいないと不満を漏らす経営者をよく見るようになった。実際に中小企業が直面している最大の問題は、投資や資金だけでなく人材難が大きなウェートを占める。大企業は、労働市場における数少ない能力のある人材を獲得するために、激しく競争している。

また一部の職種では、正規雇用が給与以上に高いコスト(給与、手当だけではなく様々な福利厚生なども含む)となるため、多くの職場で人々は非正規雇用で採用されている。これが、主にあまり能力を必要としない低賃金の職場において、人材が不足している大きな理由の1つである。

女性の場合も、家族の誰かが病気になると看病しなくてはならないこと、また育児など多くの問題が失業の原因となっている。

新たな問題として、近年、若者の間では習得した能力や専門性、職務上必要とされる能力において個人差が広がっている。この問題は、多くの分野で通用する一般的な能力の習得に着目し、再び専門性向上を図る教育プログラムを改善することで解決できる。これについてはランド研究所による2015年の調査が指摘している。

イギリス、ドイツなどの国では、社会福祉機能の1つとして「仕事を見つける」ことがある。労働する能力を有する者、つまり健常者は紹介された職業を3回続けて拒否すれば、福祉支援サービスを受けられなくなっている。また、貧困のための福祉を「子どもの貧困手当」とし、福祉の軸を全員にではなく、将来に向けるようになった。

福祉の新しい制度

モンゴルの労働生産性は、産出より投入の方が高くなった。つまり、モンゴル人の収入は生産に見合わなくなった。社会の労働生産性を高めるために、私たちは鉱山以外に高い産業技術を有し、将来に渡って収入を得られる分野を発展させなければならない。高い学歴を有する人材は相対的に増えてはいるが、彼らを受け入れ、その能力を活かす環境がない。そのため「頭脳流出」が起き、彼らは海外に出ている。この問題の解決策は、適正な組織や環境を整備することである。

こういったことから、モンゴル政府はこれまでの福祉政策について各プログラムの影響とその結果を評価し、社会福祉政策を再構築しなければならない。

最後に、現在源泉徴収されている所得税を雇用主ではなく、労働者が個人で納める制度を作る必要があるだろう。労働者の給与にかかる所得税を雇用主が国へ納税している。このため仕事をして所得税を納めているはずの労働者は、自分の給与の3分の1を税金として国に納めていることを十分に理解していないし、その実感も持っていない。言い換えれば、雇用主が労働者の所得税を国に納め、その残った分を給与として労働者に渡しているのだ。もし、労働者一人ひとりが給与を全額受け取り、そこから納税するようになれば、自分たちの税金を使っている政府の活動に、より主体性をもって監視できるようになる。民主主義国の国民は、政府の活動をよく監視している。モンゴルで国民が政治に対して積極的になる鍵はこれである。

他方、すべての人が個人で納税するようになれば、政府は誰に福祉サービスを提供し、誰に仕事をさせるべきかを決めることがとても容易になる。世帯収入が特定の基準を下回れば納めた税金を返還し、さらに福祉手当を給付する。これが社会収入の公正な分配における最も効率的な手段である。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン