アルマンド・トーレス氏はブラジルのサンパウロ大学で修士号を取得しました。彼の専門はプロセスエンジニアリングです。彼は2016年からオユトルゴイ社の取締役、2017年5月から同社の最高経営責任者を務めます。

J(ジャルガルサイハン): あなたはモンゴル経済にとって最も重要な鉱山プロジェクトに関わっています。単に大きなプロジェクトということ、またモンゴル経済への貢献ということで言っているわけではありません。オユトルゴイ鉱山は、モンゴル経済の主要な分野である鉱業におけるマネジメント体制や業務の安全管理規格などの構築に影響を与えました。あなたもそれは感じていると思います。あなたは鉱山プロジェクトをどのように運営していますか?

トーレス: オユトルゴイ鉱山は大きなプロジェクトであるため容易ではありません。私たちは14,000人の社員とその業務を管理しながら鉱山プロジェクトを運営しています。私たちは自分たちの価値観や正義を守り、日々の達成目標、業務の安全管理、社員の専門能力向上に努めています。また、株主からの投資を効率的に運用し収益を上げ、パートナー企業との連携や国内サプライチェーンの確立などに重きを置いてプロジェクトに取り組んでいます。これら全ての事業活動を効率的に進めるには強固なマネジメント体制が必要で、そのマネジメント体制を支える強いチーム作り、国内外の管理職間のバランスを調整することが大切です。私たちが日々適切な判断をするためには、こういった組織化が必要不可欠です。

J: 皆さんの事業は特殊なものです。私が理解している限りでは、オユトルゴイ鉱山は世界有数の大規模鉱山の1つです。オユトルゴイプロジェクトにおいて最も重要なことは業務の安全管理だと思います。地下1.5㎞の深部に1シフト何人が働いていますか?

トーレス: 地下深部には1シフト約1,000人が働いています。経営者としてはいかなる時も業務の安全管理を最優先にしなければなりません。安全管理が徹底されて初めてビジネスが正しい道を歩むということです。

J: 安全管理は鉱業のみでなく、リオ・ティント社は全ての事業活動で重視しています。安全管理を最優先にするために大事なことは何ですか?どんな組織でも安全管理規定はありますが、多くの人々はそれを怠る時がしばしばあります。各自が安全管理をきちんと守るようにするためには何をしなければならないですか?

トーレス: 安全管理は、私たちがプロジェクトを成功させるための裏付けとなるものです。まずは社員に身近なところから取り組ませることです。彼らに自分の身の安全を守るために安全管理規定を尊重することの重要性を理解させなければなりません。私たちは研修や管理実習を通して社員とより身近に接するようにしています。次に自分たちのマネジメント能力、リーダーシップを向上させることです。管理職は全ての活動に自ら参加し、社員を適切に指導し、彼らが安全管理規定を守っているか、安全管理規定に従って業務を遂行しているかを監督しなければなりません。こうすることによって仕事に対する安全意識を風土(マナー)として定着させることができます。もちろんこれには時間がかかります。車のシートベルトを締めるようになるのと同じです。世界でシートベルトを締めることが当たり前になるまで数年かかりました。しかし、今日では人々は車に乗ってまずシートベルトを締めるようになりました。これと同様に安全管理を習慣付ける必要があります。簡単ではありませんが人々の意識を改善し、マナーを定着させることは不可能ではありません。これは数多くの研修の実施、協力体制の確立、管理職が手本となり築かれた結果です。人々の習慣を変えることは、彼らを罰していることではないのです。この習慣を社員の協力と努力でできるということを理解させることが重要です。

J: 素晴らしいですね。現在、オユトルゴイプロジェクトには14,000人が働いています。全社員の95%がモンゴル人です。彼らにどんなことを認めていますか?特に人材開発において明確な施策や規程はありますか?或いは社内規定を定めて特別な条件などを認めていますか?

トーレス: 最も重要なことは、能力のある人材を採用する選考基準がなければなりません。採用後も必要に応じて研修を受けさせ、常に社員の能力向上を図っています。そして会社全体で人材登用における規程を明確にし、規程に応じて行われる業務について社員を指導することが重要です。また私たちと業務提携をしている企業は、私たちの活動や仕事に対するやり方を良く理解していなければなりません。規則やルールを作る以前に、社員や協力企業が我が社の規格を守っていくかという問題が発生します。だから私たちは規則やルールの策定を社員や協力企業が参加し、相互理解のもと、思いやりやモチベーションに基づいて行っています。これにより人々は自分がこのビジネスの一員であることを実感します。あなたに正直に言うと、我が社は最も快適な職場環境を整備した鉱山会社の1つです。我が社の社員1人1人がお互いを尊重し、自分たちがこの大きなプロジェクトの一員であることを認識しています。オユトルゴイはとても大きなプロジェクトです。そういう意味では今後も改善して行かなければならないことがいくつもあります。私たちは絶えず改善に向けて努力しています。

J: あなたたちが行う全てのことは事業計画に基づいています。あなた方の事業計画を12の金融機関が承認しました。そしてプロジェクトが予定期間内に実施され、成功できるように融資が決定しました。もし、全てが計画通りに実行されれば、もちろん計画通りに進むと思いますが、坑内掘りの開発はいつ終わり、鉱物の精鉱はいつ始まりますか?

トーレス: あなたは我が社の鉱山を見た人として、このプロジェクトがどれほど大規模かを想像できると思います。あなたが見たように、世界で最も大きい2つの立坑を建設しています。2つの立坑の深さは1.2㎞あり、これはブルースカイホテルの12倍に相当する高さです。この立坑を通り、一度に200人の作業員が入り、坑内掘りで採掘された鉱物を運び出します。また、全長200㎞の横坑を掘削する計画をしており、そのうちの50㎞掘り進みました。プロジェクトは時間的に厳しいところもあります。まず第1段階では鉱物の精鉱、輸送を2020年半ばから開始する予定です。鉱山の生産能力を2027年までに100%にする予定です。

J: ピーク時の生産量はどのくらいになりますか?

トーレス: 現在、私たちはおよそ15〜16万トンの銅鉱石を精鉱しています。

J: 生産期間はどのくらいかかりましたか?

トーレス: 昨年1年間で15万トンの銅を生産しました。今後はこの生産量を50万トンに増やす計画です。2027年までには銅の生産量を今の3倍に増やしていく予定です。

J: これから10年先ということですね。10年後には鉱山はどのレベルに到達しますか?

トーレス: 採掘期間は、オユトルゴイの埋蔵量から見て70〜75年だと思います。言うまでもなく定期的に新しく開発する必要があります。まずはオユトルゴイ鉱山の北部に位置する坑内掘り鉱床「北ヒューゴ」に深さ1.2㎞のエレベーターを設置します。次に深部1.5㎞のエレベーターを設置します。その後に鉱体の採掘を始める予定です。

J: 既存の立坑の地下にある鉱石の採掘が完了したら、次の立坑で掘削が行われるという形で採掘活動は続いていくのですか?

トーレス: はい、その通りです。

J: そうすると今後70年間採掘が続きます。そして次の世代を迎えますね。今の活動は次の50年間の事業活動の基盤を構築していることですか?

トーレス:  はい。その通りです。重要なことは、膨大な資金を投資したことより、私たちが今下す決定は全て長期的な視点に立ち、将来を見据えていなければなりません。私は鉱業分野の仕事に携わって28年になります。そのうちの20年間は管理職として務め、南米、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋諸国で仕事をしてきました。そして今はアジアで働くチャンスに巡りあいました。経営者としての経験から言うと、常に短期間の長続きしない決定を出させる状況があります。しかし、短期間で長続きしない決定は、長期計画を台無しにすることがあります。特に鉱業分野では、将来収益をもたらすための長期的な決定が必要不可欠です。だから私たちは将来を見捉えた寿命が長い決定を出し、長期的に収益を出すための取り組みを続けています。私たちが実施しているオユトルゴイプロジェクトは、モンゴル人と彼らの子どもたちだけではなく、次の、その次の世代のためのものです。だから私たちは、選択した決定に対して責任を持たなければなりません。私たちが下す決定が、モンゴルの何世代にも影響するからです。私たちは次の世代に何を残すかを慎重に考えて行かなければなりません。このビジネスを長期的に維持して行くために、どんな決定を下さなければならないかを考える必要があると思います。

J:  ちょうど今モンゴル政府、国会、監査機関からいくつかのワーキングチームが立ち上げられ調査をしています。彼らはどうして一斉にあなたの会社を調べ始めたのですか?あなたはどう見ていますか?

トーレス:  オユトルゴイは膨大な資金が投じられた大規模なプロジェクトです。モンゴルにいる全ての人がこのプロジェクトから多くのことを学んでいます。私たちは透明性をもって事業活動を行っています。政府のエージェンシーや省庁には私たちの事業内容を確認する機会を作っています。プロジェクトがどのように進んでいるかを全ての機関、省庁に見せるための努力をしています。私たちはこれからも政府エージェンシー、省庁、その他の機関に自分たちの事業やプロジェクトがモンゴルにどんな影響を与えているか、どれだけの収益をもたらしているかを理解してもらうために、彼らとの協力を継続していきます。今あなたが言ったワーキングチームの調査に関しては、我が社の事業に対する人々の誤解を解くチャンスだと見ています。一部の人がモンゴル政府とオユトルゴイプロジェクトが締結した契約書の1つ2つの条項を取り上げて批判する向きがあります。

私たちは契約書の条項についても将来を見据えて取り組まなければなりません。投資とは単に大規模な資本的な支援というだけではありません。投資は人材開発、技術革新をもたらします。今のこの投資は、将来入ってくる投資のテストケースです。将来を見据えてオユトルゴイ契約書の条項を読めば、モンゴルにとって有益な契約書になっていることが分かるでしょう。財政的にみれば、オユトルゴイプロジェクトによって75億ドル、つまり18兆トゥグルグの投資がモンゴルに入って来ました。各種税金や人件費及びその他の購買費などの会計上の金額で見ても分かると思います。資本の規模で私たちは世界第3位となる大規模なプロジェクトを実施しています。全社員の95%がモンゴル人です。このプロジェクトはモンゴル人が新しい技術を学ぶ大きなチャンスとなりました。新しい技術、働き方、優先順位の決め方、現代のビジネスについても学んでいます。その他に300人の取引業者と国際基準に適合した取引をしています。また、海外での奨学金教育プログラムも実施しています。

私たちが実施しているこれらの活動は、プロジェクトを長期間持続させるためのものです。私たちは約700社と協力して事業を行っています。彼らは新しい技術を学んでいます。人材及び技術における貢献を述べるとこのようなことが言えます。私たちは鉱業分野で先頭に立ち、モンゴル人の能力とリオ・ティントの技術を合わせて完璧な事業環境を築きました。我が社の社員は短期間でリオ・ティントの技術を習得し、効率良く働いています。 私たちがオユトルゴイプロジェクトを開始して5年になりますが、我が社に投資する海外投資家たちは私たちの成功を見通しています。今日までの利益はオユトルゴイ契約書が締結された日から始まりました。そのため、その契約書の1つ2つの条項だけを見てオユトルゴイプロジェクトを判断してはいけません。契約書を国際的な視点に立って見なければなりません。このプロジェクトがもたらす成果は、経済的な貢献よりも価値があります。

トーレス * ジャルガルサイハン