アユシ・アリウンザヤ氏は、ドイツ連邦共和国のハノーファー大学で社会歴史政治学の修士号を、国立経済大学で経営学の修士号を取得しました。彼女はモンゴル・ダートガル社で人事、トレーニングマネージャー、統括部長、モンゴル民主党の組織化、戦略計画部及び社会経済政策部長を歴任しました。またアメリカのジョージタウン大学ローセンターで、国際リーダーシップ及び国際契約・交渉規制の分野で専門性を向上しました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。今日、国家統計局が国の経済において果たす役割は非常に大きくなっています。国家統計局は設立から95年を迎えました。国家統計局の設立当時から話を始めたいと思います。

A.アリウンザヤ: はい、国の経済に限らず、個人の生活を始め、国の社会及び経済に関する政策の基盤となる統計データの作成は、モンゴル共和国が建国された1924年に始まりました。最初は、総務省内の統計・登録部門という形でわずか6名の構成員でした。正式な部門としての設立は1924年ですが、それ以前からも国勢調査や登録などは行っていました。昨年は人口調査開始100周年記念を迎えました。

J: 国勢調査は確か10年に1回実施していますよね?

A.アリウンザヤ: そうです。法律の定めによって10年ごとに実施することになっています。

J: 国勢調査については後ほど詳細に触れることとして、国家統計局の現在について話を聞かせてください。局員は全部で何人ですか、またどの省庁に所属していますか?

A.アリウンザヤ: 当初は総務省内の統計・登録部門という組織で6名の構成員で設置された国家統計局ですが、その後業務範囲を広げ、今は国会付属機関となり、全国各県に支部を置いています。正規雇用者は320人です。ですが各県庁や各省などでも、それぞれが担当する事柄について統計情報を纏めることがその義務となっています。このように国のシステムにおいて統計に関わる人たちの数というのは、おおよそ3000人を超えます。各県、省庁の担当者は統計情報を通年で、月ごと、四半期ごと、一年ごとに公開することになっています。

J: 昔から国家統計局は、モンゴル国内で最先端の技術を取り入れる機関でした。モンゴル初のコンピューター導入や、大画面ディスプレイを使ったのも国内では初でした。現在の高度に発展した技術を国家統計局はどれくらい使いこなせていると思いますか?

A.アリウンザヤ: 情報技術の高度な発展を遂げる時代にいる私たちですが、統計局に関わらず、国家機関はこういった高度な情報技術を積極的に取り入れ、無駄を省いた行政に力を入れています。情報収集でも紙の無駄遣いを省き、インターネットを通じて短時間で行われるようになりました。統計局も新しい技術を取り入れるようにしていますが、予算の都合上、特に地方では情報技術の活用が浸透していない状況です。

J: 具体的にはどのような活用が浸透していませんか?

A.アリウンザヤ: 新しい情報技術を取り入れるためには、私たち統計局だけでなく、市民の協力も必要です。例えば、オンライン調査を行う場合、個人がインターネットにアクセスし、回答するために必要な機器やそれを操作する知識が不足している場合があります。ですから、シンガポールなどのように全調査をオンラインで行うことは、まだモンゴルではできていないということです。

J: 統計局は1212.mnというウェブサイトを公開しています。このウェブサイトから自分の欲しいデータを簡単に手に入れることができるようになりました。現在の利用状況はどうなっていますか?

A.アリウンザヤ: 1212.mnウェブサイトを立ち上げたのが2012年でした。私が統計局に勤務し始めたのが2016年です。当時から私たちのチームが行おうとした改善は、統計ウェブサイトの利用をもっと便利に、情報提供をもっとシンプルで分かりやすくするというものでした。その結果、ウェブサイトの利用者数は5〜6倍に増加しました。

J: 統計情報は、国の現状などを知るだけでなく、ビジネスの世界でも非常に重要です。例えば、ミルク製造販売業者の場合、現在モンゴルにどれくらいのミルクがどこから輸入されているか、輸入分を国内で生産できる可能性はあるのか、誰が輸入しているのかという情報を得ることは可能ですか。つまり統計局と税関や企業との関係はどうですか?

A.アリウンザヤ: 情報源は同じ国家機関として貿易関連の情報は税関に集中しています。統計機関は政治的影響を受けることなく、正確な情報を国民に平等に提供する義務を負っています。しかし、情報公開には限界があり、個人や企業の秘密情報は公開してはいけません。そのため、どの企業が何の商品を輸入しているのかなどの競争相手についての調査を統計局が行うことはできません。ですが、商品に関する調査や営業を行う地域の人口密度などについての情報は取得できます。

J: あなたは今、情報源が国家機関だと言いました。すると、それらの国家機関が情報を提供して初めて統計局が統計情報を纏めることができるようになります。統計局とこれらの国家機関との関係はどうですか?

A.アリウンザヤ: モンゴルには統計に関する法律があり、その規定により統計局の権利・義務が定められています。情報収集には3つの種類があります。まず、カウントです。人口調査や畜産統計などがこれにあたります。これは統計局の職員自ら行います。次は、リサーチです。労働状況や一世帯の収支などについて統計局の職員自ら調査します。そして、行政情報です。各省庁が所管する事項に関する情報を統計局に提供しますが、統計局がその情報収集や提供に関する指導を行います。

J: あなたは最近アジア太平洋統計研究所の運営に関わっていましたね。

A.アリウンザヤ: はい。モンゴル国家統計局は国際的に高い評価を受け、国際機関との交流も盛んです。私自身もこういった国際交流には積極的に取り組んでいます。モンゴル国家統計局は、絶えず改善を行っているので、国際的にも良い事例だと言われています。

J: 例えば?

A.アリウンザヤ: 例えば、1212.mnです。各国の統計データの公開状況、ここではウェブサイトで国民に提供すべき情報のどれくらい公開できているかを比較します。そして、その公開している情報に個人がアクセスし、ダウンロード可能かなどを評価します。186国の中で、2018年は世界11位、アジアでは1位でした。情報提供の方法も評価されています。

J: モンゴルは携帯電話の普及率が高くなっています。人口320万人に対して400万台以上の携帯電話が登録されており、そのうちの270万台がスマートフォンとなっています。こういった状況も関連しているのかもしれませんね。

では、続いて畜産統計はいつ行われていますか?

A.アリウンザヤ: 畜産統計は毎年行われています。

J: 畜産統計についてこういう話があります。遊牧民が家畜を担保に借金をするため、県知事や村長などが家畜数を登録上増やしているという話です。つまり、モンゴルの家畜頭数は実際には7000万頭を超えていないと。このことについてはどういう対策をしていますか?

A.アリウンザヤ: 畜産統計は統計局のみが担当して行っているのではなく、食糧・農牧業・軽工業省や各県知事と協力して行われます。県知事が自らそのような不正行為をすることは許されません。そして、確認のカウンティングも行われます。厳格な責任の下で行われる調査です。社会主義時代には誤った家畜数を報告したため刑務所に入れられることもありました。今日の民主主義社会ではそれほどの処罰はありませんが、自らの職務に強い責任感を持って果たすしかありません。一方、遊牧民も家畜の数よりも質を上げることに注力すべきです。なぜなら牧草地の問題があるからです。遊牧民が組合を組織し、家畜頭数に対して税金を納めると声を上げはじめています。

J: 牧畜に対して税金を課すことになった場合、まず先に家畜頭数を正確に把握することが求められます。例えば、イギリスなどでは組合やコミュニティで、個人が何頭まで家畜を飼うべきかを定め、それを上回った場合は税金を課すようにしています。モンゴルもこのような新体制に移る時が来ているのではないかと思います。現在モンゴルでは、このような体制に移行するために準備がされているかについて、関連機関との共同作業などは行われますか?

A.アリウンザヤ: もちろんです。国の政策に関するものなので、統計局は食糧・農牧業・軽工業省と緊密に連携しています。つい最近、家畜の衛生に関する法律である家畜遺伝資源法が施行されました。各村に動物病院、家畜の遺伝資源に関わる職員5人ほどの施設が新しく設けられました。法整備はどんどん進んでいます。最終的には、遊牧民の放牧地から店頭販売されるまでの過程を消費者が詳しく知ることができるようにしたいと考えています。これには時間がかかりますが、一歩ずつ作業を進めています。

J: ウランバートルで売られている食肉の10%が最新の技術を用いて衛生的に生産されていますが、残りの90%の食肉は昔ながらの解体方法をとっています。これについて懸念する統計データなどはありますか。例えば、このような不衛生な環境がいつ改善されるかなどです。

A.アリウンザヤ: 統計局が本来やるべきことではありませんが、例えば、こんな話を聞いたことがあります。ある男性が公務員試験で、「統計局とはどういうところか」と問われたときに、「貧困率の数字データは出すが、貧困率を下げるためには何もしない機関だ」と答えたそうです。統計局の任務とは、社会の現状を数字で表し、現在社会が直面している問題は何か、それを解決しないままにするとどうなるかなどを伝えることです。政策を考え、それを実現するところではありません。

J: 私は2000年まで外国投資部長を勤めたことがありますが、外資を登録する際、どの会社にどれくらいの投資をするかを登録していました。そして、その年にどれくらいの投資が行われたかについては、税務機関だけが発表していました。外国投資に関する統計情報の公開は今どうなっていますか?

A.アリウンザヤ: 外国投資のみを担当する国家機関が廃止されたため、今はモンゴル銀行、税関、国家開発庁のすべてで外国投資を担当するような法制度となっています。外資に関する公式統計情報をどのような方法を用いて、どの機関が出すか、またあるいは外国投資部を再び設置するかを決める必要があります。

J: 外資問題は非常に重要な問題です。発展途上国にとっては希望する、しないに関係なく、外国投資無くして国の発展は望めません。なぜなら、国に発展のための資金が無いからです。つまり、外資でどれくらいの資金が流入したかを明らかにしなければ、ドルやトゥグルグの為替を規制できなくなります。ですから、あなたが言うように担当機関が不明なため、外資に関する公式統計情報が分からない状態が続いています。これについて政府はより注意を払うべきだと思います。

A.アリウンザヤ: 外資に関する統計情報は公表していますが、外資を登録するだけでなく、外資が増加しているのか、それとも減少しているのか、その理由を明らかにすべきだと思います。そして、外国の投資家にもモンゴルへの投資のメリット・デメリットについての情報を提供すべきだと考えます。

J: 外国投資家が持ち込む資金全てが投資だとは限りませんよね。

A.アリウンザヤ: モンゴルの市場に投資として残るのがどれくらいかなどの統計情報を出す必要があります。

J: 外資を専門に担当する国家機関がないので、例えば、モンゴルは日本とEPAを結んでいますが、実際は主に中古車の輸入しかありません。そしてモンゴルから日本へ輸出される商品は対象外の商品として免税されないことがしばしばです。これは解決しなければならないことです。続けて、人口調査について少しお話ししようと思います。今年の人口調査の特徴は何でしたか?

A.アリウンザヤ: 2020年の人口調査の特徴として、登録情報に基づいた調査と、伝統的手法を用いた調査が行われたことが挙げられます。どういうことかというと、登録情報に基づいたというのは、国が保有する国民に関する全ての情報と統計局が管理する情報を合わせて確認し、統計を作成したということです。一方、人口の10%を対象に、詳細な質疑応答を用いて情報を収集しました。インターネット技術の発展に伴い、このように実際に面談じて情報を収集する手法はこれから無くなるのかもしれません。

J: 海外在住のモンゴル人の人口調査はどうですか。例えば、親がモンゴル人ですが子供が外国で生まれ、その国の国籍となった場合などどうなりますか?

A.アリウンザヤ: 外国に住むモンゴル国民の人口調査は、外務省や国境検問所、その他行政機関と協力して行われます。また1970年代から始まったモンゴルの戸籍登録には、家族の誰かが外国に居住しているかについての情報も把握されてきました。その情報を基礎にしています。また、新型コロナウイルスとも関連し、自分がどの国で家族何人と住んでいるか、当該国の大使館にインターネットで任意に登録をするように呼び掛けています。

J: 親がモンゴル国籍で、子供が外国国籍であったら、子供についても記載すべきですか。

A.アリウンザヤ: そうです。親の子供であることに変わりありませんから記載してもらいます。しかし、モンゴルは二重国籍を認めていないため、人口調査統計データには入りません。

J: すると外国籍となっているモンゴル人の人数もカウントする必要が生じてきますね。

A.アリウンザヤ: はい。人口調査の中には外国に住むモンゴル人に関する統計情報も公開しています。人口調査とは、何人いるかという数字だけの問題ではなく、経済力、宗教、住居なども含めて調査するものだからです。

J: 2020年の統計情報はいつ公開されますか。

A.アリウンザヤ: 今は収集した情報を精査しながら登録する作業が続いています。3月にダイジェスト版ができると考えています。

J: 財産、国有財産、共有財産など財産に関する統計をどのように出しているのかとかに関して続けてお聞きしたいことはたくさんありますが、時間に限りがあるのでこの辺で終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

A.アリウンザヤ: ありがとうございました。

アリウンザヤ * ジャルガルサイハン