ジャルガルサイハンはディリー・ニュースのジャーナリスト、R.ヒシグジャルガルからインタビューを受け、その様子がデイリー・ニュースに掲載された。

R.ヒシグジャルガル:あなたは今日のモンゴル経済をどのように見ているか。

D.ジャルガルサイハン:新型コロナウイルスの感染がこれほど広範囲に広がるとは、どの国も予測していなかった。モンゴルの国境は半年間封鎖されることで、経済活動がどのようなものになるかは明らかだった。物質的な富を生み出す産業はすべて停止した。そのため、国民の生活を守るために、政府は経済の流動性の維持に努めた。

政府は国境を約10ヶ月間封鎖したまま、ワクチン接種が始まるまでなんとか持ちこたえることができた。現在、ワクチン接種は積極的に行われているため、今後景気は回復するだろう。経済を正常に回し続けるために、まずマネーサプライを潤沢に供給する必要がある。そのために、前政権では5兆トゥグルグ、現政権は10兆トゥグルグのプログラムを実施している。

このプログラムの焦点は、第一に雇用維持、第二に、何世代にもわたって存在した住宅問題の解決である。この機に既に建設が完了した住宅にソフトローンを提供している。国民は、一連の経緯をマスコミ報道からみている。そしてその成果については、時間が経てばわかるだろう。

総額2兆トゥグルグの金利3%のローンが、既に6,500億トゥグルグ分交付されている。このローンの基本金利は9%であり、差額の6%を政府が支払うことになっている。これは、国にとって大きな負担となる。この状況を受けて財務大臣は、「国家予算に想定していなかった負担が発生している。その負担を軽減するために海外から支援を受ける必要がある。」と言った。

もともとモンゴルは比較的国債の発行高が大きな国である。国債は、期限内に返済すべきもの。今のところモンゴル政府は、高い金利を謳ったマザーライ国債の償還を期限内に達成できた。政府は、このように新型コロナウイルスの影響下でも、できる限り対応し、闘っている。

もし、モンゴルが新型コロナウイルスを抑え込むことができれば、7月1日から経済は急速に回復するだろう。例えば、長期にわたって自宅で自粛していた人々は、止めていた水を流すかのようにビジネスを再開し、貿易やマネーサプライに加速度的な影響を与えるだろう。したがって、経済が急激に活性化するとみている。今年の第2四半期にモンゴル経済は急成長するだろう。

R.ヒシグジャルガル:中国経済の回復、銅の価格は影響するのか?

D.ジャルガルサイハン:もちろん影響する。モンゴルの経済は鉱業に依存しているので中国に石炭、銅などを輸出するためのインフラにも大きく左右される。それは中国までの鉄道建設がいつ完了するかにもよる。

その他にも石炭精鉱所の建設を始めていると聞くし、そうなれば発電所の建設も開始するはずである。このように大きなプロジェクトがスタードすれば、経済の循環が加速する。中国経済は、新型コロナウイルスの影響から急速に回復している。銅の需要は世界中でより一層高まっている。人類は次の技術革新へと突入している。モンゴルはこのことに気付いていない。

技術先進国では、まず5G、次にブロックチェーン技術が勢いを増している。この2つの技術を基礎に電気自動車の製造が急増している。電気自動車の製造には銅が使われる。また、半導体チップの製造は、需要に対して供給が追い付いていない。そのため、一部では自動車の製造が予定より遅れる事態となっている。

新型コロナウイルスの感染はじきに収束するだろう。私たちは、電気自動車の時代へ移行する。これは時間の問題だ。これによりどのような問題に直面するのかと言えば、現在使用されている30〜40万台のプリウスをどうするかということだ。ほとんどのプリウスは日本からの中古車であり、1台の車に約20本の電池が搭載されている。特に、外出制限により長期間使用していない中古車はエンジンがかからないという不具合が発生しているようだ。そうなると電池を交換しなければならない。しかし、古くなった電池をどうするのか?どこに廃棄するのか?電池は環境に悪影響を与えるため、電池を処理する工場を建てる他に選択肢がない。なぜならば、ロシアと中国は、古い電池の空輸を禁止しているからだ。

R.ヒシグジャルガル:全国労働党による「大統領を指名しよう」というキャンペーンで、大勢の人があなたの名前を挙げ、全国労働党はあなたを大統領候補に指名する提案をした。あなたがその提案に応じなかった理由は何か?

D.ジャルガルサイハン:私を指名してくれた全国労働党や多くの人に感謝を伝えたい。私はこれについて慎重に考えてみた。しかし、私は非政治的な社会活動家なので、今後も社会活動を続けて行くことが使命だと思った。

一般的に、民主主義と民主主義の価値観は、政府組織が上からではなく、市民によって下からサポートされるべきである。なぜならば、民主主義政府は、市民社会によって監視されて修正されるものだからだ。私たちメディアには重要な役割がある。しかし、まだ私たちはその役割を十分に理解していないと思う。

私たちは、人類の半分が手にできなかった民主主義、その基盤となる人権と自由市場、どこに住み、何をするかを選択するなど大きな自由を手にした。したがって、この価値観を強化し、維持し、自国の土壌に、人々の脳に根付かせるためには、一人ひとりの参加が必要不可欠である。市民の参加無くして政権を選択できず、そして国は発展しえない。政府とは、他の人々の資金、つまり税金で運営されているため、人々が思うほど良く機能する機械ではない。

政権を選択し、そのための情報を有する市民社会は、常に政府を監視し、修正し、そしてまた選挙によって政権を交代させる。私たちは、この民主主義のシステムを十分に活用できていない。主な理由は、市民社会が成熟しておらず、人々も消極的でいるからだ。できることといえば、ソーシャルメディアで「悲鳴を上げる」ことが限界となっている。それでも最近は、人権や女性の権利を求める運動が起きるようになってきた。これは正しいことだ。

私は市民社会の発展のために毎週記事を書き、テレビでインタビューを行い、自身のウェブサイトに公開するようになって10年が経つ。記事は英語、日本語、ロシア語、韓国語でも出ている。なぜならば、民主主義の価値と欠点はすべての国々に当てはまるものだからだ。私たちの隣国では、トップが何十年も交代していない。モンゴルではそこが違う。以前、大統領の任期は4年だった。それが現在6年になった。その結果、国家の政策は安定しておらず、政権は頻繁に変わるようになった。

だが、これは特定の政党や派閥が独占しないことの証左でもある。民主主義は、多数決で行われる。ただし、多数決によって選ばれた政府は、少数派の利益を保護して行かなければならない。そうすれば、私たちの発展のスピードは加速していく。今日、私たちの民主主義政府には唯一の障害がある。それは腐敗である。

モンゴルの腐敗は政府のあらゆる段階において根深く浸透している。まず鉱山ライセンス、次にウランバートル市の土地に関する腐敗、今では権力と役職、海外出張などと続いていく。腐敗の生きた例は、ボグド山である。ボグド山のすべての谷は腐敗のモニュメントとなった。この問題は今も解決されないままだ。多くの若者が明日に希望を持つことができず、海外に逃げていく。チャンスがあれば外国に行こうとする。

R.ヒシグジャルガル:あなたは政党間の動きをどうみているか?一部の政治家や人々は、もし、政権与党から大統領が選出されれば一党独裁が確立されると言っている。一党支配は、民主主義に影響を及ぼすと思うか?

D.ジャルガルサイハン:民主主義において、政権を統治する唯一の機関は政党である。しかし、複数の政党、せめて選択肢がなければならない。民主党は、共通の理解や利益で団結した強いグループとなっていると思われていたが、今では党内に2つの頭を持っている。人民党と民主党が、モンゴルの主要な政治勢力となって久しい。しかし、この2本柱の1つが内部で2つに分かれて揺れている。

なぜ、こうなったのか。政党の資金調達が不透明であり、それを政府も黙認しているためだ。より資金を持っている方が選挙に勝つこととなる。モンゴルの政治では権力闘争が繰り広げられている。政権を握っている権力者は、自分たちの利益を守り、それを維持しようとしている。政党は、自分たちに資金援助をしている集団の利益を守ろうとする人々の集まりになってしまった。

政府は、派閥を守り、別の派閥を抑圧し、公正な競争を排除し、自分たちの味方となった人に役職を与えることに躍起だ。今まで何十もの発展途上国が、このように民主主義から後退した。

私たちは、国民に対して財務報告書を公開しない政党を支持してきた。この状況が長引くほど、民主主義は弱体化する。民主党の現状がこれを示し、社会に警笛を鳴らしている。

人民党は、相対的に組織化しているものの、内部の民主主義が弱く、重要な決定を党首が独断で決める。これは深刻な問題である。もし、党の決定を党首のみが出し、党員の参加がなければ、民主党のようになるのは時間の問題だろう。デファクト研究所は、イスラエルの研究所と協力して政党の内部民主主義に関する調査を過去3年間に実施し、モンゴル語と英語で発表した。

一方、モンゴルのメディアは、市民社会の重要性についてそれほど言及していない。メディアは、人民党又は民主党を支持する以前に、専門的かつ現実的な評価を行う必要がある。一方を正当化しようとする傾向は、ジャーナリズムの評判とジャーナリストの報酬を落としている。現在、モンゴルには500以上のメディアがあり、それらの75%を政治家が所有している。

R.ヒシグジャルガル:当番組「情報の流れ」についてはどういう感想を持っているか?

D.ジャルガルサイハン:正直、私はこの番組を良く知らなかった。特徴ある番組は、他の番組とコンセプトや姿勢において異なるものでなければならない。全ての番組が同じ情報を提供すれば、多元論は失われてしまう。森の中ですべての鳥が同じように鳴くようになればどうなるだろうか。意見は多いほど、強力なものになる。協同とは、異なる意見を持つ人々が団結することであり、見解を同じくする人々が団結することではない。

R.ヒシグジャルガル:実際、民主主義は、日々脆弱になっていると思うか?

D.ジャルガルサイハン:より脆弱になっている。今後どうなるかは、国民がそれをどのように理解しているかによると思う。

R.ヒシグジャルガル:今日の状況では、国民にとって収入だけが関心事であり、社会問題はそれほど重要ではない。このことが政党や政治家にとって有益になっている。

D.ジャルガルサイハン:そのとおり。国民が無関心であればあるほど、政党にとって都合が良い。国民は、政党や政治家の表の顔に騙され、裏でどれほどの金を動かしているのか気づかないことが多々ある。腐敗した政府は、多くの人の良いビジネスの機会を奪うものだ。腐敗した政府は、政府と関係がある人々にだけより多くの機会を不正に与えている。

その明白な事例は、表向きは政府のものだが、実際には政党が所有している企業だ。これは公正な競争を妨害している。政府は「国民のために設けられた制限だ」と言うが、実際、それこそが有害だ。例えば、政府がガソリン価格を維持するのではなく、自由化すれば、企業はコストを競うことになる。その結果、私たちはガソリンを安く買えるようになる。モンゴルには約30社近くのガソリン供給企業がある。政府は「あなたたちはガソリン価格を釣り上げてはならない」といい、価格維持プログラムなどの措置を講じている。これは常に政治的なロビー活動である。

自由競争がないから、企業は競争し、新しい雇用を創出することができていない。失業率は増加している。同じことがメディアにも言える。解雇される可能性が最も高いのはジャーナリストだ。なぜなら自由競争がないからである。

あなたは、大統領や大臣が所有しているウェブサイトやテレビとどう競争するのか?自由競争がない世界では従順な人が雇われ、有能な独立者は解雇され、さもなければ給料を引き下げられる。社会全体に競争がないから雇用が不足し、人々は韓国に出稼ぎするはめになる。国民の収入が減り、政治家は票を買うことがより容易になっている。このような悪循環が定着している。

R.ヒシグジャルガル:腐敗を減らすために、どこで、どのような改革が必要か?

D.ジャルガルサイハン:まず、政党の資金調達を透明にしなければならない。

次に司法制度を公正にするために、主要な裁判官を国会議員のように選挙で選ぶようにすべきだ。そして、司法に対する大統領や政府の影響力を止めなければならない。三権分立とは、一方が法律を作成し、もう一方がそれを施行するものである。そして3つ目は、これが適切に施行されているかどうかを監視する独立機関でなければならない。しかし、すべての裁判官は他の2つの機関に依存するようになり、その過程で自分たちの利益を追求している。したがって、モンゴルでは正義が失われているといえる。正義が失われたところに人々の良い暮らしはない。

このような腐敗を抑制できなければ、暴動が起きる。多民族の国では市民戦争(内戦)、多数の宗教があるところでは宗教紛争が起きる。こういったことの裏では政治家が糸を引いている。私が言おうとしているのは、自由経済と開かれた民主主義の国では、経済が発展するということだ。ここでは、1つの例としてシンガポールを挙げることができる。シンガポールは独裁政権ではあるが、自由経済と開かれた民主主義によって経済を発展させることができた。

第3に、国家は、今日まで公的資金を横領したすべての人々を法律に則って責任を追求しなければならない。民主主義では、自分の努力で創り出したものだけが自分の財産であり、何もせずにいきなり金持ちになり、それを説明できない場合は、その財産は返上すべきだ。しかし、誰もそんなことはしない。だから、政治的な大きな正義の改革が必要である。真相を理解していない国民に対して、人民党と民主党を表向き闘わせることが彼らにとって都合が良いからだ。仕事もなく貧しい暮らしを強いられている人たちが、人民党や民主党を支持するようになる。

R.ヒシグジャルガル:モンゴルの大統領とは、どんな人物であるべきかは法律で規定されている。そうではなく、今のモンゴルには、個人としてどのような大統領が必要だと思うか?

D.ジャルガルサイハン:正義感のある人でなければならない。大統領になる人物は、兄弟や親戚の物質的な利益のために動いてはならない。憲法で大統領は1期のみと規定されているので、再選の準備をする必要がない。だからモンゴル大統領は、正義の象徴であることができるはずである。今日のモンゴルには、団結より正義の象徴である大統領が必要である。

私たちは今、危機的な状況にある。私たちは創造性のある子どもや若者を教育・育成し、彼らが創造的な考えができるようにし、世界に挑戦する機会をつくる必要がある。そうすれば、彼らが月1万ドルの給与を得る可能性が開けてくる。他国の子どもたちが学んでいることをモンゴルの子どもたちも学ぶことが重要だ。

そのためには柔軟で回復力のある教育システムが求められる。特に中学校までは子どもの人間形成を重視しなければならない。子どもに互いを尊重し、愛し、自己を表現できるような教育が必要である。その後、知識を教えるべきだ。

私はこういったことを長年研究してきた。モンゴルにはフィンランドの教育制度がぴったりだと思う。フィンランドでは、4〜5年生まで子どもに成績をつけない。16歳のフィンランドの子どもたちは、国際学習到達度調査などで優秀な評価を受けている。

R.ヒシグジャルガル:若い科学者はほとんどいない。モンゴルの教育政策がどこで間違って、若い科学者が不足しているのだろうか?

D.ジャルガルサイハン:政府には知識のない政治家が選ばれている。教師も知識がなければならない。教育制度における問題は、例えば、教師の給料が挙げられる。教師は、社会保険料として給料の25%を国から徴収される。本来、これは保険ではなく、貯蓄であるべきだ。その意味は、個人のお金なのでその個人が定年する時にこの徴収されたお金を返還してもらうべきということだ。政府は徴収した保険料を2倍にして返還すれば、教師が定年する時に多額のお金を受け取ることができる。こうすれば、教師という職の評判が高まり、成績が優秀な子どもが教師を目指すようになる。このようにして優れた教師が生まれ、科学の素晴らしさを子どもたちに伝えるようになる。

今日、弁護士やエンジニアを目指す子どもは多いが、教師を目指す子どもは少ない。フィンランドでは教師になるための競争は激しい。それほど教師の給料と評判は非常に高いものである。小学校から高校まで、フィンランドの教師は全員が修士号を取得している。フィンランドの教師は、2、3年毎に継続的に再訓練を受け、教育に取り入れられる新しい技術を学んでいる。子ども一人ひとりがタブレットを持っており、1クラスの生徒数は20人以下である。