地方経済に発展の兆しが見えないモンゴルでは全人口の半数が首都に集中し、ゲル地区の拡大が止まらない。ゲル地区が拡大するにつれ、石炭燃焼時の排出ガスによる有害スモッグ、地面を掘っただけの仮設トイレからの糞尿が土壌を汚染し、住民に深刻な健康被害をもたらしている。首都ウランバートルの大気・土壌汚染は現在も拡大している。

国際連合児童基金によると、2017~2025年までの8年間で首都ウランバートルの大気汚染による疾病の治療に248億トゥグルグが必要になるという。2035年にウランバートルの人口は230万人になると予測されている。この人口増加による環境汚染、土地有効利用、雇用などの大きな問題が我々を待ち受けている。

市内の大気汚染、土壌汚染を減らすための最も有効な方法は、ゲル地区の住宅化である。しかし、これはどのように実現できるのだろうか?

都市への一極集中を緩和する方法

地方の生活環境を改善しなければ、都市への人口流入を止めることはできない。地方の生活環境を改善するためには、インフラ敷設、住宅建設、雇用環境を整備する必要がある。

地方に必要な資金を調達するには、まずは中央が管理している地方の住民税や法人税の少なくとも3分の1を、それ以外の地方税収の半分以上を地方に残すようにすることだ。首都には人口全体の46%、国内総生産の70%が集中しているが、それでも全ての税収の半分は地方に交付されるべきだ。

政府が国民の声に耳を傾け、共に協議して解決策を見つけることで成功したプロジェクトは、都市だけでなく地方でも見られる。今までは全ての税金を首都に集中させ、わずか一部を地方に交付してきた。時には一切交付しないため、地方の発展の道は閉ざされ、人々は都会へと移住している。

地方自治体には資金がないため、国からの交付金に頼る他に選択肢がない。地方が自ら税収を得られるようになれば、社会的な投資のために債券を発行して資金調達を行うことができる。この手法は先進国では幅広く取り入れられている。この様な債券を証券市場ではCD(Certificate of Deposit:譲渡性預金)と言われている。そして地方が発行する債券による収入(Coupons:利札)は税控除の対象とされるべきである。

住宅資産と品質保証

ウランバートルには数多くの住宅が建設されているが、販売価格は高く、ゲル地区の住民には手が届かないものとなっている。その主な原因は、住宅用地の許可が殆ど賄賂によって裏取引されていることにある。例えば、トール川の川岸とボグド山周辺を住宅用地として開発することは法律で禁止されており、観光施設のみの建設が認められている。しかし、トール川の川岸とボグド山周辺には数多くの住宅が建てられている。これらの住宅は裏取引や賄賂で建てられたもので、不動産証明書は交付されていない。つまり、この住宅を売却することは困難な状況だ。

こういった問題を解決するため法律を見直さなければならない。新しい都市計画を改めて作成し、そこに人々が生活して行く上で必要不可欠とされる雇用環境、学校や幼稚園、緑地開発、水道や光熱インフラを地方の予算で建設する必要がある。これらの建設に当たっては建築会社の入札を行い、建設工事を実施する。地方や都市でも、債券を発行することで大規模プロジェクトであるインフラ整備を行うことができる。そしてプロジェクトの遂行は保険会社が担保する。

住宅開発で重要なことは、土地を開発する事業者、建設する事業者、販売する事業者、販売後の管理を担う事業者など、それぞれの段階に担当する事業者が存在することである。今日のモンゴルでは、建築会社が自分で土地を探し、建物を建て、販売し、管理など全てを単独で行っている。これが住宅品質の低下を招いている。本来、不動産は時間と共にその価値が上がるものである。徴収される固定資産税の半分は、その不動産周辺の環境改善に充てられるべきである。

ウランバートルの歴代市長たちは、都市債券発行について過去何度か話してきた。しかし、予算執行権限は政府に集中しすぎているし、国家財政赤字が原因で地方自治体に徴収した税の一部を残したり、それを使って債券を発行することが許可されてない。2016年9月に可決成立した債務管理法により、都市が債券を発行する権利が失われてしまった。

日本とモンゴルは同じく民主主義体制の国だが、日本は国と地方の予算比率を収支で比較した特別法がある。税金を運用する都市や県の首長は住民の中から直接選挙で選出される。2016年の東京都知事選で初めて女性候補者が当選した。彼女は東京都の緑化開発を促進するための償還期限5年と30年の「東京グリーンボンド」を発行した。東京グリーンボンドは、主に日本の大手企業、銀行、保険会社などに買われている。

外国では、国民の生活に直結する社会福祉や教育施設、防災、橋梁道路建設など、社会におけるインフラ整備は地方自治体によって実施され、それが最も効率的であることを証明している。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン