2019年5月3日、ドイツのドレスデンでモンゴルの外交官ナンバーをつけた車がドイツ当局により止められた。車内を捜査したところ、70kgのヘロインが発見された。この外交官ナンバーをつけた車には、イスタンブールに駐在するモンゴル領事館の副領事B.バトトゥシグ、運転手のS.エルデネバヤルらが乗っていた。

近年、麻薬の使用、売買、密輸などの事件が後を絶たず、その度にモンゴル社会に衝撃が走っている。これらの麻薬犯罪はなぜ起きるのか?またどんな害をもたらしているのか?どうすれば止められるのか?人口わずか300万人のモンゴルは、麻薬犯罪に向き合い、子どもたちや国の将来を守らなければならない状況に直面している。

麻薬

モンゴル人が昔から「麻薬」と呼んできた物質は、人間の脳や神経を刺激する植物性の薬物である。この植物性の薬物はカンナビノイド、マリファナ、ハシシなど多種にわたる。これらの薬物は化学的方法で製造することができる。すべての麻薬に共通することは、テトラヒドロカンナビノール(THC)という物質が含まれていることだ。このTHCは直接人間の脳に作用し、体内のアドレナリンを増やし、依存性を誘発するドーパミンの量を急増させ、自己をコントロールする能力を失わせる。そして、飛んでいるような感覚を覚え、優越感を感じ、感情が急に高くなり、性欲が増す。あるいは急に落ち込んだり、怒鳴ったり、身体を傷つけたり、自殺願望を覚えさせるものである。

麻薬は使用すればするほど依存するようになり、身体に広く深く浸透する。脳内のホルモンバランスが変化し、細胞が破壊され、脳の情報処理がうまくいかなくなり記憶などの機能障害を引き起こし、神経網を損傷し精神障害をもたらす。また視覚、嗅覚、聴覚に影響し幻覚や幻聴などを引き起こす。胃腸の正常な機能が損なわれ、食欲が低下し栄養失調に陥り、急激に痩せ細る。さらに肌が浅黒くなり、脱毛など老化が早まる。

麻薬を摂取しはじめて1分以内に心拍数は20〜50も高くなり、その状態が20〜180分も続く。震え、怒り、興奮などの症状が起こる。そして麻薬がその効果を失った時に強い頭痛や目眩を引き起こす。視覚の集中力が損なわれ、疲れや不眠、うつ病に陥る。血管が麻薬で汚れているため、人間は依存し、麻薬を強く求めるようになり、手に入れるためなら何でもするようになる。

麻薬を初めて使用した人の5人に1人は依存症になることから逃れられるが、5人に4人は再び麻薬を使用するようになる。

違法薬物

モンゴルは2016年から麻薬犯罪のデータベースを構築し、現在1,500人が登録されている。データベースを作るようになった理由は、2015年からモンゴルは麻薬使用国となったからだ。モンゴルでは、麻薬使用者数は日に日に増加している。2014年に61件の麻薬犯罪に153人が関与していたが、この数字は年々増加し、2018年には199件の麻薬犯罪に412人が関与した。この中で337人が男性、75人が女性であり、そのうち未成年者は6人だった。

麻薬を売れば短期間で多額の金を手に入れることができるという、人間の貪欲さを刺激する風潮が社会に広がっている。近年、麻薬を国外から荷物や体内に隠して運ぶだけでなく、郵便で受け取るようになっている。

諜報庁の情報によれば、世界の麻薬の違法ネットワークの中枢となるタイ、ラオス、ミャンマー国境(ゴールデントライアングル)の犯罪組織にモンゴル人もいるという。主に東南アジア諸国にいるモンゴル人の学生や売春婦が「運び屋」の役割を担っている。モンゴルの国民の生活水準が低く、麻薬についての知識や情報が不足していることや、東南アジアの殆どの国にビザなし渡航が可能なため、モンゴル人は麻薬犯罪に巻き込まれやすくなっている。モンゴル人が関与している麻薬犯罪の大半が中国との国境を結ぶエレンホト市で起きている。

麻薬の密輸ルートで経由する国に麻薬の20%が残るという国際調査がある。子どもたちは、麻薬についての知識が薄く、好奇心が旺盛なため麻薬犯罪の犠牲になりやすい。他人の影響で簡単に麻薬を使用する。麻薬防止組合が2018年に児童1,000人を対象に調査したところ、「4人に1人が麻薬を使用していることを認め、さらにクラス全員で使用していたケースもあった」と発表した。現在、国立精神病院に入院している患者の大半が18~20歳の若者であり、患者数は2018年に3倍に増加したという。

麻薬犯罪が横行しているもう1つの要因は、モンゴルでは法律に則った刑罰を執行していないことにある。例えば、2015年7月、元国会議員の息子で交通検察官のKh.T氏は麻薬使用中に逮捕された。2017年に裁判所は判決を下す際に彼の麻薬使用の罪に恩赦を与え、彼が関与した贈収賄事件にのみ量刑を言い渡した。しかし、彼は判決を不服として控訴したが、間もなく事件は消滅した。しかし、彼は弁護士と一緒に再び麻薬を使用していたところを逮捕された。

また、G.サランゲレルという人物が麻薬を陰部に隠して中国から密輸しようとしたところを国境検問所で見つかり逮捕された。これはG.サランゲレルにとって3回目の麻薬絡みの逮捕だった。彼女の初めての麻薬犯罪は自分が麻薬を使用したことだった。2回目は麻薬を売買したことだった。3回目は、今回の麻薬の密輸だった。

モンゴルは法律に則った刑罰を下し、執行することができていない。これが麻薬犯罪を繰り返す要因となっている。モンゴル国刑事法第192条に「麻薬や精神に影響を及ぼす薬物や物質の違法な製造、所持、保管、運搬、輸送、売却の罪を犯した者は15年以下の懲役刑に処す」とある。しかし、この刑罰による懲役を終えるまで服役した者は1人もいない。

青いパスポート

モンゴルの外交官パスポートの表紙の色は青い。このパスポートを麻薬の違法売買や密輸に使用していることでモンゴルの外交官はヨーロッパで「有名」になっている。彼らがこのように「有名」になるにつれ、一般のモンゴル国民の名誉が傷つけられている。

2000年に「ブラックモーガン」という麻薬密売ネットワークができ、同様の名前の麻薬タバコを青色のパスポートを盾にしてヨーロッパに運んでいた。このネットワークのゴッドファーザーと呼ばれる在ブルガリアモンゴル国大使館の元次席D.シャタルバルが、2005年3月23日にブルガリアの特別捜査部に逮捕された。

彼は外交官ナンバーの公用車で末端価格2,300万ドルに相当する120kgの麻薬を運んでいた。彼はモンゴルに送還されモンゴルの法律によって裁かれたが、間もなく大統領の恩赦で釈放された。モンゴルから大使、次席、領事、大使館員という青いパスポートを持った麻薬犯罪者がどれだけ誕生したかをウェブサイトで見ればわかる。

自国の名誉を傷つけ、外国で刑罰を受け、追放されたにも関わらず、犯罪者たちが何事もなかったかのように政府の高い地位の役職に就いていることが当たり前となっている。外務省と諜報庁は、協力して青いパスポートを持った麻薬犯罪者たちを一掃する時が来たと思う。

モンゴルは麻薬犯罪と徹底的に戦うため、国境の監視や警察官の能力を向上させ、国境検問所の監視機器や設備を新しくする必要がある。モンゴル国内の麻(カンナビス)類の植物が広く分布しているところでこそ麻薬撲滅運動を行い、社会に向けて麻薬の危険性を広く訴えるべきだ。さもなければ麻薬の危険が国中に広がり、すべての国民を巻き込み、気づいたときには麻薬に侵された日々を送ることになりかねない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン