フデルチョローン・バトチョローン氏はソビエト連邦のルハーシンク市の自動車設備大学をエンジニアとして卒業しました。また、モンゴルの金融経済大学で経済金融の学士号、日本の国際大学で国際関係の修士号をそれぞれ取得しました。バトチョローン氏は2000年にモンゴル銀行のソフト開発者として就職し、それ以降、モンゴル銀行の海外取引部、外貨部、人事部、リスク管理部などの部署を経験してきました。そして2016年からモンゴル銀行の金融情報部の部長に就任しています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。まず金融情報部について話して頂けますか?

バトチョローン: 金融情報部は2006年にモンゴル銀行の付属機関として設立されました。しかしその活動はモンゴル銀行(中央銀行)から独立したものとなります。金融情報部は他国の金融情報部同様、金融業界と司法機関の間を繋ぎ、取り持つ役割があります。

J: 部長職はモンゴル銀行の総裁に任命されるのですか?

バトチョローン: モンゴル銀行総裁と同じように、司法機関の各長官が協議して任命されます。

J: 金融情報部の目的はマネーロンダリング対策とテロ資金対策の2つです。これらの対策を行う上で、モンゴルは何らかの契約書に署名しているということですか?

バトチョローン: まず、モンゴルは金融情報部を設立している国として国際金融情報部門のエグモント・グループ(訳注:各国の資金情報機関(FIU)の情報交換の場として発足した会合)のメンバーです。また、アジア太平洋マネーロンダリング対策グループ(APG)にも加盟しています。APGは金融活動作業部会(FATF)非参加国・地域に対してマネーロンダリング対策を促進するための国際協力の枠組みです。つまり、APGはFATFが出している勧告をアジア太平洋地域で実施している組織です。

J: 最近、アメリカからモンゴルへの国際送金が停止されることがよく起きるようになりました。逆にモンゴルからアメリカへの国際送金が途中どこかの国で止まることもあります。その理由は何ですか?

バトチョローン: これに関してAPGは2017年に1.モンゴルの法整備は適切なのか? 2.マネーロンダリング対策やテロ資金対策にどのように取り組んでいるのか?そのための制度があるのか? 3.制度があり、それが機能しているのか?について審査・評価しました。残念ながらこの審査で、モンゴルはあまり良くないという評価を受けました。APG加盟国はマネーロンダリング対策やテロ資金対策について制度があったとしても、それが機能していなくてはなりません。つまり成果を出していなければ、他国の金融セキュリティー保護のために当該国のキャッシュフローを監視するようになります。

J: モンゴルの審査・評価はなぜ良くなかったのでしょうか?

バトチョローン: 今回、モンゴルで実施されたAPGの審査は2回目の審査です。1回目は2007年に実施されました。2017年の審査では、モンゴルはテロ資金対策における取り組みが不十分であり、また、大量の武器資金対策における仕組みがないという結果が出ました。金融分野で言えば、銀行は比較的に問題がないものの、保険、ノンバンクといった金融機関の評価が低かった事が挙げられます。

J: その主な理由は何ですか?

バトチョローン: モンゴルは2013年に“マネーロンダリング及びテロ資金対策法”を可決成立しました。この法律は2013年から施行されていますが、その適用が十分ではありませんでした。例えば、監視捜査ができていない、ノンバンクなどの金融機関は自分たちの顧客の情報を把握できていない、つまり顧客の本人確認を十分に行うことができていない状況なのです。

J: ノンバンクはモンゴルで成長している分野です。この分野の全体の資産は銀行に比べてどのくらいですか?

バトチョローン: これに関して私は正確には分かりません。ノンバンクは顧客の情報確認において不十分な部分があります。例えば、私は公務員ですから、給与は月の前半と後半に受け取ります。給与額も決まっています。その間の私の口座取引の流れはほぼ決まっています。いつ引き出したか、いくら引き出したかなどがだいたい決まっています。しかし、私の口座に普段は行われない大金の取引が行われた時に、銀行はその金について私に確認する義務があります。そして私はその金について説明し、証明する義務があります。銀行は私のその情報を金融情報部に通知する義務があります。このような一連の情報のやり取りがノンバンクでは行われておらず、不十分なのです。また、法的な側面で言えば、モンゴルの司法機関はマネーロンダリングの犯罪に対してどのように対処したのかということがあります。例えば、裁判によって解決したマネーロンダリングの犯罪は何件あるのか。いくらの資産を没収したのか。マネーロンダリング対策のためにモンゴルの司法機関は海外の司法機関と協力したのか。そういった項目の評価において、モンゴルは不十分だという結果が出ました。

J: これにはオフショア口座も対象となっていますか?モンゴルの公務員36人が海外にオフショア口座を保有しているという情報がニュースになり、一時世間を騒がせました。そういったことを金融情報部が確認しますか?それとも司法機関が確認しますか?あの騒動の真相はどうなりましたか?

バトチョローン: はい、それも対象となります。金融情報部は法律に定められた権限範囲において情報を収集する機関です。そして必要に応じて司法機関に情報を提供します。つまり金融情報部はオフショア問題に関して直接的に関与していないので、このオフショア口座の問題の真相については司法機関に聞いた方がよいと思います。

J: 金融情報部はモンゴルの金融機関を通じて取引される全ての情報を見ているのではないのですか?

バトチョローン: 全てではありません。法律で定められていることは、情報を提供する義務を負っている者(金融機関)は、2,000万トゥグルグ以上の現金取引、2,000万トゥグルグを超える外貨取引や口座取引があった場合に、その情報を金融情報部に通知する義務があるということです。

J: 大手企業では、この金額の取引は毎日のように行われていると思います。そこで毎日行われている取引のうちで、どの取引を怪しいとしてどうやって区別していますか?

バトチョローン: 法律に定められた情報を提供する義務を負っている者(金融機関)は、怪しいと思われる取引を選択して金融情報部に提出することができます。例えば、先ほども話したように、普段は見られない大金の取引があった場合、銀行は顧客に確認する義務があります。もし、顧客がその取引について説明できなかった場合、金融機関は報告書を金融情報部に提出します。

J: 金融情報部が公表した統計報告書があります。2017年に15件、2018年に181件の怪しいと思われる国際取引がありました。これらについて情報を警察庁、諜報庁、賄賂対策庁や海外の関連機関に届け出たとあります。これはその後どうなりましたか?

バトチョローン: 金融情報部は関係機関に情報を届け出ます。その後のことは、各司法機関が対処しています。

J: 怪しい取引とはどのようなことを言いますか?どんなケースが多いですか?

バトチョローン: 私には具体的に申し上げる権限がありません。全体的にみて、例えば、突然普段は見られない大金の取引が行われ、顧客がそれを説明できないというケースがあります。また、突然口座に大金が振り込まれ、振り込まれたその日に引き出されるというケースが多いです。

J: マネーロンダリングとは違法に得た資金で銀行取引することを言いますか?

バトチョローン: いいえ、銀行とは限りません。2018年4月にモンゴルは“マネーロンダリング対策及びテロ資金対策法”を改正し、情報を提供する義務を負う者のリストに宝石の取引業者を追加しました。例えば、ダイアモンドです。ダイアモンドは現金に代わって支払手段になることがあります。それまで私たちは宝石のビジネスに注意を払ってきませんでした。これが2017年のAPGの審査の時の減点の要因の1つでした。

J: APGの審査でモンゴルは低い評価を受けました。これが理由でアメリカの銀行はモンゴルへの送金や取引を止めることが見られるようになりました。この状況はいつまで続きますか?また、モンゴルはマネーロンダリング対策とテロ資金対策においてグレーリストもしくはブラックリストに入るかもしれないという情報がありました。

バトチョローン: リストに関して言うと、モンゴルはFATFの強化された監視に置かれています。監視期間は6月に満了します。そして6月にFATFの会議で審議され、最終決定は10月に出ます。現在、モンゴルはグレーリストに片足を突っ込んでいる状況です。もし、10月の最終決定が良くない結果だった場合、モンゴルはブラックリストではなく、グレーリストに完全に載ることとなります。そうならないために、私たちは2017年12月に活動計画書を作成し、政府の承認も得ました。そして今は関係省庁、金融規制委員会、モンゴル銀行(中央銀行)、司法機関、検察庁、国税庁、関税庁などと協力して実施にあたっています。そして、2018年1月に第1回活動報告書、2019年1月に第2回活動報告書をAPGに提出しています。私たちの活動に対する評価が8月のAPGの会議で明らかになるでしょう。

J: では、最後の質問です。例えば、日本では銀行の預金金利はほぼゼロになっています。もし日本で預金していた資金をモンゴルのノンバンクに投資し、増やした利益をまた日本に戻すことはできますか?

バトチョローン: それは問題ありません。その企業がモンゴルの金融機関、例えば銀行、ノンバンクに投資するに当たって問題は何もありません。重要なのは、その資金の出所を証明できるかどうかです。それさえできれば問題ありません。

バトチョローン * ジャルガルサイハン