2020年初頭から人類を脅かし続ける新型コロナウイルスの感染状況は、今日、世界中で感染者数6,340万人、死亡者数147万人に上っている。(訳注:2020年12月3日時点での数字)この感染者の3分の2に当たる4,080万人が治療を受け回復した。そして2.3%が死亡している。
モンゴルでは、3月10日から現在まで819人の感染が確認されており、そのうちの376人は11月10日以降確認された国内感染者である。365人は治療を受け、回復した。死亡者は出ていない。この10日間で、平均して1日10,000人がPCR検査を受け、22人の感染が確認された。
モンゴル国は、2017年に「災害防止法」を可決成立し、2020年5月14日に同法を改訂した。災害とは「危機的状況やそれに伴う事故により大勢の人命、健康に被害が及ぶこと、家畜などの動物が大量に死亡すること。そして財産、文化遺産や自然環境において国および地方の経済、社会の国内資源やその可能性を上回る損害が発生することを言う」とある。災害防止準備態勢(緊急事態宣言)は、日常・高度警戒・全国という三段階に分かれている。
モンゴルは2020年2月12日から、高度警戒準備態勢、11月12日から全国緊急事態宣言を発出し、外出制限措置が取られている。全国緊急事態宣言・外出制限措置は、12月10日まで首都ウランバートル、セレンゲ県、アルハンガイ県でそのまま継続されることとなり、その他の県では、高度警戒準備態勢へと1段階引き下げた措置が取られている。
経済状況
モンゴル経済は発展しておらず、鉱業と隣国ロシア、中国に完全に依存している。政府には、民間及び国有企業で成り立っている経済を、平等かつ専門的に指導できる安定した機関がない。そのため、国家予算を徴税と配分という側面からのみ見るだけで、課税基盤の拡大、市場経済の原動力である自由競争の構築、労働生産性の向上という側面に立って考えている人は誰もいない。
収入といえば、石炭と銅の輸出量だけで考えている。例えば、モンゴル政府は年間4,200万トンの石炭を輸出すると3年計画を策定したが、2019年の輸出石炭量は3,600万トンだった。今年はそれも3,000万トンになりそうだ。2021年度の国家予算は2兆1000億トゥグルグの赤字となり、これはGDPの5.1%に相当する。赤字幅のうち1兆2000億トゥグルグは国内債券、残りを国際通貨基金(IMF)からの融資になるという。2021年の国家予算には、未来基金に1兆1000億トゥグルグ、財政安定基金に1,560億トゥグルグを積み立てると盛り込まれている。
政府は、予算拡張政策を採って来た。この10年間で経済は10倍、国家の歳出は26.6倍、マネーサプライは80.4倍に増加し、トゥグルグのレートは235%下落した。
国の対外債務は急増している。2020年第3四半期では、政府の対外債務は80億ドル、モンゴル銀行21億ドル、各商業銀行およびノンバンク18億ドル、その他分野で80億ドル、企業間債務112億ドル、総額312億ドルになっている(出典:モンゴル銀行の統計)。モンゴルの経済規模は42兆2000億トゥグルグであり、現時点での為替レート(2,850トゥグルグ=1ドル)で計算すると148億ドルとなる。つまり対外債務残高はモンゴル経済の2.1倍まで膨れ上がっている。
経済の血流
貨幣は、経済の血流を継続して維持するものである。モンゴルの貨幣の流通速度は、新型コロナウイルスが流行する前から減速していた。10年前の貨幣の流通速度(velocityつまり経済とマネーサプライ(M2)の比率)は4.7だった。しかし、今日は1.7となっており、3分の1程度にまで減速している。商業銀行が保有する貨幣の流通速度が遅いため、モンゴル銀行(中央銀行)が資金供給量を大幅に増やし、商業銀行が比較的長期のローンを発行し、不良債権が増加している。
マネーサプライ(M2)は、2012年に7兆6000億トゥグルグだったが、2016年には12兆トゥグルグとなり58.5%増加した。モンゴル銀行の価格維持プログラム、ASEM首脳会合の開催費、また政府が銀行からの借入金で増加した債務などが主な原因になっている。
2012年末に当時のモンゴル銀行総裁N.ゾルジャルガルは、価格維持プログラムに3兆トゥグルグ、住宅ソフトローンに4兆トゥグルグを市場に供給した。このプログラム公表後に住宅価格は2倍に跳ね上がった。
2012〜2016年の間に、トゥグルグ建て預金は65.3%、外貨建て預金は93.8%、外貨取引は67.3%増加した。2020年10月時点では、商業銀行の取引の70%、預金全体の40%がドル建てとなっている。この数字は今年初めに41%と24%だった。これは銀行のドル化が進んでいることを示している。その理由は、2020年にはトゥグルグの預金金利はドルの約2.5倍もあり、そのためドルの為替レートを維持するためにモンゴル銀行は月平均して2億ドルの現金を市場に供給してきた。
融資を促進させるために、モンゴル銀行は政策金利を6%に引き下げた。SNS上では銀行の貸出金利をゼロにすることを、さらに預金金利もゼロにすることを国民は要求している。政策金利を引き下げても、預金金利をゼロにしても、銀行の融資によって経済を支援できるかどうかは怪しい状況である。
その理由は、2020年10月のモンゴル銀行の発表によれば、商業銀行が保有している現金は15兆トゥグルグである。そのうちの5兆4000億トゥグルグが中央銀行の債券に投資しており、1兆6000億トゥグルグが政府債券を引き受けた形になっている。これほどの現金を保有している理由は、銀行は単にリスクが低く、流通が早い住宅ソフトローンを交付し、モンゴル銀行に売る、もしくは政府が財政赤字を補填するために債券が発行されれば、それを買うなどしてリスクのないビジネスをするようになったからである。商業銀行は金融仲介機関としての義務を果たさなくなっている。
経済危機を銀行ローンで乗り越えるという意識は、国民の頭に深く植え付けられている。価格維持、住宅ソフトローンなど、数々の政府政策による恩恵を受けているのは、国民や民間企業ではなく、銀行のオーナーたちである。これはその報告書を見ればわかる。
モンゴルの商業銀行は、政府よりも現金を保有しており、企業より数十倍も大きな資産を持っている。その主な財源は国民の税金と預金である。
世界中で新型コロナウイルスの流行が与える経済的影響は、貧困層の人々に重大な打撃を与えていることを経済学者たちが主張している。彼らは銀行からローンを受けるどころか、銀行口座を持っているかさえも疑わしい人たちである。
モンゴルでは、人口の29%が貧困層にある。つまり世界銀行の定義で言えば、一人あたり1日1.9ドルつまり5,500トゥグルグ以下の生活をしている。このまま状況が続けば、さらに14%の人が貧困層に陥る恐れがある。
そのため、新型コロナウイルスを乗り越える経済政策は、これ以上貧困が増加しないように、貧困層に向いていなければならない。今回、政府が出した練炭価格を引き下げる決定は、ゲル地区に住む100万人の生活を考えた適切な政策である。今後、国民全員にではなく、最も被害を受けている低所得世帯や営業が必要不可欠なサービス業の雇用を維持するために、特定の支援が必要となってくるだろう。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン