2020年、モンゴルの総選挙は、その浅い民主主義の歴史において現与党が二期連続して国会議席の過半数を獲得したという歴史的なものとなった。人民党は2016年の選挙で76議席のうち65議席を獲得した。今回の総選挙では62議席を獲得した。しかし、2016年の選挙で下野した民主党は、今回の選挙で増やしたのは2議席だけだった。そして「新党正しい人・有権者連立」、「あなたと私たちの連立(訳注:人民革命党・市民の勇気緑党・モンゴル伝統統一党による連立)」は各々1議席ずつ、無所属での立候補者が1議席を獲得した。

これは来年予定されている大統領選挙に、4党が候補者を立て争うということである。また正義党、モンゴル社会民主党と連立した労働国家党は、初めての選挙で国会に議席を持つ政党となった。

人民党が有権者の45%の票を獲得して全議席数の82%を獲得したことは、このゲームのルールがどれほど不公正なものだったかを現している。その逆に有権者の5.4%の票を獲得した「新しい連立」は1つの議席も確保することができなかった。今回1議席だった無所属は、その他の新党や連立よりも高い得票率となる有権者の8%の票を獲得した。

今回の選挙で明らかになったことは、モンゴルの政治に与党に対抗しうる安定した野党が存在しないということである。有権者の24%の票しか獲得できなかった民主党は、結党当初の状況に戻っている。

今回の選挙では、ゲームのルールが全面的に与党人民党のために機能したといえるだろう。常に40%以上の得票率を得てきた人民党は、今回の選挙で過半数になることが明らかだった。これに加えて、与党人民党によるCOVID-19の対策措置が選挙に有利に働いたという点もある。COVID-19のため、野党にとって選挙は既に不公平な戦いとなっていた。国会に議席を持たない新しい政党にとって、選挙活動では大きな選挙区で有効なアピールをする機会はなく、自分たちを国民に知ってもらう機会はほとんど無かった。

政権与党に機能するシステム

選挙制度:私たちは30年間に渡り8回の選挙を実施してきた。その際に様々な投票形式を試みてきた。時の政権与党だった民主党および人民党は、選挙が行われる6ヵ月前に選挙法を自分たちの都合のいいように改正することが常態化してきた。これまで行われた選挙の殆どで、過半数となる原則を用いて複数-多数派制度を適用してきた。

1992年、2008年、2020年の国政選挙では、民意の拡大といって1つの選挙区に多数の議席を設定する中選挙区完全連記制という形式を導入した。1996年、2000年、2004年、2016年の国政選挙では、1選挙区-1議席、つまり単純小選挙区制を適用した。

過半数の原則によるこの制度は、今日まで与野党にとって権力を得続ける機会となってきた。しかし、2012年に28区の比例代表制、48議席を選挙区ごとに1〜3議席に割り当てるという選挙方法で初めて中選挙区比例代表並立制が試された。その結果、二大政党の非公開システムが崩壊したことを誰もが知っている。当時は初めて第3勢力が国会に10議席以上を獲得し、また、市民の勇気緑党は2議席を獲得した。

地方と首都で差別的に配分された議席:民主党と人民党の二大政党は、交互に、時には連立して政権を握ってこられたのには、あるもう1つの詐欺的手法がある。それは地方と首都との議席配分である。過去30年でモンゴルの経済・社会情勢は激変した。首都と地方の人口に大きな差が出てきた。しかし、全人口のおよそ半数が定住するウランバートル市には議席の半分も割り当てられていない。

1992年の国政選挙では、地方に52議席、ウランバートル市に24議席、1996年、2000年、2004年、2008年の国政選挙では、地方に56議席、ウランバートル市に20議席、2016年の国政選挙では、地方に48議席、ウランバートル市に28議席、2020年の選挙では地方に52議席、ウランバートル市に24議席が配分されていた。

ゲームのルールを変える

第一に、現在の選挙管理委員会を解散させること。選挙管理委員会を解散させ、有権者委員会という9人で構成される委員会を編成する必要がある。委員には、政党、無所属、専門家、一般に知られた学識経験者などを参加させるべきである。明確な事例としてイギリスから学ぶことができる。地域ごとに機械でカウントされた投票用紙の集計結果を合わせる際に、人の手が入らないようにするべきである。

第二に、選挙前に選挙法改正案を与党が作り、与党が可決することを止めさせなければならない。各政党が公平に参加でき、加えて法案審議に広く市民社会、研究者を参加させた後に可決するようにすべきである。選挙前の選挙法改正を禁止し、選挙後に4年後となる次の選挙のルールを策定するようにする。こうすれば、各政党には次の選挙のために準備する機会が公平に確保される。

第三に、与党が公務員、特に区長、郡長、ホロー長、バグ長、その他の職員を自分たちの選挙活動に有利になるよう参加させていないか監視し、責任を追及する仕組みを作る必要がある。例えば、ホロー長は、自分のホローの住民に国から支給される社会福祉サービスを誰に支給するかを決めている。ホロー長はこの権限を使い、選挙となると与党のために利用していることが、他の立候補者には出発点ですでに不公平を生じさせている。

第四に、投票用紙を集計する機械は信頼できるということが、選挙後の監視集計で明らかになった。だが、各選挙区で投票用紙を集計した機械の結果を纏める時に問題がなかったというわけでもなかった。

今回の選挙で、選挙管理委員会の行動は非常に無責任かつ不透明なものだった。今回の選挙で、有権者リストの取り扱い、次に投票用紙の集計結果を纏める各段階における取り組みが非公開で行われたため、その投票結果に国民は疑惑を抱いた。特に選挙区における投票が閉まる午後10時の時点で投票率などの結果を公開しなかった。

午後9時に投票率を中継したので、一部の人々からは投票数を数える時に何らかの詐欺が働いたという疑念が噴出した。こうした選挙後の疑念を払拭するために、他国ではExit Poll、出口調査を行っている。これによって選挙の正当性の質が改善する。

野党

直近2回の選挙で人民党が圧勝したことにより、モンゴルは一党独裁のシステムへ移行し始めている。今日、政治権力は人民党党首に集中してしまった。国家安全保障委員会を通じて司法制度にまで影響を及ぼすことが可能になったことが何よりも危険である。

この4年間で、民主党は本来のあるべき野党になることすらできなくなるまでに、その勢力を弱めたことは明らかである。民主主義を守るためには強力な野党が必要不可欠だ。そのためには全野党政党は団結する必要がある。しかし、この団結ができるまでには長い年月を要するだろう。

今日から次の4年間に、市民社会、報道機関は絶えず注意を払い、民主主義と人権と自由を守って行かなければならないという課題に直面している。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン