この数日、モンゴルでは憲法改正案の審議が続いている。「資源は誰のものなのか」という問いに、普遍的な解を見いだせずにいる。国民のものなのか、もしくは政府のものなのかという論争が繰り広げられており、国会と大統領、双方が打ち出した憲法改正案をすり合わせるために結成されたワーキングチームは「国と国民の共有財産」という不明確な言葉を落とし所にしている。
他方、その所有権がどこにあるにせよ、土地、地中、森林、水源、動植物およびその他の資源を利用する方法や、その将来性についてどのように定めるかも協議する必要がある。例えば、30年後にモンゴルの国富ファンドはどうなっているのか?
国富ファンドの種類
国富ファンドは、豊富な石油埋蔵量を誇るクウェートが1953年に設立したクウェート投資庁がその始まりだと言われている。現在、多くの資源保有国は国富ファンドを設立しており、それが投資拡大や経済成長に重要な役割を果たしている。2018年に世界の国富ファンドの総資産は7兆6千億ドルに達している。このうちの1兆1千億ドルをノルウェー政府年金基金のみが占めている。 国富ファンドの運用は、その目的によって5つに分類される。ほとんどの国のファンドの運用目的は、幾つかの目的を含んでいる。
中国、カザフスタン、韓国、カタール、サウジアラビア、チリなどの国では、憲法で天然資源は政府が所有すると定められている。これとは対照的にアメリカ合衆国、オーストラリア、カナダ、スイス、フィンランド、ニュージーランド、オーストリア、フランス、インド、シンガポール、日本、ボツワナ、ノルウェーなどの国々の憲法では、天然資源を誰が所有するかは全く規定されていない。
例えば、ノルウェーは天然資源を誰が所有するかについて憲法に規定していないが、石油活動に関連する法規制(Act 29 November 1996 No.72 relating to petroleum activities/1996年11月29日法律第72号)では、「ノルウェー政府は石油資源を所有し、その利用にあたっては特別な権限を有する」とある。興味深いことに、ノルウェーは憲法第112条に「天然資源を次世代の権利保障と長期政策に基づいて利用する」と記されている。
ノルウェーの国富ファンド
長期政策に基づき天然資源を適切に管理するためのノルウェー国富ファンドである「ノルウェー政府年金基金グローバル」は1990年に設立された。同年、ノルウェーの国会はノルウェー政府年金基金法を可決・成立させた。この政府年金基金の運用を財務大臣が担当し、財務省は必要なすべての決定を下す権限を持つようになった。
財務省は、政府年金基金を運用する権限で、国富ファンドの資金運用を、財務省から独立して投資活動を行うことを目的にノルウェー中央銀行(Norges Bank)に権限を与えた。これにより投資の60%は株式で運用され、40%は安定した収入が得られる投資先で構成され、その活動は透明性をもって行われている。また、四半期ごと、および年次会計報告書を公開するようにも規定されている。さらに、中央銀行と財務省との関係のあり方を具体的に規定している。
モンゴルの国富ファンド
モンゴル経済の4分の1、輸出の85%は鉱業分野によって構成されている。モンゴルには、天然資源による収入を公平に分配するため、積立と安定収入を両立させた基金の設立が必要である。
鉱物資源は、人間ではなく自然に作られたものである。そのため、モンゴルの国民全員が天然資源による収入を享受できるべきである。もちろん、資本を投じてリスクを負い、天然資源を探査、採掘し、資源を必要とする市場に供給した企業・投資家は、その投資額規模で優先的に恩恵を受ける権利がある。その後、国民は特定の形で、ここでは国家予算を通じてその恩恵を受けるべきである。
ノルウェー政府年金基金グローバルの収入は、基本的には国家予算に収められる石油収入(石油関連によるすべての収入から、政府が投資した資本、費用を除いたもの)で構成される。ノルウェーでのすべての石油収入には、石油製品に課される税収入全般とロイヤリティー、石油生産活動により発生した二酸化炭素、一酸化窒素などに課される税、ライセンス料および政府が所有している石油関連株式からの収入などが含まれる。また、基金自体のキャッシュフロー残高や、当該年度の投資利益から構成される。それらの収入は、財政赤字もしくは追加予算が必要な場合は、国会の承認を得た上で国富ファンドの資金を活用することができる。
モンゴルが天然資源収入を相対的に国民に公平に分配するためには、国富ファンドを設立することが必要である。そして、そのファンドの管理、運用は、ノルウェー政府年金基金のように独立していなければならない。政府から独立していればいるほど、国富ファンドは政治的な影響を受けにくく、その効果も高まる可能性がある。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン