人類の発展のスピードは、国境を超えた自由貿易と関係している。貿易は貨幣と商品の交換である。貨幣はあらゆる商品と交換できるため、商品の対価を支払う手段となってきた。

人類は常にこの支払いの手段をより簡単に、より信頼性が高く、よりスピーディーに、そしてよりアクセスしやすいものにするために努力してきた。そのため、テクノロジーの進歩は、いち早く金融分野に影響を及ぼしてきた。

フィンテック分野に導入されている新たなテクノロジーは、支払い手段をどのように変えているのか、そしてなぜ、今モンゴル人は大きな機会と課題に直面しているのか。

信用境界の排除

新しいテクノロジーは、人々の間の境界を排除する。15世紀には印刷機が知識の、18世紀には蒸気機関が力の、そして1990年にはインターネットが空間と時間の境界を排除した。今世紀始めに現れたスマートフォンは、いつでも、どこでも貿易を可能にした。今日では、スマートフォンで決済、借り入れ、送金ができるようになっている。金融とテクノロジーを組み合わせたフィンテック分野は活況を呈しており、銀行などの金融サービスは世界で最も貧しい人々にも届くようになった。

2008年の金融危機の後、この分野に新たな革命が起きた。ブロックチェーンという新たに開発されたプログラムだ。ブロックチェーンは、多くのコンピュターが相互に通信し、データをブロック単位にまとめ(block)、コンピュター同士が検証し合いながら正しい記録をチェーン(chain)のように繋ぎ、データの改ざんを不可能(immutable)にする仕組みである。

ブロックチェーンを用いて資産の動きを元帳に記録(ledger)するようになった。一旦、記録されれば、元に戻すことはできず、数層にも暗号化されているため信頼できる。ブロックチェーンテクノロジーは、人々が仲介者(政府、公証人、店舗、銀行口座、クレジットカードなど)なしで、有形および無形の資産を互いに直接取引しているため、信用の境界を排除した。

この技術を使用して、サトシ・ナカモトは2009年に最初の暗号通貨(秘密のコードを持つ電子マネー)を発明した。以降、多くの国でさまざまな暗号通貨が開発され、その数は今では1600種にも上る。例えば、Ardcoin, Dogecoinなどだ。暗号通貨は、電子マネーのように支払い手段となったほか、株や債券などの証券のように自由に取引され、為替差益のような利益を得ることができる金融、投資手段にもなった。例えば、ビットコインを最初に1ドルで買った人は、今年6万ドルを稼いでいる。しかし、その価値は常に変動する。

規制の試み

人々が仲介者なし(責任者、検証者)で相互に資産を送金できるようになったため、マネーロンダリングが発生するリスクが出てきた。したがって、金融犯罪防止のための国際機関は、これを規制するように各国の政府に呼びかけるようになった。

また、有形および無形資産の譲渡サービスを営む経営者は、個人情報を保存しているため、データ流出を防がなくてはならない。そのため、各国は無形(仮想)資産サービスを提供している業者の活動を規制する法律、規定を策定している。これはそう簡単なことではない。現在、どの国も完全に規制できておらず、また完全に防ぎきれていない。

モンゴルの場合は、情報通信分野が比較的急成長した。そのため規制の必要性が7〜8年前から叫ばれてきた。モンゴルでは、デジタル通貨(digital currency)が出現しつつある。現在、トゥグルグに相当するデジタル通貨を発行する許可に関して、モビファイナンスノンバンク社(Monpay、旧Candy)、スーパーアップヘテブチ社、アロドクレジットノンバンク社(アルドキャッシュ)、エム・ピー・エス・シノンバンク社、インベスコルヘテブチノンバンク社(Pocket)、ハイペイメントソリューションズ社など、フィンテック企業6社がモンゴル銀行(中央銀行)から承認を受けている。

モンゴルには、モバイル金融サービスを提供している企業が約20社ある。2019年に一部の企業が集結しフィンテック協会を立ち上げ、共同で高効率の金融エコシステムを構築しようとしている。

規制は、常に技術の進歩から遅れるものである。金融規制委員会が、電子決済における銀行以外の参加者の取引、送金、決済サービスを行う特別許可の交付または取り消しの権利をモンゴル銀行に法的に与えるようになったのは最近のことである。最近では、次のような取り組みがある。

  1. モンゴル銀行は、仮想資産に関する法案を作成した(法案リンク
  2. 金融安定理事会は、新しいフィンテック商品やサービスの市場への導入、試行を可能にするために、サンドボックス規制規定を承認した。これはまもなく国会に提出される。サンドボックスの規制の有効期限は1年であり、更新は1回のみである。

モンゴルのフィンテック分野において、解決すべき課題はいくつか残っている。まず、ビジネスの時間を節約し、消費者の利便性を高めるために電子署名とスマート契約を合法化する必要がある。また、不良債権を減らし、財政規律と説明責任を改善するため、フィンテックサービスを提供する企業すべてにおいて統合されたデータベースとインフラストラクチャを確立させなければならない。この分野に政府の支援と手数料の免除があれば、AliPay(2013)やWeChatPay(2013)が中国のどこでも決済を行うことができるように、モンゴルでも可能になるだろう。

阻害要因

フィンテック分野の現在の規制は、実際にサービスプロバイダーの活動を妨害し、消費者のニーズに適応しておらず、便利とは言い難い。例えば以下のようなことが挙げられる。

  • 電子マネーに関して:国家決済システム法(2018年初頭に施行)によれば、銀行以外の金融機関が電子決済を行うことが可能になった。モンゴル銀行は、法律の施行規定を発効した。この規定には、1回の取引は100万トゥグルグ以下、1日300万トゥグルグを超えてはならない、取引者は口座に5,000万以上のトゥグルグを保有してはならないとあり、電子決済を大きく制限している。また、契約を結んでいない、登録されていない顧客は1日20,000トゥグルグを超える取引はできず、口座残高は10万トゥグルグを超えてはいけないとある。この理不尽な制限は時代遅れであり、ビジネス活動において重大な阻害要因となっている。政府は、キャッシュレス社会(cashless society)政策を採り、新型コロナウイルスと闘うために「非接触」決済(contactless)を推奨すると言っていた。だが政府の規制は、まるで10車線の道路を建設しておいて1車線のみを利用できるようにし、交通渋滞を引き起こしているようなものである。例えば、消費者が苦情を申し立てれば、電子マネーの限度額を少なくし、限度額を引き上げたければ銀行に許可を取れといい、自由市場競争を妨害している。なにより、このような「規制」をモンゴル銀行の総裁が知らないという。
  • 政府は仮想資産をどのように規制するのか、その方法を見つけておらず、安易に可能性を阻害することを優先している。ボーナスポイント、トークン、コインなどブロックチェーンに基づく無形資産を電子マネーから分離し、自分たちの責任範囲から外す政策を採っている。また、有形サービスと無形サービスをそれぞれ別のアプリケーションで利用することを要求している。これは1つのアプリケーションですべてを完結できていた顧客が、必ず2つのアプリケーションを使うことを強いられるようになったということだ。その大きな例は、アルドコインをアルドアプリケーションから分離し、必ずウェブサイトでログインするようにしたことだ。これではまるで川の流れに逆らって泳ぐかのようである。
  • サンドボックスの規定では、金融サービスに新たに導入された技術に基づいた斬新な商品やサービスなどのビジネスモデルを、実際の環境で特定の期間、許容範囲内で実施することを可能にするとある。しかし、その許容範囲を誰が、いつ、どのように決めるのかが不明なため、多くの人が所有するようになったアプリケーションの将来もまたあやふやになっている。誰かが気に入らない、もしくは分からないという理由だけで、別の障壁や制限をいつでも設定できる。

このような状況にもかかわらず、モンゴルのフィンテック企業は、公正に競争し、斬新なアイディアを創出し、政府と協力してブロックチェーン革命の恩恵を自国にもたらそうと尽力している。また、世界の金融の海へモンゴルが進出するのだという信念をもって取り組んでいる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン