ジャルガルサイハン: こんにちは。以前も同じテーマでお話をしましたが、あなたは2018 年からデファクト研究所で「モンゴルの政党内部民主主義の指数」を毎年発表してきました。今年の「モンゴルの政党内部民主主義の指数」の特徴はどういったところでしたか?
E. ゲレルト・オド: まず2020年の「モンゴルの政党内部民主主義の指数」調査結果を紹介する機会を頂き、ありがとうございます。今年は例年に比べ、国政選挙、地方選挙があったため、政党内部民主主義の指数の現状をより正確に把握することができたと思います。選挙候補者の選定を始め、選挙参加、国民の信頼、資金の透明性、内部競争などを調査できました。
ジャルガルサイハン: 調査方法にも変更がありましたね。どのように変えましたか?
E. ゲレルト・オド: 2018年に初めて調査を実施したとき、我々はイスラエル民主主義研究所が行っていた方法を用いて調査を実施しました。調査方法に関しては、世界基準といえる2つの主要な方法があります。一つは、専門家が政党の党則やルールを精査し評価するというヨーロッパ流の方法です。もう一つは、私たちが主に使っているイスラエル民主主義研究所から出された政治改革プロジェクトで作成された調査方法です。この方法は、党員の参加、競争、代表、透明性といった 4 つの主な要因で政党内部民主主義の指数を100点満点で点数を測定するものです。ヨーロッパでは、政党内部民主主義の指数を測定する3つ目の方法もあります。ガバナンスの安定性指標という大きな研究プロジェクトがあり、そこでは政党内部民主主義の指数を10点までの点数で測定します。私たちはこれらの方法を混合して使ってみました。調査対象は2020年の総選挙の結果、国家大会議に議席を持つ4つの 政 党(relevant parties)としました。
ジャルガルサイハン: 調査の結果、政党内部の民主主義はどうでしたか。昨年に比べて上昇しましたか、それとも低下しましたか?
E. ゲレルト・オド: 多数の有権者の支持を得て国家大会議の議席を獲得した、比較的歴史が長く、経験豊富な政党は2018年、2019年に比べて政党内部の民主主義の指数は低下しました。一方、結党して日も浅く、党員の少ない政党である全国労働党は2018年、2019年に比べて政党内部の民主主義の指数が上昇しました。党員が少なく、新しい政党であり、党内の競争が激しくないためこのような結果が出たのではないかと考えられます。
ジャルガルサイハン: 党内の競争とは何ですか?
E. ゲレルト・オド: 研究者たちは党内の競争を多くの要因を挙げて研究します。今回の調査では、候補者をどのように選定し、党首をどのように選出し、法律の定める通り党内会議を開催したかどうかなど、いくつかの要因で政党内部民主主義の指数を測定しました。政党内部の民主主義の指数が低下した政党は、候補者の選定にあたり党内での競争が激しいため、それを制限するための取り決めが党内民主主義を束縛します。これに対して、全国労働党は出馬したほぼ全員が当選しており、党内の競争が激しくなかったのではないかと考えられます。
ジャルガルサイハン: 政党が成熟するにつれ、党内の競争が激しくなるわけですか?
E. ゲレルト・オド: 逆相関が見られます。政党は時間が経つにつれて成熟する必要があります。特に、過半数の有権者の支持を得たり、党員の数が増えたりすると、党内民主主義が制限される傾向にあります。これはモンゴルに限ったことではありません。どの国でもそうです。
ジャルガルサイハン: 政党の成熟度と党内民主主義が逆相関関係にあると?
E. ゲレルト・オド: その可能性はあります。 政党がより成熟したということは、直ちに党内民主主義が低下するというわけではありません。しかし、過半数の有権者の支持を得て、候補者の選定に激しい競争が起きると、党内民主主義が低下する傾向があります。
ジャルガルサイハン: 大きな政党には党内競争が激しく、内部民主主義が束縛される傾向が見られ、小さな政党は比較的党内競争が少ないため、政党内の状態が平穏であるということですね。
E. ゲレルト・オド: 全国労働党は、政党として成長の初期段階を歩んでいるように見られます。その他の3つの政党は、比較的長い歴史、豊かな経験を持っています。
ジャルガルサイハン: 人民革命党はどうですか?
E. ゲレルト・オド: 人民革命党はだいたい10年の歴史があります。人民革命党と人民党で70、80年の歴史を奪い合っていますが、選挙に挑戦した歴史を見れば10年です。人民革命党の内部競争、党員の参加、資金の透明性等の要因で評価すると、党首に依存しています。その影響で、党首の支援を得て初めて候補者に選定されるということが見られます。
ジャルガルサイハン: 一人への依存が強いということですね。
E. ゲレルト・オド: そうです。
ジャルガルサイハン: どのような組織でも、一人への依存が強い場合、独裁主義へと移行しますが、政党もそうですか?
E. ゲレルト・オド: そうです。政党内部民主主義に限らず、政治学的に民主主義と独裁主義は対極に位置します。
ジャルガルサイハン: 政党はその概念、コンセプトを異にすべきですが、人民党と民主党はそのコンセプトがとても似ています。これと政党内部民主主義との関連性はありますか?
E. ゲレルト・オド: この調査が、政党の概念、価値観を明確にするということではありません。しかし、研究者たちの見解によれば、モンゴルの政党が過去30年間かけて組織として成熟できていないことの理由が、政党の概念、価値観が明確でなく、その違いがはっきりしないことです。政党の概念、価値観に違いが生まれない理由を説明します。モンゴルは新しく民主主義に移行した国であるため、有権者のほとんどが左派で、国家からの福祉を求めます。リベラル、右派の政党が有権者の支持を得ることが難しいため、複数政党制の国ではありますが、ほとんどの政党が左派である必要があり、右派の政党も左派の見解を示します。これが政党の成熟度における大きな障害です。次に、私が20年以上研究して分かったことですが、モンゴルでは政党概念についてほぼ議論されません。これはエンジンのない車のようなものです。
ジャルガルサイハン: 燃料のない車ですね。
E. ゲレルト・オド: そうです。ですから、政党のアイデンティティー、相違点を作るためには、政党概念について話すべきです。お互いに異なる概念を確立させ、それが政党活動、選挙公約、政策にも現れるべきです。
ジャルガルサイハン: 政党は国家機関でないにも関わらず、国家権力を握ることのできる唯一の公的機関です。政党において概念、コンセプトが明確であれば、政権を獲得した後にもそれに従った政策を実施することができます。では、モンゴルの政党がこのようになるためには、同じく共産主義だった東ヨーロッパ諸国に比べ、どれくらいの期間が必要でしょうか?
E. ゲレルト・オド: 東ヨーロッパ諸国が完全に民主主義に移行し、政党が成熟したということは必ずしも言えないと思います。それらの国々も私たちと同じような問題に直面しています。まず、価値観の混乱に陥っています。ハンガリー、チェコの選挙結果、政党の成熟度の全体像を見れば分かります。次に、党員の参加状態が形式的です。チェコの研究者ミハイル・クリマの研究結果によると、オリガルヒが雇われ党員を通じて政党を所有しています。モンゴルも同じような土台において政党が誕生したため、成熟できていないという同じ結論になったと見れます。
ジャルガルサイハン: ミハイル・クリマ氏とはこの番組でお会いしたことがあります。クリマ氏の有名な言葉があります。「デモクラトラ」という言葉です。デモクラシー(民主主義)とディクタドラ(独裁政治)の造語ですね。モンゴルも民主化以降、資産家が政党を作り、今でも資産を持つ者が支配しており、その他が付き従うという形態です。では、これを廃止し、政党を組織として成熟させるためには、どのような法整備が考えられますか?
E. ゲレルト・オド: ちょうど今、研究の最中ですが、アジア財団の援助を受け、モンゴルのここ30年間の選挙制度を研究しています。選挙制度を研究して見ると、モンゴルは今までずっと多数代表制を採用してきたことが分かりました。研究者の見解によると、多数代表制は二大政党制を確立します。世界各国においてこの見解が証明されています。しかし、研究の結果、モンゴルではこの30年間で、63%が多数代表制、37%が比例代表制を採用してきました。しかしながら二大政党制ではなく、一党優位政党制が確立していることが分かりました。
ジャルガルサイハン: 今日の現状を見ても政権が一党に集中し始めています。例えば、今年の大統領選挙において、人民党から大統領が選ばれた場合、どのような危険がありますか?
E. ゲレルト・オド: 世界中どこでも与党が政権を握ります。モンゴルでは国家大会議での議席数となります。国家大会議にはなるべく多くの国民の代表が参加すべきです。国家大会議を一党の党員で構成するなら複数政党制である必要はありません。残念ながら、私たちが今まで採用してきた多数代表制は、少数の国民の政治意思を国家大会議に反映できずにきました。8回にわたる総選挙において、民主党は人民党との連立として2回のみ勝利を獲得しました。その他は人民党が勝利を獲得しました。ここからも分かる通り、モンゴルでは一党優位政党制が確立しているのです。
ジャルガルサイハン: モンゴルの選挙制度は、選挙前に必ず与党の有利になるように変更されます。これを止めるべきですか。止めるとしたら、どのようにして止めるべきなのでしょうか?
E. ゲレルト・オド: 世界各国は、これを政治決定だと見て承認しています。しかし、最近は国民の政治参加を向上させるため、混合、比例代表制への移行が数多く見られます。このメリットは、国会制、複数政党制の確立、政党の成熟度を上げること、有権者の選択肢、政党の資金調達を公正にすることにあります。選挙制度を変更することで、資金が低下し、国民の参加が増加し、選挙に関する教育機会が増え、外国にいる国民に選挙権が保障されます。モンゴルの政治が直面している諸問題の解決策となりうるのが選挙制度の変更です。研究結果に基づき、与党と野党共同の政治決定として選挙制度を変更すべきです。与党が有利になる選挙制度の変更は、この国にやがて深刻な対立関係を生み出します。
ジャルガルサイハン: 研究者たちは、世界中の国々の経験を見て、こういった訴えをしているわけですね。デファクト研究所は「モンゴルの政党内部民主主義の指数」調査をどのような組織の援助を受けて実施しましたか?
E. ゲレルト・オド: アメリカ合衆国国際開発庁、共和党国際研究所(IRI)若者及び女性の政治参加を増加させるためのプロジェクトの援助を受けて調査を実施しました。
ジャルガルサイハン: これについてですが、民主主義国では若者及び女性の政治参加が積極的であり、そのための制度的保障も与えられています。しかし、モンゴルでは女性の数が何%までの割合でなければならないと規定しているのみです。女性副総理や女性首相が未だかつて存在していません。これについて政党内に何らかの取り組みがありますか?
E. ゲレルト・オド: モンゴルでは政党にリーダーシップが欠けています。特に、若者や女性の政治参加に政党のリーダーシップが大きな影響を及ぼすことは、世界の歴史によって証明されています。しかし、モンゴルは政党にリーダーシップがなく、法律の定めるだけの女性党員数を満たすだけに留まっています。世界の動向は、女性の政治参加を増やす上に、若者の政治参加を増やす必要があるとしています。モンゴルでは、2016年の選挙では30歳未満の議員2名が当選していましたが、2020年の選挙では30歳未満の議員はいなくなりました。40歳未満の国家大会議員が6名だけいます。
ジャルガルサイハン: 全国労働党は大統領選に参加できるようになりました。しかし、大統領選候補者の年齢制限を45歳から50歳に変更しました。そうすると、今の全国労働党の党員の中にこの年齢要件を満たす人がいません。これをどう見ていますか?
E. ゲレルト・オド: 2019年の憲法改正のうち、大統領に関して1期6年間の任期で選ばれるように条文が改正されました。年齢要件は50歳に引き上げました。その他の要件には変更がありませんでした。
ジャルガルサイハン: なぜこのような変更をしたのですか?
E. ゲレルト・オド: 理由はいくつかあると思いますが、私が見るには若者の政治参加を制限し、与党に有利に働くように設けた条文だと見ています。これと同じような条文が政党に関する法律にも見られます。有権者の1%以上の支持を得た政治団体のみを政党と認めるという条文です。欧州安全保障協力機構がこの条文をボイコットしたおかげで、2028年1月1日に施行日を延長できました。これらの条文の背後にあるのは、与党の独裁政治を堅持し、他の勢力を排除したいという意思です。
ジャルガルサイハン: 今日の政治家は自己の利益に合わせ、若者の参加を制限した法律を制定しているということですね。政党内部民主主義に関するルールの一つがこの条文ですか?
E. ゲレルト・オド: 複合した状態でそうです。2019年の憲法改正の第19条1項3号に、「政党の内部活動は民主的でなければならない。」という規定が加えられました。それから、政党には国から交付金が支給されるという定めが設けられました。今は、政党に関する法律を至急改正する必要があります。憲法改正に伴って関連法も改正する必要性もありますが、社会からの要求もあります。透明性及び責任のある組織としての政党を確立させる法律の改正を行わなければなりません。
ジャルガルサイハン: 政党に対する国からの交付金ですが、以前からありました。しかし、その額や詳細は報告せずにきました。最初100万トゥグルグから始まったのが、今では10億トゥグルグとなっています。
E. ゲレルト・オド: 政党は公式に、非公式に、適法に、違法に様々な形で資金を受けています。適法に支給されるのは、選挙後の3ヶ月以内に、有効な有権者一人当たり1000トゥグルグです。また、毎年国家大会議の議席数ごとに1000万トゥグルグが支給されます。
ジャルガルサイハン: 議席数ごとの1000万トゥグルグが合計で多額となりますよね。
E. ゲレルト・オド: そうです。それも選挙制度によってまた金額が何倍にも増えます。2020年の総選挙では、大選挙区多数代表制が採用されました。1つの選挙区の有権者が3人の候補者を選ぶことができるため、国からの交付金も3倍になります。このような資金調達方法は不明確で、不安定です。さらに、政党が違法に資金を受けることも多くなります。他にも市民代表議会議員に提供される資金もあります。これは法律に根拠はありませんが、条例を制定して交付しています。
ジャルガルサイハン: 国有企業の社長に政党の代表を任命し、そこから支援を得ています。国有であるからその企業の透明性が欠如していても許されるものではありません。政府は政党への資金提供を透明にしなければなりませんね。例えば、ドイツでは政党の活動費用の3分の1を国が負担します。ただし、党員の人数が増加した場合には何%などと詳細に取り決めがあります。こうすることで、公正な政治勢力を形成しています。
E. ゲレルト・オド: なぜこのような公正な政治勢力を形成しなければならないのかという問題が重要になってきます。1994年にイタリアの研究者が提唱した概念があります。政党支配体制、パーティクラシー(Particracy)というものです。世界中どこでも政党が政治を支配しています。この政党制を公正で透明にするためには、政党の組織化を改善しなければならないということです。政党を否定することは不可能ですから、それをより良くするしかないのです。
ジャルガルサイハン: 政党の厳格な党員制度を廃止すべきという話を聞きます。これは一体どういうことなのでしょうか。
E. ゲレルト・オド: 一研究者としては、政党に党員がいないということはあってはなりません。必ず党員がいなければなりません。党員はその政党の内部民主主義を測定し、その透明性を要求する主要なツールです。政党を形成する構成要因が党員です。
ジャルガルサイハン: アメリカの制度はどのように動いているのですか?
E. ゲレルト・オド: アメリカの制度は、党員という名は付いていますが、研究者たちはこれを応援団のメンバー的なものと見ています。党員の制度にはヨーロッパ型とアメリカ型があります。アメリカ型の場合、党員は好きな時に政党に寄付を送り、そうでない時にはその政党を出て行きます。全く党員がいないというものではありません。それから、主要な党員に関しては、厳格な党員制度を持っています。モンゴルではこれを誤解し、党員のいない政党にするなどという主張があったりします。これは間違った見解です。党員がいなくなると、政党を組織化し、その内部民主主義を向上させることができなくなってしまいます。モンゴルには1990年からずっと緩い党員制度が存在してきました。まず、党員に対する公式要件がありません。政党が誰でも党員として受け入れることができます。次に、党員全員が党費を支払わなければなりません。しかし、今でも党費を納める党員は少ないです。ですから、政党の名前を使うためだけに党員として入党している人もおり、緩い党員制度となっているのです。
ジャルガルサイハン: 政治家としてキャリアを築こうという意思のある者だけが党費を納めていますね。
E. ゲレルト・オド: そうです。最高裁で登録されている党員数は67万人くらいです。ただし、もう既に存在しなくなった政党や非公式的で存在できなくなった政党が登録上は何十万人もの党員を有するという場合があります。
ジャルガルサイハン: 今日は重要なテーマについて詳細な話を聞かせて頂き、ありがとうございました。
E. ゲレルト・オド * ジャルガルサイハン