スミヤ・オユントヤ氏は、モンゴル国立大学法学部を卒業し、リバティカレッジで行政修士号を取得しました。彼女は「X」法律研修センターで法律家、社会進歩女性運動NGOで副理事、国会議員顧問を歴任しました。オユントヤ氏は腐敗、人権、市民の政治参加、有権者の教育、選挙法令、政治や選挙予算、意思決定過程、公共サービスのアクセス可能性、質を評価するなど、数多くのプロジェクトを運営しています。

J(ジャルガルサイハン): 選挙の時期のインタビューになります。あなたは、よく有権者教育が国会議員の責任と直接関係すると言います。有権者教育センターも設立から何年間か経ちます。有権者教育がなぜそこまで重要なのかということ、また有権者教育センターの簡単な紹介から始めたいと思います。

S.オユントヤ: まず、選挙とは何なのかということを考えるべきです。選挙は、どのようにして始まり発展してきたのか。その根底にあるものは、国民の国を治める必要性です。選挙は時代と共に変化し発展していく中でも、失われることのない本質を持っています。それは大衆の中から良い人物を選びだし、その人々に国家の統治を委任することです。

このことに関連して有権者の教育問題に触れると、国を治め国家権力を行使させる、国際条約及び憲法によって保障された権利を行使するといったプロセスを含んだものになります。選挙というと、選挙当日に投票に行くことだけだと理解されがちです。しかし、これは選挙の一部分にすぎません。次の選挙までの4年間のプロセスも含めて選挙であり、有権者の政治への参加であるとみるべきだと思います。

投票することはもちろんですが、投票行動以外の99%が投票後、政党や候補者、国会が選挙の際に公約していたことを実現しているかを監視し、評価し、公約を履行させ、目標の実現を要求する過程にあると思います。国民がこうして意思決定の過程に参加するという意味で、選挙は包括的な責任制度であると考えられます。

J: マネジメントの著名な学者であるドラッカーのPDCAサイクルという理論があります。計画、実行、評価、改善の4段階を繰り返すことを言います。選挙というのは、投票日当日だけで完結するものではなく、4年間で1サイクルだということですね。投票するというのは、彼らの計画を承認するか否かということであり、次に計画を実行しているかどうかを評価します。そのうえで改善していく。つまり次の選挙でもその人を選ぶかどうかを決めるということですね。なぜならあなたは今、選挙が必要な理由は良い人に自分の生活を決める国家権力を与えるためであると言いました。

今私たちが話したようなことは、先進国や民主主義が発展した国では理解されます。モンゴルでこれが当たり前になるのに何が必要ですか、どのような問題が起きるのですか。有権者教育センターの役割もこのことにあるかと思います。

S.オユントヤ: 国民のあり方が、政治のあり方であるという言葉があります。しかし私自身はそうは思いません。有権者に選挙とは何なのか、民主主義とは何なのか、政治決定がどのようにして出されるのか、政党の役割、機能は何なのかについて十分な情報を提供し、理解される努力もせず、ただ国民が悪いのだから、政治が悪いなのだといいます。このように有権者のせいにすることが多々あります。

モンゴルの場合、有権者教育に関する公式なプログラムや基準がない唯一の国だと言っても過言ではありません。私は2度にわたりドイツに行き、この問題を研究してきました。それから20年が経ちますが、私の取り組みはまだ成功していません。政府、教育・文化・科学・スポーツ省や選挙委員会は、中央選挙管理当局に関する法律によってこの義務を負っています。しかしながら、有権者教育に関して何ら手立ても政策も講じていないのに、有権者が悪い、教育がなされていないと言います。

J:  教育・文化・科学・スポーツ省は、有権者教育を提供する義務があるのですか?

S.オユントヤ: ドイツにはそういった例があり、法律によって取り組まれています。しかし、モンゴルにはそのような法律がありません。

J: ドイツの法律では、教育・文化・科学・スポーツ省にあたる政府機関が、市民の社会教育を担当するということなのですね?

S.オユントヤ: その通りです。政治教育、有権者教育、民主主義教育、市民教育など広範囲にわたり、就学前から有権者教育に関するどのような習慣、知識を習得すべきなのか、どういう姿勢を学ぶべきなのか、中学ではどのくらいの学習レベルに到達する必要があるのかが決まっています。

J: 有権者教育センターはそのような試みを行ってきましたか。モンゴルの法律に規定を設ける働きかけなど。

S.オユントヤ: はい、努力は尽くしました。例えば、2009年から2011年の間に、特に中学校で教えられている市民教育科目の内容を調査しました。それは、初めて投票をしようとしている子供たちに民主主義教育、有権者教育に関する教育内容を確認するものでした。実際それは、2時間の授業で選挙とは何かというテーマに触れるだけでした。ですから、私たちは教育・文化・科学・スポーツ省と協力して、中学生を対象に有権者教育の教科書、教師用の教科書を作成し、それを教育・文化・科学・スポーツ省及び選挙委員会に提供し、教師たちに研修を受けさせるなどの活動を2年間続けた結果、選択科目という形でこれを教育システムに取り入れることに成功しました。しかし、それも今はありません。2011年にこうして状況を改善し、公式に教科書に取り入れるようとして重要性も伝えましたが、その後政権が変わった結果、この有権者教育の科目は無くなってしまいました。

J: 独立した必須科目にしなくても、文学などテキストの中に取り入れることはできませんか?

S.オユントヤ: それは可能です。有権者教育、民主主義教育という基本的な概念を体育や社会学、歴史、数学など他の科目の授業を通して教える国もあります。しかし、私たちにはそのどちらもなく、時間だけが経過してしまいました。学校を卒業して選挙で初めて投票する18歳から22歳の有権者は、例えば2020年の選挙有権者数の11%を占めます。

私たちは彼らを「選挙に投票しない、投票率が低い世代」と言います。しかし、彼らは選挙とは何か、選挙で誰を選べばいいのか分かっていません。そういった教育を受けていないので、選挙にどのように参加すべきなのか分からないのです。

J: 前回の選挙で、総選挙有権者数の中で35歳未満の有権者は何人でしたか?有権者数と参加姿勢はどうでしたか?

S.オユントヤ: 2012年の総選挙では、初めて投票する人々のうち38%が、2016年の総選挙では50.8%が投票所に足を運びました。その数は増加しています。今年2020年の総選挙では、総有権者数の11%が「初めて選挙で投票する18歳から22歳の人々」となっています。また、2012年以降、有権者数を年齢別でみることができるようになりました。これによると、今は47歳未満の有権者が有権者数の70%を占めています。ですから、若者が数多く、積極的に投票しないと、最低投票率に満たない問題も発生しうるということです。

J: 2016年度の選挙の統計を見ました。有権者の半分くらいが35歳未満の人々であり、投票率は50%でした。一方、57歳以上の有権者の投票率は97%でした。つまり、若者が選挙に参加しないから、高齢者が彼らに代わって決定したということです。ですから政治の決定も若者より高齢者向けのものばかりです。例えば、年金担保ローンの返済残高をゼロにするなどの施策です。しかし実社会では、若者もローンを組んで住宅を購入しています。

同じ論理を用いれば、このローン残高もゼロにしてもらえるわけです。収入が全て住宅のために使われていますからね。他の国では、若年層の雇用を増加させ、若い家庭を応援し、とりあえずでも一部屋の住宅に住めるようにし、子供が生まれた後、男性に2ヶ月間の育児休暇を必ず与えるなどの施策があります。若者が選挙に投票しないから、こうした若者を応援する政策に政党が消極的だという話があります。これをどう思いますか?

S.オユントヤ: その通りです。選挙に誰が候補するかというと政党の人間です。政党の主な目的は、政権を担うことにあります。ですからそこに働く市場のルールは、自分たちに投票した人々に奉仕するというルールです。若者が選挙に参加せずにきたので、今までは当選した10人のうち10人が自分たちに投票した中高年の有権者のための政策、公約がなされてきました。もし、今年の選挙で若者が多く選挙に投票したら、来年はより若者向けの政策、公約がなされるかもしれません。若者が自分たちのために政治家に責任を取ってもらうように政党を変える。また自分たちが直面している問題で議論が行われるようにすることは、やはり若者が積極的に選挙に参加し、投票することから始まります。

もちろん、1回の選挙だけで問題が全て解決されるわけではありません。若者が自ら選挙に参加することで状況を改善できます。直面している問題を解決してもらうためには、投票し1度は政党に成績をつけてみるべきです。責任を負わせるのです。政治家が自分たちの問題解決のための話をしていないと分からせるべきです。若者を対象にした調査をみると、彼らが一番に直面している問題は“教育”です。しかし、国全体が直面している問題を並べると、教育は10位になります。ですから若い人が選挙で投票せず、政治に関心をもたなかった足跡が、今の状況になっているわけです。

J: 一方で、若者がなぜ自分の生活に関わることの意思決定をする人を自分が選ばないといけないのかを早いうちから分かっていると、自分たちの意見が政治に反映されることは時間が経つにつれて強くなるということを言っているわけですね。

もう一つ質問があります。モンゴルは世界の総人口70億人の半分が夢にみて、手に入れることのできない民主主義を確立させました。2008年を除いて、過去7回の選挙を平和に行ってきました。ここに一つ大きな問題があります。選挙前になると、政権与党が自分たちの都合に合わせてゲームのルールを常に変更してきました。誰もこの問題に関心を寄せません。ゲームのルールは政治家にとっては関心のある問題ですが、有権者にはそれほど重要ではありません。このように選挙制度を変更することは選挙の結果に影響を及ぼしますか?

S.オユントヤ: もちろん影響を及ぼします。これは一種のシステムですから、そこに適用されている法律やルールが安定していれば、有権者はそれを学んでいきます。一方、政党や候補者、国会に議席をもたない政党など、誰にでも平等に適用されるルールが安定することで、有権者と政党双方が長期間に渡って準備を整え、有権者教育を提供できます。それが若い人が政治家としてのキャリアを形成し、若い人の政治参加に影響を及ぼしているように思います。選挙ごとに法律を変えたり、選挙ごとに制度を変えたりすれば、それに従って手続きも変更されます。手続きが変更された結果、有権者の選挙への参加方法、選挙の基本原則を実施する方法が異なってきます。ですから調査結果をみる限りでは、若者が選挙に参加しないもう一つの原因は、若者を政治に参加させない、立候補させないという、政党による若者を応援しない、後継者を育成しない姿勢です。

若い人にとってみれば、政治に参加しようとして準備を進めている中、ゲームのルールが突然変更されてしまいます。もしこれが安定していたら、将来の政治キャリアに向けて若者も16年、20年という長い期間で自分を準備する機会が与えられます。

J: 制度にはこういった課題があります。一方で、ゲームのルールを変更することは、政党が機能不全な状況を生み出します。政党が組織として成熟できておらず、政党リーダーに依存するあまり、政党リーダー個人の性質が色濃く活動に反映されてしまう。これは、モンゴルが非常に不安定な状態にあることを意味します。実際、例えばドルジという1人の人間に依存することはあってはならないことです。

民主主義が発展している国を見ると、政党を組織として成熟させるためには、混合選挙制が導入されていることが言えます。過去7回の選挙のうち、一度だけ混合制の選挙が行われました。その他は全て小選挙区制でした。1回だけ混合制で行った選挙の際、比例代表制と小選挙区制の議席比率は28:36でしたか?

S.オユントヤ: 28:48です。

J: 76議席のうち28議席を候補者名ではなく政党名で選ばれました。もしこの制度の中で、政党が比例の候補者の名前を公表し、混合選挙制でオープンな立候補者名の選挙制度にするやり方は、先ほど話にあった問題の解決に役立つと思いますか?

S.オユントヤ: もちろん、役立ちます。選挙制によって多くの問題を解決できることを見てきました。ここで一つ問題があります。私たちはある問題、例えば、選挙制や選挙の基本原則について説明する時、常に自分たちの利害を考えています。

しかし、選挙制というものには学問、論理の部分もあります。それを説明する時でさえ、政治化してしまうのです。2012年に私たちは一つ良い例を体験しました。候補者名をオープンにするかしないかは制度上の問題であり、立法機関に任される課題でしょう。しかし、そこでこの選挙制度が私たちに何を与えていたか、国民の代表である国会議員、組織としての政党にどのような良い影響を与えたかが重要です。

例えば、腐敗問題の解決にどのように機能したか、またジェンダー問題、女性の政治参加率にどのようなメリットをもたらしたかなど、短い間でしたが良い実例を見たと思います。しかし、2016年にこの混合選挙制を廃止したことを選挙の基本原則に反するなどとも言っているわけです。選挙の基本原則には、例えば、有権者自身が直接投票をするという原則があります。以前、社会主義時代にありましたが、個人の投票を代理人が行うという間接選挙というものがありました。

J: そのため、私たちは選挙制を一貫させ、安定させることが大切だということですね。

これと関連し、つい最近、投票用紙の形式が決定しました。しかしある区の投票用紙には30人〜40人の候補者の名前が記載されています。それを私たちのように政治を専門にしていない普通の人が見ると、閣僚経験者など少しは知っている名前を目にします。そしてその知っている名前には投票せず、他に誰がいるかと見ても、知っている人がいません。それでも有権者は投票を棄権する機会を与えられていません。これはなぜですか?

S.オユントヤ: それも自由選挙の原則に違反しているということです。

J: だから有権者も投票に行かないわけです。投票する人いないから行かないというわけです。オーストラリアなどでは、投票しないという選択肢があります。それから、国が税金で予算を立て選挙を行うのに、投票所に行かなければ罰金を設けているようです。モンゴルも同じようにしたらどうですか?

S.オユントヤ: そうすることは参政権を活性化する一つのキッカケになりうると思います。選挙に参加する人が多ければ多いほど、選挙の結果、私たちを代表する組織の力が上がります。

先ほどあなたが言ったオーストラリアの制度は、タイにもあります。タイでは、有権者全員が投票しなければなりません。なぜなら憲法で定められた国民の義務だからです。しかし自由選挙の原則を守るために、投票用紙には「この人を選ばない」という選択肢もあります。これは「私の利益を考慮した政策ではありません」と意思表示することです。反対数が多ければ、政党に対して、政党が行っている政策、公約、考え方を変えなければならないというメッセージとなります。

J: 反対数が増えることは、その政党が行っていることは現実に合わないということを有権者の意思として示します。今後は民主主義の実現に向けて、反対する機会を与えた上で選挙に参加しなければ罰金を科すことにすることができるということですね。

S.オユントヤ: はい、そうです。タイのモデルにおいて、まず投票所に行くことで他人が自己の代わりに投票する危険を回避できます。また、投票所に行かないのであったら、選挙結果によって形成された組織が決定する政策に対する異議申し立てを受理しないなどの対策があります。

J: 私は選挙委員会でいつもこの話をしますが、選挙委員会というものを廃止して、有権者委員会にするべきだと。選挙委員会には2大政党の党首がおり、不当な取引につながるからです。有権者委員会にしてその構成員10人のうち、例えば6人を政党に所属しておらず、市民によって承認された著名人などにします。イギリスはそうです。

それから10人の3分の1が2年ごとに入れ替わるようにします。彼らは選挙及び政党の予算を登録することを任されています。一定額を超える寄付金が政党の口座に振り込まれた場合、3日以内に有権者委員会に対して公式な説明を義務付けます。これも今後考慮すべきことの1つです。今後の話は置いておいて、今回の選挙に関して言うと、今年は新型コロナウイルスなどもあり、ソーシャルメディアの役割が非常に大きかったです。要するに、電子選挙とも言えます。この特徴は何ですか。何に注意すべきですか?

S.オユントヤ: 候補者、政党の行うソーシャル・キャンペーンを見ました。そのキャンペーンを受け取る有権者がいます。規制し、監視することが困難な状況の中、例えば、一つの選挙区に40人の候補者がいる場合など、選挙期間である22日以内に如何に彼ら全員について十分な情報を得られるようにするかというのが問題です。

有権者には、信頼性のある公式な情報源から情報を受けた上で投票するという問題があります。今回の選挙において、有権者にとっての最も難しい課題が、無限にある情報の中からどのようにして信頼に足る情報を手に入れるかというものでした。

J: これと関連して有権者教育センター、腐敗防止機関、選挙委員会が共同で設置した1800〜2800番に電話し、有権者に関する情報提供、投票所の位置などを聞くことができます。この番号に電話してくる人の中に、「特定の政党の候補者全員を選ばないと投票用紙が無効になるのですか」という質問をした人がいたようです。これはいったいどういうことですか?

S.オユントヤ: 私たちはこれを選挙委員会と協力してやっています。有権者が投票権を行使する際に、情報提供の補助をする機関は今までありませんでした。ここ2、3年で選挙委員会と協力してこれを実施することで、適法で正確な中立した情報を有権者に提供することができるようになりました。その質問も多数きています。特に地方に住んでいる人々からです。地元に候補者が来て、人民党、民主党など一つの党の3人の候補者を3人とも投票しないと、投票用紙が無効となるということを言っているとのことでした。

J: それは嘘の情報だということを伝えたいですね。最後の質問です。606人の候補者のうち、4分の1が女性です。どうすれば女性の政治参加を増やせますか?

S.オユントヤ: 最近の選挙で、女性候補者数が候補者総数の25%を下回ったことはありません。しかし、候補者数の25%と実際選ばれて国会議員になる割合というのは別問題です。

J: 国会議員に選ばれるのは平均どれくらいの人数ですか?

S.オユントヤ: 2008年に9人、それ以降5人、3人、11人、13人といった数字になります。

人口の半分が女性なのに、国会議員に占める女性の割合が非常に少ないです。女性に対して私たちは政治活動と無関係な要求をするからではないかと思っています。

J: ここで強調しておきたいのが、腐敗問題が少ないスカンジナビア諸国では、女性議員数が非常に多いです。国会議員の半分が女性であり、内閣の過半数が女性です。女性議員数が多ければ、腐敗問題が減少します。モンゴルでは腐敗問題がとても深刻な問題になっていますからね。

S.オユントヤ: その通りです。女性議員が1人増えると、腐敗率が8%減少するという国際機関の調査結果もあります。

J: モンゴルから腐敗問題を無くすためには、国会議員の半分を女性にしなければならないのかもしれませんね。

S.オユントヤ: しかし実際には、女性が政治に参加しようとすると、財政的に困難であることも現れてきます。

J: 逆に言うと女性が政治に関与するほど、金銭依存関係が減少するわけですね。今日はとても重要なテーマについてお話できました。ありがとうございます。

S.オユントヤ: ありがとうございます。

S.オユントヤ * ジャルガルサイハン