1973年にウランバートルで生まれたL.ビャンバスレン氏は、輸送調整・法律専門家です。彼は1994~1995年にMIATモンゴル航空会社のグランド・ハンドリング、1995~1999年まで同社サービス課ディスパッチャー、1999~2000年に同社飛行・輸送調整課の専門家、2006~2012年まで同社の国際旅客サービス課の課長を歴任しました。2012~2014年に民間航空庁が管轄するチンギス・ハーン国際空港会社の社長、2014~2016年に民間航空庁の航空輸送経済調整・対外協力局局長を務め、2016年から民間航空庁長官の職に就いています。

ジャルガルサイハン: 長い時間がかかりましたが、フシギ−ン・フンディの新国際空港が開港しました。言うまでもなく、人々は新国際空港の開港を待っていました。民間航空分野においても歴史的な出来事となりました。開港後も大きな仕事が待ち受けています。この新国際空港は、短期的および長期的には、モンゴルにどのような変化をもたらすと見ていますか?これについてあなたの見解を聞かせてください。

L.ビャンバスレン: 建設期間が約10年近くも続いたフシギ−ン・フンディでの新国際空港は、2021年7月4日に正式に開港し、ウランバートル−成田間の第一便のフライトを運航しました。私たちは昨年の7月5日にも開港式を行いましたが、新型コロナウイルス感染拡大のため、正式な開港は延期となり、ようやく今年の7月4日に開港でき、既存のボヤント・オハー空港からフシギ−ン・フンディの新国際空港への業務移転も完了しました。

チンギス・ハーン新国際空港では、ビジネスフライト全般が運航されます。既存のボヤント・オハー空港では、ゼネラル・アビエーション及びビジネス以外のプライベートフライトが運航されます。

フシギ−ン・フンディでの新国際空港の開港により、航空輸送における自由化という1つの大きな目標が達成されました。政府の参入はありますが、51%を所有する日本の民間航空会社が、15年間新空港のマネジメントと運営事業を担当します。この結果、新国際空港は民間航空庁の管轄から離れ、民間企業との国際的な合弁事業によって運営されることとなります。これは大きな進展です。

新国際空港の開港により、いくつかの新たな進展が見られます。まず、面積の面で言えば、既存のボヤント・オハー空港の総面積が23,000㎡、使用可能面積が13,000㎡なのに対し、新国際空港の使用可能面積は37,000㎡と3倍の大きさです。

過去数年間、ボヤント・オハー空港では、同時に2〜4便の乗客を収容することが困難でした。空港内の出発ロビーに人が入り切れず、換気容量も不足し、乗客に快適な環境を提供できないなどの問題がありました。フシギーン・フンディの新空港ではこういった問題はありません。新国際空港の総面積は37,000㎡であり、6つボーディング・ブリッジを備えています。年間300万人、1時間に1000~1500人の利用が可能となりました。また、乗客は国際基準に適した快適な空港を利用することが可能になりました。

次に、ボヤント・オハー空港はその立地から、大型の飛行機は北西から着陸し、北西へと離陸していました。つまり、離着陸が一方方向のみに行われていたということです。これが春や秋など天候が荒れる季節には遅延を引き起こしていました。これにより航空会社の定時運行精度の低下、大勢の乗客を出発ロビーに長時間待たせるなどの問題が発生していました。しかし、新国際空港の開港によりこの問題も完全に解決されました。新国際空港には滑走路が2本あります。旧ボヤント・オハー空港の利用率は73%だったのに対し、新国際空港の利用率は98%に上ると推定されます。天候による遅延や欠航に関しては、以前2.5%でしたが、新空港では0.3%、つまり1,000フライト当たり3フライトです。これにより、空港のキャパシティが十分に活用され、乗客が空港で長時間待たされるという問題が解決されます。

技術・機械設備に関しては、最新の機械設備が設置され、技術的な進歩を遂げました。例えば、飛行場で使われる全てのGSE(Ground Support Equipment:航空機地上支援車両)は、自動管理システムで管理されています。

もう1つ特記すべきことは、モンゴルには大型機が着陸できる飛行場がなかったため、中国のフフホト市やエレン市で給油が必要でした。これにより飛行機を利用する旅客や貨物の量が減っていました。これが新国際空港の開港により、飛来する飛行機は給油することが可能になりました。そのため、飛行機に乗せる旅客数や貨物の量が以前に比べ増えると思われます。

また、長さ3,100m、幅45mの滑走路とターミナルを有するボヤント・オハー空港では、ゼネラル・アビエーションおよびその他のビジネスが可能となります。

 

ジャルガルサイハン: あなたの話にも出て来たように、ボヤント・オハー空港の今後の利用について話したいと思います。私は2018年に「ボヤント・オハー空港のあらゆる可能性」という記事を書きました。この記事を書く際に、民間航空庁やあなたともお会いし、話を聞き、ボヤント・オハーは、ゼネラル・アビエーションやプライベートフライト、航空機修理やメンテンナンスサービスの提供、民間航空企業のパイロットや客室乗務員、エンジニアの養成施設、航空機の組立工場専用の空港になるなど、様々な可能性があることについて言及しました。今日は2人でこれらについて話しましょう。ゼネラル・アビエーションとその将来性についてあなたの見解を伺いたいと思います。

L.ビャンバスレン: モンゴル政府は、2020年にゼネラル・アビエーションの開発プログラムを採択しました。このプログラムの実施期間は4年です。したがって、全国21県と首都ウランバートルを含むおよそ90本の新しい路線、ヘリコプター専用のヘリポートの建設が計画されています。新型コロナウイルスの感染拡大により、一部の活動が延期されていますが、期限更新などが行われ、このプログラムは今後も継続します。

また、これらに関連して法改正が行われています。ゼネラル・アビエーションの規制、ビジネスフライトとの区別、特別許可の取得、特別許可のないフライトなどの法的環境を整備する必要があります。法的環境が整備されれば、モンゴルにゼネラル・アビエーションが発展する上で好ましい環境が構築されると見ています。ゼネラル・アビエーションを発展させる主要なリソースは、ボヤント・オハー空港です。このボヤント・オハー空港で、企業や個人が自分たちのビジネス専用のフライトを実施できるようになります。

私たちは、あなたが書いたボヤント・オハーのあらゆる可能性についての記事を読み、あなたとも話し合い、検討した上で事業計画に盛り込みました。既存のボヤント・オハー空港は、アジア開発銀行(ADB)の3,000万ドルの融資により改築されたものです。ボヤント・オハー空港のターミナルなど、固定資産の時価総額はおよそ900億トゥグルグとされていますが、実際は数千億トゥグルグの価値があるリソースです。

最近では、企業や個人は、プライベートのヘリコプター、小型機を購入しています。プライベート用のヘリコプターの数は短期間で5台に増えました。これらの機材の運行はボヤント・オハー空港を基点に行われます。

また、ウランバートルで新しく建設されている建物の中には、屋上にヘリポートを設置するものも見られるようになりました。これに関して、私たちは法的および専門的アドバイスなどの支援を提供しています。他にも私たちは様々な活動を計画しています。

 

ジャルガルサイハン: 今の話と関連して2つのことを聞きたいと思います。まず、へリコプターに関して飛行が許容される範囲、つまり高さは何メートルまでですか?また、どのように調整していますか?

次は、世界各地で空飛ぶクルマが開発され、実用許可を待っている状況であります。もし、企業や個人がヘリコプターや小型機のように空飛ぶクルマを導入した場合は、モンゴル国は受け入れる準備ができていますか?具体的にどのように対応し、規制しますか?

L.ビャンバスレン: ゼネラル・アビエーションは人口が密集している地域や飛行場に着陸する時は必ず許可が必要となります。ゼネラル・アビエーションなどのプライベートフライトは、自分たちのヘリポートを離陸する際、人がいない地区をフライトする時は許可を取る必要はありません。人口が密集している地域の飛行、ウランバートル市内での救急医療フライトによる病院での離着陸、プライベートフライトが自分たちのヘリポートに着陸する時は、必ず民間航空庁の航空交通管制から必ず許可を取ります。航空交通管制の管理下にない空域、つまり3,000〜6,000m以下の空域でのフライトは、この許可は不要です。

世界中で空飛ぶクルマのほか、人を運ぶ大型ドローンの開発が進められ、実証実験や実用化に向けた動きが積極的に行われています。こういった世界的な動きの中で、モンゴルでは一部関係者によりドローンに関する法案が提案されている段階にあります。また、具体的なドローンの規制に関する課題もあります。これに関して、私たちはシンガポールのドローンを規制している省庁と情報交換を行い、彼らの経験やノウハウを研究しています。空飛ぶクルマや人を運ぶドローンなどは、モンゴルの航空分野において新しい課題であり、これらに関する研究を実施し、法的環境を充実させることに取り組んでいます。

ヘリコプターや小型機の飛行については、プライベートフライトに関して厳しい規制はありませんが、ビジネスフライト、つまり有人飛行、有料サービス、商業航空サービスを提供する場合は、MIATや他の航空会社と同様の要求と規制を行います。

 

ジャルガルサイハン: 次は航空機材の修理とメンテンナンスサービスについて話しましょう。MIATモンゴル航空は、航空機材の修理やメンテンナンスサービスの提供を始めて久しくなります。そして毎年、何百万ドルという売り上げを上げています。2018年には50機の修理・整備を行いました。航空機材には常に修理やメンテンナンスが必要です。したがって、航空機材の点検、修理サービスの需要も高いです。航空機の安全な運航のためにA整備(A-check)、C整備(C-check)、D整備(D-check)という検査が行われなければなりません。

MIATモンゴル航空は技術サービスを国際規格に適合させ、国際基準ISO9001:2008規格を取得しています。ボーイング社の認定を受け、証明書を取得しています。エアバス社の技術サービス、修理の技術認定をも取っているかと思います。

これから航空ビジネスが最も発展する地域は、アジア太平洋地域であり、その牽引役となるのは中国とインドであると言われています。これらを踏まえて、モンゴルは航空機材の修理・メンテンナンスサービスを提供するようになれば、モンゴルの航空産業は安全で、自然環境に悪影響を及ばさない、かつ鉱業より大きく重要なビジネスになる可能性があると思います。そのためにボヤント・オハー空港のハンガーの増設の意見が多数出ています。あなたはこれらをどう見ていますか?

L.ビャンバスレン: 私たちは、既存のボヤント・オハー空港で次の7つの活動を計画しています。まず、ゼネラル・アビエーション。次に航空機材の修理・メンテンナンスサービス。3つ目に民間航空企業のパイロットや客室乗務員、エンジニアの養成。4つ目に軍事フライト。5つ目は地域航空交通管制センター。6つ目にチンギス・ハーン国際空港の燃料保管場所。7つ目は特別任務活動。こういった活動を中心にボヤント・オハー空港を運営して行く予定です。

主要な活動は航空機修理・メンテンナンスサービスになります。MIAT航空の航空機材の修理・メンテンナンスサービス部門は国際基準規格を取得しており、先程あなたが言ったように2018年に50機、2019年に40機の修理・整備を行い、数百万ドルの収入を会社にもたらしました。ボヤント・オハー空港をリソースとして、航空機材修理・メンテンナンスサービスを今後も展開して行きたいと考えています。航空機材の修理・メンテンナンスサービスをさらに発展させて行くために、各航空会社はある程度の資金を捻出してくれています。

 

ジャルガルサイハン: 以前、新国際空港の航空機燃料に関して問題が起こりました。どういった問題化というと、航空機燃料の貯蔵タンクが設計図面と異なり、ロシアからの燃料のみに合わせて建設されていました。これは燃料の保管と輸送のシステムが既に出来上がっているのではないかという批判が噴出しました。この問題は、どのように解決されましたか?

L.ビャンバスレン: それはフェイクニュースです。新国際空港の燃料備蓄の設備は、最新の技術で設置されています。2,000トンのタンク4基、総延長1.9kmの油圧システム、雨水処理システムがあります。この航空機燃料の備蓄設備の利用にあたって、モンゴル政府は具体的な政策を打ち出し、ロシアのロスネフチ社を何らの形でも経由しないように、モンゴル政府とロスネフチ社の合弁企業を設立し、契約交渉を行っています。したがって、ロシアだけではなく、中国からもJetA1燃料を購入する可能性について検討しています。私たちは新国際空港の航空機燃料の確保において、選択肢の多様化、価格競争が可能になるように中国の企業とも商談を行っています。

ビャンバスレン * ジャルガルサイハン