カナダ探鉱開発協会(Prospectors and Developers Association of Canada:PDAC)の年次総会がトロントで開かれた。PDACは持続可能な鉱山開発を目的とした世界的な組織である。PDAC年次総会は、鉱業分野における採掘技術、鉱山採掘の自然環境への影響、鉱山採掘という危険を伴う業務の保全について情報や経験を共有する機会で、約8000の会員企業が集う一大イベントである。そしてその知名度はますます高まっている。

毎年3月上旬にカナダで開催されるこのイベントに、今年は130ヵ国25,800人の代表者、3,500人の投資家が参加した。鉱山の探査、採掘、ロジスティックに携わる約1000社が展示会にブースを開いた。トロントへの経済効果は7,000万ドルになる。

D.スミヤバザル鉱業重工業大臣をはじめとするモンゴル政府担当者、鉱山会社の代表らが、外国投資家向けにMongolia@PDAC 2019というカンファレンスを3月3日に行った。カンファレンスでは、トロント、オーストラリア、モンゴルの証券取引所に上場している企業の現状報告が行われ、250人の参加者が意見交換をした。D.スミヤバザル鉱業重工業大臣はエルデネス・タバントルゴイ社の株式の30%を外国証券取引所に上場することを発表した。またカナダの鉱業、国際貿易、資源ファンドの関係者やチリの鉱業大臣や投資家たちと会談した。

鉱山採掘の世界動向

2018年は世界中で非鉄金属(アルミ、金、銅、亜鉛など)の鉱床探査に投資された額は100億ドルに上る。S&P Global Intelligenceによると、これは前年比4%増だという。この投資額のうち50%は金鉱山に、22%は銅鉱山に注ぎ込まれた。一般に米ドルの価値が上がると金価格は下落すると言われ、2018年前半では金1オンス1,318ドルだったのが、後半では金1オンス1,283ドルまで下落した。

しかし、2017年末に1トンあたり6,173ドルだった銅価格は、ロンドン金属取引所(LME)では世界経済の伸びや供給量減少により6,527ドルに上昇した。2019年に銅1トン当たりの価格は平均6,824ドルとなる見通しである。

また、電気自動車の生産増加を受け、電池材料となる銅、リチウム、コバルトなどの資源探査費用が急増している。2018年にリチウム鉱床の探査に世界中で2億4700万ドルが費やされている。これは前年比58%増である。コバルト鉱床の探査には95社、総額1億1千万ドルが費やされた。これは2017年に比べ3倍に増加している。

しかし、モンゴルでの鉱床探査は停滞している。モンゴル政府による不合理な探査ライセンスの交付が続き、2010年にライセンスの交付が禁止された。しかし実際には裏で交付されていた。現在は交付されている3074のライセンスのうち1393が探査ライセンス、1681が採掘ライセンスである。モンゴルでは国土の5.5%で鉱物の探査・採掘が行われている。鉱山の探査・採掘には1:50000スケール(1㎝あたり500mのスケール)の地質図が必要である。しかしモンゴルでは、国土全体の3分の1でしか地質図ができていない。諸外国では、どこにどういった鉱物資源があるかを完全に把握し、その利用についても計画を立てることが当たり前となっている。

鉱物の探査のためにモンゴル政府は、2017〜2018年度の国家予算に133億トゥグルグを計上した。しかし実際に使われたのは113億トゥグルグ(530万ドル)だった。鉱物資源の発見の可能性が高い探査プロジェクトに投資家を誘致するチャンスは、国際市場に数多く存在する。

モンゴルの鉱業は、国内総生産の23.6%、産業の72%、輸出の88.5%(62億米ドル)、外国投資の74%を占める経済的にも重要な分野である。モンゴルの発展はこの鉱業分野に深く依存している。

エルデネス・タバントルゴイ社の資金調達

モンゴルの鉱業分野は石炭なしに語れない。石炭の用途として、低品質な褐炭は発電に使われ、より高品質な瀝青炭はコークスにして製鉄に使われる。2018年のモンゴルの輸出品の88.5%を鉱業製品が占め、その半分となる45%が石炭である。

鉱業重工業省の2018年末の発表によれば、モンゴルの石炭の全埋蔵量は328億トンであり、179社が317の石炭採掘ライセンスを保有し、探査・採掘を行っている。モンゴルは2018年に5000万トンの石炭を生産し、そのうちの3600万トンを輸出している。石炭の全埋蔵量のうち74億トンはタバントルゴイ炭鉱にある。その51億トンは瀝青炭であり、そのうち30億トンは国営企業のエルデネス・タバントルゴイ社が所有するツァンヒ鉱床にある。エルデネス・タバントルゴイ社は2018年に1110万トンの石炭を採掘し、売上高は8億ドルだった。エルデネス・タバントルゴイ社一社で中国のコークス輸入量の5分の1を供給している。

エルデネス・タバントルゴイ社は2010年に石炭の採掘を開始し、この8年間で4000万トンの石炭を輸出してきた。今後4年で石炭の採掘量を7000万トンに増やし、採掘稼働率を2倍にするための取り組みを始めた。採掘されている石炭の85%がコークスの元となる瀝青炭である。稼働率を上げるとともにガショーンスハイト国境検問所までの新たな舗装道路や鉄道の建設、石炭精錬および化学工場、発電所の建設、水道インフラ、サインシャンドとハンギ国境検問所までの鉄道建設など、約20もの大規模プロジェクトの実施を計画している。これらのプロジェクト実施には18億ドルの資金が必要である。モンゴル政府はこの資金をエルデネス・タバントルゴイ社の株式の30%を国際証券市場に上場するという手法で調達しようとしている。

外国の投資家たちは、タバントルゴイ炭鉱の石炭埋蔵量は豊富で、良質な石炭があり、石炭の最大消費国と隣接しているといった背景から、必要なインフラを整備し採掘が軌道に乗れば、輸出量が増えると期待している。だが、エルデネス・タバントルゴイ社は国営企業であるため、会社の舵を取るべき取締役が常に入れ替わることや、取締役会に株式の15%を保有している国民から選ばれた独立した役員がいないことが投資家に二の足を踏ませている。実際、株式の30%では同社の取締役会の決定への影響力がほとんど無い。

また、外国人投資家の注意を引いているもう一つの点は、エルデネス・タバントルゴイ社の社会的責任への低い意識である。タバントルゴイ炭鉱の石炭を積んだ大型トラックは、国境検問所の20km手前にあるツァガーンハドで一旦荷降ろしし山積みにされる。そして再び別のトラックに積み込む。これが周辺の自然を破壊している。舞い上がる黒い粉塵の中を数千台のトラックが列をなし、国境検問所を通る順番を数週間も待っている。この間、運転手はトラックの運転席で「生活」している。

石炭を運ぶ大型トラックの通行許可を道路運輸開発省が交付している。政治的な思惑や絡みが原因で、通常3500台のトラックで十分なところ、15000台のトラックに通行許可を交付した。これにより国境検問所のキャパシティーをオーバーし、ツァガーンハドに「渋滞」ができている。この道路では毎日、交通事故が発生し運転手が命を落としている。当然ながら、交通事故やツァガーンハドの渋滞などの問題を解決しない企業の株式を保有したいと思う人はいない。タバントルゴイ炭鉱の株式をトロント証券取引所に上場させるために乗り越えるべき壁は思いのほか多い。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン