全モンゴル労働党、地方選挙へ立候補を差し止め
市民の選挙権、被選挙権が侵害され続けている。
モンゴルでは地方選挙が行われている。県・首都・郡・区の市民代表議会議員選挙の投票が10月15日木曜日に行われる。投票率に関係なく当日、来場した投票者の過半数の得票で当落が決まるのが特徴的だ。首都選挙委員会が9月16日、全モンゴル労働党の27名の候補者を登録した。9月30日、候補者証明書が交付され、選挙運動が一斉にスタートした。しかし、全モンゴル労働党候補者に証明書が交付されなかった。これに対して全モンゴル労働党党員ビャンバデルゲルが行政裁判所に異議を申し立てた。証明書が交付されなかった理由は、9月29日になって行政裁判所判事アムガラン・ナサンデルゲルが命令を出し、首都選挙委員会の決定を停止したからだ。法的根拠は、政党は選挙区に支部を置いていなければならなく、全モンゴル労働党は首都に支部を置いていないとなっている。これは2018年8月6日に、現職で国会議員を務めるドルジハンドが全モンゴル労働党中級委員会を解散する決定を出していたためだ。
行政裁判所判事の命令に全モンゴル労働党は抗議し、デモを行っている。座り込み行動をとるとも宣言している。1ヶ月前から全モンゴル労働党首都委員会の委員長と名乗るビャンバデルゲル(全モンゴル労働党は認めていない)へのインタビューが2回にわたりnews.mnウェブサイトに掲載された。ビャンバデルゲルはインタビューで党内に対立が存在すると主張していた。これらの問題の背景に何があるのか?全モンゴル労働党から国会議員に選ばれたドルジハンドは、「民主党、モンゴル人民革命党、新党は全モンゴル労働党に連立を持ちかけた。総選挙でこれらの政党が選挙者の数を無駄に増やし、票を分散させたことと同じ現象が起きるため、連立をしようとのことだ。全モンゴル労働党は提案を受け入れなかった。そのため、この裁判所命令が出された。」との見解を述べた。
全モンゴル労働党党員はこれらの背後に民主党と大統領がいると考えている。この裁判所命令が誰に有利に働くかも主張している。それによると民主党、人民党に有利になるとのことだ。民主党、人民党は自分たちの地位をずっと確保してきた。第三勢力にチャンスを与えることを好まない。選挙法を常に改正し、2012年以外のずべての選挙で、この2党に有利となる中選挙区制が採用されてきたと批判の声を上げている。また、憲法改正によって、政党に対し厳格なルールを定めた。政党は有権者の1%に当たる党員数で組織されなければならないとした。
この裁判所命令に注意を払わなければならい理由は、まず、法律違反があるためだ。県、首都、郡、区の市民代表議会選挙法という法律がある。同法の第6条1項に「当該地方に支部を有する政党が選挙に参加し、立候補者を擁立することができる。」と規定している。一方、政党に関する法律の第13条6項には「政党は法律に従って、中央及び地方レベルでその特徴に合わせた組織構造を確立し運営するものとする。」と規定されている。つまり、支部(委員会)を置かなければならないとは規定されていない。よって、国民は裁判所が政党の内部問題に不当に介入しているのではないかと見ている。政党に関する法律の第13条9項に「政党憲章によって規制される政党の内部組織、活動に関連する紛争は、裁判所によって解決されない。 この紛争は、政党統治体によって解決される。」と規定している。そのため、政党憲章によって定められた、裁判所が介入すべきでない事項に裁判所が不当に介入しているということだ。
これは一つの政党の問題ではない。民主主義の根幹に関わる問題だ。これからのモンゴルに形式的な民主主義しか存在しないのか、それとも真の民主主義が確立されるのかという問題が問われている。選挙には政党だけが参加している。政党が本当に市民の利益を代表するのであれば、それは憲法の主旨に合致する。選挙は公正・公平な競争によって行われるべきだ。しかし、今回の裁判所命令によって、市民の選挙権、被選挙権が侵害されている。だから政党に関する法律を改正すべきだ。候補者選択手続きを始め、党内民主主義を確立する法改正が必要だ。政党の活動は常に公開されなければならない。党内の統治事項に裁判所が関与する必要はない。国民は、国会に議席を持つ党でもある全モンゴル労働党の代表者が、地方の市民代表議会選挙に参加できるようにすべきだと見ている。
政府は新しい対外債券を発行
債務のスパイラルに陥ったモンゴル
政府は新たな国債を発行した。その名もノマド(Nomad)、遊牧民という債券だ。ノマド債券とはどのような債券なのか。各国は債券を発行し、市場から借金をする。ノマド債券の発行額は6億ドルで、利率5.125%、償還期限5.5年の債券だ。しかし、この債権で集めた6億ドルはモンゴル国内には入ってこない。2021年4月に償還を迎えるマザーライ債券の支払いに回す。マザーライ債券は10.8%の高い利率の債券だった。つまり高い利率の債券を低い利率の債券で返済するということだ。利息が2分の1になるため、年2,670万ドルの削減になる。政府は、財政赤字が大きく、経済が停滞している今、低金利で借金をしたことを非常に良いことだと評価している。
今回の国債発行において、政府は外国のアドバイザリー・サービスを受けていない。外国の法律事務所は料金が非常に高い。今まで外国の法律事務所を雇っていたが、今回は雇わなかった。モンゴル側が直接オンラインで売り出し、JPモルガン・チェース、モルガン・スタンレー、HSBC、野村信託銀行が購入した。また2022年に償還予定のチンギス債券の債務の一部を返済した。集めた資金をモンゴル国内に入れることなく、債務返済に使ったのだ。
モンゴル国の対外債務総額は、今回の新規国債を含め30億ドルになる。利率10.875%、5億ドルのマザーライ債券を償還予定の2021年より前に支払ったこととなる。だがこれから、2022年には利率5.125%のチンギス債券10億ドルの償還期限を迎える。2023年には利率5.625%のゲレゲ債券の8億ドルの債務も返済しなくてはならない。2024年には利率8.75%のホラルダイ債券6億ドルの債務を返済する。これから毎年、多額の債務を返済することになる。現在は、古い債券を新しい債券で返済しているようだ。
債券の利子の支出は非常に大きい。モンゴルは、4つの債券の利息に2億300万ドルを支払ってきた。今後、利息だけで1億7600万ドルを支払うようになる。債券を債券で返済する度に利率が上がってきた。ではなぜ今回はそうじゃないのかという疑問が出てくる。なぜなら、今回は最も高い10.875%の債券を5.125%の債券に替えたからだ。これは私たちが優れているからではなく、世界的に新型コロナウイルス感染症拡大によって、投資家のキャッシュが急増した。これは世界中で経済活動が停滞し、投資需要が減少したからだ。高い流動性(High liquidity)の状況の元で、政府債券に投資したのだ。今回の国債発行は利率の面では有益な選択であったことは確かだ。また、財務省は毎年返済する債務額を安定化させようとしている。ある年は低額、ある年は高額の債務返済をするのではなく、毎年同じ程度の債務を返済するとの方針を示している。期限到来の債務を返済し、支払いバランス、為替レート、資産への負担を軽減するとのことだ。モンゴルは資産が増えてきているが、まだまだ不十分だ。政府対外債務総額が30億ドルだから、35億ドルの資産があったとしても不十分だ。
世界各国の経済が停滞し、財政赤字が悪化している。このような状況で低い利率の債券を発行したのが良かったという。しかし、一つ問題がある。モンゴルは既に債務のスパイラルに陥っている。2012年にS.バトボルド内閣が開発銀行に保証を出し、5億8000万のユーロ建て債券を初めて発行した。これを開発銀行ではなく、保証を出した政府が返済した。返済時首相であったJ.エルデネバト内閣が2017年に利率8.75%の6億ドルのホラルダイ債券を発行し、ユーロ債券の債務を返済した。2012年8月に誕生したN.アルタンホヤグ内閣が2012年12月に利率4.125%、償還期限5年の5億ドルと、利率5.125%、償還期限10年間の10億ドルからなる総額15億ドルのチンギス債券を発行した。これはモンゴルの抱える最も大きな借金で、最も無計画な借金であった。債券発行で得た資金で何をすべきか分からずに半年が経った。2015年にサイハンビレグ内閣が財政赤字を削減させる必要があるとして、利率7.5%、10億元(15億ドル)のディム・サム債券を発行した。2016年にJ.エルデネバト内閣は、マザーライ債券を発行した。また2017年にはゲレゲ債券を発行し、ディム・サム債券の償還に充て、チンギス債券の500万ドルを返済した。債券を債券で返済してきた。2020年にフレルスフ内閣は、マザーライ債券の債務を返済すべく、ノマド債券を発行した。
では、この債務のスパイラルからどうやって抜け出すことができるのか。このように債券を債券で、債務を債務で返済していくと問題が生じる。永遠とこのサイクルで暮らせていけたら良いのかもしれないが、そうはいかない。アルゼンチンは2度デフォルトした。ベネズエラもデフォルトした。債券をどのように使ったかの報告を内閣はいつ公表するのか。債券ごとにいくらの借金をつくり、その使途を報告すべきだ。そして内閣の報告は監査を受けなければならない。内閣はこれを国民に公開すべきだ。国民に負担を強いて何をしたのかを報告すべきだ。対外債務総額すべてを何に使ったかを確認しなくてはならない。誰が収入を得たのか、多額の資金が誰のポケットに入ったのか、なぜ政治家だけが裕福になっていくのかという質問に答える義務がある。最近発行された債券は、債務返済に充てられているが、では最初に発行した債券からの資金はいったい何に使われたのか。この報告を政府は公開すべきだ。なぜなら債務返済の支出は、為替レートの下落、インフレによる上昇などの要因から政府債務が膨らんだことが原因で国内経済が停滞し、そのツケを国民が支払っているのだ。そして、国民の3分の1が貧困に陥っている。
債券を債券で返済する債務のスパイラルから抜け出す方法はある。それは経済を多様化することだ。鉱山以外の輸出を発展させ、外国投資を誘致するということだ。政権が不安定であり、多額の債務を負い、財政赤字が続くため、外国投資を呼び込めなくなった。鉱山開発より知財開発を発掘すべきだということだ。例えば、情報技術製品を製造し、この分野の人材を育成し、スタートアップ企業を応援し、課税優遇策を講じて外国への進出を支援すべきだ。中国人男性の張一鳴(チャン・イーシン、37歳)が2012年にTikTokという企業を創設した。この企業を最近、アメリカのソフトウエア大手オラクルが100億ドルで購入した。私たちにはこれが出来るのだろうか。出来るならどうやって出来るか、出来ないならなぜ出来ないか。これらのクエスチョンに答えて、私たちはこの債務のスパイラルから抜け出さなければならない。
国際高齢者デーを祝うために
高齢者はモンゴル国の資産である。
毎年10月1日は国際高齢者デーだ。1991年から国連加盟国が国際高齢者デーと定めた。モンゴルは1992年からこの日を祝っている。あらゆる記念日を祝うことは、そこに潜んでいる課題を見出し、解決方法を探ることに意味がある。世界保健機関の統計によると、先進国において高齢者とは65歳以上の人を指す。モンゴルでは60歳以上の人を高齢者という。この60歳以上の高齢者人口は23万2000人であり、モンゴルの人口の7.3%を占める。しかし、老齢給付を受けている人は33万1000人となっている。約10万人の差異があるのは、軍隊、警察等特定分野に従事してきた人たちが60歳未満で定年退職するからだ。
60歳以上の高齢者23万2000人の41%が男性、59%が女性だ。その7割が首都、県の中心部に、3割が郡などの地方に住む。彼らの40%は年金ローンを抱えている。年金は日常生活の費用を賄うために給付される。本来はそれ以外の目的のためには給付されない。しかし、年金ローンというものが生まれ、多くの親が子からの頼みで年金を担保に借金をする。これが原因で多くの社会問題が生じている。例えば、暴力を受ける。子が年金給付の日に親から年金を奪ってしまうことがある。
モンゴルの高齢者は、政治への関心が非常に強い。選挙の投票率は常に90%を上回る。高齢者が直面する問題は大きく2つある。年金と社会関係に関することだ。2019年のモンゴル人の平均寿命は男性66歳、女性75歳だった。1992年の民主化以降、女性の平均寿命11歳、男性の平均寿命6歳伸びた。平均寿命が伸びるにつれ、人口の老齢給付を受ける割合が増えた。労働社会福祉省によると、2013年に10人の被社会保険者に対し、4人の年金受給者という割合だったが、2030年には10人の被社会保険者に対し、7人の年金受給者という割合になる見込みだ。さらに9人になるとの試算もある。この数字に注目すべきだ。
特に、モンゴルでは年金基金が国の予算と混同してしまっている状況で、これをどう規制するかが問題だ。今規制しなかったら、後の世代は年金をもらえないという状態に陥る可能性がある。
2019年に新しい法律が制定され、退職年齢を毎年3ヶ月伸ばしている。1977年以降に生まれた男性は60歳で定年退職だったが、これが65歳になる。2002年以降に生まれた女性は65歳で定年退職する。
高齢者にとって社会参加のチャンスは非常に少ない。殆どの場合、乳幼児の世話をする役目となっている。外でチェスをやり、ダンスに行く。そしてその合間に薬局で割引薬の行列に並ぶというのがモンゴルの高齢者の一日だ。
ウェブサイトndaatgal.mnでは、国家登録番号を入力して自分の年金口座残高を確認できる。しかし、この金額はあくまでも目安だ。これを実際の金額に置き換えることができない理由は、年金基金を国の予算と混同させているからだ。
では、これら2つの問題に関して何をすべきか。一つの解として高齢者をパートタイムで就労させることがある。平均寿命が伸びたので、豊富な経験と知識を積んだ高齢者を定年退職させてしまうのではなく、この経験と知識を活用しパートタイムで勤務できる制度を作るべきだ。モンゴルは労働力が少ない。高齢者は企業の顧問もできる。労働社会福祉省がインセンティブを出し、152人の高齢者が市の児童を見守る市民パトロールの仕事をしている。これは良い取り組みだ。
また介護施設を増やすべきだ。現在、モンゴルには民営4件と公営8件、合わせて12件の介護施設がある。これを増やし、多様化すべきだ。そしてボランティア団体が介護施設の活動に積極的に参加すべきだ。国家がこれらのボランティア団体の活動を評価し、報酬を与えるべきだ。先進国ではボランティア活動にGDPの2〜3%を費やしている。市民社会、民主主義が確立し、国が発展すればするほど、高齢者を支援することに市民が積極的になるべきだ。例えば、ホロー(区)の役所にコンピューターセンターを設立してもいい。ここに学生をパートタイムで雇い、高齢者にITトレーニングを提供し、ITと無縁な人を無くすことができる。韓国は現在これを実施している。私の周りでも、90歳だがコンピューターが使えるようになり、本を書いたり、インターネットで必要な情報を探したりしている人がいる。
ドイツや日本などの先進国では、退職した専門家連合が存在する。企業は高齢者の専門家を招待し、様々なアドバイスをもらう。企業側は交通費と食事代を提供するだけだ。それ以外の費用はこの連合が出す。モンゴルの高齢者連盟は、こういう方向で積極的に取り組むべきだ。数多くの能力と経験のある人材をその専門の分野で活躍させるべきだ。これについてハリウッドでは『マイ・インターン』という名前の映画が公開された。
最も重要なのは、年金基金を国家予算から切り離すことだ。特別基金を設け、専門家に運用を委ねるべきだ。政治家に任せるから、政治家が引退し、年金がもらえない状態に陥る。これについて典型的な例はシンガポールであり、「中央積立基金(Central Provident Fund)」だ。シンガポールの最大の基金は年金基金だ。全国民が支払った掛け金を40年後に返済してもらうからだ。この基金は毎年、年金をインフレからも守ることができる。そして保険料を支払っている若者が住宅の提供を受けられる。モンゴルはこれらの良い例から学ぶべきだ。国の高い地位に就く者がシンガポールへ視察に行ったが、誰1人これを実現しようとしない。なぜなら、国民が年金を受け取れるかどうかには関心がないからだ。 また、モンゴルに民間の年金基金を設立すべきだ。国の強制年金基金以外に、もし人々が自分の将来に備えたい場合の任意の基金だ。民間の年金基金があるから、先進国の国民は定年退職した後も何不自由なく過ごせるようになる。