モンゴル国家大会議秋期国会の開会式

大統領選挙と政府の安定性

第8回モンゴル国家大会議秋期国会がスタートした。モンゴルが議会制民主主義国家に移行してから30年が経つ。10月1日、今期最初の国会が開かれた。新型コロナウイルス感染拡大に伴う多くの問題のため、臨時国会が8月17日から開かれていた。第8回モンゴル国家大会議秋期国会は、今までより長く、70日間におよび審議されることとなる。秋期国会では、例年議論されるいくつかの重要議題がある。一つは、来年度の予算に関する議題だ。また今回の秋期国会では、112の法案を審議しようとしている。そのうち40近くが憲法改正に伴うものだ。他にも新たな公務員制度改革を議論され、国有企業改革も議論される予定である。

まず、国家大会議G.ザンダンシャタル議長の発言に注目したい。司法に関する一連の法律を制定する。これにより、国家安全保障評議会が検察、腐敗防止機関、最高裁のトップを解任できるという法律が無効となる。

政党に関する法律を改正する。新しく、政党の資金調達に関する法律を議論する。住宅ローン金利を8%から6%にすることが決議される。

次に、バトトルガ大統領の発言を取り上げたい。毎年の秋期国会の開会式で大統領が発言をする。今回、バトトルガ大統領は次の諸問題を重視する発言をした。一つ目の問題は、地方の発展と格差である。一国の国内の発展にこれほど地域差があるのは、統一された政策が欠けていることを示している。モンゴル政府は地方開発に関する6~7の計画を立てたが、どれも実行されずに終わった。二つ目の問題は、予算の非効率的な支出である。インフラが整備されていない地方に需要を上回る病院、学校を建設するために、多額の資金を費やしてきた。これは、予算配分がどれだけ不当に行われているかを表している。この問題について、市民社会は長い間声を上げてきた。インフラが全く整備されていない地域に何十億も注ぎ込んで建物を建設し、インフラが届いていない状況で運用するために、また多額のお金が必要となる。人々はこれを予算の非効率的な支出だとみている。三つ目の問題は、安定成長ではなく、急成長が必要であるということだ。今、モンゴルには多くの収入が必要となっている。モンゴルには金融資産が不足していると強調した。

先週の国会開会式で、このような発言がなされた。またこの国会開会式で、大統領選挙を見据えた動きが見受けられる。バトトルガ大統領は精力的に地方を訪問し、自ら功績のあった人々を表彰し、メダルを授与している。また前回の選挙の際に公約した通り、自身のオフショア口座から資金をモンゴルに戻しており、その額が3200億トゥグルグ(1億1千万ドル)になるとのことだ。他にも、その高い地位を利用して腐敗問題に関わった政治家たちに責任をとらせるという公約をしていた。今まで解決されずに何年も続いていた事件が、今年の6月以降、迅速に解決されている。しかし、史上最大の腐敗問題と言われるモンゴル・ロシア両政府が共同で運営していたエルデネト鉱業の株式49%を国庫金で購入したにもかかわらず、出資金だとする件については誰も触れなくなったことを強調しておきたい。

これらを踏まえて考えると、これからの4年間モンゴルは安定政権を維持できるかどうかということが課題である。8ヶ月後に行われる大統領選挙は、すでに水面下で進み始めている。改正憲法条文には、大統領の任期は1期6年で選出されると定められている。憲法改正草案が議論されていた当時、この条文が適用されるのは2025年からだと言われていた。しかし、改正憲法条文が確定するときには削られていた。そのため今の大統領が再び大統領選挙に出馬できるか否かが不確かな状態である。世間では、同じ人物が2期選出されないので出馬できないと受け止められている。これは、憲法の条文をどう解釈するか、つまり憲法裁判所の判断によるということだ。また、大統領法がどう改正されるかにもよる。憲法改正を伴って修正されるべき40近くの法律の一つがこの大統領法だ。大統領法の改正は、モンゴル政府のこれからの政策方針を決定する上で大きな影響を与えるだろう。現在、国会に議席を有する4つの政党がそれぞれ候補者を決める段階にある。地方選挙をみると、民主党と人民党が連立した。これには何の意味があるだろうか。全モンゴル労働党は連立せずに地方選挙を戦っている。こういった状況から、人々は政党間のパワーバランスが変わり、政治的取引が行われていると見る。各政党の思惑が交錯する中、モンゴル国大統領選挙が8ヶ月後に行われるのだ。

モンゴル国憲法第30条1項には、モンゴル国大統領は国家元首であり、国民の団結の象徴であると定められている。しかし実際には、大統領は野党の役割を果たしている。なぜなら、国民は与党以外の政党から大統領を選ぶからだ。モンゴルには政権与党による内閣と、全国民から選ばれた大統領という2つの強力な政治機関がある。大統領は法案を提出でき、司法機関の長を指名できる。そして政党内に強い影響力を持つ。所属政党の事実上のリーダーとなる。このため、大統領選挙は国民だけでなく政治家にとっても重要あり、政治勢力による争いが始まろうとしている。


FATF審査チームがモンゴルを査察

モンゴル国とグレーリスト

FATFとはマネー・ロンダリング対策のために設立された政府間機関である。我々もFATFがモンゴルをグレーリストに追加したことについて以前取り上げた。今年の5月11日、モンゴルはグレーリストから脱却するためにオンラインでレポートを発表し、十分だと評価された。10月上旬に、3~4人の専門家がウランバートルを訪れてチェックし、オンラインでの会議も行った。最終的な判断は10月18日にパリで開催される会議で決まる。グレーリストから脱却する可能性は高い。また、10月6日モンゴルはEU財務相会合の決定により、EUのグレーリストから脱却した。

ブラックリストやグレーリストの意味を説明したい。FATFのブラックリストやグレーリストに追加されると、EUの同様のリストに追加される。EUのブラックリストとは、租税に非協力的な国のリストをいう。モンゴルはEUのブラックリストに2017年12月上旬に追加され、2018年1月下旬に脱却した。2ヶ月近くこのリストに追加されていたのだ。EUのブラックリストに追加されると、個人、法人はヨーロッパ諸国でクレジットカードでの決済ができなくなる。事業者はEUから新たな資金調達ができなくなる。EUはモンゴルにとって、重要な第三者取引先である。EUにあるモンゴルと取引をしている銀行や金融機関は、より慎重に取引をし、事業拡大などの計画をストップする。モンゴルはこのEUのブラックリストから脱却したが、それでもグレーリストには残っていた。グレーリストとは、税制改正が必要とされる国のリストである。

なぜモンゴルはこういったブラックリストやグレーリストに追加されてしまうのか。追加されないためには何をすべきなのか。

2017年にモンゴルは対外債務を返済できない状況に陥った。チンギス債券、マザーライ債券、オゴデイ債券等の債務を返済できなくなったことは周知の事実だ。今ではモンゴル国民がこの債務の返済をしている。2017年に債務不履行の寸前まで行き、国際通貨基金(IMF)に援助を依頼した。そこで、一定の条件の元でIMFの拡大信用供与措置プログラムが実行された。IMFは、モンゴルの金融システムが脆弱で、マネー・ロンダリングが行われている可能性があり、銀行が資産を超えるローンを提供しているため、これらの問題を改善すべきとした。

モンゴルは2017年の年末にEUのブラックリストに追加された。IMFは、2018年にモンゴルの銀行の資本金を増やすことを要求した。モンゴルはこの要求を無視したため、2018年にFATFのグレーリストに追加された。今回、政府はFATF等に対して、グレーリスト脱却の条件を満たしたと報告している。しかし、国民に対しては何の報告もしていない。政府はどれくらいの債務を返済しているかを直ちに公開すべきである。

グレーリストから脱却するための努力は、モンゴルの経済、金融業界の健全性をもたらした。しかし、どれくらい良くなったかはまだ不明確だ。

グレーリストに追加された後、国会は2020年1月3日に税務行政執行共助条約に批准した。この条約は2020年6月1日から有効となる。これはどういう条約かというと、世界130か国以上の国と税務目的で情報を交換するというものである。つまり納税者の情報の秘匿性を国際水準で守る義務を負う。だがこれでモンゴル税務庁は、タックス・ヘイヴンやオフショアエリア等の外国の銀行から情報を得ることができるようになる。税務行政執行共助条約批准国は、相互に情報開示の義務を負う。銀行は金融情報、税務情報を国際水準に沿って公開する義務を負うということだ。モンゴルの銀行のオーナーについて、最近になって初めて国民も知ることとなった。国有企業についてもそうだ。取締役会メンバーの顔写真がウェブサイトに載せられていない。

モンゴルはブラックリスト・グレーリストを経験し、モンゴルの金融業界が少しオープンで、明るくなったと期待できる。


教師の日に考えるべきこと

教師の給与と要件

10月5日は「教師の日」(教師のお祭りと呼ばれる)の祝日だった。例年通り、表彰の雨が降った。教育省は教師の育成に関するイベントを全国で開催し、討論会を行ったのが特徴的だった。そして私は討論モデレーターを務める機会を得た。教師の育成、学生の育成がどこまで進んでいるかについて、40人ほどの教員が討論をした。モンゴルは1967年以降、2月の第一日曜日に教師の日を祝ってきた。2014年から世界教師の日に合わせて10月に祝うようになった。1994年にUNESCOの提案で民主主義の国々で教師の日を祝い、教育と教師という議題で討論し、問題を解決する方法を探ることが始まった。

教師は社会において最も重要な役割を果たす職業であり、社会に大きな影響を与える存在だ。モンゴルには何人の教師がいるのか。2019年には4万9千人の教師がいた。4年前より5千人多い。毎年、千人の人が新たに教師となるのだ。大学の常勤講師は7千300人。5年前は7千100人だった。2015年に6千800人であった幼児教育機関には8千人の教員がいる。

2019年の統計で、小中高校の常勤教師 3万2千人のうち、2万8千人が公立校、3千300人が私立学校の教師だ。モンゴルには合計で5万人ほどの教師がいる。

モンゴルは昨年、教育分野に国家予算の15.3%を充てた。2015年には14%だった。GDPの4.2%を教育分野に使っている。他国と比べて低くはないが、例えばフィンランド等の先進国ではGDPの7%を教育に充てている。

教師の業務負荷は生徒数による。生徒数が多くなると、書類仕事が増える。生徒数は人口密度に比例する。ここ20年間、首都ウランバートルへの急激な人口流入が起こった。そのため、首都では学校の生徒数が多すぎるのに対して、地方では学校の生徒数が1クラス5人となり少なすぎるのである。都心と同じ教育を地方で行うことは難しい。教師不足で、一人の教師が多数の科目を教えることさえある。

教師の給与、仕事の内容は、社会平均より低い。2019年のモンゴルの平均給与は110万トゥグルグだった。2015年は80万トゥグルグだった。教師の平均給与は、2019年に90万トゥグルグだった。2015年は73万5千トゥグルグだった。それでも教師は残業時間、能力、資格で手当が付く。フレルバートル財務大臣によると、2020年の現在では21年間勤めた教師の給与は150万トゥグルグになるという。今の為替レートで計算すると1ヶ月500ドル、年収6000ドルということになる。各国における教師の給与を紹介する。例えば、小中高校で15年勤めた教師の年収がドイツ7万8000ドル、カナダ7万1000ドル、韓国5万7000ドル、ハンガリー2万1000ドル、モンゴル6000ドルとなる。

教師の給与と教育水準の関連性を話したい。教育分野には多くの課題がある。そのうち教師の給与の問題を取り上げる。教師の給与が上がったら、教育水準が上がるのか。以前には裁判官の給与を上げると、正義が得られるかということが議論されていた。

結論から言うと、教師の給与を上げ、教師になる要件を厳しくすべきだ。教員資格を付与する際、高い要件を設定すべきだ。毎年、知識や能力を審査し、再訓練を受けさせる必要がある。カナダなどでは、専門知識以外に子どもに教えるための特別コースを受けた人に教員資格を付与している。大学の教授であったからといって、直ちに中学校の教師にはなれないのだ。

教師の給与、教師の社会的評価が高くなると、教師になるための競争力が上がる。フィンランドでは教師の社会的地位は高く、全ての教師は修士号を取得している。教師の能力の高さは子どもの教育に反映される。モンゴルでは公立学校と私立学校の差がおおきくなっている。私立学校の卒業生のうち外国の大学に入学する生徒は、公立学校より多い。だが外国の大学で質の高い教育を受けた人々が帰ってくることは少ない。この状況においては、私立学校への国の助成を止めるべきだ。そのお金を複数シフト制で授業を行っている学校に提供すべきだ。国から助成金を受ける全ての学校に対して、効率化の上で責任をどのように負わせるかを明確にすべきだ。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン