今日の「新型コロナウイルス」という黒死病の感染拡大は、世界中で3,600万人の感染者を出し、100万人以上が死亡する事態を引き起こしている。この黒死病は経済危機を招き、世界中で数百万人が貧困に陥っている。世界各国は、国民の健康と生命を守ることを最優先として掲げている。

ウイルス感染予防のために人類が考え出した最も効率的で、唯一の対策方法はワクチンである。ワクチンを投与した後、人間の免疫システムが活性化し、ウイルスに対する抗体を生成し始める。ウイルス抗体は、感染から人体を保護する大食細胞(マクロファージ)に飲み込まれ、破壊される。残った抗体は、ウイルスが再侵入する時に認識する役割がある。

新たなウイルス(感染症)に対するワクチンを開発し、人体に投与できるまでには、おおよそ1〜1.5年が掛かる。ワクチンは、まず先進国の研究所で開発され、臨床試験が実施されてから承認される。次に世界保健機関の承認を受けた後、ワクチンが製造される。最後に製造されたワクチンが安全に供給され、消費(投与)される。

ワクチンを否定する動き

「予防接種に充てられる費用1ドルは、社会、経済において44ドルの効果をもたらす」と言われる。それでも多くの国で反ワクチン運動を行う集団がある。彼らは、ワクチン接種はアレルギーや自閉症などを引き起こすので、人は自然の免疫力でいるべきだと主張し、反対する。しかし、彼らのそのような指摘は全く根拠のないことだと研究者によって証明されている。

貧困国に限らず、経済発展と教育の質が高い国にまでこの反ワクチン集団が存在する。ワクチンに反対する運動は、社会保健分野が直面する大きな試練の1つである。もし、予防接種の割合が下がれば、それに伴って感染症の拡大が加速する。今日、ワクチンは毎年300万人の命を救っている。

アクセシビリティ

新たなワクチン開発には、研究・分析を始め、製造までに莫大な費用が掛かる。そのため貧困国にとって、国民の予防接種へのアクセシビリティが大きな課題となっている。

国際連合児童基金(ユニセフ)は、モンゴルへのワクチン供給に重要な役割を果たしてきた。

ユニセフは、世界190ヵ国で児童の権利、発達、健康を守ることや、子どもの食糧や免疫力向上のための支援活動を行っている。ユニセフはまた、ワクチンを購入する世界最大の機関でもある。毎年、約100ヵ国に20億回分のワクチンを予防接種やその他の感染症を防ぐために購入している。

モンゴルは寒冷な気候の国であるため、一年の4分の3がインフルエンザの流行季節である。モンゴルはユニセフを通じ、割引価格でワクチンを購入している。例えば、100ドルのワクチンをモンゴルはユニセフを通じておよそ10ドルで購入している。ワクチン購入において価格はこのように下がっているが、国民全員に接種するには費用がかさみ、最低20ドルが必要となる。

モンゴルはワクチン製造国ではなく、購入国である。そのため、安全で品質の良いワクチンを購入し、国民へ予防接種を行うことを非常に重要視している。この予防接種を管理するために予防接種法(2000年)がある。この法律によって、モンゴルは世界保健機関で承認され、認定書の付いたワクチンのみをユニセフから安価で購入できる。政府は予算を立て、0〜15歳のすべての児童に予防接種を行っている。

新型コロナウイルスのワクチン

世界各国の研究機関、ワクチン製造業者は、新型コロナウイルスのワクチン開発のために激しく競争している。多数のワクチンが開発されれば、価格の下落に影響する。

例えば、私たちの隣国ロシアでは、新型コロナウイルスのワクチン「スプートニクV」の開発に成功したと発表された。一部の国は、このスプートニクVを大量に購入し始めている。中国も新型コロナウイルスのワクチンを開発し、臨床試験中である。

アメリカでは、大統領選挙前に現在臨床試験中の一部のワクチンを承認するという話も出ている。

現在、モンゴルはユニセフ、世界保健機関など国際機関と協力し、リスクグループにいる人々に優先的に予防接種を行えるように取り組んでいる。このリスクグループには、慢性疾患患者、妊婦、子ども、60歳以上の高齢者および医療従事者が対象となっている。 感染症は、個人の問題ではなく、国民全体の健康と安全、つまり公衆衛生の問題である。そのため、感染症が拡大している状況下では、予防接種を受けることが国民全員の義務といえる。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン