D.バダルチ氏は1954年に生まれました。ロシアのウラル工科大学をマネジメント情報システムエンジニアとして卒業し、同国で1989年にシステム技術研究者になりました。その後2001年に教授になりました。1992年から2003年までモンゴル科学技術大学の学長を務めていた時は、大学の教育組織改革を進め、国際的に認められる教育を実施する基盤を築きました。2003年からユネスコに勤務していました。

J(ジャルガルサイハン): あなたがユネスコで担当していた仕事について話を聞かせてください。
バダルチ: 周知の通りユネスコは教育、自然科学、人文・社会科学、文化、情報コミュニケーションの5つの分野から構成されています。私は人文・社会科学の社会変化と文化間の問題を担当していました。主に社会科学と政策形成との連携を目指すMOSTプログラムに取り組むチームを指導していました。これは英語でManagement of Social Transformationの意味で、ロシア語では「橋」という意味です。その他に私が担当していた文化間の関係という最近話題になる新しい概念があります。私たちは国連事務次官向けの報告書を作成していました。国連での全ての活動報告書をまとめ、国際会議で発表し、各国の発展に注意深く取り組んでいました。

J: ユネスコとモンゴルはどんな関係をもっていますか?
バダルチ: ユネスコは1945年に設立され、モンゴルは1962年に加盟しました。私がモスクワ勤務の時、担当していたベラルーシ、アルメニア、アゼルバイジャンでは「私たちはユネスコに税金を支払っています。その対価は一体何ですか?」という反感がありました。ユネスコは資金を交付する機関ではありません。国連の組織でユネスコは頭にあたります。ここは世界でも優秀な人材が結果を出すのではなく、集う場所です。また、ユネスコは各国の教育・科学分野における政策決定を支援しています。ユネスコの長所は確信を持たせ、公共の力を集中させることです。だからユネスコや国連の報告書を多くの人が信頼し、その報告書で世界の問題点に焦点を当てることができています。

J: あなたは高等教育分野において重視すべきことは何だと思いますか?
バダルチ: 教育は初等教育から始まります。人格形成の上で最も大事な時期に幼稚園に通っていない、また集団の組織下で知識や規律を身に付けることができないということはとても残念です。1996年にユネスコから出された報告書で教育における4つの原則を記しています。それは「人間は知るために、するために、人間としているために、他者と協力して生きるために教育を受ける」としています。これが教育哲学となりました。ブルームの分類法改訂版(Bloom’s Taxonomy)では、知識を身に付ける6つの基準として記憶・理解・応用・分析・評価があり、最後に創造となっています。最近、モンゴルの子どもたちが記憶力を競うコンテストに多く出るようになったと言われています。実はこれはモンゴルの教育制度がどの程度なのかを現しています。記憶するのみではなく、記憶したことを理解・応用・分析・評価ができ、新しいものを創造するようにならなければならない。まだそのようなレベルに至っていません。

J: モンゴルの発展のためにモンゴルの子どもには知識や創造、人間に必要な能力がまだ身につけられていないと言いました。その理由は何だと思いますか?どのように変えていけますか?
バダルチ: 社会主義下では初等・中等教育は良かったと思います。モンゴル人は基礎教育を他国の教育モデルではなく、自分たちのモデルで実施するべきです。モンゴルの子どもに何が必要かは現場の教員にしか分かりません。外国の教育カリキュラムで分かることではないのです。しかし中高等教育では、子どもが自分で理解して学ぶことができるので外国の教育カリキュラムを実施しても良いと思います。今日では、特に中等教育以上の教育は教員からではなく、インターネットで学ぶ時代となっています。本当に能力のある人はその知識を向上させ、自分自身で研究できる時代です。そのためには学習方法を身につけなければなりません。このような試みは実施されていますが、まだ幅広い範囲を対象にできていないのが現状です。

J: あなたがモスクワで担当していた「中学生が情報技術をどのように活用するかを教える」プロジェクトが、アメリカのオバマ政権下で「中学教諭免許取得の必修科目」として定められたと言われています。これについて話を聞かせて下さい。
バダルチ: モスクワの情報技術教育分野で、ユネスコの研究院の院長を7年間務めた間、世界10ヵ国の研究者を対象とし3年間「学校の生徒が情報技術をどのように活用するか」というテーマを下にプロジェクトを行いました。2015年にロンドンの大学と共同で公開授業を実施し、その授業の視聴者は9000人でした。その後、授業の再実施の要望があり、公開授業を再度実施しました。この授業はアメリカの教員の知識・能力の向上を図るプログラムの必修50科目の1つとなりました。言葉の問題があり、モンゴル人はあまり見ていません。

J: 情報技術時代と言われる今では英語がわからなければ学習が進みません。英語能力をどのように向上させますか?どのようにシンガポールのレベルまでもっていきますか?
バダルチ: まず英語よりモンゴル語をきちんと学ぶ必要があります。モンゴル語能力を国の政策で向上させなければなりません。全てのモンゴル人が母国語を正しく書けるために情報技術の活用を支援する必要があります。しかしこのアイディアは支持されることがあまりありません。未だにインターネット上でモンゴル語のテキストを自動的に修正する環境が整備されていません。外国語の表現をモンゴル語で何というかなどを統一しないと、研究者たちはそれぞれ勝手に訳します。中国は昔からこのようにしてきました。テキストが修正されると外国語に不慣れな人でもそれは簡単になります。

J: あなたはモンゴルの高等教育の質についてどのように思いますか?
バダルチ: モンゴルの大学は安定していません。その理由は政治的な影響が大きいからです。そのため、大学のアカデミックな自由が抑圧されました。

J: アカデミックな自由が政治的な影響により抑圧されたと言いました。これをどのように防げますか?
バダルチ: 私は2003年に高等教育の組織構造を変えました。次は教育内容を変えて行きましょう。また、大学数を減らし国立大学を2つにする提案を出しました。欧米では一つの大学に多くの学部がありますが、モンゴルでは各学部の大学があるという状況です。

J: 私立大学の教育レベルを国立大学に近づけるために何が必要ですか?
バダルチ: 評価問題のみです。私立大学の組織構造を変えることはできません。全国に統一した教育の評価基準が必要です。

J: 人々は高等教育を安くて無償かつ高い質を有するべきだと言います。質と学費についてあなたはどう思いますか?
バダルチ: 政府に十分な余裕があり、強ければ高等教育の無償化は可能です。そうでなければ高等教育は有料であるしかないと思います。

J: 欧米の国々をみていると大学には基金があり、その資金を研究や開発に活用しています。このシステムをモンゴルに導入できるでしょうか?
バダルチ: モンゴル人は新しいものを取り入れたがる傾向があります。しかし外国のものが常にモンゴルに必要ということではありません。まずこの国の基盤産業である鉱業を基軸とした発展を促し、教育機関での研究・開発を充実させていくべきです。財源なしに何か新しいものを導入することは難しいと思います。何もない私たちが今取り組めることとして他に、人間の知的能力を要する情報技術の分野を発展させることができます。海外の大手企業で働いているモンゴル人の若者を呼び戻し、彼らの知識を活用すべきだと思います。また、外国の研究者などを招聘し、講義を開くことも有効だと思います。

J: モンゴルの資源というのは天然資源のことを言っていますか?それとも鉱物資源のことを言っていますか?
バダルチ: ここでは鉱物資源だけではなく、希少な薬用植物、鳥、動物なども含めて言っています。

J: 親の子どもの教育に対する関心や注意をあなたはどう思いますか?
バダルチ: 近年、若者は知識の重要さに気付き、学ぼうとしています。彼らを支援すべきだと思います。そうすれば咲き始めている花はより大輪を咲かせると思います。

J: あなたは今まで国連で働くモンゴル人たちの中でもっとも高いポジションに就いた人物です。人々が国連に勤めることのメリットは何ですか?またその職に就く対策はどうあるべきですか?
バダルチ: 在モンゴル国連機関に勤める人は160人程です。国際機関の上位ポジションに就けるように、政治以外のサポートが必要だと思います。そうすれば、モンゴルという国名は国連に良い意味で知れ渡ると思います。

バダルチ * ジャルガルサイハン