IT(情報技術)がビジネスに於いて必要不可欠なものとなって久しい。世界各国はITスキルを身につけるための教育レベルの向上にも力を入れている。またAIやIoTといった最先端の技術で覇権を握ろうと各国がしのぎを削っている。

世界のITの競争力をランキングしたものに「世界ITレポート(The Global Information Technology Report)」がある。この世界ITレポートは、ダボス会議で有名な世界経済フォーラムが各国の情報通信技術がどれだけ整備され活用されているかを点数化しランク付けしたものだ。点数は1点から7点で付けられ、点数が高いと評価も高くなる。

このレポートでランキング1位となったのはシンガポールの6.0点。上位の国にはフィンランド、スウェーデン、ノルウェーといった北欧諸国が入る。逆に最下位はチャドやブルンジとなっている。いずれもアフリカの内陸国で情報通信の環境がまだまだ整備されていない国々だ。モンゴルは4.3点で、139カ国中57位となっている。日本は5.6点で10位だ。

評価の内容を見ていくと「環境」の評価では、「政治と規制の環境」は3.6点で81位で平均以下だが「ビジネスとイノベーションの環境」は4.6点で52位となっている。モンゴルでは情報通信技術をビジネスに用いる際に障害はさほど無い。

しかし、知的財産の保護の項目では3.2点で109位となっている。モンゴルはマーケットが小さいので中国のように世界的な問題とはならないが、著作権などへの意識は低い。また「ベンチャーキャピタルの利用可能性」は139カ国中136位と、ほぼ皆無と言っていい状況で、スタートアップ企業が育ちにくい環境といえる。

インフラ面の評価を見ると「電力供給」は83位。実際ウランバートルにいると停電となることがしばしばある。「モバイルネットワーク環境」も115位となっているが、モンゴルは広大な国土を有しており、人口密度が世界一低いことを考えるとさほど参考となる評価ではない。ウランバートル市内及びその近郊では携帯電話の電波は問題なく通じる。しかしモンゴル国内の地方へ陸路で移動する場合などは電波が入らないことが多い。

「海外へのインターネット接続の帯域幅」は34位となっており、例えば日本とモンゴルでインターネットを使ったビデオ会議などは問題なく行える。また、仕事で利用する大きめのファイルなども支障なく送受信することができる。国境を超えてのデータのやり取りに政府機関などの検閲が入ることもない。そのためアプリの開発やCAD図面の作図など業務に場所の制約がない仕事などで日本企業がモンゴル企業へ業務をアウトソーシングするというビジネスモデルが既に現実となっている。日本企業にとれば国内で外注するより安くなり、モンゴル企業にとれば国内で受注するより高くなる。

しかしこの様な国境を超えた企業同士のコラボレーションを実現するための最大の壁となるのは言語となる。日本人からするとモンゴル側が日本語を習得してくれると言うことなし。しかし実際は英語でのコミュニケーションが必須となる。情報通信技術の環境を整備すると同時に人のスキル向上のための教育も同じくらい重要ということが分かる。

ネット環境にかかるコストは、モンゴルを訪れる日本人にとっても気になるところだ。プリペイド型のモバイルネット環境にかかるコストは31位となっている。旅行者向けのツーリストSIMなどはあまり割安とは言えないが、現地で買えるSIMは日本のものよりかなり安い。

例えば、モンゴルの主要キャリアであるMobicomのプリペイドSIMは数百円から利用できる。(購入にはパスポートが必要)ただ、現地で買えるSIMというのは、ウランバートル市内にあるMobicomの店舗にて直接購入する場合だ。(モンゴル語でのコミュニケーションが必要となり、旅行者には敷居が高い)

固定ブロードバンド回線については139カ国中19位となっており、これもネット環境の構築には他国に比べて有利だ。モンゴルは一般的にネット環境が整いやすい。しかし、個人のインターネット利用は99位と下位なっている。逆にビジネス(B to B)への情報通信技術の活用は43位となり、ビジネス上ではICT化が浸透している。公的機関でもパソコンは導入されている。だがパソコンなどの情報機器はすべて輸入されており、日本で購入するより割高となる。

モンゴル人のITスキルは、教育システムは111位とあまり良い評価とはなっていない。教育機関へのパソコンの導入・整備までは予算が回らないからかもしれない。しかし、IT技術の基礎となる数学・科学の教育レベルは34位となっている。

情報通信技術が社会へ与える影響については60位となっている。モンゴルでは多くの人がFacebookを利用している。以前、トルコ人教師ヴィゼル・アケイ氏が諜報庁の工作員に拉致された時には、SNSで連絡を受けた卒業生たちがいち早く行動を起こし、アケイ氏奪還に成功した。(The Defacto Gazette No.59 日本語版参照)最近では、国会議員や政府高官が中小企業開発基金の低金利融資を独占したというスキャンダルもSNSで国内外に拡散し、大臣が辞任するまでに至った。

最後に世界ITレポートの評価を日本と比べて見てみよう。(下グラフ)さすがに多くの項目で日本が上回っているが、総体的な価格(Affordability)ではモンゴルが良い評価となっており、またビジネス環境(Business and innovation environment)も殆ど差がない。あらゆる産業の基盤となる情報技術は、モンゴルではビジネス上の障害とはならなくなってきている。

中山拓