日本人が海外に渡る際に気にすることの一つに、その国の治安状況がある。英国のレガタム研究所が毎年発表しているランキングで日本は世界149カ国中4番目に安全な国となっている。ほとんどの外国が日本より治安が悪いということになるから気にするのも当然だ。また近年、人種差別が根底にあるヘイトクライム事件などが数多く報じられ世界中の国で分断が目立つようになった。それが経済発展の足かせとなっていることは間違いない。その様な観点からも各国の治安状況を把握することはビジネスにおいて重要なことだ。
人口の少ないモンゴルでは犯罪が少ないということではない。ここ数年、モンゴルでの犯罪件数は増加傾向にある。2011年19,197件だった犯罪件数は、2016年には27,167件へと、5年間で1.4倍となっている。ただ分類別で見てみると、重大犯罪は508件→488件、深刻な犯罪は1,823件→1,393件と減っている。一方、軽犯罪が7,977件→13,519件とかなり増加している。
2011年と2016年のデータを比較していくと、傷害事件は5,838件→8,248件と増加している。たしかにモンゴル人男性はよくケンカをすると聞くので納得できる。ただそれもアルコールが入った時がほとんどのようだが。しかし殺人事件は263件→180件、殺人未遂事件も262件→174件となっており、血なまぐさい事件は減少傾向にあるようだ。
窃盗犯罪はかなり増加していて、スリや置き引きなどは5,276件→9,065件、路上ひったくりは137件→176件、強盗536件→474件、詐欺688件→2,165件となっている。強盗は減少しているがその他は増加している。特に詐欺事件は5年間で3倍以上にも増えている。これは投資家をターゲットとした金鉱山への投資話が多いと聞いた。たしかに鉱物資源が豊富なモンゴルでは一攫千金も夢ではないが、現実にはそうそう当たるものではない。「投資したのにいつまで経っても金が採れない。資金を回収できない」と訴える投資家は少なくない。投資をするなら自分の目で現場を見て判断した方がいい。人から聞いた話を鵜呑みにして大金を出すなんて、モンゴルでなくとも避けたい行為だ。
27,167件の犯罪件数を発生地域別で見ると、ウランバートルが17,909件と全体の65%以上を占めている。都市に犯罪が集中するのは万国共通のようだ。その他の県では数百件程度と少なく、モンゴルではウランバートル一都市のみにあらゆるものが集中していることが伺える。
犯罪件数は増加したが、実は裁判で有罪判決となった数は8,210件→6,566件へと逆に減っている。有罪判決を受けた者を年齢別で見ると、35歳以上が2,005人→1,983人とほとんど変わらないが、18〜29歳が4,273人→3,037人と減っている。軽犯罪などでは将来に可能性のある若者へ2度目のチャンスを与えているのだろう。
冒頭のレガタム研究所のランキング(治安)でモンゴルは95位となっている。このランキングでは治安だけでなく政治や経済などもランク付けし、総合的に各国を評価している。日本は149カ国のうち上位に入るが、ある項目だけモンゴルの方が順位が上になっている。それはソーシャル・キャピタル、社会における人間の信頼関係や社会ネットワークなどだ。これは「自己責任」という言葉で他人を突っぱねる社会こそが学ぶべきことだ。
中山拓