ザンダーフー・エンフボルド氏はモンゴル大統領府事務局長を務めています。Z.エンフボルド氏はセレンゲ県スフバートル市の高校を卒業後、ロシア連邦のウラル工科大学で自動テレメカニクスの学位を取得し、その後モンゴル国立大学の法学部を卒業しました。また、米国デンバー大学で国際経営学の修士号も取得しています。Z.エンフボルド氏はモネルフィルム社でエンジニア、エレル社で代表取締役、インテル社の代表取締役、国有財産委員会会長、国会議長顧問などを歴任しました。Z.エンフボルド氏は民主党書記長、国会議員、国会議長にも選任されてきました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。まず、つい最近行われた2つの大きな話題から話を始めたいと思います。今回でプーチン大統領の4度目のモンゴル訪問となりましたが、歴史的にどのような意味をもつ訪問であったのか、その内容や成果を教えていただけますか。

Z.エンフボルド: 報道されたニュースなどか見ると、今回のプーチン大統領の訪問はたった1日の短いものと思えるかもしれませんが、水面下では少なくとも1年間の準備期間を要します。このプーチン大統領訪問の機会に、11の条約を更新・締結の予定でした。そのうちの一つ「モンゴル共和国、ソビエト連邦間に締結された1957年の貿易条約の一部を変更するモンゴル国・ロシア連邦間の覚書」は、ロシア側の都合で更新できなくなりました。それ以外は予定通り条約締結に至りました。ロシア大統領訪問の準備に1年の時間を要するのも、これらの条約締結前に相手国と意思疎通を図り、交渉し、契約文書の内容を統一させたりするためです。今回締結された条約の中でも最も重要な「モンゴル国・ロシア連邦の友好相互援助条約」があります。この条約締結の前は、1936年の他国からの攻撃があった場合、相互に援助するという内容の条約がありました。その後1990年代に民主主義に移行し、両国政府はその条約名を変更し、現行条約を新しく締結したのですが、その際20年間の期限を切って締結しました。しかし、モンゴルと中国との友好相互援助条約では「無期限」となっています。ロシアと中国は、同じくモンゴルの隣国であり、これからも友好関係を続けるべきであるため、今回の条約の更新でロシアとの友好相互援助条約を無期限としました。

J: 条約締結については分かりました。しかし実際、ロシアとモンゴル両国の合弁企業であるウランバートル鉄道公社ですが、その拡大、改善がされる話は未だに実現されていません。これはなぜですか。

Z.エンフボルド: それについては、先ほど申し上げた「条約における信頼関係」が確立されていなかったためだとロシア側は主張しています。象徴的なモンゴルとロシアの共同事業で唯一残された企業がウランバートル鉄道公社です。今回の訪問ではその話ももちろんなされました。鉄道が老巧化し、つい先日もドルノド県で荷物列車の事故がありました。そのため、まず両国が協力し、再び事故が起こらないように必要箇所を修繕し、その上で改善を拡大させていくことになります。また、以前から問題として議題に上がってきたロシア側の関税についてですが、ロシア側はモンゴルがユーラシア経済連合との自由貿易協定の枠組みに入ることを支持するとの意見を初めて表明しました。つまり、ロシアだけでなく、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスなどの国々とも無関税の自由貿易ができるようになるということです。

J: 近年、キルギスでは無関税貿易により、国内の中小企業が危機的状況に直面するという問題が起きています。モンゴルも同じ状況に置かれてしまうのではないでしょうか。

Z.エンフボルド: 現在、モンゴルは貿易に5%の関税をかけています。今までは自分たちが関税をかけているので、相手の国に関税を無くすようにとは言えませんでした。簡単にいうと、今回の話はそういった関税をお互い無くしましょうという話です。国内企業に要求されるのは、わずか5%競争力を上げることだけです。

J: 次の質問です。ロシアから天然ガスのパイプラインを通過させる話がありました。これについて教えてください。

Z.エンフボルド: ロシアからの天然ガスパイプラインを通過させることについては、この2年間で具体的な話が進み、モンゴルもロシアも賛成しています。ただ、ロシアのガスプロム社が中国企業との価格交渉で時間がかかっています。一度価格が決定したら、契約期間終了まで価格変更ができないため、この交渉にはこれからも時間がかかることでしょう。ロシアは天然ガスを提供し、モンゴルは天然ガスパイプラインを経由させることを承認していますが、それを購入するかどうか中国はまだ決定していません。

J: バトトルガ大統領はロシアのウラジオストクを直近3年、毎年訪問してきました。あなたも同行していました。この訪問の成果は何ですか。

Z.エンフボルド: 最初の年の訪問では、25年間のトランジット輸送契約締結を要請しました。モンゴルは内陸国であるため、海に出るまではロシアか中国を通るしかありません。国際市場へモンゴルの国産品を売りに出すには、物品を海岸まで運ぶ必要があります。ですからその輸送を契約期間25年間、66%オフの関税という内容でお願いしました。モンゴルから石炭を港湾まで輸送するに当たっては、中国経由で1000キロメートル、ロシア経由で3000キロメートルの距離になります。66%という数字は、この1000キロメートルと3000キロメートルの距離の比から出したものです。またロシアとモンゴルでは、輸出する石炭の種類が異なるため、競合相手にはなりません。さらに、ロシアは4億トンの石炭を輸出していますが、モンゴルはわずか1000万トンの石炭を非課税でトランジット輸送できるようにお願いしました。バトトルガ大統領は、2017年の1回目の訪問でトランジット輸送契約締結を要請し、2018年の2回目の訪問で署名され締結されました。

J: 2年目の訪問では何がありましたか?

Z.エンフボルド: 昨年の訪問では、北東アジア国際送電網構想の提案をしましたが、これは直ちに決定されるものではないと考えています。北東アジアでは、エネルギー生産国3か国とエネルギー消費国3か国があります。これらはロシア、モンゴル、中国、韓国、北朝鮮、日本の6か国です。先進国の日本、韓国は高価な電力を使用しています。なぜなら、エネルギー生産のために資源を他国から購入して自国で電力を作っているからです。北朝鮮はすでに電力が不足しています。つまり、これらの3か国はエネルギー生産の資源が不足しているわけで、輸入に頼るしかない状態です。一方、その他の3か国ではエネルギー資源が国内にあります。ロシアでは天然ガス、原油、モンゴルではウラン、太陽、風力、褐炭など、中国ではそれら全てがあるわけです。この構想では、経済的観点からエネルギーを生産できる国が生産し、送電するということになります。この構想が具体的に見られるようになった例は、中国が10本の高電圧線を構築したことです。普段、私たちが使用している電力は、送電時に20%くらい損失しますが、中国の国家電網会社は損失3.5%で最大3,000 キロメートルまで送電できるようにしたのです。モンゴルのシベーオボーでは、主に炭鉱向けに5,250メガワットの発電所建設が現実になるところです。さらに、1,000メガワット級の風力発電や太陽光発電も実現する予定です。モンゴル政府は、このように資源のある国が安価にエネルギーを生産できるので、より多くの発電施設を建設し、そこで生産されたエネルギーを国際送電網を通じて資源のない国が安価に購入できることにしたいと考えています。

J:  3年目、つまり今年の訪問についてはどうですか。

Z.エンフボルド: もし1957年の貿易条約の一部を変更できていたら、今回の大統領の訪問でモンゴル貿易代表事務所の設立を考えていました。しかし今一番に解決しなければいけない問題は、ズーンバヤン鉄道の問題です。ズーンバヤン鉄道は2020年に開通する予定です。この鉄道が開通したら、北部方面への流通が可能となり、中国に安価で輸出する必要がなくなるわけです。

J: 今回の訪問で他に新しく話し合われたことはありますか。

Z.エンフボルド:  北東アジア国際送電網を実現する上で、行く手に横たわる問題について話し合いました。2019年6月に行われた北東アジアの国々が参加したウランバートル・ダイアログでは、北朝鮮以外の5か国とウラジオストクで開催される東方経済フォーラムの場で北東アジア国際送電網を設立する内容の覚書に署名することで同意していました。しかし、日本と韓国の関係悪化が原因で、韓国の首相が東方経済フォーラムを欠席するなどしたため合意できる状況にはなかったのです。ですが、モンゴルとロシアの間では条約締結を進めています。

J: ハルハ川戦争(ノモンハン事件)戦勝80周年記念のため、ロシア側からハルハ村への金銭援助もあったかと思いますが、それをどのように使っていますか。

Z.エンフボルド: 800万ユーロで新しいハルハ村の施設などを建設し、先日劇場が完成しました。一ヶ月後には病院、役所、学校、体育館、広場など、その他すべてが完成する予定です。

J: 最後に、最近の政治問題についてお聞きしたいと思います。憲法改正の問題はどこまで、どういった内容で進んでいるのでしょうか。

Z.エンフボルド: 多くの国の憲法をモデルにして、現在モンゴルの様々な法律が相互に違う条文を持つことで機能しない状態を変えようとしているのだと思います。しかし国会議員が内閣閣僚を兼務しないこと、内閣総理大臣の選任と責任制度、選挙制度の不備、国会議員の定数増加、任期の延長などで必要な条文変更がされておらず、改革とは言えません。そのため、今の国会は憲法改正後に総辞職し、これからモンゴルは大統領制を選ぶべきか、議院内閣制を選ぶべきかを国民に問うべきです。

エンフボルド * ジャルガルサイハン