国際通貨基金(IMF)がモンゴルの金融機関を査察し、民間企業や国民の金融情報を海外に流出させているというニュースがマスコミで報道され、SNS上で話題となっている。しかし、これは一握りのモンゴル商業銀行の頭取たちの利益を守るために流されたデマである。
その理由は、商業銀行の自己資本比率を引き上げた財源を明確にしなければ、モンゴルはマネーロンダリング対策に非協力的な国として”グレーリスト”に載ることとなり、モンゴルの景気回復のために実施されているIMFの拡大信用供与措置プログラムが中止される危険があるからだ。
もし、モンゴルが2019年末に”グレーリスト”に載ることとなれば、外国の銀行はモンゴルの商業銀行の取引口座を凍結し、モンゴル人のデビットカードは海外で利用できなくなる。海外に行く際は、外貨を現金で持っていくしかない状況になってしまう。そうなると現金による外貨需要が急増することになり、通貨トゥグルグの価値は下落し、為替は1ドル7,000トゥグルグを超えることになるだろう。
さらにIMFの拡大信用供与措置プログラムが中止されれば、モンゴル政府は2021年以降30億ドル規模の負債を返済できなくなり、デフォルトする可能性が限りなく高まってしまう。そうなると外貨不足から、為替は1ドル20,000トゥグルグになるだろう。これはモンゴル経済が、崖っぷちで足を滑らせ真っ逆さまに転落することを意味している。
再び“グレーリスト”に載る
マネーロンダリング対策やテロ資金対策を行う国際組織である金融活動作業部会(FATF)のアジア太平洋マネーロンダリング対策グループ(APG)にモンゴルは2004年に加盟した。FATFは、加盟している国・地域・機関の金融活動を調査・監視・評価を行う機関だ。調査は単独ではなく、関連する国際機関とも協力して行われる。
モンゴルは2006年に「マネーロンダリング・テロ資金対策法」を可決成立した。この法律に基づき、金融情報部をモンゴル銀行(中央銀行)に設置し、国境を越えた金融取引を登録し、監視するようになった。
しかし、モンゴルでは法律が遵守されず、違反した者に対する責任追及も十分に行われていない。2011年以降、モンゴルではマネーロンダリングの容疑で4,345人が捜査の対象となった。そのうち取り調べを受けたのは46人で、検察庁に送検されたのは20人だけだ。さらに起訴され一審で判決が言い渡されたのは2件だった。しかし、最高裁判所は一審の判決を覆し、その2件すら無罪にしてしまった。この2件のうち1つはMIATモンゴル航空の管理職3人が保有機材に保険をかける際、720万ドルを横領した事件である。もう1つはモンゴル民間航空局の職員4人が、業務委託の入札をおこなった際に49万2千ドルを横領した事件だった。彼らは海外口座への振り込みをいくつかの銀行を通じて行っていた。
2013年にモンゴルは”グレーリスト”に載ることになったが、FATFの是正要求の一部を素早く実行し、具体的な改善策を示した。その1年後に条件付きでグレーリストから除外されたという経緯がある。
2016年にFATFはモンゴル政府に対して、法律に則り取締りを積極的に行うように要求した。これには、金融行政の透明性、ノンバンク市場に対する監視改善、法律に違反した者への厳正な責任追及などが含まれている。2017年4月にモンゴル政府はマネーロンダリング及びテロ対策国家委員会を設立した。
これまでの行動に結果が伴わなかったため、現在モンゴルはFATFの「集中監視対象」に入っており、“グレーリスト”に載るかどうかが今年の10月に決まることになっている。2018年時点では、この“グレーリスト”にセルビア共和国、チュニジア、イラク、シリア、イエメン共和国、エチオピア、スリランカなどの国が入っており、ブラックリストにイラン、北朝鮮などの国が入っている。
透明化されて隠された犯罪
モンゴル政府は2007年に恩赦法を可決成立し、特定の者に対して脱税や社会保険の違反行為に対する行政処分、刑事処分を免除するようになった。
恩赦法に次いで2015年8月7日には「経済の透明化促進に関する法」が可決成立した。政府は違反が摘発された日から7ヵ月以内に税金を正しく申告し納税した場合は刑事訴追しない、責任を追及しない、情報を秘密にするとした。この法律が2007年の恩赦法と異なる点は、税金や社会保険の他に流動資産や不動産に関する犯罪も対象にしたことだ。この政府の「透明化」によって民間人8,794人、企業25,000社、在モンゴル外国人448人の合計3兆3300億トゥグルグの資産が明らかになった。
この3兆3300億トゥグルグという数字はモンゴル経済よりも大きいため、国内外の研究者の注目を集め、国民に疑惑を抱かせた。数ヵ月前、Kh.エンフジャルガル賄賂対策庁前長官が辞任する際に「当時の政治家たちは海外に国債を売却して資金を調達し、その資金を不正に利用したことをこの法律が無罪にした」と言った。
モンゴルの法律が出所を秘密にすることを許したこの多額の資産の一部がマネーロンダリングである可能性を排除できないと国際機関は見ており、疑わしい全てのケースを捜査することになっている。
商業銀行の自己資本比率引き上げ
過去、モンゴル政府は国債の償還ができなくなり、当時のCh.サイハンビレグ内閣は2015年にIMFに救済を求めた。IMFはモンゴル政府に対して景気回復のために財政赤字を削減し、各商業銀行の不良債権を減らすことを融資の条件とした。さらに各商業銀行の資産を評価し、2018年末までに自己資本の最低額を5110億トゥグルグに引き上げるように要求した。
これに従ってモンゴル銀行は国内すべての商業銀行に自己資本比率の引き上げを指示し、各商業銀行は自己資本引き上げを完了したと報告した。しかしIMFはその資金の出所を明らかにするよう求めている。
モンゴルのある商業銀行は、自己資本を引き上げた財源は通知できない、また査察は受け入れられないとモンゴル銀行に通知している。それらの商業銀行の不良債権額が今年に入って急増している。一部の商業銀行の自己資本比率の引き上げに、2015年の恩赦法で無罪となった政治家たちの資金が使われているという疑惑がモンゴル社会にも国際機関にも広がっている。これについては当局に1ヵ月間拘束された後、釈放されたTDB銀行のオーナーD.エルデネビレグが警察の取り調べに対して具体的な供述をしているはずだ。
モンゴルはFATFの”グレーリスト”に載るのか、IMFの拡大信用供与措置プログラムが中止になるか、どの様な結果になるにせよ、モンゴルの特定の商業銀行の頭取たちに委ねられている。国際機関の要求に従ってモンゴル政府、モンゴル銀行(中央銀行)、司法機関は、商業銀行の自己資本比率を引き上げた財源を早急に確認し、明らかにすることを国民は求めている。
国民は政府に対して、無駄な支出を削減し、政治家たちが横領した国債による資金を返還するように要求している
恩赦法でその出所が隠され、追求を免れた者の資産を受けていないのならば、一部の商業銀行はなぜ査察を拒んでいるのか。どれほど裕福で、どのような政府高官職に就いていようと、それら少数の人たちによってモンゴルがベネズエラのような道を辿ることを見逃すことはできない。銀行が資産を担保にすることは当たり前である。しかし、保身のために国を担保にすることは犯罪である。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン