アルヴォ・オット氏はエストニアのタリン工科大学を卒業しました。彼はエストニア情報協会のメンバー、経済通信省で国家情報システム局長を歴任しました。アルヴォ・オット氏はエストニアe-ガバナンス・アカデミーでエグゼクティブディレクターに就き、情報通信技術プログラムの実現に大きな役割を果たしました。またエストニアで得られた知識・技術を他国へ導入するという貴重な貢献を果たしています。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。モンゴルは初めてですか?

アルヴォ・オット: こんにちは。モンゴルに来るのはこれで4回目となります。初めて来たのが10年前です。

J: その時はどういった目的で訪問されましたか?

アルヴォ・オット: 私たちは長い間デジタル・ガバナンスに関する仕事をしてきたので、当時もオープンデータなど、デジタル・ガバナンスに関するプロジェクトでモンゴルに来ました。

J: 私が把握している話では、政府は新たにデジタル・ガバナンス国内委員会を設置したようです。今回モンゴルを訪問された目的について話して頂けますか?

アルヴォ・オット: モンゴルにおけるデジタル・ガバナンスについて調査、分析をし、現状を把握するためです。また関連機関の代表者と意見交換をする必要もありました。それから、デジタル・ガバナンスが直面している問題、それを克服する方法、可能性を探ることに注目します。その上で事業計画を策定して実行に移すまでの全体像を見ることを目指しています。私たちe-ガバナンス・アカデミーは世界各国で活動してきた経験があります。

J: モンゴル政府は公共サービスや情報に全国民が素早くアクセスできるようにするため、デジタル・ガバナンス国内委員会を設置しました。エストニアは公共サービスのデジタル化に成功した国です。モンゴルにおいても、公共サービス、情報の窓口をデジタル化することは可能でしょうか?

アルヴォ・オット: 世界各国が公共サービスのデジタル化を実現したいと考えています。問題は、実現するには時間がかかるということです。モンゴルでは、多くのデータベースやデジタルデータにアクセスが可能だということが分かりました。もちろん、情報の品質に関する問題点はあるでしょう。しかし、デジタル化されたサービスは常に改善されていくべきことなのです。人々がデジタル化したサービスを利用できるように要望し、今あるシステムを統合させるなど、大まかに私たちはデジタル・ガバナンスのアーキテクチャ、枠組みについて話しています。政府の情報技術機関も正常に働いています。

J: モンゴル国家登録局という機関もありますね。

アルヴォ・オット: はい、そうです。国家登録局も情報を収集し、それをデジタル化しています。デジタル・ガバメントという視点から、各省庁は何らかのデジタル化を進めています。そして、デジタル・ガバメントを作るうえでこれから重要になるのは各省庁の協力関係です。これは技術的な問題というよりも、組織的な問題であると言えるでしょう。新しく設置された国内委員会が方針を考え、戦略的に取り組むべき課題でもあるかと思います。

J: 全ての省庁のトップ、国家登録局がこの委員会のメンバーになっているのもそのためですね。基本的に、今あるインフラは許容範囲内だと思いますか?

アルヴォ・オット: はい。デジタル・ガバナンスの全体像を見れば、その実現のために多くのことが既に成されています。これからの問題は、スマホなどの情報技術の利用が広く普及したため、提供するサービスをこれから何年先まで耐用できるかを考えたものにしていかなければならないことです。これは世界中どこでも共通の問題と言えます。

J: 私もエストニアへ行き、公職に就かれている方とお会いし、教育機関を訪れたことがあります。モンゴルでは、各省にそれぞれのプログラムがあります。エストニアではそれが全部一つに繋がっていて、セキュリティ上の問題が発生したら、発生源をブロックしてチェックします。こういう仕組みはモンゴルで見られますか?

アルヴォ・オット: エストニアとモンゴルの仕組みは異なります。我が国においては、いくつかの理由で情報は一カ所に集中されません。一方モンゴルは、より情報が集中されています。しかし、機能や利用目的が同じだったり、似ています。エストニアのデジタル・ガバメントは1990年代後半から始まりました。私自身は1993年からこの分野で働き始めました。私たちは何年もかけて統合システムを構築し、2002年くらいに電子ID、デジタル署名ができました。今日に至るまでのプロセスは、かなり長期間のものでした。モンゴルにとっての主な課題は、国民が技術を広く使用するようために、どのように「動機づけ」するかです。公共サービスを受けるために、わざわざ時間を無駄にして移動する必要はないのです。金銭的にも、電子サービスは安くできます。一方で、プライバシーの問題もあります。人々は自分の個人情報を政府がどのように扱っているのかを懸念します。技術的な面でも、どうすれば行政機関が安全に統合されるかを考えなければなりません。また、データの価値を見直すなど、法律の改正も必要となります。

J: あなたはモンゴルの現状を理解した上で課題を設定し、具体的な計画も作成されていますね。完全なデジタル化にはどれくらいの時間が必要だと思いますか?

アルヴォ・オット: 短期間でできるのもあれば、長期間を要するのもあります。例えば、モバイル技術の開発や、特定のサービスの提供は短期間でできるかもしれません。何が足りないかというと、例えば電子IDや電子署名には顔を認識する高度な技術が必要となります。エストニアでは、政府が認定した電子IDカードを使用しています。これは大きなコスト削減になりました。

J: 一部の国では、電話番号や特別登録ナンバーを使っていますね。私たちもユニークな登録番号付きの国民IDカードを持っています。実際電話番号を使用した方がいいのか、それとも今の国民IDカードの方が実用的なのか、どちらでしょう?

アルヴォ・オット: IDナンバーは本人であるかどうかを確認し、デジタルサービスに接続するためのツールであり、変更できません。しかし、電話番号はいくらでも変更できます。また名前は変更できても、このIDナンバーは変更できません。モンゴルは既にIDナンバーの制度がありますから、問題はそれをどう電子IDにするかです。これは、公開鍵暗号や電子署名方式を用いる公開鍵基盤と呼ばれています。公開鍵基盤は、民間部門においてより大事になります。人々はモバイル銀行やインターネット・バンキングで頻繁に使用するからです。

J: モンゴルもエストニアのようになるのは近いですか。それともモンゴルにとって、これは全く新しいものとなりますか?

アルヴォ・オット: モンゴルは既に何らかの形でデジタル化を実施しています。問題は、ほぼ全国民がこのサービスを利用できる環境にすることです。国民もデジタル化されたサービスを利用したいと思っていますが、何か原因があり、デジタル化の恩恵を享受できないという状況だろうと思います。銀行も政府と同じ利便性を欲しいわけですから、お互いウィン-ウィンなのです。私たちがエストニアで分かったことは、これは共同すべき行動だということです。銀行、通信事業者、民間部門、政府は同じ目標を目指しています。

J: 政府と民間部門の合意レベルは、どれくらい整っていると思いますか?

アルヴォ・オット: いくつかのミーティングを経て分かったことは、技術的な面での準備はわりと短期間でできますが、法整備に時間がかかるということです。もちろん、技術的な概念や説明、人々の理解はデジタル・ガバナンスがどう働くかに関連します。エストニアは人口130万人であり、モンゴルより人口が少ないです。人口が少なかったからこそ、経済的にデジタル・ガバナンスを完成させるのに合理的でした。

J: つまり、概念について一致する必要があるわけですね。

アルヴォ・オット: はい、そうです。これは官民のパートナーシップ活動であると信じています。

J: あなたは、デジタル・ガバナンスはエストニアで1990年代後半から2000年代の前半に始まったと言われました。今日のモバイル技術はかなりの発展を遂げました。携帯電話を活用したアプリやシステムが主に使われています。そういう面で、私たちはもっとその分野に投資すべきですか。また世界で5G技術が開発されています。私たちは早急に5Gの導入に踏み込むべきですか。通信事業者の参加姿勢はどうですか?

アルヴォ・オット: 公共サービスにおいて、5Gなどの高度技術は問題となりません。政府の公共サービスのデジタル化では5G技術を要求しません。なぜなら、公共サービスはバックオフィスで作られ、システム上に載せられるという仕組みだからです。携帯電話はフロントオフィスであり、好きなサービスへアクセスする場所です。

J: つまり、通信速度は問題じゃないということですか?

アルヴォ・オット: 容量も大きくありませんし、今普及している通信回線のレベルで十分です。

J: モンゴルでは4つの通信事業者があります。彼らがこのプログラムに参加することは、どのくらい重要ですか?

アルヴォ・オット: これは契約に基づいて行われます。例えば、サービス提供のためのプラットフォームを作ったとしたら、すべての通信事業者の携帯電話でアクセスできるようにしなければなりません。また、携帯電話を使ってサービスを利用しようとした場合、システム上でそのアクセスしているのが本人であることを確認できるような認証システムが必要となってきます。

J: エストニアについては分かりませんが、一部の国では、携帯電話番号は固有の番号として認識され、国民IDと組み合わせて使われます。モンゴルでは、通信事業者は電話番号でユーザーを認識しています。これについてはどう思いますか?

アルヴォ・オット: 電話番号を取得する際に、IDナンバーを確認。登録した上で電話番号を割り当てているのだろうと思います。ですが、電話番号をオンライン上で過度に個人と関連づけることは必要ないでしょう。そこまでしなくても、あなたの携帯を使っているのはあなた自身であることは明らかですからね。

J: 例えば、私がある通信事業者の電話番号を取得していて、さらに他の通信事業者からも同じサービスを受けることはできますか?

アルヴォ・オット: この場合の主な問題は、デジタルIDにどのようなフォーマット、どのような技術を使っているかです。例えば、モバイル技術に関して、エストニアでは2種類のデジタルIDがあります。一つはSIMカードに基づいたもので、SIMカードをクリプトカードに変更し、公共サービスを利用するのに必要な暗号を設定することができる仕組みです。この暗号はSIMカードとクラウドに保存されます。そして、もし通信事業者及びSIMカードを変えた場合でも、番号はそのまま使えることになります。

J: 問題はそこです。SIMカードを変えても、番号は変更されません。だから、エストニアではSIMカードを警察からもらうのですか?

アルヴォ・オット: 実はその際、警察に提出する必要な情報をオンラインで登録します。受け取りも直接警察署に行く必要はありません。オンラインで更新できます。IDカードで電子署名をする形となります。モンゴルの場合は、モバイルIDを読み込むところから始めた方がいいかもしれません。

J: そうすると費用が安くなりますね?

アルヴォ・オット: 安くなるのもそうですが、この場合、事前の手続きが少し必要となります。まず、自分が持つ携帯電話のモバイルIDを把握しておかねばなりません。つまり、携帯電話の合法な持ち主であることを証明することで、信用を担保する形です。

J: つまり、SIMカードを持っていなくてもエストニアと同じようなサービスを受けることができるということですか?

アルヴォ・オット: そうです。すると、もちろん新しいスマホにはSIMカードも必要ではなくなります。

J: そうなのですね。アップル社のiPhoneでもSIMカードを必要とするのに?

アルヴォ・オット:  10年以内には新しいモバイルテクノロジーが普及するでしょう。もう既にSIMカードがなくても個体を識別する技術が出来ましたからね。これから先10年を予測してみましょう。森羅万象、あらゆる物事が変わってきています。多くの発明もあるでしょう。でも、SIMカードを必要としない技術ができるのは確かです。

J: 最後に、私が懸念している問題は、利用者の、国民の個人情報の安全性についてです。政府は既に私たちについてあらゆる情報を持っています。政府職員などが個人情報を悪用しないと、どう言い切ることができますか。プライバシーの保護はどう機能するのですか?

アルヴォ・オット: 組織、法律、技術での保護があります。技術の面では、人々の情報は安全で、保護されています。自分のデータが違うシステムへ提供される際、データをロックしたり、データが渡ることを承認したり、何が行われているかを自分で確認できます。統合された情報は全て法的にコントロールされ、許可されていなければなりません。新しい公共サービスなどは適法であることを確認されなければなりません。EUでは、個人情報保護検査官と呼ばれる人々がおり、これを監視しています。

J: EUでは特別な監視体制があるということですか?

アルヴォ・オット: これはEU自体の監視体制ではなく、EU加盟国が守らなければならないルールとなっています。

J: このルールは、モンゴルで新しく設置された国内委員会が担当することではありませんか?

アルヴォ・オット: それも議論の必要があると思います。また、法的な問題ですね。

J: エストニアで聞いた話ですが、公務員は必要に応じて個人のデータを閲覧できます。ですが、エストニアでは一定の期間が過ぎれば、誰が自分のデータを閲覧したかを、遡って確認することができるそうです。これについて話してもらえますか。個人情報のもっとも良い保護方法だと思います。

アルヴォ・オット: はい、これは個人情報保護の一つのモデルです。国民全員が自分の情報がどう利用されているかに常に関心を持っているわけではありませんが、一部のケースではとても敏感な問題となります。法律や技術上、厳守されている2つの原則があります。1つは、政府は個人に関するどのようなデータを持っているのか、2つ目は他人がどれくらいの頻度で私のデータを使用しているかです。この2つを自分で確認できることが重要になってきます。私の個人情報を警察が閲覧しているのか、国勢調査当局が閲覧しているのかをチェックし、またなぜ閲覧したのかを聞くことができます。

J: 多くの国でこういう仕組みが確立されていますか?

アルヴォ・オット: いいえ、多くはありません。しかし、この個人情報保護のモデルによって、プライバシーの自己管理が良く機能しているということが分かりました。

J: これがあなたの国のシステムをユニークなものにし、個人情報の利用において政府への信頼度を増加させていると思います。

アルヴォ・オット: そうですね。また、さらに規定を設けています。私も自身の個人情報を利用することができますが、それも法律に基づいていなければなりません。

J: モンゴルではそれも国内委員会がやるべきことの一つだと思います。また、もう一つ感心したのが、エストニアでは選挙の投票箱が一切置かれておらず、だれもがスマホを使って投票していたということです。

アルヴォ・オット: これは言ってみれば人権保障ですね。エストニアには投票についていくつか選択肢があります。電子的な、インターネット上の選挙投票システムで投票することも可能ですし、投票箱を設置して物理的な投票をできる場所もありますし。

J: ということは、スマホを使用しない人は直接投票所へ行って投票することができるわけですね。選挙区で直接投票所に行きたくない人や時間がない人は、スマホを使ってオンラインで投票できるわけですね。すると、例えばモンゴルでは、政治家が有権者の票を買い取ることがしばしば起こります。そのような不正がないことをどう担保しますか。選挙期間中に何度も投票できますが、最後に投票したものが有効になると聞いたことがありますが、本当ですか?

アルヴォ・オット: これはちょうどエストニアの国会で長く議論された問題です。誰かがあなたの投票に影響を及ぼそうとした場合、あなたは投票箱に投票できます。電子投票では、選挙日の1週間前からオンラインで投票でき、その際何回も投票を変更できます。そして、最終的な投票を有効とされますが、選挙日に直接行って投票することもできます。

J: 最終日にインターネット投票をしてもいいですが、選挙が終わる20分前に直接投票所へ行って投票箱に投票を入れたらそれが有効とするのですね。

アルヴォ・オット: 選挙当日はインターネットによる投票は使用できません。

J: インターネットによる投票を利用するなら、選挙日の前日までに終えておくべきなのですね。

アルヴォ・オット: はい、しかし期日前にオンラインで投票を終えたとしても、他の人が誰に投票したかは分からないように電子サインによる強度なセキュリティ・システムを設けています。

J: 私の代わりに誰か他の人が投票するということはありませんか?

アルヴォ・オット: ありません。様々な方法を使ってそれを回避しています。

J: エストニアはこのシステムを何年間使っていますか?

アルヴォ・オット: このシステムは2005年に始まりました。最初は国民の間でも信用度が低かったのですが、それも年々増えてきています。

J: 政治家はこのアイディアを好まないはずだと思いますが。

アルヴォ・オット: 政党によって異なっていました。支持する政党もあれば、反対する政党もありました。しかし、旅行中の人や若い人、天気が良くない時も投票できると支持を得られています。

J: 過去、このシステムについて不正行為があったというクレームはありましたか?

アルヴォ・オット: 大きな問題は起きていませんが、スクリーンが小さいから全ての写真が見られないというのはありました。

J: 最後の質問です。e-ガバナンス・アカデミーが協力するこのプロジェクトは、どれくらい続きますか?

アルヴォ・オット: 6ヶ月というとても短い期間です。しかしデジタル・ガバナンス自体はこれからも続きます。必要であれば、協力関係も続けていきたいと思います。

J: エストニアでは、高度なデジタル・ガバナンスによって公務員の数を減らすことができましたか?

アルヴォ・オット:一部の分野では減っています。ですが、多くの場合効率が上がっています。正しい情報に基づくことは、より良い決定に導いていると思います。

アルヴォ・オット * ジャルガルサイハン