ビャンバスレン・オユンサナー氏は、モンゴル国立大学で生物学部森林学の修士号を、ドイツ連邦共和国ゲオルク・アウグスト大学でゲッティンゲン自然科学博士号を取得しました。オユンサナー氏は、モンゴル国立大学応用科学工学部部長、ドイツのマックスプランク研究所で科学・地球科学部、フライブルク大学及び国連大学で上級研究員と副所長、農業大学農業生物学部の教授を歴任しました。

J(ジャルガルサイハン): こんにちは。いままでモンゴルの森林や林業について多くの方からお話を伺ってきました。今日は、主にモンゴルの森林資源の現状や課題についてお話ししたいと思います。まず、モンゴルにどれくらいの森林があるのか、どのように分類しているのかについて話して頂けますか?

B.オユンサナー: こんにちは。番組に招待して頂き、ありがとうございます。モンゴルの森林については、森林面積は18%を占め、1800万ヘクタールを超えます。

J: 国土面積の18%ということですか?

B.オユンサナー: 国土面積では11.8%です。そのうち、樹木が覆っている面積が8%を占めています。

J: あなたは長年、林業の分野で活躍してきました。学位をお持ちの上、ドイツで長年学んでこられ、研究職も務めてきました。日本、韓国、アメリカなど、多くの国で活躍してきました。モンゴルの国土の8%が森林で覆われているというこのパーセンテージは、ドイツやフランスなどと比較してどれくらいの割合なのですか?

B.オユンサナー: 私はドイツにより長くいたので、ドイツの事情についてお話ししたいと思いますが、ドイツと比較するとモンゴルとドイツの森林面積は同じくらいです。

J: ということは、そこまで少なくはないということですね。1992〜1993年にトジーンナルスには美しい森林がありましたが、それがほぼ無くなりました。現在はその地に植林を実施しています。大統領命令で木を植える日というのも制定されました。森林を保護する意識が人々の間に回復してきているように感じられます。現在、森林の面積は増加していますか。それとも減少していますか?

B.オユンサナー: あまり変動は見られません。近年の統計を見ると、森林面積が減少していると確認はできません。しかし、急速に森林面積を増加させる必要があります。例えば、今挙げていただいたトジーンナルスで言うと、1万7千〜1万8千ヘクタールの森林が無くなりました。木の伐採、山火事や樹木の免疫力が落ちた際に発生するキクイムシなどが原因でした。そして多くの人々の協力を得て、植林が実施されました。今では1万4千ヘクタールまで回復しています。これはモンゴルの歴史に残る植林の成功例だと思っています。

J: 以前の森林面積は何ヘクタールだったのですか?

B.オユンサナー: 中心部の森林面積は2万3千ヘクタールでした。

J: ということは、まだ植林が完了しておらず、さらに7千〜8千ヘクタールの植林が続くということですね。

B.オユンサナー: はい、まだ完了していません。

J: あなたはセレンゲ県出身ですよね。

B.オユンサナー: そうです。

J: そのセレンゲ県のトジーンナルスは、モンゴル国の肺とも言われてきました場所です。その森林が回復していると聞いて嬉しく思います。では、話を全国で見てみたいと思います。国土面積の8%を占める森林は、主に国の北部に広がっています。それを南部まで拡大させるためには、どういった事業が必要となりますか。韓国や日本が植林活動を実施し、その活動がウブルハンガイ県(訳注:モンゴル中心部に位置する県で、南部地域の気候は比較的温暖だが降水量が少ない。南側はゴビ砂漠地帯となっている。)まで到達したという話を聞きますが、植林の事業はどの程度ですか?

B.オユンサナー: 植林についてですが、世界中の研究者たちの論文を発表している学術雑誌ネイチャーによると、まず、当該地域で荒廃した森林を修復することが大切だということが分かります。それから、次に森林面積を増加させていきます。私たちは荒廃した森林を修復することに関しては、少なからずの努力を続けています。また、「緑の壁」プロジェクトが実施され、道半ばで実行速度を落としましたが、それでも森林を回復させようとしています。

J: その「緑の壁」というのは、どのようなプロジェクトなのですか。予算はどうなっていますか。なぜこういった質問をするのかというと、モンゴルほど数多くのプロジェクトが立ち上げられ、それでも実施しない国は他にないと思われるからです。

B.オユンサナー:  「緑の壁」プロジェクトは、10年ほど前に提案され、実施され始めました。基本的には中国など、植林活動に積極的な国を参考に始めました。しかしながら、モンゴルでの植林実施は容易ではなく、経済的、人的資源や能力にも恵まれていません。当初は非常に高い目標を設定して始めましたが、時間とともに活動スピードを落としました。ですが、これからは科学的根拠に基づき、気候変動など諸事情を考慮しながら植林面積を決定しなければならず、今までのようにただ線を引いて、植林するものではないということが分かりました。このプロジェクトを再度盛り上げ継続させるために、「韓国とモンゴル共同の緑の壁」というプロジェクトを開始して10年が経ちます。この期間、ウムヌゴビ県にゴビ砂漠の生態系に適した20ヘクタールの植林地を作りました。またトゥブ県のエルデネ村の近くにも植林地を作りました。

J: それらの場所はそもそも森林がない場所ですよね。全く森林のないウムヌゴビ県での植林は、どれくらい成功していますか?

B.オユンサナー:  10年間で約3千ヘクタールの土地で植林を試みました。主に、以前サクソール森林があった場所の面積を拡大する形で植林しています。またその周辺にも新しく植林をしています。私たちの植林活動は、まだ道半ばです。研究も並行して行われています。研究チームは、灌漑管理、生態生理学的指標となる蒸発散の実態、害虫の発生などを監視しています。これらを全部把握し、これからの5年、10年先を考えています。特に、研究チームの若いメンパーたちには、このプロジェクトを途切れることなく継続して行くよう要請しています。こういった研究活動を積み重ねていき、モンゴルに適した技術基準を作ろうとしているわけです。

J: それで木は育っていますか?

B.オユンサナー:  育っています。

J: 自生していたサクソールはどうなるのですか。サクソール以外の木を植えているのですか?

B.オユンサナー: ゴビ砂漠に一番適し、主な部分を占めるのがサクソールです。それからニレ、非常に少ないですがポプラの木です。

J: 全部育っていて、3千ヘクタールが緑化されているということですか?

B.オユンサナー: はい、そうです。

J: どこにありますか。ダランザドガドですか?

B.オユンサナー: ウムヌゴビ県のダランザドガド村とトゥブ県のエルデネ村、ルン村の周辺です。西の方の地域ですね。

J: 何年か前に内モンゴルのボグトに行ったことがあります。ボグトは中国、内モンゴルにおいて産業が最も盛んな都市です。ボグトを案内してくれた人に、ここは以前、一本も木がなかったことをご存知ですかと言われ、私はとてもショックを受けました。なぜならそこは緑あふれる街だったらからです。ボグトはウムヌゴビ県のちょうど南側にあります。私は「なぜここまで緑を増やすことができたのか」と聞きました。すると、「ある男が北京から来て、この地域にちょうど合う木を植えたからだ」と言っていました。産業の街で、タバントルゴイのあるウムヌゴビ県と非常によく似た環境でのことです。これはいったいどういうことですか。あなたはこれについて聞いたこと、見たことはありますか?

B.オユンサナー: はい。聞いたこともありますし、見たこともあります。現地を視察しに行ったこともあります。

J: 私が今言った理解で正しいですか?

B.オユンサナー: はい、そうです。チャンスや可能性はあります。モンゴルはしばしば厳しい気候を言い訳にしがちですが、状況が厳しくても解決策はあります。モンゴルには多くの鉱山企業が創業してきました。国の経済に貢献もしています。しかし、社会的責任を始めとする企業としての責任を負うように要請しています。特定の地域で、特定の人々が、企業の利益に適った事業を行います。そこから納められる税金は国の経済に役立つでしょう。しかし、公共の利益を考えた場合、つまり企業が社会に対してどのような貢献ができるかを考えた場合、企業の社会的責任を植林という形で実施したらいいのではないかと考えています。

J: 企業の社会的責任としてですか。分かりました。でも、なぜ同じ環境を持つボグトが緑になり、ウムヌゴビはいまだ黒く、荒れた砂漠のままなのですか?

B.オユンサナー: 私たちもそういった事業を進めようとして、先ほどお話しした韓国との共同プロジェクトを実施しました。そして10年間で3千ヘクタールの緑地を獲得しました。続けてザミンウード周辺でまた似たようなプロジェクトを実施しようと考えています。植林地を整備し、その地域の人々が長期間植林活動を続けて行けるような仕組みにしたいと思っています。

J: 支援体制を整えるということですね。各世帯が木を植えているとのことですが、問題があります。木に水を撒く以前に、人の飲料水もないことです。これをどう解決すればいいのでしょうか?

B.オユンサナー: 地表水資源についてですが、季節ごとの、例えば雪解け水による洪水や雨水など、余剰水をどう使うかが議論されています。

J: そのために何をしていますか?

B.オユンサナー: 昨日、政府により水道局の設置が発表されました。地表水資源を効果的に使用し、ゴビ砂漠へ水を送れるようにするためでもあります。それとヘルレンゴビプロジェクトの調査がなされています。これは鉱山開発で問題となる水資源を開発するほか、植林活動にも大きな役割を果たします。地下水は利用できるまでに長い時間がかかるため、地表の水資源の活用が重要です。

J: 世界中で、地表水を100%使用しているのは唯一シンガポールだそうです。雨水を利用しています。全ての屋根、地表を繋いで、地下を通して雨水を集め、精製して飲料水以外の場でそれを使用しています。モンゴルは国土が広いため、私たちにはそれが出来ないかもしれません。しかし都市部では洪水が起き、雨水を使うどころか逆に建物やインフラを破壊されてしまう状態です。この問題とどう戦えば良いのでしょうか?

B.オユンサナー: 鉱山資源開発中に地下水が湧き出しますし、地表水もあります。これらを活用し、貯水する形が一般的です。洪水時の水を貯水する仕組み、また最新技術を用いて地下水を再活用する必要があります。何の対策もせず、このままの状態を放置することは良くないですね。

J: 今のままでは良くないことは、専門家でもない素人の私たちにも分かります。例えば、ドイツやオーストラリアでは、以前鉱山として開発されていた土地に行ってみると、貯水池になっています。あなたもドイツに長年住んでいたのでご存じだと思いますが。鉱山開発には水は付き物です。地下深くまで大きな穴を掘るわけですから、水を地底まで落ち込まないようにする方法はありますか?

B.オユンサナー: あります。

J: そう考えると、予め鉱山開発の予算に含めるべきだと思います。またその費用を、おそらくは何人かの権力者のランドクルーザーになっているであろう再生基金から拠出することはできるのではないですか。実際、一台のランドクルーザーの購入代金で、水が鉱山の底を他へ流れて行かないようにする方法はないのでしょうか?

B.オユンサナー: それもあります。鉱山を操業する大企業などには一律の要請をしています。大企業は比較的責任感が強いです。例えば、オユトルゴイなどは可能な限り最新技術を導入しています。ですから中小企業で開発している鉱山で、地表水をどう保存するかが問題です。

J: 自然環境・観光省では、こういった要素で企業をランキニングしたリストなどはありますか?

B.オユンサナー: あります。環境・天然資源管理局で水資源への対策を監督、監視を行っています。

J: 政府は最も高い税金を払ったとして企業を表彰していますが、なぜ最も環境に配慮した企業を表彰しないのですか?

B.オユンサナー: それも検討されています。正直言って、私たちも学びながら進んでいます。モンゴルで鉱山開発が活発になり始めたのが30年前です。短期間で多くの鉱山開発ライセンスが交付されてしまい、その後に私たちが今問題になっていることを解決しようとしています。問題の根本原因は、最初から適切な範囲内で、数量を制限してライセンスを交付すべきだったのに、誰もが無秩序に動いてしまったということです。

J: その「誰もが」という言葉が、責任を取る主体をなくしてしまっています。実際あなたが言った通りでした。ライセンス交付の際に環境への影響について専門家に確認もせず、好き勝手に人がそれぞれの場所で活動をしてきました。鉱山開発に限らずそうです。今は「誰もが」という言葉ではなく、「誰が」責任を取るべきか明白にしていく時だと思います。こんな状況がもう30年も経つわけです。いつまでも同じ過ちを繰り返すわけにはいきません。

B.オユンサナー: たしかにそういう状態が続いてきました。ですが、今は「河川源流域、水源保護区、森林保護区における鉱物資源の探査・採掘の禁止法」という長い名前の法律が制定されました。

J: その法律は実現されていませんよね。

B.オユンサナー: 今は、新しく申請されるライセンスに関して、水や植物、森林を担当する専門家たちが法規定に従い、場合によっては却下する判断をしています。

J: 今ある鉱山に関しても再度確認すればどうですか。ホテルに星を付けるのと同じく、鉱山に星で評価したらどうですか?そうすれば影響が大きいと思います。企業自体は自分たちを環境に非常に優しいとしていますが、本当にそうなのか客観的な評価を自然環境・観光省が行うということです。もちろん、これはあなたが担当する森林部門単独で決められることではありませんが、評価する上では自然環境・観光省とは話すべきことがたくさんあります。では、話を戻しましょう。モンゴルには1100以上の森林組合があります。地域社会が組合という形で森林を保護するということです。機能しているところもあります。こういうセオリーがありました。今はほぼ無くなってきていますが、「森林を保護するとは、手を出さないでいることだ」と。ドイツでは、手を出したうえで、回復させ、商品開発し、森を200%使用しているように見えます。これについてあなたの意見を聞かせてください。モンゴルのこの森林組合は、ドイツに比べてどうですか。これからどうすべきでしょうか?

B.オユンサナー: 組合に関しては進歩しています。組合の数も今年は1100から1300に増加しました。中には、非常に活発に取り組んでいる組合もあれば、もう少し改善しなければならない組合もあります。しかしどの組合も正しい方針は見えています。ドイツでは、森林は再生資源だと見られています。ただこれには、気候などの諸事情を考慮すべきです。ヨーロッパの国と比べてモンゴルの気候は、生産性に劣るがチャンスはあるということです。90年代から乱獲され始めた天然資源の一つが森林です。ですから、最初の対策は森林に手を出さず、とりあえず現状を維持しようとしていました。今はその意識を変えようとしています。森林害虫の発生を防止するためには、木々が密接な距離で植えられていると害虫が発生した時に早く広がってしまうため、今では木々の間に一定の距離を保つなど手を加えることです。

J: 死んだ木はどうするのですか。切り落としますか?

B.オユンサナー: 死んで乾燥した木と倒れた木の2種類があります。こういった木は燃料に使っています。それから害虫や山火事の被害を受けていなく、死んで間もない木はなるべく早く回収すべきです。ただ回収可能かどうかは、生態的役割によります。死んだ木であっても水資源の保護、土壌の保護に不可欠である場合は、私たちは回収しません。

J: 「私たち」と言うことは、地域の人々に政策的指導やアドバイスをする仕組みがあるということですね。指導に従っているかどうかはどうやって分かりますか?

B.オユンサナー: 監督するメカニズムがあります。

J: では、1300ある組合のどれくらいが良く、どれくらいが悪く、また中程度の活動をしていますか?

B.オユンサナー: 1300の組合のうち、森林のある5つの県の101の組合を選定し、先ほどいった内容の指導を実施しています。

J: 森林は組合の所有物ではありません。公共の財産です。そのため、公共の財産を管理しているといえます。組合がある程度の報酬を受ける制度というものはありますか?

B.オユンサナー: 完全には出来ていませんが、徐々にそういった制度も出来てきています。燃料に使うための死んだ木などは組合が優先的に利用できます。ですが、全てのプロセスは法律に従って行われます。

J: 1300の組合はモンゴル国土の8%を占める森林面積を全てカバーしていますか。つまり管理されていない森林はありますか?

B.オユンサナー: 管理されていない森林はほぼありません。人家から非常に離れた場所にある森林は、少ないですがあります。それは人の手が届かないような森林です。

J: 一定数の住民が集まる都市に対して、特定数の樹木がなければならないという世界的な基準があります。都市緑化です。ウランバートルは緑の街ではありませんね。ゲル地区などでは、木を植えるどころか人も余裕を持って住めないような距離で家が建てられています。これに関して政府は何をしていますか。

B.オユンサナー: 法的にウランバートル市も一つの地域です。そして街の緑化はその市、その県や村が管轄します。では私たちはどういう時に介入するかというと、植林の苗木などを提供するときです。

J: 苗木を自治体に売るのですか。目的は緑のある街づくりです。その目的を達成させることをどう見ていますか?

B.オユンサナー: まず都市の計画が良くありません。まず土地を与え、建物を建てます。最後に土地が余れば木を植え、緑化するようになっています。ですから緑地化には専門家の意見を聞いて上で、十分な空間を確保して植樹していく必要があります。

J: フランスでは、全ての建築において、その建物の価値の1〜2%に匹敵する資金で、その周辺に綺麗な街づくりのための樹木を植えなければならないという法律があります。しかし、モンゴルの場合それを考える暇もなく、儲かるのであれば建物の上に建物を立てることすら許可してしまいそうなところです。もちろん話だけでは解決される問題ではありませんが、あなたのように森林に関して多くの研究をなされ、学んできた人が安月給の公務員として働いてくれていることに感謝します。今日はありがとうございました。

オユンサナー * ジャルガルサイハン