モンゴルの内閣は危機に陥っている。この危機の原点は政党の危機である。国民は、政党の危機は政府の危機であり、さらには経済・社会にも影響することを強く感じている。

モンゴルでは政党を改革し成熟させることについて30年間話し合われてきた。しかし実際にどの様な状況になるかを理解し、その実現のために社会全体で議論することはなかった。

成熟ではなく、組織化

「政党の組織化」という概念については、アメリカの国際政治学者サミュエル・ハンティントンが、その著書「変革期社会の政治秩序」の中で提示している。彼の主張では、政党は体制的に安定し、組織的に共通の価値観をもって統治された時に組織化されたとみなされる。しかし、組織化していない政党は過激で安定しない。現在のモンゴルには、政党間の健全な競争が弱く、信頼できる野党が存在しない。

また、政党の組織化が一定水準に達した国では、民主化から逆戻りすることはない。これについてイギリスの研究者フェルナンド・カザールベレタは60ヵ国の政党の組織化について研究し定義した。

1990年からモンゴルでは二大政党が交互に、時には連立して政権を握ってきた。この間、内閣は16回も変わり、政権の平均寿命は1.5年となった。これは政党が組織化されていないことの明確な現れである。また、モンゴルでは第三の政党が台頭する可能性があるが、信頼に足る新しい政党はまだ出現していない。

2018年にデファクト研究所が実施した「政党内部の民主主義指数」調査では、モンゴルの政党は半民主主義であるという結果が出た。例えば、民主党内では派閥がそれぞれ全く別の組織であるかのように活動をしている。彼らは互いに情報交換を行わない。情報交換をするどころか、逆に情報を漏らさないようにしている。また、政党は会計報告すら公開しない。法律があるので一部の情報を党のウェブサイトに数日間掲載して、すぐに削除してしまう。モンゴルには政党の活動報告に関して規格やフォーマットがない。

人民党は、民主党が与党になると「政権を何度も変えるので、政権を担う能力はない」と批判する。だがこの数ヵ月、政治における出来事を見ていると、80年の歴史をもつ人民党も民主党とさほど違いはない。民主党と人民党、この2つの党はどちらも野党になる能力すらない。一個人であるD.エンフバトという人物が「人民党が悪いということは、民主党も悪いということである。民主党が悪いということは、人民党も同様に悪いということである」と的を得た意見をソーシャルメディアで発信した。政党は体制的にも組織化していない。

政府機関ではなく、代表機関

政党とは何か?政党とは、政権を獲得するために同じ価値観や考え方のもとに団結した人たちの集合である。政党の主な役割は、国民と政府を繋ぐ橋になることである。モンゴルの2つの政党こそが、その橋となっていると国民や党員は信じていた。しかし今日、その信頼は失われつつある。政党に対する国民の信頼が失われるにつれ、政党を批判する傾向が強くなってきている。これにはいくつかの理由がある。

第一に、モンゴル政府は、様々な名目で政党へ国の予算から助成金を交付することが増えてきた。国家予算による政党への助成金は腐敗を減らす良い面もあるが、一方、政党が市民社会機関とならない要因ともなる。すなわち、党員による政党への寄付が、必ずしも民間からの寄付金となる必要がなくなっている。

第二に、政党の党員数が減少している。以前、政党の党員数は多かったため、政党は国民の代表機関になっていた。現在、人民党、民主党はそれぞれ15万人の党員がいると言われているが、党首選が行われると実際に投票できる党員数は10分の1に減る。

第三に、政党は現代化されていない。組織構造や政策、思考などすべてにおいて遅れている。特に組織構造で言えば共産主義の一党制であり、それが政府の構造となっている。いまだ独裁的思考を捨て切れていない。

崩れた橋をどのように直すのか?

 第一に、政党は組織化のために政治体制を再び見直す必要がある。中途半端な大統領制は政党の組織化に悪影響を及ぼす。これについては前出のフェルナンド・カザールベレタの調査が示している。歴代のモンゴル大統領は派閥政治を作り出し、それが拡大する主な要因となってきた。各派閥は政党を体制的に崩壊させることを常に行っている。本来、モンゴルの政治体制は議院内閣制で、大統領は象徴的な存在である。

 第二に、政党内の民主主義を前進させる必要がある。近年、国会が開会する度に協議する議題にのぼるが、全く協議されない法案がある。それは政党法である。理由はとても簡単。この法案を協議できないほど政党は寡頭制となっている。この法案を早急に協議し、可決しなければならない。法案可決にあたっては、政党は国民により近く、組織面において柔軟性がありコンパクトにする必要がある。そのために、党員の参加、競争に透明性があり、政党の活動を報告するなど、政党内部における民主主義を推し進める必要がある。中には20年間党首が変わっていない政党もある。

第三に、市民社会を確立する必要がある。チェコの研究者ミハイル・クリマは著書「全体主義体制から歪んだ民主主義」の中で「ポスト共産主義国では政党の上部から下部までが、国民ではなく出資者の言いなりとなり、客観的価値(資金の多寡)に基づく体制ができている」と明瞭に述べている。根本的な原因は、市民社会が確立されていないことにある。政党は政治制度のシステムとして市民社会やその他のシステムと有機的に結合しているため、政党単独での改革は不可能である。

ウィンストン・チャーチルは、「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」と言ったように、政党は悪だが、政党なしに民主主義はない。だから、政党の構造をどうやって組織化させるか。どのように安定したコンパクトなシステムを作るか。これは、モンゴル国民が今、直面している歴史的な試練となっている。

私たちはこの試練を乗り越えずに国を発展させることができない。

ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン