研究者が政策を定義する場合、最も簡単な言葉で「政府が行う、もしくは行わないと定めた決定」とすることが一般的である。政策とは、対処すべき問題を十分に理解し、根拠をもって説明し、特定することから始まる。もし、問題を的確に特定できなければ、下す判断も誤ったものになり、「的外れ」な政策になってしまう。直面している問題の原因、その結果を短期間で的確に分析し、複数の解決策を練ることは、意思決定者の知識、経験、責任感を現わすものとなる。

モンゴルのマクロレベルでの意思決定者たちは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大をどのように理解し、特定していたかを、混乱(mess)、問題(problem)、パズル(puzzle)というモデルでみてみよう。

2020年4月、国会議員や閣僚たちは、新型コロナウイルスの感染予防のためにエアドクター(Airdoctor)というものを首にかけ、国民から大きな批判を受けた。モンゴルでは、子どもたちの風邪予防対策としてニンニクの皮をむき、それに糸を通して首から掛ける風習がある。このエアドクターとは、政治家たちがこの風習と同様な行為を行ったことが、新型コロナウイルスの危険性を正しく理解し、問題の本質を捉えていなかったことの現れとなった。

1.混乱期(mess)

2020年3月2日に外国からモンゴルに入国した人の中に新型コロナウイルスの感染者が初めて見つかった。それ以前の4ヶ月間は、モンゴルでは意思決定のマクロレベルでの混乱(mess)、つまりこのウイルスについての共通理解や決定がなかった時期(共通の理解がなく、解決策について不透明で静観することを余儀なくされた状態)といえる。この「混乱」は、感染源となる国からモンゴルへの入国禁止、あらゆる段階の教育機関の活動停止など、リスクを上回る措置を取る政策に現れていた。また、緊急事態宣言の突然の発表や再延期などの決定が頻出していた。これは問題を短期間で解決できるという楽観的な見方が大きかったことを示している。

100日間の試練(ハネムーン期間):米大統領フランクリン・ルーズベルトに端を発したと言われる、新政権発足後100日間の功績を国民に報告することは、単なるシンボル的なものではない。このように報告することは、有権者や国際社会に自国の政策、ビジョン、能力を証明する試練なのである。政権交代や政策の変更がなければ、如何なる重大な問題に対応するまでの期間はこれより短いことは当然なことである。

問題の進行と政府の対応措置:2019年12月12日に中国武漢市で新型コロナウイルスの初の感染が確認されてから50日後となる2020年1月26日、モンゴル政府は新型コロナウイルスに関して初めて会議を開き、第30号政令を発令した。2020年2月12日の新型コロナウイルス感染防止に関する内閣方針について大統領令が発出された。

世界保健機関は、2020年1月31日の時点で新型コロナウイルスに関して「世界的流行であるパンデミック」を宣言した。そして2020年3月11日にCOVID-19を“黒死病”であると発表した。

これを受け、モンゴルでは2020年1月30日に国家非常事態委員会の所管で緊急作業部会が設置された。そして第39号閣議決定が発令され、一部の国境検問所が一時閉鎖、モンゴル-中国間の空路、陸路、鉄道のあらゆる国境検問所での往来を停止した。2020年2月10日には石炭輸出用の道路も閉鎖された。

2.問題期(problem)

海外からの入国者に初めて感染が確認されてから、意思決定者のレベルで新型コロナウイルスの感染拡大のリスク、その影響について共通理解(当事者の間での異なる認識、理解が整理され始めたが、感染対策については異なったままで共通した解決策がなかった)ができた。

問題の進行、一部対策措置:2020年3月10日にモンゴルに入国したフランス人から新型コロナウイルスの感染が確認された。また、3月12日に国家非常事態委員会は緊急対策本部を設置し、各省庁の長官による命令、指示、ガイドラインの承認が積極的に行われるようになった。2020年3月20日の第26号副首相指令により「新型コロナウイルスの感染拡大防止、対策措置の計画」が承認された。国会は「新型コロナウイルスの感染防止対策、社会・経済に及ぼす悪影響を抑制する」法律を2020年4月28日に可決した。災害防止改正法を2020年5月に可決した(www.legalinfo.mn)。

外国からの入国者に感染が確認されて以降、決定を下すマクロレベルでは、新型コロナウイルスの感染を短期間で阻止するという期待、特に重要なのは新型コロナウイルスの感染を封じ込めた後の経済回復だという認識が強かった。このことを国会が可決した決議や法律の名前、内容、調整関係からみてとれる。

さらに、外国からウイルスが運ばれて来ていたにも関わらず、2020年の国政選挙の選挙運動や投票が強行された。選挙後の国会、内閣発足の過程は、政府機関のコロナ対応を待機状態にした。それと同時に夏休み、旅行の時期が重なったことがあらゆる人々に安心感を与え、注意や責任が薄れた。正にこの時は、世界保健機関による公表以降の7〜8ヶ月間で、国会、内閣、国家非常事態委員会から新型コロナウイルスの感染を国内で広げないための対策を計画的に実施し、各政府機関の連携、意思決定の統一、責任を向上させるための時間を無駄にした時期だった。

また、災害防止法の規定、指示、勧告についての作成は、行政制度のほとんどの段階において不十分だった。このことが「医療救急活動」、「消防活動」という形で複数の規定を新しく作成する事態となり、多くの労力と時間を浪費するはめになった。非常事態時の緊急本部の企画チームが作成し承認された法的文書だけでも、緊急対策本部が設置された3月から8月までの期間で法案が1つ、戦略計画が1つ、規定が8つ、ガイドラインが4つ、計画が5つ、契約書が1つ、勧告が4つ、研修プログラムが1つといった具合である(https://nema.gov.mn)。

短期間に多数の法的文書を作成し、承認したことは褒められるべきことのようであるが、逆に新たに承認された政策、法的文書を施行する準備の時間がない状態となり、施行の過程において政府機関と現場で認識のズレが生じ、連携が取れず、決定がころころと変わる状況に至った。また、リスク評価を2020年1月から10回ほど実施したが、実状に合わせていなかったため、意義や効果に欠け、国内の感染拡大を阻止できなかった。

新たに発足した内閣は、2020〜2024年の活動計画を作成する際に新型コロナウイルスの感染とそれが及ぼす影響に対処する問題を重視し、計画の第1条に「新型コロナウイルスの感染拡大による経済や社会における困難を乗り越える政策」を定め、そこに31の対策措置を盛り込んだ(www.legalinfo.mn)。これは新型コロナウイルス感染症に対する政府の活動に良い影響を与えたが、省庁が活動計画、環境を振り返り改善するという労力と時間を費やした取り組みを再び展開する事態となった。

3.パズル期(puzzle)

国内で感染クラスターが発生し、感染状況や長期において繰り返してきた全国緊急事態宣言、外出制限に疲れ切った経済や社会の憤りは、意思決定レベルに厳しいシグナルを送ったため、コロナウイルス感染症対策における統一した決定が下されるpuzzle期(コロナウイルスの感染について認識だけではなく、解決においても一致した認識が得られる時期)に突入した。この時から内閣、国家非常事態委員会のレベルで次の決定を出したと見ている。例えば;

  • 各区に「1つの扉-1つの検査」という措置を採る。新規感染のクラスター状況により部分的に外出制限を講じる。
  • 「新型コロナウイルス感染拡大と共存する=適応する。大勢での集会、大勢が集まるイベント開催を禁止し、一部の製造、サービスを許可する形で経済活動を段階的に再開していく政策を採る。
  • 新型コロナウイルス感染症対策のためにワクチンを入手し、国民のワクチン接種を開始し、感染を押さえ込むまで感染防止、部分的外出制限の措置を採る。
  • 新規感染者が確認されていない、つまり全く感染が確認されていない地方における災害レベルを引き下げ、製造、サービス活動を完全もしくは部分的に再開する。

問題の進行、一部対策措置:モンゴル国内で初めて感染が確認されたのは2020年11月である(訳注:それまで入国者の中には感染が確認された。入国者は3週間の隔離措置をうけていた)。病院の医療従事者が感染し、続けてクラスターが発生し、感染が拡大した。感染経路が不明な感染者が多数発見され始めた。2021年2月18日の時点で感染者数は2,493人になった。「全国準備態勢レベルに移行する」という2020年11月11日の第178号閣議決定が発令された。

国家非常事態委員会の委員長、モンゴル国副首相、保健大臣、そしてU.フレルスフ内閣は総辞職した。L.オユン・エルデネが首相に任命され、新内閣を編成し、副首相、国家非常事態委員会の委員長に国会議員S.アマルサイハンが任命された。

「全国準備態勢レベルに部分的に移行する」という2021年2月10日の第27号閣議決定が出された。新型コロナウイルスの感染対策のためにいくつかのワクチンを入手し、2021年2月23日から国民のワクチン接種を段階的に実施する「健康保護、経済回復の10兆計画」をL.オユン・エルデネ首相が紹介した。2020年、モンゴル経済は5.3%縮小した(www.1212.mn)。

これまでを要約すれば

  • 国が直面している政策問題を短期間で効率的かつ根拠をもって特定し、適切な解決策を打ち出す能力は、意思決定のレベルで脆弱である。
  • 根拠に乏しく、不透明で、状況を見誤った、状況に合っていない決定のほとんどの場合は、意思決定が極めてリスクの高い状況だということが示された。
  • 災害防止、非常事態時における政府の決定、その実施はあらゆる段階において関連性が弱く、人材や能力が不足している。

オロルマー・ムンフバト