首都ウランバートルが「スモッグバートル」になり10回目の冬を迎えている。有害スモッグにより多くの人たち、特に子どもや高齢者が死亡していることを世界銀行の調査結果が証明している。経済的に余裕がある者は冬の間は海外で暮らし、そうではない者は有害なスモッグを吸い込みながら春が来るのを指折り数えて待っている。
政府や歴代ウランバートル市長は、今まで数十のプロジェクトを実施し、何百億トゥグルグの予算をこの問題に掛けてきたが、市内のスモッグを消し去るには至っていない。特にこの冬の煙は濃度が高く、隣に立つ人が見えない程だ。
今は入院する子どもの大半がスモッグによる中毒症状を訴えており、国立病院も私立病院もベッドが不足して、患者は廊下の床の上に寝ている状況だ。同時に政府が財政赤字に陥り、あらゆる税金を引き上げた結果、民間企業が弱体化し、失業者は海外に出稼ぎに行くようになった。
スモッグと「戦った」物語
効率的なストーブ物語: ウランバートル市の大気汚染の70%がゲル地区の石炭ストーブから出ている煙によるものだ。世界銀行の調査では、ゲル地区に住む低所得世帯が−30℃の寒さを乗り切るために所得の40%を石炭燃料に使っているという。エルベグドルジ前大統領の下でモンゴル政府はトルコ製の効率の高いストーブを取り入れた。2011年にアメリカの政府機関であるミレニアム・チャレンジ公社と協力して10万台、2013年に世界銀行と協力して4万台のストーブを93%割引された価格となる25,400トゥグルグでゲル地区の世帯に売り配った。その結果、ウランバートルの大気汚染が少しは減った。しかし、安価で買ったストーブを地方で何倍も高く売りさばく人々が続出。モンゴル政府とアメリカのミレニアム・チャレンジ公社が協力して実施したこのクリーンエアープロジェクトは、横領した政治家1人、2人を処罰して物語が終わった。
都市再生計画物語: 2012年の選挙で民主党が与党となり、首都を統治するようになった。ゲル地区の再生計画というプログラムを打ち出し、ゲルに住む各世帯はアパートに住むようになる。市役所はウランバートルでスモッグ濃度が最も高いバヤンホシュー地区に移るという。一部の建築会社、その中で市長の息子の会社がゲル地区にアパートを建てた。ゲルの土地を何部屋かのアパートと交換しようとした。土地は最も高価な不動産であるため、ゲル地区の住民はそう簡単に納得しなかった。数年後には一部の世帯がアパートに入居することができたが、多くの世帯が土地を失いアパートへの入居もできなかった。さらに仮住宅から追い出されてこの物語が終わった。モンゴル人は裕福ではない。そして低所得者向けのアパートを建てない。ここでも物語の主人公の1人や2人を処罰する程度で終わっている。
電気料金無料の物語: 2016年にエルデネバト政権は一般家庭の夜間電気料金を無料にし、ゲル地区の18万世帯に電気による暖房を供給するプロジェクトを始めた。暖房どころか電力供給が不十分なゲル地区でも夜9時以降は石炭を燃やさなくなった。しかし、朝6時に冷えたゲルを暖めるために石炭を燃やし始める。石炭を燃やす時は始めの5分間で有害物質が排出される。朝燃やした石炭の煙が昼間はなくならず、街全体を覆う黒い雲となってしまった。それにゲル地区全体に電気による暖房を供給するとしたら、限界まで稼働している2つの火力発電所は負担を耐えきることができず、暴発したことだろう。当たり前ながら成果も計算も考えなくプロジェクトを行った人たちの誰も責任を負わない。
緊急事態を発表する特別な物語: この物語は新しく、これから始まろうとしている物語である。新大統領は新年早々に緊急事態を発表し、スモッグバートルの大気汚染を旧正月までに減らさなければ国会を解散させるという厳しい命令を下した。10年間も議論し解決できなかった「敵となるスモッグ」をわずか10日間で無くすようだ。スモッグではなく国会を解散させるという政治の悲劇が幕を開けている。
発生したスモッグではなく、その発生原因と戦う。
発生したスモッグではなく、そのスモッグが発生している原因と戦うことが重要である。スモッグバートルの有害スモッグは、ゲル地区の石炭ストーブから出ていることは確かだ。国民がその石炭ストーブを使用するしかない状況、つまり貧困が根本的な原因だ。さらに言うと地方の貧困である。正しい地方開発計画が必要だ。遊牧民が家畜の放牧地、せめて冬場の放牧地をバグ(モンゴルの最小行政単位)で協力して運営できる制度があったならば、モンゴルの地方の過疎化が進み、人々は都会に集中しなかっただろう。
またウランバートルの土地を歴代の市長が私利私欲のための道具にせず、地域に分けて計画的にインフラ敷設を拡張していれば、市内の交通手段、市民である私たちの生活リズム、国の発展が違っていたと思う。
地方開発政策、都市計画を愚かな政治家にやらせてもこんな状況にはならなかった。私たちに毒を与えているのは政治家ではなく、今の政界に浸透した汚職や賄賂。そしてそれを追求することもせず沈黙して、財産や健康に被害を受けている国民私たち自身である。
これらの無計画な事業を実施してきた者のうち、誰も何らの責任を負っていない。責任を負うどころか私たちの生き方を決めつけようとしている。国民はこの現実を完全に理解し、政府を監視するようになるまでスモッグと戦う物語は終わらない。夏がきたら忘れ、冬になったら思い出したように話す。私たちはこの問題を解決することなく、有害なスモッグにより多くの人命をいつまで奪われなければならないのか?
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン