現在、モンゴル政府はまさに危機に直面している。それは、政権与党の幹部や国会議員が長年に渡り公共の財産を横領してきたことに関係する。
人民党内での利権対立や権力闘争が激化し、党内で解決することは難しくなっている。人民党は国会で過半数の議席を有しているが、議会を開催できなくなっている。国会議員40名がM.エンフボルド議長の辞職を要求し、議会をボイコットしているからだ。議長解任を要求するデモはスフバートル広場で二度行われた。多くの国民がこれに賛同したが、議長の解任には至っていない。Kh.バトトルガ大統領は国会議員の過半数の賛成で議長を罷免させる法案を国会に提出した。
政権与党の内部抗争は、公共ガバナンスの危機を招いている。国民につくすべき政府は、政府に繋がる者たち、政治家自身のビジネスのためだけに機能するようになった。これは国に政治的危機をもたらす。今回はポスト共産主義国であるチェコとモンゴルの比較から見てみよう。
プラハで起きた出来事
1989年、チェコスロバキアで共産主義体制が崩壊し、間もなく初の自由選挙が行われた。その2年後、第一次世界大戦後にチェコスロバキア主義に基づき独立したチェコとスロバキアは平和的に連邦制を解消し、それぞれの国政選挙を実施した。チェコでは社会民主党と市民民主党が交互に、または連立で政権を担うようになった。
エコノミスト誌が発表した民主主義指数報告書では、2014年以降、チェコ共和国は民主主義が確立された国々の中で「欠陥のある民主主義(Flawed democracy)」というカテゴリーに入っている。この調査を行った研究者は「各政党は、民主主義の基本義務となる国民代表と政府と市民社会を仲介する義務を怠ったことが大きい」と説明した。政党は市民社会の利益より、党の政治家が関係する闇のビジネスを優先するようになった。
2010年の選挙で市民民主党が勝利し、党首のペトル・ネチャスが首相に就任した。彼はまず、腐敗撲滅のために闘うことを公約とした。しかし、2013年6月、情報庁長官2人、前副大臣、一部国会議員が絡んだ汚職事件が暴かれた。ペトル・ネチャス内閣の官房長ヤナ・ナジョバーは、一部の国会議員に対して国有企業の要職と引き換えに内閣への協力を持ちかけた。さらに、ヤナ・ナジョバーは首相夫人らに行動を監視するよう軍の情報機関に命じていたことが発覚した。
ジャーナリストのヤロスラフ・クメンタ氏は、「軍の情報機関は政府の利益ではなく、ネチャス派の利益を守るようになった」と書いた。間もなく、ペトル・ネチャス(ミスター・クリーンと呼ばれていた)の内閣が解散した。2013年6月にミロスラバ・ネムツォワが首相に選出された。しかし、3ヶ月前に就任したばかりのミロシュ・ゼマン大統領は、ミロスラバの首相就任を承認しなかった。ミロシュ・ゼマン大統領は自身が首相(1998〜2002年)の時に財務大臣を務めたイジー・ルスノクを首相に任命し、仮政府を組織した。それに対し国会は、イジー・ルスノクの首相就任を承認せず2ヵ月が経った。事実上、大統領体制が確立された。
2013年8月、野党である社会民主党は代議院(下院)の解散を提起し、定数200人の70%が賛成し、代議員選挙の実施が発表された。2013年10月25,26日に行われた選挙で、社会民主党は50議席、1年前に結成したANO 2011党は47議席をそれぞれ獲得した。
チェコの伝統的な二大政党の支持率が低下し、一方で新興政党が支持を集めた。以前まで議席を持たなかったキリスト教民主同盟=チェコスロバキア人民党(KDU-CSL)、直接民主主義の夜明け(USVIT)という2党がそれぞれ14議席を獲得した。これにより、チェコでは政党の議席再配置が行われた。
その後行われた2017年の選挙では、ANO2011党は78議席、社会民主党は15議席を獲得し、同じく15議席を獲得した共産党と連立して内閣を組織した。ANO2011党の党首で、チェコで2番目の実業家と言われるアンドレイ・バビシュが首相に就任した。彼は汚職と闘い、国家を自分が培ってきた企業経営の手法で指導すると公約した。しかし、この数ヵ月でバビシュがEUの農業プロジェクトから200万ユーロを不正に横領したとの疑惑が浮上し、国民はバビシュ退陣を要求し、デモをおこなっている。
ウランバートルで起きている出来事
モンゴルの次の国政選挙まで残すところ1年半となった。それでも国民は、今の議会を議員の任期満了前に解散させ、総選挙を行う方が良いとみている。調査機関「MEC」が2018年11月に無作為抽出方法でウランバートル市内在住の有権者750人にアンケートを行った。アンケート回答者の75%が国会解散を支持する結果となった。2017年7月の調査では、市民の28%はどの政党も支持しないと答えていたが、この数字は2018年11月には57%になっていた。
Kh.バトトルガ大統領は過去2度も国会の解散を提案してきた。1回目の国会解散の理由として挙げられていたのは、大気汚染問題を解決できていないということだった。2回目の国会解散の理由は2019年度の予算案の歳出超過を指摘していた。そして今回は民主党から国会解散を提案した。民主党の国会における議席は9議席であり、そのうちの2議席(Lu.ボルド、J.バトザンダン)は離党を発表し、国会における民主党の政党要件を満たせなくなった。現在、国会解散についての提案に16人の議員が賛成している。
国会法第31条には「国会を解散し、総選挙を行うためには議員の3分の2の賛成が必要となる。または、議員が辞職し、国会の議員数が57人を下回った場合、解散総選挙を行う」と定められている。しかし、人民党内で対立する2つの派閥の議席数が同数のため、国会解散も難しい状況だ。
しかし国会には解散の他に選択肢がなくなっている。臨時国会は春に行われ、新しい政党が立ち上げられるようだ。もし、次の選挙が2013年のチェコの選挙と同じ道をたどれば、民主党がいずれかの政党と協力し、連立政権を樹立するかもしれない。
民主主義の道のりは平坦ではない。しかし方向性は間違っていない。今日の状況は、まさに「木に縁りて魚を求む」といえる。
ダムバダルジャー・ジャルガルサイハン